清家信恒 5



清家信恒 5
 


ーーーなぁ、お前だって、最後にいい思いしてから 死にたいよな。ーーー

そう言って 舌舐めづりして、下碑た哂いを浮かべた二宮が ルキアに迫ってくる。



二宮宗二郎が ルキアの腕を掴もうとした その刹那!
牽星箝を付けた朽木家当主と侍従・清家信恒が現れ、いきなりその手が 
清家によって払われた。

「ホ・・・汚い手で触れられては 困りますな。」

そう言ってルキアと二宮の間に割って入る。
この二人の突然の出現に二宮とその取り巻き、従者達は 一瞬怯む。

だが、どう見ても多勢に無勢で しかも当主と従者は 丸腰だった。
この状況に二宮は 厭らしく にやりと嗤うと

「・・・なぁ、さ。
 この周辺って、二宮の手の者で結界張ってあったよな。 
 じゃあ、ここでこの三人が 死んでくれたら、俺らのしてきた事が
 バレなくて調度いいと思わないか?!」
「・・・本当に愚かなり。」

清家信恒がそう呟いた。 

「待て! 元々は私に用があったはずだ!? 
 この方達は 何の関係もないではないか!!」

そう言ってルキアが 朽木白哉と清家信恒の前に出て、二宮達との間に立った。
一瞬、白哉と清家の顔に驚きの後、微笑が浮かんだ。 

(緋真みたいな事を・・・・。)
(こんな風に緋真様も仰りそうな・・・・。)

だが、すぐに朽木白哉の顔は苦悶に満ちる。

(白哉様の胸中はまだまだ複雑で、いらっしゃる・・・・。)

「下がれ。」

威圧的な朽木家・当主の声が ルキアに向けられる。
清家信恒が 怯えてしまったルキアの手を優しく引き後ろに庇う。

「白哉様。
 こやつ等の相手は 私が致します。
 白哉様のお手を汚す必要はございません。」
「良い。 ここは私がせねばならぬ。」

それらのやり取りに 二宮が更に嘲笑う。

「ははっ!!  何を偉そうに・・・・。
 所詮、朽木家なんて、文化、祭祀を司る家じゃないか。 
 武道、武具を司る四楓院家に連なる二宮家とは 違う!  
『隊長』の座だって金で買ったって噂を聞いている!! 
 任官前に、山本総隊長に大そうな額が届けられたそうじゃないか!!
 今だって爺さんの影に隠さなければ、ならないようでは 剣の腕は
 たいした事ないんだろ!!
 結局、家の後盾が無い朽木白哉など恐いものか!
 その女みたいな顔で取り澄ましていられるのも 今のうちだ。
 お前等、武家 二宮の力をみせてやれ!!」

二宮宗二郎の言葉に勢い付いた従者達が 白哉に襲いかかった。 
だが、最初の一人から難なく刀を奪うと、白哉は あっという間に
二宮の殆どの従者を切り伏せていた。
着ていたマントが 返り血に染まっている。

その様子に焦った二宮は 刀を抜き、朽木家侍従・清家信恒とルキアを
人質にして、白哉の動きをけん制しようと、二人に剣を向けた。

清家信恒が その姿を裏切る素早い動きで二宮の後ろを獲ると、二宮の剣を
そのまま本人の首筋に当てる。

其処に蜘蛛頭叢吾が 大勢の刑軍の者と共に現れ、膝を折る。

「白哉様のお手を汚させてしまいまして、申し訳ありません。」
「良い。
 こやつらをこの朽木家当主暗殺未遂で捕縛せよ。
 これが証拠の品だ。」

白哉は 自身が着ていたマントを刑軍の将に はらりと脱ぎ渡すと、
落ち着いた声でそう告げた。

そして、突然瞬歩で移動した。
 辺り一面に漂う血の匂いに酔ったルキアが 真っ青な顔でその場に倒れるのを
その腕に抱きとめるために。


気を失い瞳を閉じると余計に 生前の緋真を思い出させる幼い娘 
華奢だった緋真より更に小さく頼りない手を持つ娘
緋真によく似たその相貌が 今は色を失い、彼の女の逝く前を
思い出させ 白哉の胸を締め付けた
緋真よりも強い光を放つ瞳を持ちながら、どこか危うげで庇護を
必要とする娘


