清家信恒 4
清家信恒 4
ーーー「申し訳ありません。
余目ルキアさんのことで少しお話があります。
お時間いただけないでしょうか?」ーーー
ルキアが俺と別れてすぐに倒れて医務室に運ばれたのだと聞いたのは
その日の授業の終わりだった。
すでにルキアも統学院の医務室から寮に帰っていた。
一体何があったのか?
昼に俺と話をした時、ルキアは いつもと変わりなかった。
最近のルキアには戌吊に居た頃の元気さはなかったが、それでも
倒れるような体調の悪さを俺は 気付けなかった。
慌てて統学院の門を走り出る俺を 品の良さそうな見知らぬ爺さんに
呼び止められた。
その爺さんの口から「ルキア」について話がしたいと言われて、
俺は ルキアの体調の確認っていう逸る気持ちを抑えて 仕方なく
爺さんと 統学院の応接室で向き合って座っていた。
ーーー学院の関係者なんだろうか・・・・・。
そわそわと落ち着かない俺を他所に爺さんは 穏やかな顔を俺に向けて
話をする。
「私は 清家信恒と申しまして、ある家の侍従をしております。
今日、ルキア様は 統学院内で暴漢に襲われそうになり、それを
我が主が助けーーー。」
最後まで言わせずに俺は 立ち上がり、爺さんに詰め寄った。
「暴漢って一体!?
ルキアは?
ルキアは 無事なんですか?!」
「落ち着いてください。
ルキア様はもちろんご無事です。
当身を受けただけです。
それも既に鬼道によって、治療済みです。
ただ相手については そうですね・・・現在調査中です。」
ルキア様は この同郷の男を巻き込まぬために 何も 話していない
らしい・・・・・。
あの方は 戌吊の墓の前でたてられたという『死神になるという誓い』と
『この男』を守られるおつもりなのだろう。
阿散井恋次というこの大柄な男は 子供のようにあからさまにほっと
した顔をすると、
「ちきしょう!
ルキアに手を出すなんて、ぜってえ許さねえ!!
見つけ出して、後悔させてやる!!」
そう言って、本当に悔しそうな憎々しげな顔して、ぼきぼきと指を鳴らした。
確かに『このような男』にとって この統学院で、流魂街・戌吊出身って
いう事実は あの過酷な環境を生き残ってきたって事である意味
『勲章』 になるだろう。
だが、ルキア様のようなあまり力の無い『女性』が 戌吊出身という事で
どんな目で見られていたのか、この目の前の男は 果たして気付いて
いたのだろうか。
この様子では この男は今のルキア様を守れていない事はおろか、
自身が守ろうとしている者に守られていることすら気付いては
いないだろう。
清家信恒は 軽く溜息をつく。
戌吊では 幾人かの子供と共にルキア様を守ってこれたようだが、
『ここ』 精霊廷では ルキア様を守る能力・才覚は この男にはない!
「実はまだご本人にも申し上げていないので内々の話として欲しいのですが、
我が家の奥様がずっと尸魂界で行方不明になった妹君を探していらっ
しゃいました。」
阿散井恋次は 突然変わった話題に驚き、戸惑った顔を清家に向けた。
「我々も総力を上げて ずっとお捜し申し上げてきたのですが、なかなか
その所在が今まで掴めずにいたのです。
ーーーーーですが、本日やっと見つけ出したのです。
恐れ入りますが、このような懐剣に見覚えはございませんでしょうか?」
そう言うと爺さんは とても高価そうな塗りの箱から金糸に織の布に
大事そうに包まれた 瑠璃色の飾り紐の付いた金の冶金で『家紋』の
入った懐剣を取り出して俺に見せた。
「 ・・・・・!!! 」
俺は 驚きのあまり声を失う。
ルキアの荷物の中に 飾り紐の色こそ違っていたが 同じ『家紋』の懐剣が
入っていたからだ。
もう何年も前に 戌吊で売り払ってしまったけれど・・・・・・。
言葉にしなくても その顔だけで充分確認された。
「やはりそうでしたか・・・・・。
奥様は非常に妹君を心配されておりまして、できれば、引き取って
共に暮らしたいとずっと思っていらっしゃいました。」
「ーーーーちょ、ちょっと待ってください。
俺は何も言っちゃいねえ!!」
「ーーーー心配はご無用です。
この件に関して、もちろんルキア様のご意思を尊重いたしますので。
ただ、出来れば、この件に関して阿散井殿にお口添え頂ければ・・・・
と思っております。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「先ほども申し上げましたが、ルキア様ご本人にお話をまだして
おりませんので、今、ここで家名を申し上げられませんが、家柄は
もちろん、それなりの蓄えも充分ある大家でございます。
ルキア様がお望みのモノは大体何でもご用意できますほどに。」
俺は 頭を突然殴られたように 何も考えられずにいた。
ルキアが・・・・・!?
