エピローグ α



六番隊の執務室の俺の机の上に十三番隊から回ってきた合同虚討伐の
事後書類の中にあの二人の新人の処罰に関するものを見つけた俺は、
注意深く目を通すことにする。


月見里  薫  : 討伐時の命令違反によって 1ヶ月間の隊内謹慎。
やまなしかおる      八月朔日七席による徹底指導及び隊内清掃。

兼平 桃香   : 討伐時の命令違反、および 平定時の斬魄刀の解放
          能力不正使用により、
          東梢局 十三番隊・除隊処分。
          統学院で一年間の補習



あの討伐後、破面の子供が言ったとおり 兼平は
私情、私怨で斬魄刀の能力を発動して、
あのクソ餓鬼の蒼火墜を屈折させて 
ルキアに怪我をさせそうになった事を顛末を 浮竹隊長に告白した。


ーー 流石に兼平の事は あの温厚な浮竹隊長を珍しく怒らせたみてぇだな。
   同じ隊の仲間をってよりは ルキアを怪我をさせそうになったからか。

   この兼平に関する処分自体は通常の隊則通りで特別厳しいわけではなかったが、
   あの浮竹隊長は こういった隊内の怪我人が出ない程度の規則違反に関して
   処罰がいつも甘いと思っていた俺は思わずそう結論づけた。
   うちの隊なら きっちり隊則通りが当たり前だ。 




「・・・・桃香、アンタがこんな大それた事したなんて信じられないよ。」

そう言って十番隊にいる統学院・同期の親友・知佐子が私を抱きしめてくれた。
こんな馬鹿な問題を起して離隊処分になった私に優しく接してくれるのは彼女だけ。

ーー 私だって信じられないよ。
   自分がなぜ あんなことをしたのか・・・・・・。
   確かに薫君のことは大好きだったけれど、
   だからって朽木ルキアを傷付けようなんて
   思ったことなんてなかった・・・・・・
   誰かを傷付けるーーーそんな怖い 暗いこと思った事なんてなかった。
   こういうのを魔が差したって言うのかな・・・・・・
  
ーーーーーあの時。
私が 天川五席を伴って修練所に着いた時。
平隊士・朽木ルキアに 偉そうに命令されて、あの薫君が、
〈蒼火墜〉を的に向かって放つところだった。
私は 何故か急に
「薫君を困らせちゃおう。 朽木ルキアの前で恥をかかせてやる。」
って思いついて。  
その時は 本当に名案だって思った。 
密かに斬魄刀を始解、その能力〈空間歪曲〉で彼の〈蒼火墜〉の軌道を変化させた。
けれど、その変化した〈蒼火墜〉は 『朽木ルキア』に向かってしまった。
私の恋敵。  
精霊廷・四大貴族『朽木家』の姫にーーーー



その結果:
《討伐時の命令違反、および 斬魄刀の不正使用により、
 東梢局 十三番隊・除隊処分。  
 統学院で一年間の補習》
極刑に処されなくてよかった。

同じ隊内では 巻き込まれることを畏れて 
こんな大それたことをした私を怖がって
誰も私に話しかけない関わろうとしない。
もう薫君は 私を見ようとすらしてくれない。



「そう言えば、・・・・ね、桃香。     
 今、隊首室の日番谷隊長のところに阿散井副隊長がいらしてるわよ。
 お礼の挨拶くらいした方がいいんじゃない?」

知佐子が 悪戯っぽい笑顔とともにそう言った。

「薫のヤツが あんたを殴ろうとしたのを止めてくれたんでしょ?!
 あんた、薫しか見てなかったから知らないでしょうけど、あの副隊長って 
  口調があんなだし、刺青から怖い感じがするかも知れないけど、
 気さくで面倒見がよくて とっても優しいって 六番隊だけじゃなく
 あっちこっちの隊の女性隊士の間で すっごく人気があるのよvvvvvvv
 他隊の新人なのに 顔と名前を阿散井副隊長に憶えてもらえてるなんて。
 ね、いい機会じゃない?
 ほら、噂をすれば・・・・ 向うから いらしたわよ。 
 挨拶くらいしておいでって・・・。」