昨日 清家信恒の話を統合して、やはり引き取ると決めた・・・・
だが、いざ目の前にすると『 朽木 白哉 』ともあろう者が 
背を向けたくなる
逃げたくなるのだ
一年かけて、ゆっくり癒してきた傷が再び抉られる 

緋真を思い出させるくせに 
最早 緋真は どこにもいないのだと見せつける娘
緋真が 兄 と 呼ばせて欲しいと 
ずっとずっと気に病んでいた妹



清家や蜘蛛頭が 白哉からルキアを受け取ろうとするのを制止して、事後処理を
清家に任せると白哉は幼子を胸に抱くように、そっと抱きしめて屋敷に連れて帰る。
どちらにしても「力」が無いまま統学院に置いては おけぬ。



目覚めた時、綺麗な調度品の置いてある広い部屋の真ん中でとても柔らかな布団に
ルキアは 寝かされていた。
見覚えの無い場所にルキアは不安になったが、見知ったお爺さん、朽木家の侍従の
清家さんがいた。

「すまぬ、またご迷惑をおかけした。
 私は倒れてしまったのだな。
 強くなるために統学院に入学したというに いつまでも弱いままで・・・・。 
 本当に不甲斐無い事だ・・・・。」
「そうですね。
 貴方様が望むなら、この朽木家で貴方様を強くなるように鍛えて差し上げます。」
「・・・・・え?!」
「正直に申し上げます。
 今の貴方様は 本当にお弱い。 
 成績も 今のまま統学院にいても死神になることは難しいでしょう。
 戌吊での誓いを果たしたいとお思いなら、やはり朽木家に養子にいらっしゃる事を
 お勧めいたします。」

清家信恒は 我ながら、厳しい事を申し上げていると思った。 
だが、この方を守る為には必要な事なのだ。

「・・・・何故、私などを養子にとお考えになったのでしょう・・・・?」
「ーーーそうですね。
 どんなに口止めしても、貴方様の耳にすぐ届くでしょうから申し上げます。
 今は亡き奥様に貴方様が とてもよく似ていらっしゃるからです。 
 奥様は 志(こころざし)半ばで逝かれてしまいました。
 我等が主は とても似ていらっしゃる貴方様の志を叶えて差し上げたいと考えて
 おいでです。 
 その代わり、養子となって共にこの屋敷に住み、『 兄 』と呼んで下されば
 良いのです。」
「・・・・それだけのことで・・・・?」
「はい、それだけのことです。
 戌吊での幼馴染の方とあれから話されたのでしょう。
 なんて仰っていらっしゃいましたか?」

『阿散井』殿の名が 話題に出るとルキア様の瞳からみるみると涙が 溢れ出した。

「恋次は・・・ お、幼馴染の阿散井恋次は・・・ 行け・・・と、
 言って・・・くれました・・・。」
「そうでしたか・・・。
 あの方は 戌吊で貴方様を守ってこられた方。 
 今後、今度のような嫌がらせがあった際に 貴方様が今のように弱いままでは、
 阿散井殿の負担や、迷惑をかける事になるのでは ないでしょうかな?」

「・・・・・うっ・・っく・・・・、すみ・ません。
 ・・・涙など・・・。
 お見苦しいところばかりお見せてして・・・。 
 養子の事。 お世話になります。
 どうぞよろしくお願い致します。」

