理吉 1
双極から阿散井副隊長、朽木隊長が共に4番隊の救護室に運び込まれたと
連絡があり、副隊長付きのオレは 慌てて恋次さんの元に向かった。
【面会謝絶】の扉を恐る恐る開けると、全身の傷を包帯と金具で固定された
いつもよりかなり顔色の悪い恋次さんが 寝具に横たわっていた。
それなのに・・・・いつもと同じ口調で、
「よう、理吉。 さっきは助かったぜ。
んで、来た早々に 悪りぃんだけどよ、今 俺、ちょっとばかし動けねえから、
ルキアと旅禍の黒崎一護と隊長の様子を確認して来てくんねえか?」
ーー あなたは 自分自身が そんな状態なのに
ルキアさんと隊長の心配なんかして。
そんな恋次さんにオレは 思わず感情的になってしまった。
「・・・・・・恋次さん、 ・・・ご無事で・・・よ、良かったです・・・・・。」
「・・・・てめえ、何泣いてやがる?! −−−てか、全然無事じゃねえだろ?!」
「・・・・う・・・だって・・ き、・・・切られたって・・・・愛染・・・・
隊長に・・・・切ら・・・れたっ・・・・・」
「−−−−心配させて悪かったな。 ーーーーだぁ!! 泣くな!
俺付きの隊士だろ!!
こんなん何とも無えよ!! あっという間に直してやらぁ!!
ーーだから! 理吉。 頼む。 俺を安心させてくれ。
安心して俺が 傷を治すのに専念できるように確認して来てくんねえか?」
そう言った恋次さんの真剣な眼差しが 感傷的になっていたオレを冷静にさせる。
死覇装の袖で涙を拭うと、
「わかりました。 恋次さん。 任せといてください。」
オレは 部屋を出ると手近にいた4番隊の人から隊長とルキアさんと旅禍の
部屋を聞いた。
先ずは 最上階にいる隊長の部屋に行き、その部屋の外にいた朽木家の侍従の
眼鏡をかけたおじいさんに様子を聞いた。
隊長は 命に別状は ないまでに回復したが、怪我が酷いためしばらくは
面会謝絶との事だった。
オレは 正直信じられなかった。
あの隊長が そこまで大きな怪我を負ったって事が・・・・。
隊長もルキアさんを市丸隊長の剣から庇って負傷したのだと聞いた。
何故、そうなったのか・・・・
隊長は ルキアさん(隊長の義妹)の処刑を阻止しようとした恋次さんを
止めさせるために戦ったはず・・・・・。
結局、恋次さんも隊長もあの旅禍達だって・・・・
ルキアさんのために命を懸けた・・・。
いったい 『朽木ルキア』さんって どういう女性なんだろう?!
6番隊の牢にいた時の印象は とても小柄で華奢な後ろ姿と色の白い人。
恋次さんにズバズバ言い返せるような気の強そうな人ってことくらい・・・・・。
(大体 女性死神で気の弱い人なんかいないし・・・・。)
ーー そんなに魅力的な女だっただろうか・・・・。 わからないや・・・・。
旅禍の少年は・・・・たった二ヶ月前に知り合っただけなのに、命がけで
助けに来たのは 霊力を与え合うほどの愛人関係だったからじゃないかって憶測が
飛んでいるから理解できる。
オレだって恋人なら命がけで助ける!