知佐子に背中を押されて 廊下の向うの阿散井副隊長の元へと歩いていく。

「・・・あの、副隊長・・・・・」
「・・・よぉ、兼平。」

おずおずと声をかけた私に 変わらずに無視することなく副隊長は
返事してくれた。
ほっとした私は 笑顔でお礼を述べた。

「阿散井副隊長、虚圏の討伐時は いろいろと
 その・・・ありがとうございました。」
「・・・・・ べつに。
 礼なんざいらねえよ。」

一瞬の間の後、そう素っ気無く返事をして 阿散井副隊長が私の耳元に囁いた。

「俺は あのガキの蒼火墜が何故あんな動きをしたか、すぐにあの場にいた全員の
 斬魄刀の能力を調べたから あれはてめぇの仕業だと見当をつけていた。
 また てめえが ルキアに害を為すようなら、俺は
 戦場のどさくさに紛れて てめぇを処分するつもりだった。」

言うだけ言うとまた 静かに私を見下ろすその顔は 
逆光ではっきりとは見えないけれど きっと笑っている。

「って訳だ。 だから『次』はなしにしとけ。」

なんでもない世間話のように明るい声でそう言って手を振ると去って行った。

私はその場にただじっと立ち尽くして 見送るしかなかった。
身体が強張って上手く動かない。  
背中を冷たい厭な汗が流れていくのを感じた。

飛ぶようにかけて来た知佐子が私を抱きしめて、明るい声で何か言っている。

「やだやだ、もう 耳元で何言われたの?!
 きゃぁ〜、いいなぁ! 
 あんた、副隊長のファンに殺されるよぉ。
 もう!  そんな魂が抜けちゃうようなことを言われたの?」

呆然と恐怖してる私は何も言えず、ただ知佐子に抱きついた。

阿散井副隊長は 明るく笑って言っていたけれど 語られた言葉は本気だった。
あの副隊長は その明るい笑顔の下に『闇』を持っている。
本当に大切なものは一つしかないと気付いて、『決意』している。
その大切なものを護るためなら『鬼』になると。
その『本気』に『闇』に少し触れただけでこんなに恐怖した。



十番隊の廊下で十三番隊を離隊させられたあの新人・兼平が俺に声をかけたきた。
俺を見上げて、嬉しそうな笑顔を見せるソイツに 俺はちりっと胸が痛むと同時に
心の奥深くで 嗜虐心を持った獣がにやりと牙を見せて嘲哂った。
今更、わざわざ言う必要などなかったが、釘を刺した。


どうしようもない どろりとした濃い闇の中から黒い獣が 心の奥底から顔を出す。
俺は 身の内に獣を飼っている。  
黒い暗い闇の獣。

「光」があれば、当然 「闇」が 「影」があるように
アイツが 俺の「光」となった時から 暗い闇の獣が生まれたのか
もともと俺が身の内に巣食っていた獣なのか・・・・・
「俺の光」を 脅かすことは赦さないと 闇の獣が禍々しく牙を見せて哂う
俺は 「獣」の持つ禍々しさを嫌悪しながら 荒々しさを甘受する
「獣」は 開放すれば 快楽 愉悦をもたらしてやると咆哮して 暴れる
闇は 深い・・・・
深く 深く 心の奥深くに 沈んでいる闇 
    
光への渇望が 飢餓感が 強いほど 闇の影が 強く濃くなっていく

長く生き永らえて 底知れないほどの深遠となった闇は 
獣をますます強く荒々しく禍々しくさせる

俺はいつまで獣を奥深くに抑えていられるのか・・・・

いつか獣に喰われてしまうのだろうか・・・・・




誰でも心の奥に闇が 暗い部分があるでしょう? ない人もいるのかな? 赤毛 = 気性の荒い そんな昔から言われている慣用句(?)に惑わされて 荒々しさ、禍々しさを秘めた恋次・・・・・・   ここまで読んでいただいてありがとうございました。 Aug.21.2008