「恋次、貴様は いったいいつまでこうした生傷を作ってくるつもりだ?」

どう見ても喧嘩でできた俺の傷を鬼道で治しながら、ルキアが呆れたように
聞いてくる。

「・・・さぁ・・・・」

俺は しれっとして惚けた。

「戌吊にいた間は 仕方が無い。」
「そうだな、あそこは 性質の悪い人間ばっかだったからな。」

ーーー生活の為に俺は腕っぷしを買われるような仕事しかしてこなかったしな。
   怪我する事も多かったが需要も多くてけっこう見入りも良かったvvvv
   お陰で俺達は少しマシな生活が出来た。
   
殴りつけた所為で傷ついた両手の拳もルキアは 鬼道で治していく。
 
「統学院の時だって、剣術、体術の授業があったから、こういった生傷が
 絶えなかったのもわかる」
「そうそう。  これ見よがしに シゴく教官もいたからな。」

ーーーそれに馬鹿な貴族のボンボンどもの嫌がらせを止めさせるのも力で
   対抗してたからなぁ。  
   ・・・・だし、ルキアを狙ってる野郎 手を引かせるのも力にモノを
   言わせてたっけ。

   あれは 若気の至りってヤツ?  もう時効だよな。
   今なら分かる。  
   そんな事しても本当の意味では何の役にも立たないって。

「しかし!!」

大きな声でそう言って、腕の打ち身に治療の鬼道をかけていた手を止めると、
おもむろに腰に両手をあてて俺の前に 偉そうに仁王立ちするルキア。

椅子に腰掛けている俺をやや見下ろしている所為か その口調と裏腹に
ルキアの顔は 俺をやり込めようとかなり嬉しそうに生き生きしている。

「貴様は 今 六番隊の副隊長なのだぞ! 
 兄様の片腕! なのだぞ!
 それが、虚との戦闘どころか喧嘩したような傷を負っているのは
 どういうことだ!?」

「・・・・・・・・・・」





ーーー昨夜は 月のない新月だった。

街灯なんてない精霊廷内の人が寝静まった夜中は家の玄関灯や部屋の明かりが
消されて真っ暗だ。
ま、死神にゃぁ 明かりなんて必要はないけどよ。

そんな真っ暗な道を月末の書類を片付けて残業した俺は 家路に急いでいた。

「六番隊副隊長、阿散井殿と お見受けする。
 我等が 『 姫 』に 値するモノかどうか、その実力試させて頂きたい!!」
「ーーーはぁ?!  確かに阿散井だが、 姫だと?! 」

突然、声がかかり、闇に紛れた気配がいくつか現れていた。
俺も喧嘩上等、売られた喧嘩を買うのは やぶさかじゃねえが。
月末の残業後は 迷惑だっつうの!  
しかも相手は 霊圧をどう量っても13人はいた。 面倒臭え〜〜。  

だいたい『 姫 』って、何処の飲み屋の源氏名だっつうの!?

以前はともかく 今はそんな女の事で絡まれるような憶えはねぇっつーの!!

ん・・・? まさか・・・? 




!!!    俺は 自分の思考に頭を抱えた。

(うぉおぉおおお〜〜!! 
 もしかしてもしかして、ルキアのことか?!
 俺、ヤバクね、拙くね? 
 ルキアを女として失念してた?!
 日頃、ルキアに 『男』として認めさせたい!! 
 って 思っていたのに、自分自身が ルキアを『女』として忘れてた?!)

暗闇の中 悶絶する俺に 闇討ちのヤツ等が やっぱりな名前を言った。

「当然、我等の朽木ルキア姫の事だ!!」

(ーーいやいや、違うから! 
 こいつらが 『姫』だなんて 呼びやがるから
 ちょ〜っと ピンと来なかっただけだから!!)

俺は 誰にとも分からない言い訳を心の中で必死に叫ぶ!!

「ちきしょ!! 
 いい度胸じゃねえか?!  あぁ?
 護廷十三隊・六番隊の副隊長の実力を量ろうなんざぁ。
 いいだろう、とことん相手してやろうじゃねぇか!!」

俺は めちゃくちゃ不機嫌に! 
自分の不覚に対する怒りをぶつけるように! 
霊圧を上げた!!





ーーーって そんな顛末をルキアに言える訳が無い!!

だがよぅ、13人の闇討ちの『死神』を相手をして俺の方はこの程度の
怪我で済んだんだぜ。
むしろ 褒めてもらいたい。

ーーーヤツ等は 全滅で最後まで立っていられたヤツは いなかったから、
今日あたり四番隊にいるだろう。 




「・・・いや・・・・・ちょっと・・・・そのなんだ、
 昨夜 一角さんと体術の稽古をしただけだって・・・。」

少し長い間の後、やっと言い訳をする。

「・・・・・むぅ、 何やら歯切れの悪い返答だな、恋次!」

ルキアが 不機嫌そうに不審な顔を向けてくる。  

ーー 『姫』は 俺の返答がお気に召さなかったらしい。



「・・・・それよりさ、ルキア。 
 ちょっとここ見てくれね?」

俺は 頬に一発喰らった所為で少し切れた唇の端を指差す。

「・・・・ぅん?  なんだ、痛むのか?
 それほど酷い怪我ではないようだが・・・・・」

傷をよく見ようと俺の頬に小さな手を添えて ルキアが 可愛い顔を
近付けてくる。 
俺は 素早く腕の中に抱き寄せると、驚いているルキアに口付けた。

『喧嘩』なんて俺もいい加減馬鹿くせえと副隊長としても拙いとわかっちゃいる。
だが、ルキアの名が出たら引けねえだろ!
だし、『ルキアに値する者』として勝った俺にこんくらいの御褒美は 
あってもいいだろ!
例え、本人が与り知らぬ事だとしても・・・・・・。

騙されたルキアが 腕の中で怒って抵抗して殴りかかってくる。
俺は その腕を難なく捕らえて、さらに深く口付ける。  
指先で耳元や首筋、顎のラインをそっと撫で、肌感覚を刺激してやる。
途端に吐息が 怒りから甘さを含んで、さらに俺を煽る。

それにそろそろ周りに思い知らせてもいいだろう・・・・ 
お前は俺のモノだって。




  あれ?  いつもより糖度があるじゃないですか・・? リコリス。実様主催 恋ルキお題企画 『星に向かって吼えろ』効果? (08/05/18〜6/22 2008 作品展示期間) 一昨日 お題『流れ落ちた愛』を 入稿しました。  (いつもよりは 糖度のあるお話です。   あくまでも当社比!!) 勢いが残ったまま この『傷』書き上げました。
リコリス。実様 素敵な企画ありがとうございました。 現在、展示期間を終了して、サイト内に  『流れ落ちた愛』掲載済みです。