正月 in朽木家



死神の仕事に正月など関係ないのだが、名門朽木家ともなるとそうはいかない。

毎年正月の三ヶ日は 死神の仕事を休んで 元旦の午前中に兄様と二人で
朽木家の墓参りに行く以外は 様々な者達からの新年の挨拶を受ける事に費やされる。 
まず、使用人頭達に始まり、一族縁者、一門とその累々、同じ貴族階級で
懇意にしている者から懇意になりたがっている者、更に、出入りの大手商家達の
挨拶を受けるのだ。 

毎年、義妹であるルキアも 朽木家の古いしきたりに従って
客によっては 着物を着替えて、朽木家当主白哉の傍に臨席して、細かい作法に則り
挨拶を返さなければならなかった。

毎年繰り返される ルキアにとっては、苦行のような三日間だったが、今年は 
一つだけ楽しみがあった。
最後3日の晩に六番隊を代表して、副隊長と三、四席の三人が挨拶に来た後、
宴席が設けられる。 
毎年、臨席する必要がないので全く無関係な事ではあったが、今年は恋次が来る。 
もしかしたら、宴の席を外した時にでも少し会えるかも知れないと密かに
楽しみにしていた。 

そうして、待ちに待った三日目の晩、滞りなく今年も挨拶の受け応えを済ませた
ルキアは、緊張した雰囲気を纏って六番隊の面々が廊下を渡っていくのを
当主が挨拶を受ける部屋に程近いルキアの着替えをする衣装部屋から見送った。 
本来ならもう着替えて自室に下がっているのだが、今日は 藤乃に頼んで
この正月用に着飾った衣装のまま、ここで会える機会を待ってみる事にした。


「藤乃。 やはりこのままというのは 派手過ぎるのではないだろうか・・・・。
 鬘と髪飾りだけでも取った方が 良いのではないか・・・・・?」

すでに何度と無く、繰り返された問答に 藤乃は勝気なルキアが初めて見せた
可愛らしい恋心ゆえの言葉に微笑みながら応える。  

「いいえ、ルキア様。 このままで調度宜しゅうございますよ。
 取ってしまっては 折角の御髪と御着物の色味や形の釣り合いが取れなくなります。 
 とても似合ってらっしゃいますからそのままでお会いになった方が良うございますよ。」
「・・・・・やはり・・・恥ずかしいから・・・・ 普段着に着替えて・・・・・・。」

そこまで言いかけた時、白哉の霊圧が 怒りを含んで軽く上がったのが伝わって来た。

「・・・・・・!?・・・兄様?・・・・・」




「それで、恋次。  貴様はそれをそのまま受けて来たというのか?  しかも年末に?」

新年の挨拶の後、山本総隊長からの要請を伝えた途端に隊長の霊圧が 怒りを含んで
少し上がったのが分かった。
ーーが、仕方が無い。 
俺の後ろに控えた三席の犀川、四席の青海の二人は縮み上がっていた。

「はい、自分には断る権限が無いですから。」

平然と応える俺に隊長の無表情の顔が 不機嫌に曇るのが俺には分かった。

(正直、俺だってこんな話は即断りたかったが、そんな権利も理由も公的には
 持っていないのだから、どうしようもない。
 隊長もそれを分かっていながら、俺にそんな事を言うのは隊長自身もきっと
 断れない話だからだ。)

「ルキアをここに呼べ。」

そう侍従に言うと 霊圧を下げ、平素の冷静な隊長に戻る。

(〜〜〜!!!  俺の経験上、こういう時の隊長の方が怖い・・・・。)



「兄様。 ルキアです。 お呼びと伺って罷り越しました。」

侍女の手で襖が開かれ、静々とルキアが部屋に入ってきた。
朽木家の姫として現れたルキアは 豪奢な着物を幾重にも纏い、長い付け髪を 
細かい細工の美しい髪飾りで纏めて、薄く化粧をされていた。 
少し別人のようにも見えたが、ルキアはとても綺麗だった。 
流れるような優雅な所作で隊長の傍らに座る時、俺に視線を合わせて、
はにかんだように微笑んだ。

(−−−−くぅ〜! めちゃめちゃ可愛い!!!−−−)

後ろの二人が 息を飲んで見とれているのが、俺にも伝わる。

(!!!!、 てめえ等、もういいから帰れ!!)



