エピローグ β



「ルキア?  来月の8日は 休みだっただろう?  
 買い物に付き合わねぇか? 
 美味い飯と甘味を奢るから。
 それと28日の非番の日に現世で祭りがあるらしい。 
 俺も午後から休みが取れたから行ってみないか?」

俺は いつものように伝令神機でルキアの来月の予定を確認して 
会える日を調整する。
とは、言ってもだいたいルキアの勤務・非番の勤務表は 朽木家の年中行事が
最優先に組まれているので一年を通して既に決定されている。
(突然の任務や他のヤツからの依頼で変更がされない限り予定通りだ。
  ま、ルキアに関して言うなら 滅多にないがな。)

当然、うちの隊長も朽木家の行事予定に合わせて 勤務表は3年先まで既にほぼ
決定している。

さらにルキアの非番・半勤の日に朽木家での「行事」以外に「エステ」や
「斬、剣、走、鬼の鍛練」等の予定が組まれているのでルキアの自由に
なる時間もほぼ決まっている。

後はそれに合わせて俺が どれだけ非番・半勤を取れるかって事で休日に
ルキアと会える日、過ごせる時間が決まる。

しかも『公私ともに行事』の多いうちのシスコン(本人は隠しているらしい)
隊長が 休みを合わせられない時に限られるってのも 俺がルキアと一緒に
休みを過ごす時間の少ない要因の一つだ・・・・・・(泣)
隊長・副隊長が同じ日に休めねえ。  
隊の責任者が不在になっちまうからな。

ーー ま、今までの事を考えれば、全く会えないよりマシ。 
   そう考えるしかない。(哀)


「ん・・・恋次?  ・・・・悪いな、来月は付き合えない。」

ルキアは 用件だけ言うと、通話を切った。

ーー はぁっ?!!  俺からかけたのにさっさと切るな、こら!!
   ってか 『付き合えない』ってのはなんだ?  
   討伐に関する書類も月末の書類も一通り終わったこの時期そんなに
   忙しい訳もないし、朽木家で大きな行事もなかったはず・・・・。
   !!  え? 俺?!・・
   もしかして 俺と付き合えないって・・・・こと? 


俺は 慌ててルキアの霊圧を探り隊舎の外を歩いているアイツを確認すると、
瞬歩を使って会いに行く。

大体 俺たちは 一月に休みを合わせて 私用で会えるのは 良くて3日。  
2日ってこともザラで。
なんとか時間を作って 昼か夜飯を一緒に食えるのもせいぜい3・4回。
後は 仕事中に遇えれば、他愛ない話を軽くする程度。

ーー 全て俺の努力の賜物だ!!
   それを・・・・・・!!


ルキアは 書類の束を胸に抱えて、精霊廷内を方角的に5番隊に向かって
歩いていた。

その道の塀に寄りかかって、どう見てもルキアを待っている俺に気付くと 
アイツは 一瞬嬉しそうな顔で小走りで近づいて来た後、わざと眉間に軽く
皺を寄せて 悪態を吐く準備をする。

ーー なんだ いつものルキアだ。  
   俺が何かをしでかして怒らせたから 付き合えないってわけじゃぁ、
   なかったらしい。

俺は 内心ほっと息を吐いて ルキアの悪態を待つ。

「恋次?!  伝令神機など無駄にかけてきおって。
 何だ、すぐ近くに居たのか?!」

ーー てめーがさっさと切りやがるから わざわざ会いに来たんだっつーの!!

「悪かったな、無駄にかけてよ!  
 んで、『付き合えない』ってなぁ、どういうことだ?!」

俺は そんな事を訊く己の格好悪さに視線も合わせられず、不機嫌さすら装う。

「・・その・・この間の・・・・月見里に剣術と鬼道の指導を頼まれたのだ。」

俺の問いに頬を赤らめて、言い難そうに応えるルキア。

「・・・・・・はぁ・・・・・?!」

そんな様子に思わず間の抜けた返事をしてしまった。

ーー ルキアが珍しく頬なんか赤く染めて 恥ずかし気に話す様は
   めちゃめちゃ可愛い!!
   が!  何を想ってそうなったのか!? 
   俺の脳内は ぐるぐるとよくない事を考えて、あのクソ餓鬼の
   言葉と顔が廻る。   

