日番谷 冬獅郎  4

「日番谷 隊長、大丈夫ですか?」 屋上の片隅に腰掛けて俺は いつも通りに報告書を伝令神機から尸魂界に送っていた。 屈み込んで 俺の顔を覗きこむルキアの可愛らしい顔は 物憂げでそそられる。 「・・・・?  大丈夫って、俺は 報告書を上げてるだけだぜ。」 口の端を上げて笑いながらそう応える俺を見つめたまま朽木が ふんわりと並んで座った。 漂う甘い香りと蒼菫の瞳に 俺は 一瞬意識を絡め獲られそうになる。 「・・・・あの、松本副隊長もとても心配されていらっしゃいました・・・・。」 「なんだ、俺は 心配されるようなこたぁ なんにもないぜ。  −−−ん?  『も』 って 朽木、お前も心配してくれてるのか?」 「・・・・はい。昨日総隊長とお話されてから 日番谷隊長、少し元気がないです。」 ーーーちぇっ。 俺もまだまだだな・・・・。    昨日、桃のヤツ、てめえが殺されかけたくせに・・・・    あんなに目の下に隈を作るほど悩んで苦しんでるくせに・・・・・    それでも なお 藍染の野郎の命乞いをしやがった!!      馬鹿なヤツ!!    アイツが あの男への想いを断ち切ってくれたなら    俺が アイツを切り捨てられたなら、どんなにか楽になるのに    俺もアイツも 己の感情に翻弄されている・・・・    諦めろ、忘れろ。 そんな先のない想いを抱えているなんて馬鹿な事だ     大事なんだ!  傷付いて欲しくない、失いたくない!    無駄だって分かっているのに、棄て切れない想い 俺は 朽木の手を強く引っ張った。 「あ、日番谷 隊長?!」 俺より少し背が高い、華奢なその細い身体を膝に乗せて抱きしめた。 「・・・あの、////////」 「ルキア。  心配してくれて、ありがとう。」 身体を強張らせて、不器用に少し身体を捩って逃げようとしたルキアを強く抱きしめる。 「・・・・ルキア・・・おれは・・・・」 強く抱きしめたルキアの胸元に 俺は顔を埋めて 話をしようとしたが・・・・ 俺の口から出たその声は 自分でも驚くほど心の迷いや辛さを吐露するように苦しげで まるで泣いているようだった。 ーーーちきしょう! ちきしょ・・・・ ルキアが俺の頭をそっと優しく抱きしめる。 温かく慈愛に満ちた霊圧に包まれるのを感じた。  俺は 現世で見た 強く欲した美しい白い石像を思い出して、今度こそ 泣きそうになった・・・・


日番谷 隊長。  悩んで苦しんで いい男になってください。 石像は 〔ピエタ〕のイメージで・・・・・・。 Jun.22.2008 〜 July.15.2008 『やる気』の元でした。 ありがとうございました!


日番谷 冬獅郎 5

頭ががんがんする。  人間の子供なんかの・・・・ あれは黒崎の妹だっけか・・・・ ボール遊びなんかに付き合うんじゃなかった。   喜んでくれたから、いいけれど・・・・ 義骸から死神・魂魄姿になっても、俺の身体の調子の悪さは変わらなかった。 俺らが転がり込んでしまった織姫の部屋は 松本によってかなり様変わりしてしまった けれど、俺にとっての居心地の悪さは相変わらずで。 そんな部屋の中に あいつ等が黒崎と同じ学校とやらに行っている間 一人で布団に 寝ているのは静かだから寝やすいはずなのに、なんとなく落ち着かなくて寝つけずにいた。  「「失礼します。 日番谷隊長」」 小さなアイツの声と その幼馴染の野太い大きな声が 鍵を回して ドアを開く音と 共に静かな部屋に大きく響いた。 「恋次、馬鹿! 声おっきぃ。 寝ていらしたどうするのだ?!」 「おぅ。」 「朽木と阿散井か?  何だ、何かあったのか?」 姫と従者のように 軽やかで白いふんわりとしたワンピースを着た手ぶらの朽木と派手な色の 服を着て荷物を二つも抱えた阿散井が部屋に入ってくる。 「すみません、日番谷隊長。  煩くして、起してしまいましたか?」 言うなり朽木の足が阿散井の足を蹴っていた。  ーーおいおい。 「いて!!  ルキア、てめ」 「先に謝れ、たわけ。 お加減はいかがですか?」 さすがに幼馴染。 あの程度蹴りは些細な事とスルーするルキア。  「隊長、すんません。」 「あぁ、別に寝てたわけじゃない。 気にするな。」 朽木が心配そうな顔で俺の枕元に座り、額に手を当ててくる。 阿散井が少し面白く無さそうな顔をちらっと向けるが荷物を置くために台所に消えた。 「あの・・・、日番谷隊長、 おなかの調子とかは如何ですか?    もしよろしければ、お粥をご用意いたします。」 そう言うと朽木の期待に満ちた大きな瞳に見つめられる。 ーー 断れる男はいないだろ?! 「あぁ、悪ぃな、朽木。 じゃぁ、頼んでもいいか?」 「はい。」 満面の笑みで返事された。    ーー可愛すぎる!!  阿散井はもう帰れ! だが・・・・・。  当然 阿散井恋次が帰るわけがなく、台所で二人楽しそうに作り始める。 案外と不器用な朽木を 阿散井が少し揶揄しながらも、作り方を訊くフリをして上手く フォローしているようだ。 ーー さすがに 幼馴染。 扱い方をよく心得ている。    俺ももう少し扱い方が上手だったなら、少なくとももっと大人びた態度で    接しいてたなら    アイツの心をあんな風に持っていかれたりはしなかったのだろうか    俺たちにもあんな風に一緒に台所に立つなんて事が出来る日がくるのだろうか    いや、別に台所じゃなくてもいいんだが    ・・・・・・・    おい、お前らそこで 次の休みに出かける相談をするのは止めろ。    耳に入った以上は 絶対邪魔しに行きたくなるだろうが! あいつらの少し騒々しい馴れ合いをBGMに 熱の所為で愚かになっている己の思考に 翻弄されながらいつしか俺は深い眠りに誘われていく どうやら静かなところで一人寝るよりも 少し煩いくらい人の気配のするところで 寝る事に いつの間にか慣れちまったらしい。 人は 自分でも気付かぬ内にこんな風に 少しづつ変わっていくものらしい こいつらみたいに離れていても変わらないものがあるなら どうか・・・・


お見舞いシリーズ 日番谷 隊長編。  ギャグになるはずだったんですけど、 なんとなく4の話に引きづられて  こんな話に・・・・・・llllorz 【色鰤】の中で日番谷 隊長の趣味は [昼寝] ってあったから、 煩くても寝られるタイプかなぁって事で。 Jun.01.2008 〜 July.15.2008 『やる気』の元でした。  ありがとうございました! TOP