新 人 5


逸早く凍った破面の異変に気付いたルキアは 外からではなく中から砕ける
破面に始解したまま対峙していた。
凍った破面が一瞬にして崩れ落ちると中から面の一部が額にある白い服の
子供が現れた。

「あ〜ぁあ、よくも壊してくれちゃったねぇ、僕の宿主だったのにぃ〜。
  使えないヤツだったけどさぁ。

 !!!     あれぇ、死神のお姉さん、随分昔に会った事あったよね。  
 ふぅ〜ん、少しは賢くなったみたいだね。  
 あんなに甘ちゃんだったから、とっくに虚にヤラレちゃうタイプだと
 思ってたよ、僕。」

そう言って、 くすくすと哂う。

ーー『死神のお姉さん』 この言葉に瞬時に記憶が甦った。
   あれは 死神になりたての頃、整の子供の魂送をするはずだったのに、
  「最後にパパママと親友に挨拶させて。 死神のお姉さんの言うとおりに
   するから・・・。」
   だが、子供は 約束の場所に現れなかった・・・・。  まさか 

「貴様、あの時の!!  破面に なってしまったのか・・・・。」
「まぁねvvvv  僕は賢いからね。   
 ーーーあれぇ、お姉さんってば、つまんないのぉ。  
 あの頃は 家族みたいな幼馴染まで失って、寂寥感で一杯の荒涼とした
 心象風景だったのにぃ、今は家族とか友とか仲間ってものまで居て
 あんまり寂しくないんだね。」
「煩い、黙れ!!」

ルキアが斬りかかるが、その剣を事も無げに大きく跳んでかわす。

「あっぶないなぁ。
 ちょっとくらい喋らせてくれたっていいじゃないかぁ。
 ず〜〜っとアイツの腹の中で寝てたんだからさ。」

そう言いながら、更に 跳躍して 恋次達の方に少し近づいていく。

「ふ〜〜ん。 あっちの人達の方が面白そ。
 あっちの怖い顔のお兄さん達は 貴女の事が大好きなんだね。
 僕を今すぐ 殺したいくらいにさ。」
「てめぇ!!」

恋次が 大きく跳躍してきて、上段から斬りかかるも 一瞬の差で
くるりと回り剣を避けた。

「ふふふふ、面白〜い。
 茶髪のお兄さんは赤毛のお兄さんをすっごく嫌ってるし。  
 あのお姉さんなんか、茶髪のお兄さんをすごく好きだから、
 貴女の事なんか大嫌いで憎んでるって。
 無官のくせに なんでそんなに 偉そうなんだって 思ってる。  
 あっはははは・・・・、何 この取り合わせ・・・、おっもしろ〜い。」

更に切りかかってくる恋次の剣を大きく跳んで避けると 破面の子供は 
月見里達の近くに着地した。
月見里が兼平を背後に庇う。 だが、強大な霊圧に 顔が歪む・・・。

「いやぁぁ!!! 来ないでぇ!」
「ふ〜〜ん・・・・。  
 お姉さんったら、昨日そんなに面白いことしたんだ?
 このお兄さんの頬の傷の原因が自分だってバレたら、そりゃ 拙いよね?
 絶対 お兄さんに嫌われちゃうね?」
「やめて、やめて! もう見ないで!!」 
「お兄さん、このお姉さんの斬魄刀の能力って知ってる? 
 空間を少し曲げられるんだって。 
 お兄さんのソウカツイ? を曲げたんだって・・・・。   
 あの黒髪のお姉さんに当たりそうだったんでしょ・・・
 失敗して残念だったね・・・・。 
 そんなに嫌いなんだぁ   あはっ あははははは・・・・・・・・」
「ちがう、ちがう!  態とじゃないわ!!  狙えるわけじゃぁないものぉ!!
 ーーだって、だって・・薫君、「強い女が好き」って言ってたのに
 新春の剣技大会以来  ず〜っとあんな実力があるかないかも 分からないような
 あの人に夢中でぇ・・・・。
 折角、実力を認められて二番隊に配属されたのに わざわざ移隊までして・・・・
 でも 統学院で一緒だった私に気付きもしてくれなくて・・・・。
 だから、少し困らせたかっただけ・・・・、気拙くなればいいって・・・・・。
 当たりそうになるなんて思ってなかった!」

