清家信恒 2



山本総隊長からの要請もあったので、
『特別に講師としてお話をしていただけませんか?』  
真央霊術院の院長からのこの求めに六番隊・隊長朽木白哉は仕方なく
真央霊術院に来ていた。
忙しい最中、この学院とは何の関わりも無い 自分に何を話せ
というのか・・・。 
大貴族の子弟である自分は 自家の家風に合った家庭教師が付くので
この学院に足を踏み入れたことさえなかった。 
 
正直まだ、亡くなった妻、緋真の事を考えてしまう所為か気分が沈んで
新しい事をする気にはなれなかった。
(もちろん、他人にはそんな事を気付かせさえしない事だが・・・・。)

人が多く、声が 響いて喧しい。 
そんな事を思いながら、学院の二階の廊下を進んでいると ふと、不穏な
空気を感じて、窓から中庭を見下ろすと「ルキア!!」 中庭で一際
大きな声で 緋い髪の大柄な学生が小さな少女のような黒髪の学生を
呼び止め、話をしていた。
先ほど 気付いた不穏な空気を纏っている4人の学生達も 学舎の影から
自分と同じ様にこの二人の学生を見ていた・・・・。

緋い髪の男が嬉しそうに手を振り、少女から離れた時、今まで男の
影で見えなかった相手の少女の顔を見て、白哉は驚きを隠せなかった。 
『緋真!?』
切なそうな何か言いたいような表情で男の去った方向を見詰める少女の顔は 
遠目のせいか白哉でさえ見まごうほどに緋真に似ていた。 

(緋真が あんな男をあんな風に見詰めるはずが無い!
 何より何だあの幼い様子は!!・・・・)

白哉は自分の思考に驚く、何を惑わされているのか、緋真は去年亡くなった。 
こんなところで、あんな学院服を着ているわけがない・・・・。




入学以来、何かと執拗に自分に話しかけてくる この貴族の馬鹿息子
4人組に 取り囲まれているのに気付いたルキアは(しまった!!)と、
心の内で舌打ちした。 

「よお、あの赤毛とずいぶん仲がいいみたいだな。」

そう話しかけてきたのは 同じクラスで この4人の中で貴族として一番
身分が上でこの学院内でも権力を振るう二宮家の次男、宗二郎だった。 
その尻馬に乗るように取り巻きの頤 主水(オトガイ チカラ)那珂東 聯(ナカヒガシ レン)
郷河原顕一郎(ゴウガワラ ケンイチロウ)といういずれも問題児の貴族子弟たちだった。
 
「お前もさぁ、アイツと同じ戌吊出身なんだろ?」
「戌吊では、アイツとかいろいろなヤツと 随分ヤリまくって来たんだろう?
 どうせだから俺達の相手も しろよ。」
「俺達、貴族様のお相手ができるなんて光栄な事だぜ。」
「きっと、アイツより俺達とヤッタ方が気持ちいいって。 
 あんな下品な馬鹿よりは絶対上手いし、後々、便宜も図ってやるぜ。」

話の内容より何より下卑た笑みを顔に浮かべ、[てつじぃ]が纏わせていた
よりも嫌な空気をその身に漂わせたコヤツ等が 酷く気持ち悪かった。 
一刻も早くこの場から逃げ出したかった。

「貴様等何の話をしている?!
 道を開けろ!!
 私は次の授業の準備がある。」

ヤツ等は貴族という自負心が高い所為か、すごく体面を気にして、 人の多い
ところでは決して話しかけて来ないのだと解ってからは、私は出来るだけ
コヤツ等に話しかけられないように 付け入られる隙を与えないように常に
人目のあるところに居るようにしていた。 
特に昼の食事の時は、恋次と人目の無いところで食べていたので、気を付けていた。
だが、今恋次に呼び止められて、話している内にコヤツ等以外は 教室に移動
してしまっていた。 
多勢に無勢な上、体格差があるので、本来なら得意の鬼道を使ってこの場を
逃げればいいのだろうが、この二宮宗二郎には逆らわない方がいいと忠告を
受けていた。 
何の後ろ盾の無い学生を退学にするくらい簡単に出来ると言われたからだ。 

