黒い紐・赤い紐3
十一番隊隊舎に珍しく他隊の、十三番隊の席官二人が来ていて何事か
弓親に確認していた。
彼等の気配がすっかり消えたのを確認すると斑目一角は縁側に座って
斬魂刀との対話を止め、弓親を呼んだ。
「弓親、さっき来てたのって十三番隊のやつらだよな。
それって恋次が相談してたあの「ルキアちゃん」って
子の絡みだろ?」
「ああ、そうだよ。」
腐れ縁の弓親は 自分の自慢の髪を片手で撫でつけながら、一角に
視線を流した。
「おまえってさ。
とっかえひっかえ付き合う相手を代えるヤツって、醜くて
嫌いだって言ってなかったか!?
いったい どういう風の吹き回しで今回は恋次に協力しやる気に
なったんだ!?」
弓親は 一角に向き直ると 楽しそうに笑いながら、一角の横に座った。
「そうだよ、一角。
僕はねぇ、付き合ってる相手を次々と間断なく、変えるような
気持ちの浅薄なヤツってのは美しいとは思えなくて嫌いなのさ。」
(僕の事ちゃんと理解しててくれて嬉しいよ。)
より一層綺麗な微笑が 弓親の顔に浮かび、一角に向けられた。
気付いたのか気付かないのか、一角は 顔を正面の庭に向けると、
素直な疑問を投げかける。
「フラレタって言いながら、一ヶ月に三人も付き合う相手が
変わるのは その理屈にあてはまんねぇのかよ?」
「・・・・それって、恋次が今まで付き合った女達の事を
知ってるって事だよねぇ?
少なくとも、三人は・・さ」
「/////// しょうがねえだろ?!
あの馬鹿 俺が早朝に稽古しに来た時に、隊舎の前で朝帰りに
別れてるんだからよぉ!!
俺だって好きで知ってるわけじゃねぇ!!」
このどこまでも一本気な漢が 坊主頭を赤く染めてガナリたてるのを
弓親は横目で密かに見て微笑んだが、もちろん一角にそんな気配を
全く感じさせずに弓親は続けた。
「そうじゃなくてさ。
僕が言いたいのは その女達のタイプってさ、似たような感じだったと
思わなかったかい?
しかも、恋次がご執心の朽木女史との共通点は全くと言っていいほど無い。
そうじゃない?」
「・・んをっぉ・・・。
あーーそういや、そうだな。
お前、何でそんなこと 思いついちゃってるわけ!?」
一角は豊満で男好きのする彼女達を思い出したのか素っ頓狂な声を上げた後、
感心したように弓親を見た。
(確かに名門朽木家の嬢ちゃんは 綺麗な子だが、うちの副隊長ほどとは
言うわねぇがまるでお子様で恋次が 付き合った歴代の彼女達とは
全く比べもんになんねぇな。)
弓親は 一角の反応に微笑みながら、懐から爪磨きを出すと、右手の爪から
磨き始めた。
「そりゃぁね。
僕は常に美しいものに関心を持って生きているからね。
だからね、一角。
ホント言うと、僕は 本心を測りかねていたんだ。
恋次ってば、朽木白哉を超えたいってすごく鍛練している。
それは僕も認めるよ。
でもさ。
もしかしたら実は 単に自分が庇護してた子を貴族に横から獲られた
腹いせなのかなって勘繰っていて、ヤツの話を全部信じてた
訳じゃなかったんだ・・・。
ルキアって子にあんなにご執心ってわりに全く違うタイプの女達と
今まで付き合ってきたからね。
そこが全く理解できなかったんだ。」
溜息とともに軽く首を振る。
綺麗に手入れされた髪が艶やかを誇るように揺れる。
「それにだいたいの恋次の付き合ってる相手ってさ、
恋次の着物の選択と一緒で見てくれだけの派手で官能的で本能だけで
選んだような豊満なタイプだったから。
着物同様にそれがヤツの本来の好みなのかも知れないだろ。
ただ、恋次の性格からいって 材質(キャラ)で決めたとは
お世辞にも言えない様なのとしかは付き合わないってのも
妙だと思ってはいたんだ・・・・。 」
「おいおい、弓親。
それは いくらなんでも言い過ぎじゃねぇか?」
一角はそう否定したものの、確信を衝いた弓親の言葉に驚いていた。
(付き合っては フラレた毎に恋次が酒を飲むのに付き合いながら、
ざまーみろってからかう事が楽しかったから、付き合ってる女にゃ
興味無えから全く気付かなかった。
そう言われると確かに恋次が今まで付き合った女達は 見てくれは
確かに男好きのする官能的な女ばかりだった。
だが、俺等に付き合うあの義理堅い男が選んだ女にしちゃぁ、
あんまり中身が 期待出来るようなタイプじゃあなかった・・・。
事実、恋次をフった後 どの女もすぐに違う男と付き合っていた。)
「って・・・、弓親!