破面の子供が 昨日の蒼火墜がルキアに当たりそうになった真相をバラすと、兼平が 
その理由を半狂乱になって告白した。

「兼平!!  てめぇの所為か?!」

白い顔を怒りで真っ赤にして月見里が 自分に縋りついていた兼平の胸倉を掴むと
殴りかかる。  
その手をいつの間にか戻ってきた恋次が止めた。

「女に手を上げてるんじゃねえよ。
 大体、敵のくそ餓鬼の言うことを間に受けて、感情的になってどうするんだよ。
 今はそんな場合じゃねえだろ?」
「あはははっはは・・・・、 なんだ。 
 もう終わり?  面白かったのに。 でもいいや。」

そう言ってまた、ヒラリと高く跳躍すると ルキアの傍に立った。

「やっぱりこの中で貴女を一番に殺すのが 効果的みたいだね・・・・。」

さっきまでの子供らしい表情と声音が消えて、冷酷そうな破面らしい声でそう言った。

「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソ餓鬼!!」
「失礼だよ、変な眉毛のお兄さん。
 僕には ミケロットって素晴らしい名前があるんだよ。」

恋次に向かって にっこり哂う。

「!!  ルキア、ソイツは 俺に殺らせろ!!」
「ダメだ!  邪魔立てするな、恋次。 
 ヤツの指名も ヤツに遺恨があるのも私だ!!」

ーー くそ!!  ルキアが引くわけねえか・・・。  
   だが、アイツの霊圧の でかさも問題だが、あの能力。
   ルキア、てめえ 耐えられるのかよ?


ルキアの言葉を聞いて ミケロットは 腰の短剣を抜いた。

「破壊せよ、ミゲル!」

凄まじい霊力が開放されると 子供が大人に変化した。
白い鎧に両刃洋剣を右手に 盾を左手に持った、まるで西洋の騎士の様な姿だ。

「いくよ。 死神のおねーさんvvvv
 しっかし、あの赤髪のおにーさん、意外にあっさり引いたね。」
 (心中はあんなに穏やかじゃないくせにさ。)
「当たり前だ!!  貴様に対して遺恨があるのは私なんだからな。」
「!!   
 ・・・・・おねーさんさぁ・・・・、よく鈍いって言われるでしょ?」
「う、うるさい!!」
「あはははは・・・・、図星vvvv」

二人 激しく剣を交わせ合う。

「あはっ、 この斬り合う感じ大好きだよ!! 
 そのうち肉や骨を斬るあの感触が手に伝わってくるんだ・・・・。 
 貴女の血飛沫と悲鳴とともにさ。」

冷酷な笑みがその顔に浮かぶ。

「アンタは 見てるだけなのかよ!! 
 戦えるんだろ?!
 姫一人で 勝てるのかよ?」

破面の刀が開放されると 兼平は失神してしまった。
月見里はその場に座り込みその状態を維持するだけで一杯だったが、
意地でもそんな事を知られたくなくて近くに立つ恋次にそう叫んだ。

「・・・さあな・・・・。」

二人の戦闘から目を放しもしないで いい加減な返事が返ってくる。

「なんだよ、そのいい加減な返事は!! 
 アンタだって姫が好きなんだろ、大事なんだろ?!  
 なんでそんな冷静に見てられるんだよ?!」

勝負の勝敗が 姫の安否が 心配で感情的になってる俺に

「うるせえ!  てめえ、なに勘違いしてるんだ?!
 アイツは 『姫』じゃねえ、『死神』だ!!  
 ルキアは 何時だって 誰かに守られたいなんて思っちゃいねぇんだよ!  
 守る側に立つことが アイツの望みなんだ!!
 そうでなきゃ、とっくに 俺か、隊長が『死神』なんざぁ 辞めさせてる!!」


叩きつけるようにそう 阿散井副隊長が言った。

ーー なんだよ!!  あんただって、気が気じゃないないくせに!  
   なに、物分りの良い男みたいな事 言ってるんだよ!  
   じゃぁ、何で 極刑から救ったんだよ!!
   アンタは姫をどうしたいんだよ!!
   ちきしょぉ!!
   体の自由すら利かない俺は まるで駄々を捏ねる子供みたいに
   泣き喚く事しかできない!
   統学院で首席だった事なんて、実戦では 何の役にも立たない!
   なのに!!

   助けられる、あの破面を倒せる実力だってありそうなコイツは、
   理屈を捏ね回して見てるだけだ!!
   くそ! くそ! なんでだよ!!!