「恋次、 先ほどの話をルキア 本人に直接伝えるがいい。」

呆然とアホ面を曝していた俺達に隊長が 即座に正気に返るような冷たい声で
そう言い放った。
 
(!!! 隊長、それは酷く無いっスか? 
 俺は伝言を言い付かっただけで、俺の意思じゃないし!!! 
 八つ当たりだ〜!!)

この場の異様な雰囲気にルキアは怪訝な顔をしながら、俺を見詰めて
言葉を待っている。 くそ!

「---山本総隊長からの伝言をお伝えします。
 本年度新春剣術大会の褒章授与者の大役を朽木ルキア嬢に要請したい
 とのことです。」

「・・・・新春剣術大会の褒章授与者・・・ですか?」


新春剣術大会とは 毎年正月明けの15日に行われる新人死神たちが 
正月中にダレてしまわないように、士気を高めるためと剣技の向上を
目的とした大会の事だ。
鬼道を使わず、始解もしないであくまでも剣技のみを競う 
この新人死神の大会の結果によっては  所属の隊の移動もありえる。  
また褒章授与者は この新人達に更にヤル気が出るようにと
精霊廷新聞主催のアンケートの人気投票のトップの女性死神が選ばれる。 
二度の選出が出来ない決まりだったので 大抵はその年の新人の中で
最も人気のある女性死神だった。

「何故、私なのですか?
 新人死神の為の剣技の大会故、毎年 新人の女性死神が褒章授与者に
 選ばれていたと思いますが・・・。」

俺が 返事に窮していると、俺が言わないでいようと思っていた理由を
犀川が さらっと口をする。

「・・・憶測ですが、夏の藍染の件で知名度が上がったんだと思います。
 こんなに美しい方が今まで選ばれていなかったと判れば、皆投票します。」

途端にルキアの顔色が青ざめる。

(てめえ、犀川! わざわざルキアに厭な事を思い出させやがって・・・・、
 後で絶対しごいてやる!)

「そうです。 それにこんな機会でも無ければ、名門朽木家令嬢に近づく事も
 出来ないですから、きっと士気も上がって、参加者が 殺到しますよ。
 こんな美人からのキスが 受けられるんですからね。」

その青海の話に俺は 思わず立ち上がりヤツの胸倉を掴んだ。

「てめえ、今 何って言った?!」
「あ、阿散井副隊長、っく、苦しい。」
「恋次、見苦しい!」

隊長の不機嫌で絶対零度の声がその場を諌めた。


青海の説明によれば、俺等の頃とは違い、近年悪ノリしている傾向があって、 
褒章授与者は 授与の際に優勝者の頬にキスして、更に大会後、
一緒に食事をするというの特典が 慣例化していると言うことだった。 
そんな羨ましい・・・  
いや、いや、俺のルキアがそんな・・・・・。

(俺は 隊長の不機嫌の原因をやっと理解した。
 この隊長は 新人発掘のために毎年、律儀にこの大会を観戦していた。)

ルキアはその話を聞いてますます悲しそうな顔をして、縋る様に隊長に尋ねる。

「兄様。 このお話をお断りする訳には いかないのでしょうか?」
「あのジィさんの策略におめおめと乗って、今日のこの時間に話を持って
 来られては 断り様が無い。 
 たしか今日の午後には すでに褒章授与者として一般に公示されている
 はずだからな。」

じろりと俺を隊長の冷たい視線が刺す。
俺はがっくりと肩を落として、己の迂闊さを呪うしかない。 

確かにこういう派手な舞台に立つことは ルキアが好きではない事は知っていたが、
たかが褒章の盾を授与するだけの役だと簡単に考えていた。
本当に何でも理由を付けて速攻で断るか、
「新年の挨拶の時にでも伝えてくれれば、よいからの。」
なんていう山本総隊長の言葉をそのまま鵜呑みにしないで、聞いてすぐに
隊長に伝えるべきだったのだ・・・・。 

隊長に氷の視線で責められ、責任を感じてがっくりきている俺に
同情したのか ルキアは きっぱりと言った。

「わかりました。 お受けします。」

そんなルキアを見て、何もしないのは男じゃねえ!!!

