一 護
空座第一高校にルキアが転校生として四日目の事ーーー
「じゃ、俺、昼飯買ってくっから、先に屋上に行って待ってろ。」
一護は私にそう言った後、すれ違い様に顔を寄せてきて 今度は小声で
「いいか。 ぜってえ余計な事を言ったり、 やったりするなよ!!」
と、釘を刺していく。
「!・・・・・・な!!」
貴様、何を言っておるのだ!! と本当は言いたかったけれど、後ろからくすくすと
笑う声と一緒に、
「僕にコーヒーをついでにお願い。」
という小島水色の声がしたから、とりあえず現世の女子学生らしく応えておく。
「お願いしますわ。 黒崎君。」
教室のドアの前で 振り返るアヤツは、ものすごく変な顔をして人を見た。
ーー失礼なヤツめ!!ーー
「おう。」 って返事を残して一護が 教室を出て行った。
一護が 傍に居なくなった途端の朽木さんの後ろ姿は 親を見失った子猫のようにとても
弱々しく寂しそうに 僕には見えた。 だからホントは 一護みたいに本当の彼女を
もっと知って、慰めてあげたいのだけれど、一護に睨まれたくないから、
「一緒に屋上に行こう。」って誘うだけにしておくよ。
「はぁ〜〜。 なんか手間のかかるペット飼った気分。」
飲み物とパンを持って屋上への階段を上っていく俺は 一人そうゴチた。
屋上にはいつもの昼食メンバーの茶渡、啓吾、ルキア、水色のメンバーが並んで座っていた。
啓吾の訳の分からないハイテンションな話に ニコニコと笑顔を向けているルキアに
(俺が 買出ししてるっていうのに、なんか楽しそうだな・・・・・。)
っ軽く苛立ち、その顔に少し強めにスポーツタオルを投げつけた。
「ルキア、そいつを足の下にでも敷いて置け。」
買出しから戻ってきた一護の 第一声はそれだった。
咄嗟に手が動いて(さすがに一応死神だ。)、ルキアはタオルを受け取った。
驚いた顔から一瞬腹立たしげに何か言いたそうな顔をしたが、とりあえず周りを慮って、
黙って素直にタオルを屋上のコンクリに敷くと その上に元通りに正座し直した。
コンクリに直、正座っていうのは 見てるコッチのが痛えって!
ずっと気になって止める様言ったけれど、ルキアは子供の頃から食事中はずっと正座だった
からと頑なに足を崩さなかった。
こいつってば、あんな口調や態度のくせに躾の厳しい家庭に育ったのか・・・?
食べ方や飲み方も容姿を裏切らないっていうか、とても綺麗でなんか上品だ。 くそ!!
「ほらよ。」
俺は水色とルキアにパックのコーヒーと苺ミルク、アンパン、チョコデニッシュと
次々に投げた。
アイツはタオル同様に意外なほど、俊敏にそれらを受け取った。
だが、その後が・・・・・。
アンパンの袋を左右に引っ張っている。
かなり慎重に引っ張っている。
(あ〜〜、苛つく。
手に変な力入るから、早く開けろっつの! くそっ!!)
転校初日。 アイツは 強く引っ張りすぎて、屋上のコンクリの上にパンを落としてしまった。
「ぜってえ、食うな!!」
って俺等が 言っても、
「食物を 無駄には できぬ。」
とか言って食おうとした。
いくら義骸でも一応女なんだし、何より胃腸が弱いくせに勘弁して欲しい。
もっとてめえのことを知って無理な事は無理と理解して欲しい。
その時も言い合いになったが、水色が「近所の犬にあげたいから」って、
気の利いた一言でなんとか収まった。
ーーーーかといって、一昨日や昨日みたいに最初に 下手に口出しするとーーー
(ま、俺の言い方も悪かったのかもな・・・・。)
「不器用なんだから、貸せ!」って、つい 口走ってしまった。
ルキアのヤツ ムキになって 散々頑張って引っ張った挙句、やっぱりパンを飛ばして、
茶渡が 受け取っってくれたから初日みたいな騒ぎにはならなかったものの
やっぱり10分は頑張りすぎだっつの!
見てる方が疲れるから!!
だから!! とりあえず今日は 黙って成り行きを見守る事にした。
(−−−気の短い俺には これはすごく辛い。
だぁぁl〜、苛々する。
ホント、コイツってば、面倒臭えヤツ!!