もしかして恋次のヤツ、自分に都合のいい女・・・・
後腐れのねぇ女としか付き合ってねぇってことか!?」
「・・・僕はさ、一角。
醜いものも大嫌いだけど、同じくらい馬鹿も大嫌いなんだ・・・。
けどさ、
馬鹿も一本突き抜けてるくらいに馬鹿だと話は別なのさ。
それくらい一本気に馬鹿だったらポリシーを感じて逆に大好きなんだ、
知ってたかい?」
弓親は 磨いた爪のチェックをするために爪先に息を吹きかけた。
「・・はぁあ?!」
(てめぇ、急に何言ってやがんだ?! 言外の言葉が顔に表れた。)
(一角みたいにさ。 潔い本気の一本気馬鹿は大好きさ。)
「ふふふ・・・。
恋次ったら、この間、ルキアって子にそっくりな妓女に会いに
行ったんだって・・・。
ねぇ 一角、信じられるかい?
相当高い金払ったのに、その妓女を抱かずに帰って来たって言うんだ・・。
ホント 恋次って大馬鹿だよね。」
「お前!!
そこは、それだけ・・・なんつーの・・・。
そっくりも抱けねぇ程、大事ってことなんだろ。」
「ふ〜ん。
僕には元彼女の話を聞くまで理解し難い感情だったけど、
そういう感覚は一緒なんだね。」
「///// うるせえ!
んで!
恋次の元彼女の話ってぇのは なんだよ?!」
「はいはい。
三ヶ月くらい前に 恋次が付き合ってた前の彼女が 街で大声で怒りながら
喋ってるのを偶然聞いてしまったんだけどね・・・。
その彼女が言うには 恋次があんまり繰り返し戌吊の時の妹の事を
{今は離れて暮らしてるけど、いつか迎えに行って大事にしてやるんだ!}
って話して聞かせるから、恋次の気持ちを試すために
{もし、自分とその大事な妹が虚に同時に襲われて、どちらか一方しか
助けられないとしたらどっちを助けるの?}
って質問したらしいんだ。
女の子ってこの手の質問 好きだよねぇ。」
「知るかよ、馬鹿馬鹿しい!!
・・・・で、ヤロウ なんて答えやがったんだって?」
「{もちろん妹!!}
って即答したらしいよ。(笑)
馬鹿だと思うだろ?
こういう時って嘘でも付き合ってる彼女には{お前}って答える
ところじゃないか。
なのに即答だよ!! (笑)
馬鹿にもほどがあるだろ。
しかもその彼女その即答ブリに大分頭にきて殴ったんだって。
そしたら、とりあえず訂正や謝罪すればいいのに、馬鹿正直に
{だってよぉ、アイツに逢わなければ、俺は ぜってぇ碌でもない
ゴロツキなって、とっくに野良犬みたいに戌吊で野垂れ死にしてた!
くそみてぇなあの場所で俺達には 価値があるって認めて、
そう信じさせてくれたアイツだけは何より特別で 大事なんだ!!}
って主張したっていうんだ。
そりゃフラレるって。
こんなにまで自分で語っちゃってるのに恋次は 今まで自分の
気持ちに全く気付かなかったっていうんだ。
呆れるよね。
馬鹿もホント、ここまで突き抜けてるといっそ静々しくて
気持ちいいよね。」
「アイツは ホント、底抜けに大馬鹿だな。」
一角も納得したように同意する。
「だけどさ、この間その彼女に似てるっていう妓女に会いに行って、
ようやく恋次は 自分の気持ちに気付いたっていうんだ・・・。
どうしてもルキアちゃんと話がしたいって、あんな必死な顔で相談
されたら、協力しない訳にはいかなくて僕の知恵と秘蔵の知識を
貸してあげたってわけさ。
ほら、僕って顔もいいけど、頭もいいから。
こういう謀り事は得意中の得意だからね。」
弓親は 自分の爪の手入れに納得して、懐に爪磨きをしまいながら、
得意気な顔を一角に向けた。
(は〜〜っ。最後は自画自賛かよ・・。
ホント こいつってこういうとこさえなけりゃ、漢気があって他人の
機微が分かるいいヤツなんだけどなぁ・・・・。)
一角からの褒め言葉を待ってみても、その顔から冷ややかな視線以外は
どう見ても出てきそうにも無いと分かった弓親は 軽く溜息をついて
空を見上げた。
「・・・んで、どうやって見張りの目を誤魔化して、紐の交換をしてたんだ?」
「残念ながら、これは一角にも言えない。
刀の持ち主との約束だからねvvvv
僕に言えるのは斬魂刀の能力は 人それぞれに千差万別って事さ。」
「そうかよ!
十一番隊にはあんまり関係ねぇ話だな・・・。」
そう一角がぽそっと言ったのを最後に 二人は青く澄み渡る精霊廷の高い空を
揃って 静かに見上げた。
今頃は 現世で虚と戦っているだろう、見た目とうらはらに人の良い、
二人で突き抜けた大馬鹿と結論付けした愛すべき後輩を心の中で応援した。
ルキアと恋次が会えてからのラブx2話が書きたいのにまだまだ過去の絡みもあって
苦しんでいる最中なので とりあえずのUPって感じです。
無駄に長い気もするけど、頑張ってここまで辿り着いてくれた方、ありがとうございました。
個人的には一番好きな話。
弓親のこういう 恋次や一角には無さそうな計略家(妄想)っぽいところをずっと書いて
みたかったんです。
弓親のこういうところが 好き・・・
ナルシストのところもvvvv
ちょっと再確認vvv
だから、市丸ギンも好きなんだと思う。
紐交換に協力したのが、愛染様だったら笑える・・・。
こんなに小さな他人の謀にアノお方が参加するとは思えないけれど、
退屈からの気紛れってのなら在りかな・・・・?!
11/04/2007
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