自尊心
6番隊隊舎を出て総隊長の元へ移動する長い廊下の先から、あの赤毛の大柄な隊士が
霊圧をぎりぎりと抑えながらも噛み付きそうな顔で近寄って来た時、
『煩わしい・・・・』と思い ただその場に打ち捨てるつもりだった。
唯一人 私を理解し、愛した緋真が 死の間際に残した約束。
それが 今も私を縛り続ける・・・・・。
唯一の愛するもの、安らぎを失った私は、ただ生き永らえ、狂う事も
嘆く事も許されない身の上、「生」への執着など持てるはずもなく。
そんな私に 緋真は 「生」への約束を 残していった・・・・。
緋真の死後、一年余りしか経たぬ内に 緋真に良く似たあの幼い娘を真央霊術院で
見つけた時、その容姿に 私らしくなくとても驚き動揺した。
緋真に良く似た容姿に全く違う魂魄の娘。
妻との約束どおりに義妹として、手元には 置いた。
だが、私は正直 困惑していた。
この時はまだ気持ちの整理がついておらず、その娘に憎しみさえ感じた。
何故、そこまで似ているのか・・・・。
何故、そんなに違うのか・・・・。
何故、私に緋真がもうここに居ない事を再確認させるのか?!
緋真は 儚く脆く見えるのに陽だまりの暖かさと大地のような広い懐と
しっかりとした芯の強さを持っていた。
妹は 強い信念を感じさせるはっきりとした瞳と孤高の気高さを身に
纏いながら、家族に恵まれなかった故か感情面での幼さと脆さを混在させていた。
私はあまりに緋真によく似た娘を手元に置いて見ている辛さから逃れるためと
「死」と隣合わせた『死神』ではなく、『女』として幸せな暮らしをさせるために、
それとなく適当な貴族の子弟に何度か引き合わせた事もあったが、あの娘は
そんな男達に少しも揺らぐ事も無く、養子としての最初の要望通り、
『死神』になり、精進して強くなる事しか興味が無いようだった。
そんな娘に内心、ほっとした自分に困惑した。
二度と目の前であの「緋真」の「死」を見たくはない。
だが、あの顔が あの瞳が 他の男に夢中になるのを見たくはないのだと
自身の感情を理解する。
私は ルキアの希望通りに、『死神』にしてやる。
そのために必要な知識、技術も身に付けさせた。
浮竹が『少し優しくしてやったらどうだ?』 そんな忠告してくる。
相変わらず世間を知らぬ 甘い男だ。
私があの娘を優しく大事にしているなどと世間のハイエナどもに伝われば、
あっという間に寄って集って貪り喰われてしまうだろう。
残念ながら『朽木』とは そういう家だ。
だが、私が 『死神』としてルキアを精霊廷内を連れ回していたために、
下衆な風評が立った。
「妻に良く似た娘を 義妹として引き取り、愛人にしている。」と。
私は 幼い頃よりこうした世間の風評の中で生きて来たので、心外だと思う事は
あっても今更気に病みなどしない。
だが、幼いあの娘には 厳しいだろうと、浮竹が自分の隊で面倒をみると言って
きていたところだった。
どうせアヤツもその件で来たのだろう。
私は あれほど必死に捜していた緋真から妹を隠し、最後に会う機会を奪った
あの男を赦す気など無い。
下衆な輩どもの話に耳を傾け、私をそんな下卑た男と見るような馬鹿は
相手にしない。
勝手に勘ぐって苦しんでおれば、良い。
しかし、近づくにつれ、その焦燥してやつれた様子と必死な目にこの大馬鹿は
相当な覚悟で来たのだと思い遣る。
ーー 『白哉様。
あのような戌吊であの目立つ容姿のルキア様を 子供達だけで護る事が
できたのはある意味 奇蹟に近かったのではないでしょうか・・・・。
この清家の目には あの方の魂は無理やり手折られたならば、その時点で
砕けてしまうほど気高く純真で脆く幼いもののように映りました。
あの方の人徳もありましょうが、良い子供達に出会えてよかったです。
ーー ・・・・仕方が無い。
戌吊でルキアの笑顔と魂を護ったその功績に免じて、一度だけ応えてやろう。
私の前でアヤツが 口を開く前に 私から言い捨てて、通り過ぎる。
「貴様は 自尊心の無い者にルキアを委ねたか?!」
後ろで アヤツの霊圧が 途端に凪いでいった・・・・。
私の自尊心を疑う事を二度は赦さぬ。
このような慈悲も一度だけだ。
あの馬鹿は 一度手放したモノを取り戻すつもりでいるようだが、
今となっては 私も簡単には 手放さぬ。
ルキアの望むままに 生きていく様を
たとえそれが、あの娘にとって辛く血塗られた『死神』としての生き方でも構わぬ
緋真と交わした約束のままに 見守っていってやろう。
いつかルキアが 自ら私の手元を放れて行くか
私よりもルキアを思い
護る事が出来る者が現れるまでは・・・・・。
兄様は 己のプライドを重要視する高潔な人
(特にルキアの前では)
でもお坊ちゃまらしくかなりズレている人で
いて欲しいです。
プライドを持って生きる事。
私にとってもこれは とても大事な生き方。
どんな風にどんな信念であってもいいんです。
ただ、その事にプライドを持っているなら・・・・。
それが世間的に間違っていても、格好悪くたって、
他の誰かに迷惑さえかけていなければ、それでいいんです。
(ブログ内のしおんの王の中でも同じ様な事書いてましたっけ。)
要は 自分自身を大事に出来る生き方ってことっス。
一度しかない人生を楽しんで 生きてください。
とりあえず死んで、尸魂界に行くまでは・・・・。
Jan.01/2008