「コイツ! 戌吊女の癖に生意気な口を俺たちに利いていいと思っているのか!?」

隙を見つけて逃げる以外に仕方がなかった。  
無理やり走って抜けようとしたところ、腕を捩じ上げられ、みぞうちを打たれた。 
腕を掴まれたまま膝を折って崩れ落ちる。 
(・・・・・恋次!!) 
意識を失う刹那のそんな呟きが届くはずも無く・・・・。


恋次に何度 コヤツ等の事を話そうと思ったことだろう。  
自分に向けられた悪意とそれに対抗してはならないという状況。 
ヤツラの所為でクラス内の私は、巻き込まれるのを畏れた同級生からも避けられ
孤立していた。
誰一人助けなど期待できない、ただ一人で逃げるしかない、避けるしかない日々に
精神的に疲れてきていた・・・。
ただ一人抱えている事が辛かった・・・。  
だから本当は 恋次に話してしまいたかった。 
だが、それは解決どころか悪い結果にしかならないとわかっていた。

精神的に何かを抱えている私に恋次は気付いていたようだったが、事情を恋次が
知る事になどなれば、あの目つきの割りに人のいいヤツは 自分の退学や後先など
気に留める事無くアヤツ等に喰ってかかっていくだろう。 
それは私の本意ではない。 
だから、聞かれてもいつも上手く誤魔化していた。 

この学院に来てからの恋次は 向学心に燃え、生き生きとしていた。 
戌吊を出たのだ。
そんな恋次の邪魔をしたくなかったし、負担になりたくなかった。 
私だとていつまでも『女で 弱い』自分でいたくなかったから、ここに来たのだから。


「いつものところでいいだろう。」 
「今期一番の綺麗な顔が 戌吊だぜ。
 堪んねえな。
 今まで隙を見せずに、俺たちを焦らしてきたような女だ。
 さぞかし今まで自分を高く男達に売りつけて来たんだろうな。」
「いいから、さっさと運べ。
 分かってるな。 一番は僕だからな。」

今まで ヤリたい放題好きなようにしてきたけれど、自分達の親の身分を慮って
自分達には 余程の事がない限り、注意する者などいなかった。  
だから、冷ややかな通る声で上からの命令口調で話しかけられた時はとても驚いた。

「貴様等、何をしている?
 それを置いて早く授業に戻れ。」
「「「「!!! なんだと!!!−−−」」」」 

誰が俺たちにそんな口を利くのか?! 
折角その気になっているのにやっと手に入れたエモノを置いて行けだと!!??
だが、先の言葉を呑み込まずにはいられない。 
貴族社会だけでなく、この尸魂界で知らぬものはいないくらい有名かつ高名で
畏れられている朽木家当主の姿がそこにあった。

(何故こんなところに・・・・?!)

疑問はともかく、四人は 手に入れたばかりの獲物よりも己が身を護るために
脱兎の如く走り去るしかなかった。

白哉は 足元の倒れ臥している少女をその落ち着いた双眸でしばらく見下ろして
いたが、小さく指を動かして 朽木家御庭番衆の長 蜘蛛頭叢吾を呼び寄せると、
この少女を医務室へと運ぶ事と 走り去った四人と併せて徹底的な調査を命じた。


以上が、蜘蛛頭叢吾より語られると、清家信恒の顔が 一瞬にして変化する。 

今までの好々爺然とした顔は消え、当主の考えを正確に理解する侍従かつ、
朽木家のために冷酷に全てを切り捨てる総取締役としての顔となり、
最悪の場合に備えて政治的に裏からの手配の用意を命じる。




  さらにオリキャラ出まくりで、続きます。 12/10/2007