「どうか、我が主の家族として暮らせるように ルキア様におとりなし
いただけないでしょうか、阿散井殿。
どうぞよろしくお願い致します。」
そう言って爺さんは 俺に深々と頭を下げた。
(−−−『家族』ーーーー。
ルキアが ずっと求めていた、知りたがっていた『本当の家族』・・・
これを言われては 俺は・・・・・
ルキアを『本当の家族の元』に返してやるべきだと思った。)
「ーーーーわかった−−−。
俺の言葉をアイツが聞くかどうかはわからねえが・・・・・・。
アイツに相談されれば、家族の元に行くように言う。」
「その際、私が 阿散井殿にこうしてお願いにあがった事は ご内密に
願えますか?」
「・・・・・・そうだな。
アイツに、余計な事は 言わねえ方がいいかも知れねえな。」
「ありがとうございます。」
爺さんは 再び俺に深々と頭を下げた。
結局その後、俺は ルキアに会いに行かずに自分の寮に真直ぐ帰った。
突然の話に戸惑っていた所為もあったが、会えばきっとルキアに姉が
いた事や そのうち一緒に暮らせそうな事。
どうやらその家は 金持ちそうだから、お嬢様みたいに何の苦労も
しないで幸せに暮らせそうだって事まで嬉しそうに話ちまいそうだったから。
この時、俺は 単純に喜んでいた。
ルキアが本当の家族と幸せに暮らせるのだと信じていたから。
翌日、いい事は 重なるモノで 二次試験に受かった俺は ウキウキと
ルキアの霊圧を捜して、その部屋に辿り着いた。
その部屋の扉を開けると ルキアは牽星箝を付けた貴族の男と昨日の爺さんと
馬鹿でかい男達に挟まれて 話をしていたようだった。
(おいおい、爺さん。
昨日の今日で 話が早えな・・・・・・。
ま、いい話だからな。)
爺さんは 俺に気付くと 昨日とはうって変わった態度で
「・・・・ホ、どうやら邪魔が入った様子。 ーーーーーーー」
ルキアに何か言うと、俺の横を牽星箝を付けた男と去っていった。
だが、この牽星箝を付けた男は わざわざ俺に目も合わせられない程、全身から
汗が吹き出るほどそれは重く霊圧をかけて行きやがった!!
(なんだってんだ!? まったく・・・)
「・・・・・・・朽木家に養子に来いと言われた・・・・・。」
俺の顔を見たルキアが 困ったような顔でそう言った。
( !!! 『朽木家』!!
そんなにでかい家だったのか!!
尸魂界で知らない者は 居ないほどの名門中の名門じゃねえか!! )
俺は 爺さんとの約束通りルキアにこの話を勧めた。
ルキアが何か言いたそうにしていたのも構わずに。
アイツは 肩に置かれていた俺の手を振り解くと 俺の横を走り抜けて行った。
「ありがとう。」
この言葉を俺に残して。
俺の助言に対して ありがとうなのだと ずっと思っていたが、
後から考えると今までありがとうだったのかも知れねえ
この時を最後に アイツは・・・ ルキアは・・・
俺の前から消えてしまった
俺のいる世界から
死神になるまで、その姿を見ることもできなかった。
席官になるまで、話をする事は叶わなかった。
俺は この養子の話をめちゃくちゃ簡単に考えていたことを後悔することになる。
ルキアは 走っていた
恋次は 養子に望まれた事をとても喜んでくれた
でも、昨日の早退の事を心配して来てくれたのかと思っていた
昨日は、会いに来てくれなかったから
何があったのかと?!
医務室に運ばれたことすら知らないのだろうか
それほど、恋次は わたしに関心が無くなってしまったのか・・・
いつもなら、煩いくらい心配してくるのに
養子の話だって、本当に大丈夫なのかって もっともっと聞いてくると
思っていた
甘えすぎだ、私は!!
恋次にそんなに心配して欲しかったのか?!
自分の事なのだ!!
自分で確認しなくてはならない。
何故、恋次がいつもいつも私の心配をしなければ、ならないのか?!
それを当たり前だと、思い込んでいた私は おかしいのだ!!
こんな事で涙を流している、私は・・・・・・・!!
こんなに弱い心でいるから
あんな馬鹿ドモに付け入られるのだ!!
気が付けば、いつも恋次と昼飯を食べる為に待ち合わせていた人気のない
院舎のはずれに来ていた・・・。
あろう事か、二宮宗二郎を始とした馬鹿ドモ 頤 主水(オトガイ チカラ)
郷河原顕一郎(ゴウガワラ ケンイチロウ)那珂東 聯(ナカヒガシ レン)とその従者らしき
男達二十人程が 院舎の影から現れた。
「よう!!
やっと朽木の警護のヤツらと 離れて一人になったな。
お前さ、朽木家のご当主様と何の話したんだ?」
「まさかとは 思うが 俺らの事を言いつけたんじゃないよな。」
「はっ! なんだ、泣いてたのかよ?!
だったら、俺が慰めてやるぜ・・・・・。
こっちに来いよ。」
従者の一人が 諌める。
「宗二郎様!! お父上様に叱られます。
今日はこの者を始末するために来たのですから・・・・。」
その言葉にルキアは 青ざめる。
ルキアを追い詰めるように 目の前の男達が じりじりと包囲してきていた。
「ーーー別にいいじゃんかよ。
俺等の悪さが 朽木にバレて、面倒にならない様にどうせコイツを
口封じに始末するんだろ。
別に楽しませて貰ってからだっていいだろう。
なぁ、お前だって、最後にいい思いしてから 死にたいよな。」
そう言って 舌舐めづりして、下碑た哂いを浮かべた二宮が ルキアに
迫ってくる。
「!! 何を馬鹿な事を 言っているのだ?!
止めろ!! 来るな!!」
すいません。
4で終わる予定だったのに 思っていたより
長くなってしまいました。
Mar.09/2008