「その大会、俺が出て絶対優勝する!!」
「貴様では 役不足だ。 ルキア、私が出場するから何も心配はいらぬ。」

犀川と青海とルキアが 俺と隊長の突然の発言を 驚いて見ていた。



大会の出場規約に新人のみと記載されていなかったので俺達の参加は
思っていたよりすんなりと認められた。 
ただし、新人達がビビって出場しなくなっては 困るので 匿名と
面付きでの参加を条件にされた・・・・。 

この話は 瞬く間に精霊廷中に伝わったらしい。 

( くぅ〜〜〜!! うちの隊長は ルキアとは 全く違う意味で
 男たちからもモテるから・・・・!! 
 普段、どんな挑発にも乗らないので いい機会とばかりに参加者が倍増だ。 
 しかも容姿、家柄、その実力と揃った美丈夫。 
 ヤローどもの反感とか勝手に横恋慕した(?)女の恨みとか いろんな意味で
 潰しに来てるんじゃないか?!ってくらい参加者が 上から下まで増えた。 
 
 そう、更木剣八、檜佐木修平、斑目一角、射場鉄左衛門、狛村左陣等 隊長格、
 副隊長、席官まで続々と参加して、最早新人のための大会ではなくなっていた。 
 そのうえ、何故かたまたまその日が日曜日だからという理由で黒崎一護も
 参加していた。 
 (誰だよ、わざわざ教えたヤツは?!) 
 【はい、やちるちゃんですvvv】






結局、優勝したのは 隊長格同士で潰し合う中、順当に・・・否、
超シードで勝ち上がった「炎獄獅子」と名乗った、山本元柳斎重國 総隊長だった。



俺は知っている。 
藍染の反乱以降、ルキアが一番隊に書類等を届けに行くと 
あの尸魂界で一番忙しい総隊長が、ルキアに数種の和菓子を出して、
少なくとも一時間は 帰さない。
俺等 隊長・副隊長格にさえ、茶も無く 多くても3分くらいしか時間を
割いてくれないのに。
書類を持って行っただけのルキアには 和菓子付きで一時間。

何も知らないルキアは 山本総隊長の優勝が決まった瞬間、ほっとして、
天使みたいに無垢なそれは美しい微笑を総隊長に向けていた。  

ちきしょう・・・!!

俺は 朽木隊長と互角に打ち合い、相打ちで救護室に運ばれながら、
褒章授与者が ルキアに選出されてからのこの大会に絡んだ全ての事は
(俺への伝言や組み合わせなども)
山本総隊長の策略だったのではないかと・・・今更ながら思った。





  明けましておめでとうございます。 名門朽木家のお正月風景を描いて見たかったんです。  きっと大変なんでしょうね。  昔、田舎の本家の正月に出た時、しきたり?とか席順、料理とか とても大変そうでした。 それと山本総隊長が 反乱以降は ルキアを可愛がっていたら  面白いなぁっと。 そうそう、この大会、隊長格・副隊長格は 好き勝手な「名乗り」と 「面」を被って出場します。  新人達がビビラないように・・・って 絶対 モロバレだと思いますが。 更木隊長は 「狂戦士・ベルセルク」 白哉兄様は 「白閃光」  一護は 「いっちー (by やちる)」 恋次は 「紅牙狼」 一角さんは 「狂龍」  檜佐木さんは 「愛され男」 って・・ごめんなさい〜〜。 Jan.01/2008