新 人 1
十三番隊・平隊士の朽木ルキアが虚圏から戻って来た。
虚面では 大層なご活躍だったらしい。
もっとも 死神代行のあの黒崎一護とか
六番隊・阿散井副隊長、朽木隊長を始め、全隊長・副隊長までが 応戦したので
平隊士の彼女が 本当の処どれほど活躍したのかなんて分からない。
どうせ新人には 詳しい状況など話してもらえる訳じゃないから、
どうだっていい・・・・・
ただ、十三番隊内での彼女は、平隊士でありながら、さすがは名門朽木家の姫君、
扱いが別格だ。
通常は 浮竹隊長の秘書的な仕事をして、小椿・虎徹両三席と同じ部屋で
まるで同格のように事務処理している。
一番隊の総隊長へ書類を 届けるのは 必ず彼女と決まっているのだとも聞いた。
『 届ける 』 たったそれだけの仕事なのに! 何故彼女なのか?!
現世へ派遣されていた時も そのためだけに戻っていたらしい。
そんな滅多に実戦に出ないような内勤中心の何十年も平隊士の女が高名でいる。
ーーー全く納得がいかない
「朽木、今度の六番隊との合同虚討伐の話なんだが、新人部隊の副部隊長として
後方での支援を君に任せたいのだが、頼めるかな?」
薬を用意していた私に この時期、体調を崩し易い浮竹隊長がそう仰った。
「でも、私は・・・・あの・・・・平隊士で その・・・・
副部隊長なんて、任に就けるような立場ではないと思うのですが。」
「・・・う、それはそうなんだが・・・・・。
なんていうか・・・・たしかに 朽木は 便宜上平のままだが、実力は
もう虚圏での戦いで充分実証済みだ。
それに俺は あの黒崎を正しく導いていったのは君だと思っているから、
君に新人達を任せる事は適任だと思っている。
悪いが 頼まれてくれないかな?!」
「・・・・・・隊長、そんな・・・・。
−−分かりました。
あの、お気遣い頂き、ありがとうございます。」
そう言って 頭を下げる私に浮竹隊長は 頭を掻きながら困ったような
笑顔を向けられた。
私は 雨乾堂を辞すと そっと溜息をついた。
ーーー事実上、私は実戦から外されたのだ・・・・・。
ギリアン(下級)、アジューカス(中級)クラスの破面を数体を
含む虚が 多数 虚圏の5622地区に巣食っているのが 確認されたので
総隊長によって六番隊と十三番隊が合同で任命され、事務系隊士以外の
ほぼ全員参加での大掛かりな討伐隊が組まれた。
通常は無い事だが、今回は
「今後このような大掛かりな討伐はないだろう。 新人に見学をさせよ。」
総隊長の一言で両隊の将来有望な新人に 虚討伐の見学がなされる事となった。
そして私は その新人達の監察・保護部隊を任されたのだ。
責任ある仕事だが、実戦部隊に比べれば、はるかに危険の少ない部隊。
浮竹隊長が そんな私に配慮され、副部隊長とされたのだと思うと
情けなく申し訳なかった。
私は 気を取り直して 姿勢を正した。
今日中に片付けなければならない書類の待つ執務室に足を向ける。
すると、向かう廊下の先にあの新人が 私に絡むために待っているのに気付く。
無駄に背丈が高く薄茶の髪、肌も白く全体に色素の薄いヤツは まるでそれを
補うかのように目尻には赤い三日月形の、また眉間には黒で逆三角形の刺青を
入れている。
名を 月見里薫(やまなしかおる)といった。
なにかと絡んで来るので自然、名を憶えてしまった。
その温厚な名前を 見事に裏切るかなりの自信家で 好戦的な性格の男だ。
もっとも、その自信を裏切らないだけの実力は 持っているようだ。
今年二番隊から移動してきたヤツは 一昨年の統学院の主席卒業者なのだと聞いた。
からかうような薄ら笑いをその顔に貼り付けて 言葉使いは丁寧に話しかけてくる。
「ご機嫌よう、姫様。
相変わらずお忙しそうでいらっしゃいますね。」
「・・・ふん、貴様に会うまでは 機嫌は上々であったがな。
何度も言うが、『姫』と呼ぶな!
貴様は 暇そうで結構だな。 丁度良い、これを片付けておけ。」
手に持っていた水差しなどの乗った盆を押し付けると、ヤツは意外なほどあっさり
素直に受け取った。
「俺も暇では ないんですけどね、これから現世へ魂送と虚の討伐に行くんです。
でも これを片付けたら、お礼として 今度手合わせ願えますか?」
「・・・・貴様、この程度の労働で私の時間を割けると思うておるのか?
ーーーーまぁ、良い。 考えておく。
さぁ、それを早く片付けて来い。 八月朔日七席が おみえになったぞ。
貴様を呼びに来たのでは ないのか?」
★挿絵
「はいはい、お相手下さると言ったその約束は お忘れなく。 姫様vvvvvv」
「止めろと言ったぞ、馬鹿者!!」
片手に盆を持ち、反対の手でひらひらと手を振ると ヤツは どすどすと険しい顔で
こちらに向かって来ている十三番隊一 大柄な七席の八月朔日正崇(ほづみまさたか)殿とは
反対方向に 素早く逃げるように去っていった。
「朽木殿、またあの馬鹿が失礼な事を 言ったのではないですか?!
