新 人 2 ルキアが隊舎裏の修練場に行くと 月見里が木刀を持った8人の隊士達に 囲まれていた。  中心に一人立つ月見里は息も荒く既に何回か打ち込まれたのか 頬に赤黒い傷  唇から血を流し、死覇装は あちこち破れていた。  だが、流石に主席卒業。  ヤツに致命傷を打れたのか取り囲む隊士達は3人が蹲っていたが、アヤツは 正眼に構えてしっかりと立っていた。 「朽木殿!! ・・・あ、これは その・・・ 新人に剣の稽古を・・・・・」 修練場に珍しく私が現れたことに気付いた八月朔日七席殿が 慌てたように そう言った。 「そうですよ。 だいたいなんで姫が こんな所にいらっしゃっるんですか?!」 ばつの悪そうな、咎めるような口調でヤツもそう言った。 「!!  ふん、悪かったな、こんな所に来て。   私も一応十三番隊隊士なのだがな!」 腕組みをして、私は 不機嫌に応える。 「いえいえ、姫、せっかくいらして下さったのですから、お相手をお願い致します。    先日、約束しましたよねvvv」 また、あのからかうような薄い笑いを含んだ顔を向けられた。 「『姫』言うな、馬鹿者!    私は 斬魄刀でなければ、受けられぬが構わぬのか?」 「望むところです。」 「「「朽木殿?!」」」 このやり取りに 八月朔日殿を始めとする周り隊士達から 驚いたような声があがった。 「では皆様、この後のこの者の相手は 私に任せて頂けますか?」 私は 殊更 にっこり微笑みながらそう告げる。 「それは 構いませんが・・・・。  あの・・・・ですが・・・・。」 「ありがとうございます。」 そうして、態と否定する答えを抑えた。 私は 月見里に向き直ると、互いに斬魄刀を抜いて正眼に構えた。 ヤツの顔から人を小馬鹿にしたような笑みが消えて、無言で真剣に 睨み合った。 周りの隊士達は 心配そうに私達を見守りながら、取り囲んでいた輪を 広げるために後退いた。 じりじりと睨み合う事に耐え切れなくなった月見里が 体躯差の有効な 上段から打ち下ろしてくる。  −−定石通りだな。 大柄なヤツから振り下ろされた剣は とても重い。 私は 剣に腕を添え 斬魄刀に霊力を込めると ヤツの剣を受け、払った。 ーー霊力の込められない木刀なら力負けして腕が折れていただろう。 間髪を入れずに、閃花のように回転をかけて 刀を横に凪いだ。 月見里は 慌てて後ろに飛び退いた。 除け切れなかった死覇装が はらりと切れた。  迂闊に間合いに入ったために 私の素早い動きに防戦一方となった上に  斬られた月見里が悔しそうに舌打ちして 私を見据える。 ーーやはり私を侮っていたのだな。  私は 態とふふんと得意そうに意地悪く哂ってみせる。 私の表情に気付いた月見里の霊圧が 感情的になって乱れた。 斬魄刀に霊圧を込めて、更に足元に霊圧を込めて瞬発力を付けると跳んで、 今度は 私が上段から斬魄刀を振り下ろした。 霊力の乱れた月見里は 剣で受けたが 私の斬魄刀に込められた霊圧に 耐え切れず、そのまま後ろに滑るように下がった。 その引いた力を利用して 自分の身体をひらりと回転させてヤツの後ろに 着地する瞬間に刀の鞘で脇腹を突いて この対戦の終わりを知らせた。 「・・・・動きが早いんですね。  ありがとうございました。」 「貴様は 剣技とか以前に自分の感情に振り回されすぎだ。   もっと冷静に状況を把握せねば、実戦では こういった訓練と違い思わぬ事や  邪魔が入るために大きな怪我を負うことになるぞ。」 私の言葉にヤツはとても悔しそうな顔をする。   「そうだな、単純に剣の対戦だけなら 多分私より力のある貴様の方が 上だ。   今の対戦は 経験と相手への読みの差が 勝負を決した。」 「もっと鍛練して 次は勝ちます。」 「・・・ふん。 楽しみにしておいてやる。  貴様、統学院では首席だったと聞き及んでいる。   ならば、鬼道も得意であろう?   あの的に『蒼火墜』を打って見せてみろ。」 「はい。  君臨者よ!血肉の仮面・万象羽博き・ヒトの名を冠す者よ。  真理と節制・罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ。 蒼火墜!」 詠唱後、差し出された腕は 視線は 間違いなく的を狙っていた筈なのに、 その光は 何故か私のほうに向かってきた。 私の立っていた その場に大きな土煙上がり、爆風が周辺を吹きすさんだ。 私は 大きく跳び退いて 蒼火墜を避けた。 爆風が止んで 目を開けると、私が飛び降りた目の前には まるで土埃や 爆風から守る盾のように死覇装を纏った大きな黒い影が、緋い髪の後ろ姿があった。 「十三番隊でお楽しみのところ、邪魔して悪りぃんだけどよ。   ルキア、そろそろ時間だ。」 