新 人 3
翌朝、陽も昇りきらぬ薄暗い朝靄の中 六番隊・十三番隊の合同虚討伐隊は
新たに設置された 5622地区に繋がる二枚の穿界門を通って虚圏に向かった。
穿界門の設置場所のとして選ばれた5622地区の中心から少し離れたとても高い
台地の上に六番隊・稗原なぎさの率いる第六部隊が。
その対角線上の高台に設置されたもう一枚の穿界門のそばに十三番隊の八月朔日
朽木の率いる第七部隊が 虚討伐の見学のために待機していた。
「今回の合同虚掃討作戦は 虚に気取られぬように霊圧を全員が消しているため、
霊圧感知をする事は 不可能だが、東西南北に四散して岩場の影などに待機している
第二から第五部隊が 5622地区の中心となるあの窪地あたりに四方から追い込み
ーー( 白く細い指が指される )
虚を一網打尽にする計画だ。
十三番隊・浮竹十四郎隊長と六番隊・朽木白夜隊長が 遥か上空の全体を見渡す
位置で今回の追い込み掃討作戦の指揮を執られる。
同じく上空にこちらは隊長達よりやや下方なのでなんとなく視認できるであろう?
第一部隊の 阿散井、小椿、犀川、青海、破琉 以上5名は特にギリアン(下級)
アジューカス(中級)クラスの破面と対戦するためにそれぞれに遠く離れて
待機している。」
15人ほどの新人隊士を前に 今回の作戦について副部隊長・朽木ルキアから
そう説明された。
「いいか、貴様等はあくまでも見学者であるという事を忘れるな!!
現在この場所には 結界が張ってある。
これは貴様達の安全のためと虚に気付かれて今回の作戦の邪魔にならないためだ!
万が一、勝手な行動をとって虚に襲われる事があっても作戦遂行が最優先だ。
誰も助けないから、そのつもりで行動するように!!」
第七部隊・隊長、八月朔日七席からはそう注意された。
ーーー誰もこの違和感に気付かないらしい。
確かに虚圏で活躍した事で朽木ルキアは 高名かもしれない。
けれど、彼女は 無官。
その彼女が副部隊長だなんて・・・・・・。
隊長の八月朔日七席などは いつものいかつい顔を崩して、脂下がり
朽木の姫が 副部隊長である事に完全に舞い上がっているようなので
彼女が副部隊長である事に何の疑問もないらしい。
「姫、いつ始まるんですか?」
結界の際に立ち、遠い上空を見ていた私の顔を月見里が膝を折って覗き込み
そう小声で聞いてくる。
「もう間もなくだろう。
虚どもが夜明けと共に現世から戻ってくるのを待って、
合図がなされるだろうからな。」
そう応えた私は 身体を屈めて顔を近付けているヤツに怪訝な視線を向ける。
その左頬には 私に殴られた痕がくっきりと残されていた。
「それよりも貴様。 なんだその顔は?
4番隊に治療に昨日治療に行ったのではなかったか?
何故治してないのだ?」
「昨日受けた他の傷は 全部治しましたが、これは勿体無くて・・・・・。」
「そうですよぉ。 私も何度も治すように言ったのに薫君ったら
聞いてくれなくて・・・・」
「うるせぇよ、兼平。」
兼平が 月見里の後ろで抗議してくるが、すぐさま却下される。
「ふん。 月見里、貴様も存外遠慮深いのだな。
言ってくれれば、何度でもくれてやるものを。」
そう言ってにやりと意地悪く笑うと、ヤツは嬉しそうに笑い返してくる。
「いや、どうせ貰うなら、違うモノが いいです。」
「はぁ?! 何だ蹴りか、蹴りも得意だぞ、私は。」
「もっといいものを貰うつも」
「し、今、朽木隊長の合図があった。」
そんな軽口の応酬を止めて 耳にかけられた簡易伝令神機に兄様の開戦の
合図があった事を伝える。
と、同時に一斉に四方から今まで抑えられていた霊圧が放たれて虚との戦いが
始まった。
上空に待機していた恋次達も霊力を開放してそれぞれが破面相手に闘っていた。
数の上では虚の方が圧倒的に多かったが、現世から戻って来て油断していた
ところを一斉に叩かれたれ、どんどんと霊子の塵となり 数を減らしながら、
少しづつ中央に 集められていく。
恋次は 卍解して既に3体目のアジューカスと戦っていた。
今まで 恋次が戦闘に出たところを見たことが無い訳では無かったけれども、
「あやつ、またさらに強く・・・・・・。」
そう独り言を呟いてしまうほどに 久しぶりに見た恋次は強くなっていた。
結界ーー安全な場所ーーの内側に立って、そんな恋次達を見ている自分に
情けなさを感じて唇を噛締める。
姫が 結界の際で腕組して立ったまま、一心に上空を見ていた。
俺は そんな姫に声をかける。
「姫、誰をそんなに一生懸命に見ていらっしゃっるんです?