すいません。
俺の幼馴染のガキなんすけど、昔から生意気なヤツで・・・・。」
ルキアを目の前にすると先ほどまでの険悪な表情が消えて、少し頬を赤くした、
本来の実直で朴訥な様子に戻った八月朔日殿が 『生意気』な幼馴染みの
かわりに頭を下げてきた。
密かに彼の中に『大吾』を思い この男を好ましく思っていたルキアは
大きな体を折って頭を下げられてとても居心地が悪かった。
「おはようございます、八月朔日七席。
いえ、そんな大丈夫です・・・他愛のない話でしたから。
あの、それよりも今度の虚合同討伐の新人部隊の件、浮竹隊長より伺いました。
私が 七席が率いる部隊の 副部隊長となりました。
どうぞよろしくお願いいたします。」
「いえ、俺の方こそ。 貴女には 絶対危険が無いようにしますから。
大船に乗ったつもりでいてください。」
そう言われてしまい、思わずルキアは 気付かれぬように俯向いて表情を歪ませた。
一瞬後。
「・・・ありがとうございます。
・・・あの、私は書類整理があるのでこれで失礼いたします。」
そう笑顔で言って執務室に去っていくルキアの後姿を八月朔日は その大柄な体格に
似合わぬ純情さで再び頬を染めて見送った。
ーーー姫、今日も綺麗な笑顔をありがとうございます!!
俺は姫と同じ隊で幸せですvvvv
ざまぁみろ、檜佐木! 思わず俺は心の中で同期出世頭のヤツに悪態をつく。
だいたい図々しいのだ、あの男は。
後輩のためとか って見え透いた事をヌかして、俺から『姫』の話を聞こうとする。
だから前に脅しておいた。 今は あまり現れなくなったお庭番の話で。
あんな女にだらしの無い男に 誰が大事な『姫』の話などするものか!
俺がどうして他隊からの栄転配属を断っていると思っているのか・・・・。
この隊にしか 『姫』がいらっしゃらないからだ!!
何日かすると浮竹隊長が仰っていた合同虚圏討伐の部隊構成名簿や配置図
などの詳細の書かれた連絡書類がルキアの元にも回ってきた。
その最後の作戦会議を前日の午後に控えて、再度その書類に目を通す事にした。
六番隊・十三番隊合同虚圏・5622地区討伐部隊
総監督 浮竹十四郎 十三番隊 隊長
総指揮 朽木白哉 六番隊 隊長
第一部隊・隊長 阿散井恋次 六番隊副隊長
小椿仙太郎 十三番隊 三席
犀川 公平 六番隊 三席
青海 健璽 六番隊 四席
破琉零慈朗 十三番隊 五席
第二部隊・隊長 虎徹 勇音 十三番隊 三席
第三部隊・隊長 堰根亨次郎 六番隊 五席
第四部隊・隊長 天川 奈美 十三番隊 六席
第五部隊・隊長 浜咲愛李音 六番隊 六席
第六部隊・隊長 稗原なぎさ 六番隊 七席
第七部隊・隊長 八月朔日正嵩 十三番隊 七席
そこまで目を通した時、部屋の扉が突然開き
「失礼します、小椿三席!! −−−あれ?! 」
月見里とは同期新人の兼平桃華が 飛び込んで来た。
「如何した?!
小椿殿は 午前中、副隊長の定例会に出席されていてここには居らぬ。」
「えぇ〜〜。 そんなぁ。
あの・・・・・・薫君が 八月朔日七席とか先輩隊士数人に
稽古をつけてやると言われて、修練場に連れて行かれてしまって・・・・。」
(なんで よりによってこの方しかいらっしゃらないのぉ??!)
兼平はつい心の中で叫んでしまう。
「? 何を慌てる必要があるのだ?
新人が 稽古をつけてもらう事なら よくある事ではないか?
それに八月朔日殿は 幼馴染だと聞いておる。
何の心配もあるまい。」
「・・・・あの・・・・でも すごく険悪な雰囲気だったから・・・・
私、とても心配で・・・・・
あの・・ お騒がせして申し訳ありませんでした。」
(あぁあ〜〜、やっぱりこの方では・・・!!
虎徹三席は 今日の午後の会議のためにしか出て来られないので、
天川五席を捜さなくちゃ。)
この部屋に飛び込んできた勢いのまま、兼平は扉を閉めて走り去っていった。
「・・・・ふむ。」
再び書類に目を落としたルキアだったが、やはり気になり 机上を少し片付けると
立ち上がった。
ちょっとルキアに悪意ある不穏な雰囲気漂う始まりです。
例によってオリキャラ出捲くりです。
『大吾』は 戌吊に暮らしていた仲間の一人の名前です。
勝手に捏造しました。
(参照:戌吊)
また、八月朔日の独白部分は 『お見舞い』の檜佐木先輩の事を言ってます。
(参照:お見舞い)