新 人 4



私の言葉に相当頭にきたのだろう。
目をギラつかせて だらしなく開いた口から醜い霊圧を垂れ流し、大きな拳で
ダンダンと地を叩くと乾いた大地が 大きく割れ、尖った岩盤の突き出た岩場へと
変化していく。
私は 何度も跳躍して 安定した足場を求める。

突然、横から蒼火墜が 放たれたのを感じて目を向けると、岩影に蒼火墜を放った
月見里と後ろに怯えた兼平が居るのに気付いた。

「馬鹿者!! 何しに来た?!  穿界門から撤退しろ!!」

詠唱破棄した蒼火墜では威力が弱く、鋼皮(イエロ)の破面に大した痛手を
与える事は出来なかったが、当たった破面は ますます怒り狂い その口に再び
霊力を集め、月見里たちにセロを放とうとしていた。

私は素早く詠唱しながら動いて、二人の前に立ち、赤火砲をそのセロにぶつけると
同時に叫んだ!

「伏せろ!」 

爆発は 自然、ルキアの近くで起こり、その強大な爆風が小さな身体を吹き飛ばす。

「姫ぇ!」

月見里が飛び出して ルキアを抱きとめる。
爆風の勢いに呑まれながらも、その小さな身体を守る様に霊圧で包み、全身で
庇うように抱えたまま乾いた大地を転がった。



「大丈夫かーー?     馬鹿者!!     
 ・・・・いや、すまぬ。  ありがとう。」

岩に当たって止まると、腕の中の姫が 俺の無事を確認しながら そう言った。 
小さいくせに気丈で 優しい人。 
 
「だが、月見里。 私は良いから、兼平を頼む。  守ってくれ。
 新人のアヤツは この霊圧に萎縮して、動けないでいるみたいだから。 
 良いな?!」

俺の返事などお構いなしに 再び 破面に向かって跳躍して行ってしまった。

ーー 俺が守りたいのは 姫だけなのに・・・・・。  



その時、恋次は3体目の破面と中空で戦っていた。
のらりくらりとまるで揶揄うように俺の攻撃をかわすソイツに 軽く苛ついた頃、
耳に架けられた簡易伝令神機から切迫したルキアの声が、一人破面との戦闘に
出た事を伝えてくる。
俺は思わず舌打ちした。

ーールキアだけなら そんなに心配しない。 
  アイツの実力なら。
  相手にするだろう破面の霊圧を探ってみたが、あの程度なら問題ない。
  だが、アイツが警護している新人たちを庇うような戦闘になっているなら
  きっと アイツは 自分を盾にするような無茶をする。   

虚圏で受けたアイツの怪我、弱くなっていく霊圧・・・・、
嫌な記憶が脳を翳め 胸を締め付ける。

ーーちくしょ!!

俺は 頭を軽く振って冷静に目の前の敵に対する戦法を考え直す。




「なんだ、小さい死神。 
 まだ、生きてたのか?  ぐげぇへへえへ・・・」

怒りの波動が消え、なんだか嬉しそうだ・・・・・。

「ふん、見た目だけでなく、笑い方まで下品なヤツだな。」
「うがぁ〜!!  このイッポ様にそんな口をきけるのも 今だけだぞ。
 俺は お前の弱みを見つけたのだからな。  ぐげぇへへへへ・・・・・」

そう笑うと長く太い尾で私を攻撃すると同時に舌を長く伸ばして、岩場の影で
震えていた兼平を捕らえた。

「いやぁあ〜!」
「「兼平!」」 
「疾く流れろ、漠水波!」

月見里が 斬魄刀を始解させると刃が 水のように変化した。 
すぐさま、大きく跳躍して、兼平を捕らえている舌の根元を月見里がその斬魄刀で
斬り落としにいく。

だが、剣を振り上げた その瞬間!  
眼前に兼平を差し出され、剣を止める。

「どうじた? 
 だがま(仲間)ごと おでのじだをぎでば(切れば)いい。 ぐげぇへへへ・・・」

涎を流しながらそう言うと、舌が兼平ごと大きく振られ、月見里を堅い
大地に叩きつけた。

「きゃあぁ〜、薫君!!」
「月見里!」

私は 斬魄刀ごと私を潰そうとしている目の前の太い尾を霊圧の込めた刀で大きく払うと、
ヤツの身体を飛び越え、頭上より鬼道を放った。

「破道の四『白雷』」

ヤツの舌の根を白い閃光で斬り落とす。 
兼平が舌ごと地に落ちた。

ぎゃぁああああ

破面の絶叫が響く。  
と同時に ひゅっと風を切る音がして、身体に大きな衝撃を受けた。

ーー てめえ、何やってるんだよ!?
   相手に大した痛手を与えねえまんま 空中戦なんかやらかしゃあ、
   滞空中の無防備なところを叩かれるに決まってっだろ!!

頭の中で揄すような、心配するような恋次の声が響く。  

ーー 煩い、馬鹿!  そんなことはわかっておったわ!!
   だが、アヤツラを放っておくことはできぬ!