隊長だって 義妹なんだし・・・養子とはいえ 40年も義兄妹だった
一説によると愛人とも噂されている女だから、命がけで助けるのは理解できる。
それが 現世で浮気したから [極刑]を希んだんじゃないかって変な噂もある。
オレなんかに その真偽なんて分からないけれども・・・・。
ただ、あの隊長が!?って思いと、やっぱり貴族なんてっ
庶民とは 違うからなって思いもある・・・・・。
でも、恋次さんは 少なくともオレが 憧れて六番隊に入隊してから
彼女と付き合っているとか、話をしている姿さえ、六番隊の牢の中に居る時以外
見た事もなければ、恋次さんからの話や予定に出た事すらなかった。
幼馴染って言ったって、朽木家に入る前のことだって 誰かが言っていた。
そんな他人の愛人(恋人)かも知れない女を 命がけで助けるなんて・・・・。
しかも 誰もが憧れて、かなり努力しても なれない人なんて沢山いる13番隊の
副隊長の地位まであっさり擲って・・・・・。
やっぱり理解できないや・・・・・。
今回の事だって、もしかしたら副隊長には もう復職出来ないかもしれないのに。
今だってあんなに自分がぼろぼろなのに隊長や旅禍、ルキアさんの心配をしている。
しかも一番知りたいのは たぶんルキアさんの事なんだと思う・・・・。
次に行った旅禍の部屋を覗いて見ると、明るい長い髪の綺麗な旅禍の女の子が
黒崎一護の眠っている枕元で静かに泣いていた・・・・・。
オレは 見ちゃいけないものを見てしまった気がして、そっとドアを閉めた。
「覗きは感心しないな!」
急に後ろから声をかけられた。
白い服を着た旅禍の仲間だった。
「うわぁあ・・・、すいません。 すいません。
そんなつもりじゃ・・・・・
オレ、六番隊の恋次さん付きの隊士で 理吉って言うものです。
恋次さんに頼まれて、容態を聞きに来ただけっす〜〜。」
「・・・・ふ〜ん。 あの阿散井さんがね・・・・。
じゃぁ、伝えてやって。 黒崎のヤツ、もうほとんど傷は 塞がって休んでる
だけだって!
井上さんがいる限り心配無用だって。」
そう言って後ろの扉の方に親指を差した。
「わかりました。 ありがとうございます。」
オレは慌ててその場を去る。 なんかアイツ怖い。
なんかに腹をたてているような・・・。 (嫉妬?) 誰に?
そんな言葉が頭をよぎったけれど、どうでもいい。 とにかく 逃げよう!!
だけど、あの旅禍って ルキアさんの恋人じゃなかったのかよ!!
あの旅禍の女の子はなんだってんだよォ!!
恋次さん、オレには ホント分からないっスよぉ!!
最後にルキアさんの部屋の前に着いた。
どきどきする。 ここも【面会謝絶】になっていた。
(恋次さんに頼まれたから・・・・ちょっと見るだけですから・・・・)
そう心の中で言い訳しながらそっとドアに手をかけると・・・
「面会謝絶の札が見えなかったんですか?
それとも朽木の姫に何か急用ですか?」
何処からともなく現れた大柄な男に後ろから胸元に腕を回されて、
そう耳元で囁かれ、喉元には 剣の刃があてられているらしい
冷たい感触がぁ・・・・!!!
「・・・・・うわぁぁ・・・・ごめんなさい。
すいません、すいません・・・。
オ、オ、オレは ろ、六番隊の副隊長付きの隊士で理吉って言います。
す、すいません・・・。
あ、あば、阿散井副隊長に ルキア様の、よ、容態を確認してくるよう
言付かったものですから・・・。
ホントすいません・・・・・・。」
「ーーーーわかりました。 信用いたしましょう。
ただし、次にお休み中の姫に近付いたら、即その首落としますから。
覚えておいて下さいね。」
そんな物騒な事をこのある種の風格ある大男はあっさりと真顔で言った。
(うわぁあああ・・・・・、
朽木家の噂の御庭番に会っちゃったって事?!
オレってば、一つ間違えば、
闇から闇に葬られちゃうところだったって事・・・・?
生きてて良かった〜〜〜。)
「姫は お陰様で命に別状はありませんが、霊力が極端に弱まっているので、
今は卯ノ花隊長のご指示で薬でお寝すみになっていらっしゃいます。
そうお伝えください。」
最後の言葉を言い終わる前に男は 忽然と消えた・・・・。
オレん中で 朽木家とルキア様と 恐怖は 一緒の印象になった。
と、とりあえず・・・・ ルキア様を見ることは出来なかったけれど、
恋次さんに報告に行こう。
もういい。
オレは もう恋次さんさえ良ければ、ルキアさんの事は知らなくてもいい。
だって、知ろうとすれば、命がいくつあっても足りない・・・・。
それだけ分かれば、充分だ。
ちょっと世間の目っていうか、第三者的視点で。
きっとこんな下世話な噂も有だったんじゃないかな・・・・。
サブタイトルは 「理吉君の受難」で。
Feb.03/2008