不器用なくせにプライドが高くって・・・・。
意地っ張りで・・・。)
ルキアは とても真剣な顔で袋を まだ引っ張っている。
アイツの手の動きが 俺等の間に異様な緊張感を走らせる・・・。
ーーーー結局、しばらくしてやっと諦める。 (ここで全員ほっと息を漏らす。)
すると、今までその様子に気付かない振りをしてルキアの後ろで胡坐をかいて
パンを齧りながら、コーヒーを飲んでいた俺に その袋を向けてしれっと言いやがった。
「黒崎君。 悪いけれど、開けて下さる?」
しかも にっこり微笑って・・・。 ちきしょ!!!
その反則な笑顔に俺は 少し顔を熱くなったのを感じながらも、しぶしぶって態で
パンを受け取る。
ーー くそ!! もう余計な事は言わなねえって決めたから・・・!
「・・・おう。」
「朽木さ〜〜ん。
良かったら、わたくし、この浅野啓吾がそのジュースにストローをば
さしまする〜〜。」
ーー 啓吾? てめえ 何処の誰だよ、それ。 何キャラ?(苛)
「あ、 おねがーーーー」
俺は ルキアが啓吾に渡そうとした苺ミルクを受け取り、替わりに袋の口を開けてやった
アンパンを持たせる。
「なんだよぉ! 一護ぉ、俺が決死の覚悟で朽木さんにーーー」
「わりぃ。」
「啓吾。 空気読もうね。
一護の眉間の皺が深くなって、顔が 少し怖くなってるから・・・・ね。」
「うるせえよ!! 水色。 俺は もともとこういう顔だっつの!」
「ありがとうございます、黒崎君、浅野君。」
俺から苺ミルクを受け取ると 再び極上の笑みを俺に向けやがった。
ーー くそ!! なんだよ。
いつも小生意気なキャラのくせになんでそんな素直そうな可愛い笑顔は!!
ちきしょ! 反則だっつーの。
そうして ルキアはとても幸せそうに食事を始めた。
ーー くそ。 俺一人が 心中ドタバタなのかよ。
しっかし、コイツって・・・
こんな学校のパンと苺ミルクでこんなに嬉しそうなら、もっといろいろなモノを
教えてやったら・・・?!
俺は そんな事を考えている自分に苦笑する。
ルキアが 食べ初めると 一気に場が 和む。
普段から無表情であまり感情が分かりにくい茶渡の顔だって、なんとなく柔らかく感じる。
ーー ヤベエな。
そう言えば、アイツって、小さくて可愛いモノ好きだったっけ・・・・。
やっとアンパンを食べ終わった朽木さんから 空袋を受け取り、一護は新しく空けた
チョコデニッシュを無言で渡してあげている。
(それにしても一護ってば、ずっと彼女の後ろに座っているのにどうやって朽木さんの
一挙一投足があんなに分かるのかな?)
水色は そんな素朴な疑問を持つ。
ルキアが 受け取ったデニッシュを半分に割って俺に戻してくる。
「多くて、たぶん食べきれぬ。」
「しょうがねえな、お前ってホント、食が細いよな・・・。
それよりルキア、 手を見せてみろ。
チョコだらけじゃね?!
貸せ、拭いてやるから。」
俺は受け取った半分のデニッシュを口に咥えると、ポケットからウェットティッシュを
取り出して、ルキアの手を拭いてやる。
ーー 妹達みたいに 小っせえ手だな。
・・・なのに、なんで意識しちまうんだろ。 いやいや、ペット。
コイツは 拾った猫見たいなモノだから。
ペットを意識したら、おかしいから。 ちきしょ!!
ペットにしては 手間がかかりすぎじゃね?!
あまりに当然のようにしている二人にさすがの啓吾も呆然としている。
確か転校して来てまだ四日目の彼女と どうしてここまで親密になったのだろう?
本人達は 隠しているつもりみたいだけれど・・・・・。
彼女が転校してくるまで【黒崎一護】って人物がこんなに面倒見のいい男だとは
思わなかったな。
いや、朽木さんに対してだけなのかな・・・・・。
それにしてもティッシュを持ち歩くくらいはすると思っていたけど、
まさかウェットティッシュまで持ち歩くようなマメな男だったとは・・・
データ帳の一護欄を大幅に変更する必要があるかもねって、
水色は 一人思っていた。
夜中に伝令神機が鳴って、俺たちは 虚退治に飛び出していく。
動きの早い虚に未だに剣捌きが上手くいかない俺を庇ってルキアが俺と虚の
間に入って鬼道を詠唱する。
「君臨者よ! 血肉の仮面・万象羽博き・ヒトの名を冠す者よ。
真理と節制・罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ。 蒼火墜! 」
ルキアの掌から青い炎の塊を放たれた。
「一護、今だ!!」
俺は 剣を振り下ろして、 虚は消えた。
息が 上がって座り込んでいる俺にルキアが 近づいてくる。
その白くて少し冷たい小さい指が俺の頬に添えられ 額の傷が鬼道で直される。
ーー お前、近い、近い。
めちゃめちゃ顔が近いって・・・・。
くそ、 妹達と同じくらいの身長で、シャンプーの香りだって同じなのに
どうして妹達みたいに自然に・・・意識しないでいられないんだ 俺?!