そう皮肉っぽく言いながら 恋次が ゆっくり振り向き、私を見下ろしてきた。  言葉とは 裏腹に私の無事を確認して ほっとしたような顔で・・・・。 「「「阿散井副隊長!!」」」 爆風で上がった土埃が収まり、開かれた視界の先に 突然、 六番隊・副隊長 阿散井恋次が出現したことに居合わせた全員がとても驚いた。 ーーー六番隊・副隊長 紅い髪と派手な墨を全身に入れた大柄な男。 姫の幼馴染。    尸魂界で 姫を極刑から守るために地位も命も棄てて動いた男。    今、姫が 唯一心許しているとさえ噂されている男ーーー 「朽木、八月朔日両名は 間もなく明日の合同虚討伐の作戦会議の時間だ。  共に会議室に来てもらいたい。」 突然 現れた恋次が 冷静にそう言ってくれたお陰で 全員が毒気を 抜かれたようになる。 多分、恋次の突然の出現がなければ、新人とはいえ、鬼道を暴発させて 仲間の隊士を危険な目に合わせた月見里は この場の全員に袋叩きに されていただろう・・・・。 「あの・・・・阿散井副隊長、  わざわざ呼びに来て頂いて申し訳ありません。」 八月朔日七席が 大きな身体を強張らせて 非常に恐縮して礼を伝えている。 そんな七席に目を向けた恋次が 何となく納得したような顔をして 「よぉ。」って にやりと意地の悪そうな顔で返事をしていた。  −− ?  馬鹿恋次、礼を言っている相手に対して変な返しをしている。 『蒼火墜』暴発させた月見里は 血の気の失いまるで白い木偶人形のように 呆然と立っていた。 私は つかつかと月見里に近づき 勢いよく胸倉を掴んで引き寄せると、 思いっきり頬を殴った。 「馬鹿者!! 気負いすぎだ!  貴様は、蒼火墜を大きく放てる故にコントロールが甘いようだな。    小さな蒼火墜で的当ての練習をしておけ。 よいな!!」 大きな月見里の体がよろけ、その場にヘタリと座りこむ。 「きゃあぁぁ、薫君!!  大丈夫??」 兼平が泣きそうな顔で月見里に駆け寄って来て支えた。 「・・・・いて・・・・・。  当然だろ! ってか、兼平 てめえ、名前で呼ぶなっつったろ!   いいから放せよ!!」 我に返った月見里が その場に正座し直して謝罪した。  「申し訳ありませんでした。」 「・・・ふん。 次は 的が小さくとも外すな!」 私は にやりと口の端を上げて 意地悪く笑って見せるとヤツは  照れたように苦笑した。 ーー意外に素直でいいヤツなのやもしれぬ。 「これでこの件について、一切不問とする!!」 私はその場の全員に聞こえるようにそう言い捨てると 修練場の出口で待つ 恋次の元に駆け寄り、その場を後にした。 「恋次、貴様。 ご苦労だなわざわざ こんな所にまで来おって・・・・・。    だいたい会議の時間には まだ早いではないか!?」 「煩せえな!   遅れたら、隊長の機嫌が悪くなるから、早めに来てやってんだよ!  それを何だぁ、その言い草は?!! ぁあ?  ーーだし、てめぇは 特にきちんと飯食わねえとダメだろ!?   ただでさえ、小っせえんだからな!!」 そう言って俺は ルキアの頭を強く撫で付けた。 ルキアが 俺の手の下でぎゃぁぎゃぁと抗議している。 (ちきしょ! ウルセエ、馬鹿!!   副隊長会議の終わんのが早かったから、ルキアと一緒に飯食うために  早めに来たんだっつうの!!  ーーだが、来て良かったぜ。  他隊とはいえ十三番隊ってのは ルキアに何をやらせてやがんだよ。   あんなのの相手なんか 危ねぇじゃねぇか!!) 去り際に阿散井が 鋭い眼差しを月見里のほうに投げかける。 ーーー阿散井副隊長と楽しそうに話しながら、姫は行ってしまった・・・・・。     せっかくのチャンスを俺は!!   くそ! 八月朔日は 月見里に手を貸して立たせると兼平と二人で四番隊に連れて行く。   他の隊士達も怪我をした者達を連れ、四番隊に治療に向かった。 ーーー阿散井副隊長に庇われていた・・・・。      やっぱり朽木ルキアなど大した実力ではないのだ それによくも・・・・・殴ってくれたな!!
  恋次やっと登場vvvv   でも、この場面は これで終了です。 恋次と八月朔日七席の会話のぎこちなさ、かみ合わなさは  『傷』に少しリンクしている所為です。 なんの説明的文章もなかったのでわかりませんよね・・・・・。 え、判っていただけた?   ありがとうございます。 ネタばらししちゃうと実はこちらの方が『傷』より 先に出来てたんです。 (ルキアと月見里との対戦シーンと一部設定変更したために  かなり遅滞・停滞していたため  なかなかUPできなかったんです。) そこで『傷』の闇討ちの犯人について恋次が 分かっちゃったっぽいところを加筆しました。 でも 説明不足でかなり判り難いかも ・・・・・・lllllorz ありがとうございました。 続きます。