「ふ〜〜ん、
 あの時一緒にいた人の良さそうな死神も死んじゃったんだぁ・・・・。
 お姉さんさぁ、アイツのことすごく頼りにしてたよね。 大好きだったよね。
 ねぇ、死んじゃっーー」
「うるさい!  初の舞・月白!」

ミケロットの周りに刀で円を描いて 天地の繋ぐ巨大な氷柱に閉じ込める。

だが、その氷柱が割れ 崩れ落ちてもミケロットは 何も無かった事の
ように地に立った。

「あのね。  僕はどっちかっていうと鋼鉄系なの。 
 だから、お姉さんの氷雪系の技は効かないよ。
 それにね。 
 僕は相手の心が読めるから、どんな攻撃を仕掛けてくるか丸分かりだから。
 破面になったのもこの力のお陰さ。」

そう言って、剣で切りかかってくる。

「ねえ、それよりも早く教えてよ。 
 大好きだったあの死神が 死んじゃった時、どんな気持ちだったの?
 早く思い描いて、僕に見せてよ。  どれくらい辛かったの? 
 ねえ・・・ ほら、あの黒髪の・・・・」

激しく切り結ぶ剣の切っ先が 逸れて、ルキアの腕から血飛沫が上がる。

「頑張って 違う事を考えようとなんかするから、切っ先が鈍るんだよ。 
 素直に思い描いてよ。
 でないと、僕が見る前にお姉さん 死んじゃうじゃないか・・・・・。」

「ルキア!!  そんなクソ餓鬼相手に何やってるんだよ!? 
 てめぇ、何のために『死神』になったんだ!?
 そういう『馬鹿』から『アイツラ』を守るためになったんだろ!!」

遠くに立つ恋次の怒鳴り声が聞こえた。


ーー そうだ! 
   私は 霊子の塵になってしまった仲間 今頃 転生して暮らしてる
   はずの大吾や総、良平が現世で 安心して暮らせるように『死神』に
   なる事を決めたのだ。
   『戌吊』でずっと私を守ってくれた『仲間』を今度は 私が『虚』から
   守るために!!



「ふ〜ん、おねーさん、そうなんだぁ〜。 
 現世の人間なんかのために『死神』を頑張るんだ。
 ・・・・・へぇ、現世にいる時、『女子高校生』もしたんだ・・・・。
 なんか顔つきも変わったね。 
 いいよ、心の中を虚無状態にして何するか知らないけど、付き合ってあげるよ。」
「次の舞・白漣」

袖の白雪の刺した地より強大な凍気が放出され、ミケロットを再び凍らせた。

「効かないって言ったのに・・・・」 

氷の中のミケロットがそう言った。

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 
 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ 
 破道の七十三『双蓮蒼火墜』」

凍りついていたミケロットが 今度は 巨大な炎に包まれた。

「な〜に、これ?  解かしてくれるの? 
 いいね、温まって、動きが良くなーーー・・」

だが、ミケロットの白い鎧に 肌に 皹が入っていく。  
幾つも幾つも・・・・・。

「何?  どういうこと?」

「参の舞・白刀」

ビシビシと音を立てて、皹割れて動けないでいるミケロットの胸にルキアが
袖の白雪を刺した。
刺されたところからパリパリと 音を立てて、ミケロットの体が 
再び凍りだした。

「・・・・ど・・して・・・?」
「金属というのは 温度差に弱いんだそうだ。
 現世の高校で習ったのだ。」
「あはは・・・・・、おね・・さん・・って やっぱり・・・
 おもし・・ろ・・・・・」

ルキアが 複雑な顔で袖の白雪が鞘に収めると ミケロットの体が
バラバラに砕け、キーンと金属同士がぶつかり合う耳障りな高い音が 
何度も何度も辺りに響いた。


「ルキア!!」

恋次が跳んでくる。

「・・・大丈夫か?  斬られた傷は?」
「・・・ふん、こんな のは かすり 傷だ。 自分で 治せる 程度のな。」

そう応えたルキアだったが、息が荒い。 
そうだろう、破道の七十三まで詠唱したのだから。
俺は 有無を言わせずルキアを抱きしめた。

ーー 無事で良かった・・・・。
   ルキアの無事をやっと実感する。  
   いつでも瞬時に飛び出して行ける様にじりじりと霊圧を抑えていた緊張が 神経が
   やっと弛緩する。
   心臓に悪過ぎ・・・・。 
   自分で戦った方が百万倍楽だって