「おま!  あのクソ餓鬼にわざわざ休みの日に会うってぇのか!?」
「月見里だ。  他人の隊の新人を『クソ餓鬼』言うな、馬鹿!」
「・・・・・・アイツを気に入ったのか?」
「何を聞いていたのだ、馬鹿恋次! 
 言っただろう、鬼道と剣術を教えるのだと。 
 それのどこに気に入るとか 入らぬといった話がでてくるのだ?!
 だいたい 貴様は 席官、副隊長となる間に沢山の新人・後輩達を指導
 してきているから判らぬだろうが、
 ・・・・その・・・・私は 初めて・・・・・・」

ーー あぁ・・・・、なんだ そーゆうこと・・・・・。  
   初めて新人に頼られて、指導を請われて嬉しかったってのか・・・!?

「・・・・・わかった。 
 しっかりやれ、ルキア。」  

俺はそう言って ぼそぼそと言い難そうに俯いて話すルキアの頭を撫でる。 
ゆっくりと俺を見上げて 輝くような笑顔を見せる。 
 
ーー その笑顔に俺は新人の指導なんて他のヤツにやらせればいいだろ とか 
   統学院じゃ 俺に鬼道を教えてたこともあったろ・・・  
   といった言葉を飲み込んで正解だったと再確認させられる。
   新人に教えることが お前の自信に 笑顔に繋がるなら、
   それもいいだろう。
   相手があの『クソ餓鬼』ってのは 気にいらねぇが・・・・。
   これもアイツの戦略の一つなんだろうが、ルキアにそのことを
   わざわざ伝えて 
   せっかく新人に頼られたと素直に喜んでいるコイツをがっかり
   させる様なマネ俺にはできねぇ。

「ありがとう、恋次vvvv 
 ・・・私も本当は 祭りに行きたいのだが、
 月見里のほうが先約だったから。
 その・・・・再来月なら、買い物に付き合うから・・・・。
 その時は 私が食事を奢る。」

ーー 一応、気にしてはいたんだなvvvv

「おぉ!  美味いものを沢山奢ってもらうから、覚悟しておけよ。」

ーー 現れた時とても不機嫌そうだった恋次が 最後は満面の笑みで
   そう言って瞬歩で去って行った。
   その笑顔で なんとなく恋次に対してもやもやと不安を感じていた
   私の胸の内が ほっと晴れた。
   よかったvvvv
   「奢る」って言葉が効いたのだろう。
   月見里もこれくらい単純ならよかったのに・・・・。


「虚圏では役に立つどころか逆に足を引っ張ってしまって、
 申し訳ありませんでした。」

隊に戻る早々、月見里が暗い顔で謝罪してきた。
その後、仲の良かった兼平が離隊させられ、自身も隊内謹慎、清掃処分にされた
月見里は 塞ぎ込んでいてずっと元気がなかった。
そんな月見里に 真剣な顔で
『来月の休日の空いている時間に剣術と鬼道を教えてください。』
と請われた私は無碍に断ることができなかった。






俺は時間が空いた時にルキアの霊圧を捜して、隊舎の外に居るようなら瞬歩で
遇いに行く。

ーー 4、5日に一度顔を見るくらい いいだろ!

いつもみたいに軽口を交わしてそのまま別れるか、互いの時間と状況が許すなら、
一緒に飯を食う。
だが! 
だんだんと日が経つにつれ、その顔に華奢な身体に疲れが 見てとれた。
ルキアがこうなってくると うちの隊長の機嫌が下降気味になる。  
すると、まず最初に目聡い乱菊さんが 俺に一言 忠告に来た。 
そのうちに日番谷隊長が。
駒村隊長のために射場さんも俺のところに来た。
さすがにそろそろやばいって 思う頃に渋い顔した浮竹さんが訪ねてきた。
用件は皆同じ。

「ルキアが新人の鍛練してやっているらしいが、どう見ても 
 あれはとても疲れている。  
 無理しているように見える! 
 身体を壊して 倒れる前に 阿散井、なんとかしろ!!」と。

あのクソ餓鬼がルキアと同じ隊なのをいい事に休みをきっちり合わせて 
今までの生活パターンを無視して、予定を先回りして入れたらしい。

今回、俺は今まで聞いた事のないアイツの非番の過ごし方を改めて知った。

月の中ごろには駒村隊長と犬の散歩をして、20日頃に日番谷隊長と甘味処で
お茶をして過ごしていた。
(なんだよ! 日番谷隊長! 
 何時からアンタ、他人の女と年寄り臭く茶飲み友達になってんだっ!?)