「一護。 貴様、動くな!!」
幸いルキアは治す事に夢中で俺の赤くなっていそうな表情まで気が回っていないみたいだ。
俺の額を注視する紫蒼の瞳は とても真剣で・・・、
睫毛 長えな、コイツ。
ホントにこうして黙っていれば、啓吾が騒ぐのが分かる。
美人かもな。
俺の心臓が悲鳴を上げるように早いのは虚を倒すために動いた所為だけじゃないだろう。
「さ、これで良い、一護。
私はここの事後処理をして帰る故、先に帰ってろ。」
そう言って、ルキアは俺に『でこピン』を食らわした。
「いってえぇ! てめ、何すんだよ!?」
俺は怒って素早く立ち上がり 先に帰ろうとしたが、何か違和感を感じて俺がいた場所に
まだしゃがんでいるルキアを見る。
「ルキア? おい、 大丈夫か?」
「ーー何を言っておる。
大丈夫に決まっておろう。」
「あっそ。
なぁ、俺もその事後処理ってヤツを手伝ってやるから、一緒に帰ろうぜ。」
「いいから、先に帰れと申しておるであろう!!」
そう言いながらも、全く俺の方を見ないどころか、全く動こうとしないルキアを
正面にから覗き込む。
!! この馬鹿は 真っ青な顔でじっと堪えるようにしている。
「てめえ、大丈夫じゃねえじゃんかよ?!」
「煩い、ちょっと霊力を使いすぎただけだ!
こうして休んでいれば、なんともない!!」
「なんともなくないだろ!!
てめ! 意地張るのもいい加減にしろ!!
そんな顔色で大丈夫とか、言ってんじゃねえよ!
いいから、帰るぞ!!」
俺はしゃがんでいるルキアを無理矢理抱きかかえた。
嫌がってもっと暴れるかと思っていたのに、そんな元気もないのか少し身じろぎした
だけだった。
「・・・・すまぬ。」
そう一言残すと、そのまま意識を失うように眠りについた。
ーー くそ!! つまらねえ事では 俺を頼るくせに、肝心なときはなんでこんなにまで
意地を張ってんだよ!!
大体俺の額の傷なんて、わざわざ直すほど酷いモノじゃなかったはずだ。
それをコイツは 自分の霊力の残りだって自分で分かってたはずなのに
こんなギリギリまで霊力を使い果たしてまで俺のことを治しやがって!!
コイツは正真正銘の馬鹿だ!!
俺は 抱きかかえている軽さの分だけ この死神に腹をたてた。
そして、その細さの分だけ不甲斐無い自分に腹がたった!!
口が悪くて、態度がでかくて ずうずうしいくせに!
つまらねえ事でしか 俺を頼らねえ!
ちきしょう!! そんなに頼りねえかよ!!
細くて軽くてこんなにも小さい死神は 霊力を失ってなお、
虚と戦おうとしてる!
俺と家族を護るために 俺に 霊力を譲渡した所為で!
俺と家族を護らせてくれるために 俺を死神化させてくれた!!
だが、本人は霊力が弱まり 尸魂界に帰ることもできない。
俺が上手く戦えない所為で少ない霊力から鬼道まで使わせた!
俺のどうでもいい傷まで治させた・・・!
ごめん!
俺が もっと強くなるから!!
お前がこんな無理をしないですむようにきっと強くなってみせるから!!
小さな死神を抱えて俺は 夜道をあまり動かさないように、
けれど出来るだけ早く走って戻る。
決意と共に。
見かけによらない、ぶっきらぼうだけど とても優しい男の子。
かなりの萌え設定です。
その上、面倒見もいい(これは ルキアだけのオプション設定じゃね?!)。
ルキアが好きで、あの恋愛音痴っぷりに振り回されるって設定
大好物です。
原作だと彼自身も恋愛音痴っぽい気もします。
Jan.12/2008