ルキアは 鬼道を放った後の滞空中を、破面の尾で打たれ、
岩場に叩きつけられ、衝撃で砂埃が高く上がった。


「よう、ルキア。 
 てめえ、何あんなヤツに てこづってるんだよ、あぁ?!」

岩に叩きつけられたはずの私の背後で恋次の声がした。
気が付けば、恋次に抱えられて ヤツの霊圧の保護下にいた。

「煩い、馬鹿!  だいたい貴様、何故こんなところに居るのだ?!」
「はっ!  決まってっだろ。 逃げ遅れた新人を助けに来たんだよ。 
 破面のいなくなった戦場は もうほとんど2〜5部隊中心で動くから、
 俺達は用無しだからな。」
「なら、ヤツラをさっさと穿界門から連れて行け!」
「いや、どうせだから、お前の戦いを見学させてやれよ。
 今回はそのためにヤツラもこんなとこまで来たんだからな。」
「たわけ!  そんなわけーー」
「いいから、早く倒して来いよ。 
 お前があの豚殺れねえなら、俺が 替わってやってもいいぜ。」

そう言って、恋次が にやりと意地悪く笑った。

「煩い、馬鹿眉!!」

そう言い捨てて、ルキアは ヤツに向かって跳んでいった。

(あんな言い方をするから、礼を言い損ねたではないか、馬鹿恋次!)



俺は ルキアが遠く離れた後、少し咳きをして、新人二人を拾いに行く。

女の方は どろどろだったが怪我一つなく、手を引いて立たせると歩いて
追いて来た。 
クソ餓鬼は 大地に叩きつけられた時に霊圧を含んだ受身をとり損ねたのか、
利き腕を負傷していた。
俺を不機嫌な顔で見上げたが、黙って大人しく俺と共に塔のような台地の
崖の下まで歩いてきた。
少し遠いが、ルキアの戦いを邪魔せず、見るには丁度いい場所だった。





「ぎゃぁああ〜〜! ぼう、ゆでゅざだい(もう、許さない?)! 
 こどでゅ(殺す)!」

先ほどのように腕を振り上げて怒っている破面を無視してルキアが始解する。

「舞え、袖の白雪」

剣が 舞のように回されると 朽木ルキアの手の中で斬魄刀の柄、鍔、刀身が 
どこまでも白く変化して、真っ白な飾り紐が 美しく流れるように現れ、
黒髪、黒い死覇装を着たルキアを惹きたたせていく。
ルキアの斬魄刀の始解を 初めて見た月見里と兼平が 感嘆とも溜息とも
つかない息を吐いている。

ーー 蒼白く発光するようなその白い斬魄刀は 現在尸魂界で最も美しいと
   評されていると噂で聞いていた。 
   だが、一切の穢れを寄せ付けないようなその美しい斬魄刀は 
   『戦い』というものを知っているのか
   だいたい『戦うため剣』なのだろうか・・・・・
   そんな事をすら思わせる美しい剣。

「自壊せよ ロンダニーニの黒犬 一読し・焼き払い・自ら喉を掻き切るがいい
  縛道の九『撃』」 

赤い光が 破面・イッポの体を拘束した。

「だんだぁ、ごだぇ?  ばだぜ!!」
「次の舞・白漣」

強大な凍気が ルキアの斬魄刀・袖の白雪の刺した地より放出され、
破面の巨体を一瞬にして凍結した。

「・・・・なんて霊力なのぉ・・・・・」

兼平がそう呟くと、恋次が 返事をした。

「・・・・・ぁあ、そうだな・・・・。
 アイツは、日常 目立たないように かなり霊圧抑えて生活してるから
 強そうに見えねぇよな。
 だが、アレくらいの破面、ルキアなら簡単に倒せるんだよ。
 たぶん、アイツは あの破面がセロを中央の部隊に放つことを警戒して、
 愚図ついた事してたんだと思うぜ。」

ーー まるで 最初からこの戦闘を見ていたかのように話をする。
   副隊長ともなると 戦いながらでもこんな遠くの戦闘のことが
   分かるのだろうか・・・・。
   姫 ルキアのことを全て理解してるーー 
   そんな風にも聞こえて 胸がジリジリと焼ける。
  
   最初から、俺なんかの手助けなど 要らなかったのだと。 
   むしろ 邪魔をするなと。
   コイツから 言外に そう告げられた気がした。
   くそ!  何で、コイツ!!

「ルキアは戦況を考えて戦うーーー    !!!」 

凍りついた破面の氷が 砕け散り、一際強い霊圧が あたり一面に満ちる。

「きゃぁ」 

びりびりとした肌を刺すような霊圧に兼平は 月見里に縋り付いて悲鳴を上げた。

「ちっ、なんだってんだ?!」

恋次は 蛇尾丸の柄に手を架けると 左手で鯉口を切って構えた。





  戦闘シーン とっても難しいです! 自分自身が 悪戦苦闘の戦闘中です。 イッポ ー hippo (hippopotamus)  ヒッポ 英語では略称で呼ばれることが多いので      hipopotamo       西語も 略称で呼んでみました。 カバです。 カバなのに何故長く太い尾と舌があるのか・・・・?  作中ルキアにツッコませるはずでしたが、 良いタイミングが見つからず玉砕。 そもそも 破面だから、その答えなんてないしね。