皆大人な発言で今まで大抵自分たちと過ごしていた時間を 申し訳無さそうに、
けれどとても嬉しそうに新人を鍛えるのだと断ったルキアに 自分達との予定を
優先しろとは言える訳もなく、さらに憔悴しているルキアに頑張り過ぎるなって
止めることも出来ないでいた。
隊長格から注意すれば、アイツはきっと真摯に受け止めすぎて 落ち込んで
しまうことが容易に予想できる。
かといって、軽く忠告すれば、「大丈夫ですvvv」って微笑って流すだろう。 
面倒なヤツ。


今更ながら アイツの無器用さを思い知る。
アイツは 人に(隊長格)に関係なく 早い約束を優先する。
それは長所かも知れないが、いつものように俺や他の人と約束するかも・・・・とか 
もう少し総体的に予定を考えるとか、せめて てめぇの体調のことを 考えて
予定を立てやがれ!!

皆がルキアの疲れた様子を心配するのはともかく 当然としても。
『何とかしろ!』って俺に言ってくるのはどうか・・と思ったが、実際に鍛練のしすぎで
疲労しているーー霊力の低下しているルキアをこのまま放っておく訳にはいかない。
(うちの隊長の不機嫌もそろそろピーク、爆発寸前だ・・・。)


俺は ルキアの霊圧を探して 十三番隊の近くの山に入っていく。

ルキアと月見里は山の中腹の少し開けた場所で激しく斬魄刀で斬り合っていた。
剣技は実戦経験が豊富なルキアの方がまだまだ上で、ルキアは 指導方法を工夫して
ヤツを巧く動かして とても丁寧に教えていた。
月見里には気付かれないように上手に隠していたがルキアの体力は限界に近く、
霊力もかなり消耗していた。
俺は ルキアのその意地っ張りに無器用さに溜息が出た。


一瞬で霊力を高めると 無理矢理二人の斬檄に割って入った。
クソ餓鬼の斬魄刀は 蛇尾丸の柄で強く払って 地に突かせて足で踏みつけて抑えた。  
同時に片手でルキアの身体ごと蔽うように斬魄刀の柄を掴むと脇に抱え上げた。

突然の俺の割り込みに双方の張り詰めていた霊圧がシンと静止した。

「今日の剣術の指導はこれで終わりだ。」
「恋次・・・、どうし」
「阿散井副隊長、何で邪魔するんですか!?」

足で抑えこまれた斬魄刀を力一杯引き抜こうとしながら、俺に抗議の声を上げる月見里を
一瞬睨めつけただけで無視する。

「『どうして』じゃねえ。 
 ルキア、てめぇのことはてめぇで分かるな。」
「ーーーーーー」


声を荒げない静かな恋次の言葉がずきんと胸が刺さり、二の句を失う。

ーー全て見抜かれているーーさすがに恋次を誤魔化す事はできない。
  それに・・・・ いつも恋次は私の望む通りにしてくれる。
  なんだかんだと文句を言いながら だいたい私の言うことを聞いてくれる。
  だが、無表情で感情を一切込めずにこんな風に冷静に話す時の恋次は
  何を言っても聞き入れてはくれない時。

子供の時はなんて横暴なんだと腹をたてた事もあったが、大体何か事情があって
何かを考えて恋次が強く決意してる時。  
覆すこと、反論は一切赦さない。

「・・・・・わかった。 
 だから下ろしてくれ、恋次。」

恋次の足が踏みつけていた月見里の斬魄刀から離れ、私をゆっくりと地に立たせた。
柄から手が離れると 私は斬魄刀を鞘に収めた。



阿散井の足が踏みつけていた俺の斬魄刀を解放した。
俺はその抜き身の斬魄刀で目の前の阿散井を居合いで斬り付けてやろうかと一瞬思った。
けれども、阿散井にはそれを許す隙など全くなかったし、万が一にも 間にいる姫を
巻き添えで怪我をさせる訳にはいかないと気付き、諦めて素直に斬魄刀を鞘に収めた。