「アヤツラはどうした?  月見里と兼平に怪我はなかったか?」
「あぁ、大した事ねえよ。
 お前がクソ餓鬼を倒したのを確認した八月朔日七席が 今連れて行った。」
「そうか、よかった。」

ーー とりあえず 無事で良かった・・・・。  
   ま、怪我がたいしたこと無かった事に関しちゃ、そうだな・・・・。 
   アイツ等は これから八月朔日こってり絞られるだろうがな。  

ルキアは 俺に体重を預けて呆然とクソ餓鬼の金属片が塵となって 
風に乗って流れていくのを目で追いながら、ぼそりと話し始めた

「コヤツは 私が死神になりたての頃は ただの整の子供だったのだ・・・・。 
 友に別れと言って来たいと言われ、情けをかけた。
 だが、私はコヤツを見失ってしまい・・・・
 私の所為で虚にしてしまった・・・・・。」
「違うだろ。 
 コイツも言ってたようにコイツはなるべくして虚になったんだよ。」

そう言って俺は ルキアの頭を少し乱暴に撫で付けた。

ーー いつものルキアなら、ここで抗議してくるが、そんな元気もないらしい。
   仕方ねぇ・・・・。

俺は腕の中のルキアの髪をそっと優しく撫で付けた。

「・・・・・れん・じ・・・・。」

ルキアが潤んだ瞳で俺を見上げて ねだる様に俺の名を呼ぶ。
俺はその頬に 顎に手を添えて、口付けようと顔を寄せーー耳元の伝令神機から 
あの隊長の声が 戦闘の終結、全軍の撤収を告げる。

ーー くそ!!  タイミング良過ぎじゃね?!

「・・・・・ルキア、撤収するぞ。 
 お前の部隊はもう撤退済みだし、怪我もしてるから先に帰れ。 
 今なら穿界門まで送ってやるからーーー」
「恋次。  私を 最後にしてくれないか? 
 せめて最後まで見送ってやりたい。
 怪我は 自分で鬼道で治すから。 
 な、恋次・・・。」

ーー くそ! 
   腕の中からねだるように その紫蒼の大きな瞳を潤ませて見上げられたら 
   駄目だとは言えねぇ・・・・。   
   『素』だから性質が悪い。
   今のコイツには 虚に襲われても戦う余力は 絶対ないっていうのに。

俺は 大きく溜息を一つ吐いて・・・・、俺は渋々 諾と返事をする。
そうして ルキアの周辺に強い結界を張った。 

「ルキア、いいな?!   わかってるな! 
 ぜってえ ここから出るなよ!
 絶対だぞ!!
 俺が迎えに来るまでは 絶対に出るんじゃねえぞ!!  いいな?!」

俺は ルキアの周辺に強い結界を張った。 

「はいはい、わかった。 わかったから早く行け! 
 ぐずぐずしていると隊長達に叱られるぞ、変眉副隊長殿。」

斬魄刀に凭れて、くすくすと笑いながら 結界の中から俺に手を振る。

ーー ちきしょ、ルキア! 後で覚えておけよ!!






  書いてるうちにちょっと気に入った『ミケロット』  クソ餓鬼破面vvvv 恋次が あんなに「絶対」を繰り返す程心配性になるのは  仕方ない気がします。 正直、こんな風に恋人が 本気で命の遣り取りをしているのに、 そこで見てるだけなんて私には絶対出来ないと思う。 勝てる保障もない、怪我を負うかも知れない・・・・最悪、 負けて死んでしまうかも・・・  そんな戦闘を見届けるなんて絶対無理です。   月見里みたいに助けを求めて喚き散らすか、 ルキアの気持ちなんてお構いなしに  怪我しても、死んでもいいから  自分が戦いたいです。 「大事な人の傷・死」なんて 耐え難い、 それくらいなら自分が死んだほうがマシ。 でもそれは 裏を返せば、ただ自己愛が強いだけなんですよね。 残される、庇われた恋人の心の負担は そこに存在しない。 強くなったルキアと共に、 「尸魂界は暮らし良いところと聞く 恋次、死神になろう。」  って言ったルキアの 「死神になりたい理由」が これだけなら、 「朽木家に養子に入った時点で 必要ないよね?!」 「恋次とそう約束したから? それだけなの?」 なんて そんな 自分の疑問について  勝手に思いついた捏造理由でした。 最後までお付き合い頂いてありがとうございました。