新人 3ー2



六番隊・隊舎から出た俺は 何気にあたりを見渡す。
昼休みにゃ 少し早い時間だったので人通りが 疎らで気を配り易かった。
最近 俺は 俺に対する不穏な視線をよく感じていた。 
殺気とまではいかないまでも あまり良い感情を持っていないソイツは 
俺の動向を探っているらしい。

ーー いいから 来るならさっさと来い!! うぜぇんだよ。
     てめぇの所為でルキアに会いに行くことも出来ないだろ!!
   アイツを巻き込む訳には いかねぇからな。

   最初は正直 うちの隊長なのかと・・・・ 
   いやいや、断じてあの人は そんな控え目な人じゃねえ!
   先日 『傷』を作ってやった闇討ちのヤツラとも違う!

別にやっかみや嫉妬なんかを伴うこんな不穏な視線は今まで席官、副隊長と地位が 
上がっていく毎に度々あった事。 
それなのに何を今更 俺は こんなに気にしてるんだ?!
ルキアと付き合うようになって 少し俺の視点が変わった所為か・・・
付き合う前はせめて元の関係になりたいと必死でアイツしか 前しか
見えていなかった。
だが、付き合うようになってから、アイツを傷付けられないように周りに
気を配るようになったから こんなに不穏な視線が気になるのか

知らず、十三番隊に足が向いてしまった俺の視線の先にソイツが 現れた。
根拠なんて無ぇが、一目見て俺は 確信した。

ーー コイツだ!!

纏う霊圧は 好戦的でその顔に薄く浮かべた笑みさえ、誘ってんのかってくらい 
思わず殴りたくなるようなふてぶてしさだ。
目尻と眉間に入れられた赤と黒の三角形の墨が女みたいな白い肌に映えて 
余計ムカつく。
女が喜びそうなツラだが、男には 反感しか持たれそうにねえタイプ。
俺と大して変わらねえ背丈で 薄茶の長い髪・・・・・


ーー あぁ、ルキアが話していた今年 十三番隊に入隊した新人だ。
   アイツにしちゃぁ、珍しく姓だけじゃなく名前まで言っていた。 

   『月見里 薫(やまなし かおる)という新人が入隊してきたのだが、
    温厚な名前を 見事に裏切る かなりの自信家で好戦的な性格のヤツだ。
    なぜかは知らぬが、よく私に絡んでくる生意気な新人がいるのだ!』

語気荒く口を尖らせてはいたが ちょっと楽しそうに話すルキアが
気になったから よく憶えてる。
へっ、アイツは意外に構われるのが好きだから・・・・な。


ルキアには 言わなかったが 副隊長会議でも話題になった男だ。
一昨年の統学院を首席で卒業したこの男は エリートとして嘱望されて2番隊に
配属されていたのに砕蜂隊長の大事な何かを壊して 逆鱗に触れ、十三番隊に
移動させられたって有名な噂だ。

念のため、大前田副隊長に確認したら、
「そうなんだよ〜。アイツの所為でうちの隊長の機嫌が悪くってよぉ。」って、
ボヤいていた。


お互いにぴりぴりと 霊圧を抑えながらも 目を逸らさずに間近に相対する。

「初めまして、阿散井副隊長。  
 十三番隊に新しく配属された月見里薫です。
 『姫』の傍でもっと親しくなるために移動したんです。
 今は まだ、ただの新人ですけど、これからあっという間に貴方を
 追い越して絶対手に入れてみせますよ。 
 今日はそのご挨拶に。
 今まで手に入れ損なったモノって無いんですよ、オレ。」

ーー ちっ! ご苦労なこったな、わざわざ宣戦布告に来たのかよ。 

「よお・・  俺は名乗る必要ないみてえだな。
 ふ・・ん。  せいぜい頑張ってくれ。  
 その欲しいモノとやらが、そんな事で簡単に手に入るようなものならばな!」

そう言って俺は ジロリと睨めつけた。

「貴方だってまだ完全に手に入れた訳じゃないのに余裕ですね。」
「・・・・さぁて、どうだかな・・・・。」

俺は わざと可笑しそうに底意地の悪い笑みを返す。
途端にヤツが 苦しそうな悔しそうな顔で睨んでくる。

「・・・結婚まで持ち込まなくちゃ、手に入れたと」

俺は最後まで言わせずにヤツの胸倉を掴み 締まる様に持ち上げると凄んだ。

「てめえ、覚えておけよ!
 アイツがそう望んだなら結婚でも何でも構わねえ、するがいい。  だが!! 
 ちょっとでもアイツの意思を無視して 無理強いしてみろ、殺す・・・!!」

俺は 言い終わると同時ににやりと笑って 無造作に手を放す。
ヤツは その場に崩れ落ちて、苦しそうに咳き込んだ。

「ま、俺に力で挑戦するってぇなら、いくらでも相手になってやるよ。
 だが、結婚してえなら アイツとアイツの兄貴に認めさせるんだな。」

俺はそう言い棄てると そのまま十三番隊・隊舎に足を向ける。




ーー はぁ〜〜。  面倒くせぇ男が入隊してきやがった。
   新人の癖に二番隊から十三番隊に自分の思惑通りに移動を果たしたって
   手腕は大したモンだ。
   だが、その思惑の目的が『ルキア』ってぇのは いただけねぇな。

   くそっ、さっきは強がって見栄張ってみせたが・・・・
   ちきしょ・・・、そうだよ! 完全には手に入れちゃぁいねえよ!!
   うるせえ!  ほっとけ!
   別にあのクソガキに 触発されたからじゃねぇぞ。
   ルキアに危険が及ばないと分かったからだ!


俺はそんな言い訳がましいことを考えながら、懐から伝令神機を取り出して
ルキアを誘う。

「久々に昼飯を一緒に食わねぇか?
 あぁ、丁度近くにいるからよ。」





『新人3』にリンクしています。 Jun.01.2008 〜 July.15.2008
『ヤル気の元』 だったものです。  ありがとうございました。