阿散井副隊長ですか?」
「『姫』言うな、馬鹿!」
顔を赤くしながら、いつもよりムキになって言い返してくる姫に俺は
焦りに似た苛立ちを憶える。
「俺だって、すぐに卍解を会得して見せますよ。」
「ふん、せいぜい頑張るが良い。
鬼道の鍛練も欠かさずにな。
あ、恋次もあまり鬼道は得意ではなかったゆえその必要はないか・・・・。」
可笑しそうに楽しそうに『阿散井恋次』の名がその可愛らしい口から発せられると
俺は苦しい自分の気持ちが抑えられなくなってくる。
ーー軽口を叩き合いながら、親しくなって・・・・、俺を認めさせる。
ゆっくりと「姫」を攻略するはずだったのに・・・・・・。
噂どおり、本当に付き合っているのだろうか・・・・?!
あの『男』を尾行してみても 昨日以外に姫と一緒にいるところなんて
見る事は出来なかった。
だが、噂を耳にするのとは違い、昨日とても仲良く二人が 俺の前から
去っていくのを目の当たりにして
何よりあの『男』と交わした言葉が 胸を苦しく締め付け
俺を 俺の計画を 狂わせていく。
「ルキア! あんな男のどこが そんなにいいんですか?!」
俺は 俺の心の中で何度も呼んでいた『名前』を呼び、現状全て忘れて
ルキアの腕を掴むと小さな身体胸の中に抱きしめた。
「ば、ばか!! 月見里、放せ!!」
「やだ!! 薫君!? 何やってんの、やめなさいよ!!」
腕の中でその細い身体を捩って、ルキアが暴れる。
俺の突然の行動に後ろにいた兼平が驚いて叫んでいる。
八月朔日が慌てて駆け寄ってくる。
「こら、何をやっている!?」
グォオオオオォオ〜〜・・・・
突然 近くで破面の大きな叫声が響き大地を揺るがせた。
その場にいた全ての隊士に緊張が奔り、空気が張り詰める。
アジューカスがすぐ近い場所に現れていた。
ーー 第一部隊は 全員戦闘中で手の空いているものは いない。
私はすばやく上空を確認した。
そのアジューカスが 中央に追い詰めている部隊に向かって大きく口を開いて
虚閃(セロ)を放とうとしていた。
ここからなら距離があるため、威力はあまり大きくは無いかもしれないが、
思わぬところからのセロは 誰も避けられない。
戦場は混乱をきたしかねないし、なにより多数の死傷者が出る。
「七席、新人を穿界門から退避させろ!
アジューカス出現したため、第七部隊、朽木ルキア出ます!」
八月朔日七席と簡易伝令神機にそう叫ぶと何の躊躇も無くルキアは
驚いている月見里を突き飛ばすと、結界を出てアジューカスに向かって跳んだ。
ルキアは 今にもセロを放ちそうなアジューカスに向けて、詠唱破棄した
赤火砲放ち、己に注意を向けさせた。
慌てたアジューカスが ルキアに向けて その口のセロを放った。
だが、それは大きく外し、上空高く吸い込まれていった。
「なんだ、小さな死神。 貴様が俺の相手をするというのか?」
私の背の十倍はあるような巨大なまるで現世で知った動物の『かば』を模した
ようなアジューカスが その巨体を誇り小柄な私を馬鹿にして話しかけてくる。
「ふん。 弱いやつほどよく吼える。」
そう言ってヤツの正面に 私は ひらりと着地した。
カバとルキア、ちょっとだけ無駄知識を
生かしてみましたvvvvvv
(『一護2』 参照)
あ、今気付いたけど、ルキアの科白ってば ちょっと
ガンダム臭が・・・
狙ってませんから・・・
かといって訂正もしませんが。
ありがとうございました。 続きます。