「月見里、悪いが今日はここまでだ。」
「ーーーールキア?! 
 こんな横暴な他隊の副隊長の言いなりになるんですか?!」

二人からの突然の終了宣言に納得いかない俺はルキアに食い下がった。
そんな俺に何かを告げようと 申し訳無さそうな表情でルキアが
口を開きかけた・・・・その時!

俺を忌々しげにずっと睨んでいた阿散井が 目の前に立っていたルキアを
あっという間に後ろから攫うように抱き上げてしまう。

「!! うぁ!    ちょ・・・・恋次!?」
「いいか、クソ餓鬼。  非番ってのは 本来身体を休ませるためにあるんだぜ。
 鍛練するのは構わねぇが、その所為でイザ、虚が現れた時に疲れて役に立た
 なかったら意味ねぇだろ。 
 まだ鍛え足りねぇっていうなら、今度は俺のところに来い。」

言うだけ言うと、阿散井は瞬歩で俺の前から消えてしまった。
ルキアを抱きかかえたまま。

ーー クソ!  やっぱり、アイツ大嫌いだ!!  
   いつだって、ルキアのことなら俺の方が分かってるって言うのかよ・・・・・
   ちきしょう!! 
   
去り際の阿散井に抱えられたルキアの顔色が悪かったことが 尚更俺の胸を締め付けた。    

ーー ルキアが押し隠していた疲労
   俺は気付けなかった
   非番をともに過ごしてくれたルキアが本当に嬉しかったから




山を下りると瞬歩での移動を止めて、私を抱えたままゆっくりと恋次が歩きだした。

「・・・・・強引だな。」
「そうだな。」

ぼそりと言った私の言葉に 同じ様にぼそりと恋次が返してきた。
不機嫌そうな表情で視線は逸らされたままだ。

私は恋次の首に腕を回して抱きつくと恋次の身体が一瞬だけ驚いたように強張った

(私から触れるとよくそんな反応する。 
 今、きっと恋次は 困ったような顔してる。)

ふんわりと懐かしい香りがして 触れる温かい体温が心地よい。

「・・・・・久しぶりだな・・・・。」
「誰かさんがクソ餓鬼の相手で忙しかったからな。」
「・・・むぅ、それは厭味か?」
「いや、ただの事実だ。」

遠くに視線を向けたまま さらりと恋次がそう言った。

「・・・・・・・」
「? ・・・ちょ、待て。 
 ルキア、今なんて言った?」

そっと耳元で囁いた私の言葉に やっと恋次が 私を見た。 
私はたぶん赤くなっている己の顔を腕の中に埋めた。
今度は私が視線を合わせられない。

「知らぬ。」
「てめ!  知らねぇわけねぇだろ!?」
「腹が空いたと言っただけだ。」
「嘘を吐け!!  違ぇだろ!!」
「聞こえなかったくせに違うと何故わかる!?」
「だっ!  なっ!  ちきしょ!!  違うからだろ?!」
「少し静かにしてくれ。 
 家に夕飯を食べて帰ると連絡するから。」

私は伝令神機を懐から取り出して、耳に当てる。

そっと盗み見た恋次は 黙ってまたむっとした不機嫌そうな顔で遠くに目を向けていた。
夕日が照らすその顔が 少し赤い・・・・。

ーー 本当は聞こえていたのだろう?!
   『会いに来てくれて 嬉しかった・・・・』  

耳元で小さく囁いた私の言葉。
 



書きながら、何度 『恋次・・・可哀想なヤツ』 と、呟いたことでしょう。 (全て俺の努力の賜物だ!) 宣言には自分で書いたにも関わらず、不憫すぎて  哀しくなりました。 しかも 『単純なヤツ』と思われて・・・・。 最後にちょっとだけ報われてよかったよかったvvvvvv ここまでお付き合い下さって ありがとうございました。 Aug.23.2008