お肌のお手入れ 


藍染騒乱後の平静を取り戻した精霊廷。
今日の職務を終えたルキアは机の上の書類を片付けて帰り支度をしていた。

(これなら待ち合わせの時間に充分間に合う。自分より忙しいはずなのに
 兄様の影響か、副隊長の自覚からか、いつもアヤツは遅れずに早目に来て
 待っている。昔はよく遅刻して私が待たされていた・・。変わるものだな。)

そんな事を思っていると  いきなり扉が開き「「朽木」さん」と、呼ばれた。

「あ、松本副隊長、伊勢副隊長お疲れさまです。」

二人は 慌てて立ち上がるルキアに近づくと、いきなり小柄な体と小さな頭を
押さえつけて顔を上向きにさせた。

有無を言わさぬ、息のあったコンビネーション攻撃だ。

「な、なに・・?あの・・・?」

前髪をかき上げられて、めちゃめちゃ至近距離で 真剣な眼差しの二人に
顔を隅々まで覗き込まれる。
ルキアはその真剣さと無言の迫力に訳が 分からない恐怖を感じて思わず涙目になる。

突然、解放され、ルキアは脱力して座っていた椅子に再び座り込む。

「ふー。 やっぱりきれいな肌してるわねぇ。」
「ほんとに白くて肌理が細かい。」

と言って、伊勢はめがねを上げた。

「朽木さん。 この度、女性死神協会でお肌の綺麗な女性の一人として、
 貴女が選ばれたの。
 そこで!  私たち二人は代表して貴女に肌のお手入れ方法と、綺麗な肌を保つ 
 秘訣をインタビューしに来たの。」

松本がどこからともなく持って来た椅子二脚をルキアの側に膝を詰めて座り、
伊勢はメモを取る用意をする。ルキアは萎縮する。

「あの、何かの間違いではないのですか? 私は特別・・・。」
「朽木。 いいからいいから。 とにかくさぁ、あんたの風呂上りから寝るまで
 の行動を言ってくれる?  ほら、普通、風呂上りに顔とか、体に何か付け
 るじゃない? ただそれを言ってくれればいいのよ。」
「////////!! すいません。 何もしていません。 タオルで拭いたら歯磨きして
 本を読んで寝るだけです。」

「くちきさん、そんなはずないでしょう!?」

「忘れてるだけよねぇ・・?」

にこやかに聞く松本と伊勢の霊圧が なぜか上がった気がした。


隣の隊長室では 浮竹十四郎と朽木白哉が 珍しく酒を酌み交わしていた。

あまり会話の多い二人ではないので、ルキアの霊圧が乱れたあたりから
つい、聞くとはなしに隣の話に聞き耳をたてていた。

(助けにいくべき・・・!? でもどうやって今のアノ二人から・・・?
 もう少しなりゆきを静観してから・・・・・・・・・すまない・・・・・・・)

隊長が二人も揃いながら、悲しいかな胸中は一緒。 
今の真剣かつ迫力あるアノ二人を相手に剣でならともかくそれ以外で勝てる自信はない!!



そもそもこの二人をこんなに焚付けたのは、八番隊隊長 京楽春水の何気ない一言。
	
「今日朽木女史に昼間会ったらさぁ。 この間の旅禍騒ぎ時、あんなに疲弊して 霊力も
 弱っていたのに、もうすっかり元気でさぁ 明るい笑顔で挨拶してもらちゃったvvvv。
 若いから回復力が違うのかねぇ。
 お肌も白くてすべすべで・・綺麗な子だよねぇ。
 あ、でもぉ 名門朽木家のお嬢だから、もしかしたら秘湯とか、すご〜く特別な化粧品を
 使ってるとか・・・・・
 あれ、七緒ちゃん・・・? 乱菊さん・・・・?」




「あー!! 思い出しました。」

迫真の二人から逃れるためにルキアは頭をフル回転させて言った。

「わたしが、あまりに肌の手入れに無頓着なので、兄様が・・・」

(朽木? そこで何故、赤面するの?)
(なぜ、そこで話を切る?)
(なんで ルキアの"肌のお手入れ"の話に朽木隊長が 出てくるんだよ・・・!?)

「・・・週に一度の非番の夜に頭の先から足の先まで角質とりとか、ろーしょん? 
 クリームやら美容液とかを塗ってくださるーー」

ガラっと突然勢い良く扉が開き、恋次が入って来る。

「ルキア!! てめっ、何言って・・・!? つーか、聞きたくねーー!! 
  あ、いや、そんなはずねぇ・・ わああぁぁぁぁ!」


恋次は あまりにルキアが来ないので、安全確認のため霊圧を探るとかなりの
霊圧の乱れを感じて飛んできたのだが。
扉の中はどう探っても ルキアといるのは同じ副隊長の見知っている二人。 

状況が分からず、扉の外で盗み聞きしていたのだ。
だが、ルキアの話にかなり混乱、錯乱してしまった。

「恋次! どうし・・あ、私が遅いからか。 って、おい、貴様、盗み聞きしていたのか?
 いやらしいヤツだな。
 だいたいなんでそんなに大騒ぎしながら入ってくるのだ!?  喧しいゾ!」
「え、いや、だって・・・おめぇの霊圧が乱れてただろ・・・、でも。だからって、隊長ぉぉ・・」
「恋次、煩い!!」

松本のみぞ打ちが綺麗に決まり、恋次が唸って蹲る。

「で、朽木。そのローションや美容液やクリームの名前って分からないの?」

何事もなかったように乱菊は続けた。


「はい、すみません。 私自身手に取ったことがありませぬゆえ。
 あ、でも。毎週兄様が手配して下さるエステティシャンなら、
 きっと全ての名前を知っていると思います。」
「「エステティシャン?」」
「はい。  最近の現世での職業で、髪など頭の先から顔、爪までの
 全身美容や、お手入れが専門の方たちです。」

(さすが、朽木家のお嬢様。 最新の職業人を手配されていたのか・・・。)

「分かったわ。 朽木隊長に詳しく聞きにいくから。
 もう、恋次と帰っていいわ。」

(なんか、今までの話し方には 突込みどころ満載だったけど、
 どうせこの娘に言っても分からないだろうからいいわ。)

「・・・そう言えば、もしかしたらですが、私が寝就いてから
 毎晩・・たぶん、侍女頭の藤乃だと・・
 聞いてみた事が在りませぬゆえ定かではありませんが。
 化粧水とかナイトクリーム などを顔や手に塗ってくれているの
 やもしれませぬ。
 以前、兄様より頂いていたそれらが知らぬ内に減っていて、
 最近新たに兄様から贈られたので。
 今晩藤乃に聞いてみます。」

隣の部屋で突然、咳き込む声がする。

(((朽木。))さん)(((それ、絶対藤乃じゃないから!!!)))

ーーーー声にできない三人の心の叫びが十三番隊舎に響くーーー

瞬歩で、白哉が家路に向かったことは 言うまでも無い。
藤乃と打ち合わせをするために・・・・






三人となっているのは、真相を気付かない天然気味の浮竹、 またはみぞ打ちをくらった恋次どちらかの所為です。 09/27/2007