そう言ってルキアは 深々と頭を下げた。
再び頭を上げた時、無理矢理作った笑顔が 痛々しくて、清家信恒は そっと
ルキアを今まで寝ていた布団に促すと、

「今日は いろいろありましたから、我慢しないで泣きなさればよい。 
 宜しければ、『てつじぃ』とお思い下さりませ・・・。」

目的のために厳しい事を言い過ぎたかと反省して、清家信恒は 布団の中で蹲って、
わぁわぁと泣きだした幼い少女の背をそっと撫で続けた。  
 泣き疲れて眠ってしまうまで・・・・・






ーーー良い、こやつらを朽木家当主暗殺未遂で捕縛せよ。
                  これが証拠の品だ。ーーー

白哉様は 自身が着ていたマントを刑軍の将に はらりと
脱ぎ渡すと、ルキア様を抱いて去って行った。

「・・・・・・朽木家当主・自らが 相手をして、わざわざ
 返り血まで付けられた証拠の品。 
 大事に扱って頂きたいものですな。」

事後処理を任せられた清家信恒が 刑軍の将にそう伝える。

(白哉様程の腕をお持ちなら、このように汚く返り血など
 浴びるものか・・・・・・・。)

清家は 捕縛された二宮宗二郎に微笑みながら告げた。

「自分が下劣な人間だからと言って、他人もそうだとは限らないのですよ。
 朽木家・現当主の白哉様は 高潔な志をお持ちの当代一の使い手と
 目されておいでの方です。  
 貴方に報告の義務などはありませぬが、誤解があるようなので教えて
 差し上げましょうぞ。 
 通常、任官の辞令は 一ヶ月前に出るのですよ。 
 何より『金』などで隊長職は 買えませぬ、そんなに軽い職では
 ありませぬゆえ・・・。 
 山本総隊長にお届けした大金は 六番隊・隊舎の改装工事代です。
 あなた如きの耳にそんな噂が何ゆえ、届いたかは考えられ
 なかったようですな・・・。」

そこで初めて、二宮宗二郎と取り巻きとその一門は 朽木家が何故
畏れられているのか、その謀略、
政治手腕の底知れなさ、恐ろしさを身をもって知る。

最初から 朽木家当主は 全てを見越して謀っていたのだ・・・と。 


この統学院で権勢を誇っていたのは 二宮家だった。 
それはずっと揺らぐ事の無いことだと思っていた。 
それがこんな事で・・・・。 



刑軍の将が 二宮家に訪れて、当主・二宮宗十郎に次男・宗二郎と配下一門が 
朽木家当主暗殺未遂を起したとの報を聞いた時、宗十郎は やはり、宗二郎に
証人である娘の処分を任せたのは間違いであったかと・・・。
いや、それ以前に馬鹿な息子を好きにさせ過ぎたのか・・・・と、反省した。

朽木家・現当主は 清廉潔白を望む高潔な人物であると、貴族の規範が 
緩んでいる事を憂えていると噂で聞いてはいた。
あまり公にされてはいないが、既に評判の悪い 黒い噂の絶えなかった
幾つかの貴族が、家督譲渡・蟄居・閉門などといった処分をされた影には、
必ず朽木家があるのではないかとすら噂されていた。

既に昨日朽木家当主の目に留まった時点で永く続いた二宮家は 終わりを
知らねばならなかったのか・・・。
だが、まさか昨日の今日でこんな事態になるとは・・・・。
たかが、統学院で女生徒達に手を出していたという、今までの他の評判の
悪かった貴族達が 行っていた汚職や、賄賂、辻斬りや人攫い、殺人といった事に
比べれば、本当にささやかな悪事だったと思う。
だからこそ、宗十郎は息子の悪事を知ってはいたが、悪戯程度と看過していた。

統学院の女生徒を手篭めにしていた件なら 大した罪にはならなかった。 
どうせ、被害者が名乗り出はしないのだから。
だが、名門朽木家・当主暗殺未遂ともなれば、二宮家も宗二郎も只では済むまい。
朽木家は 最初から二宮家 その取り巻きを潰すつもりで来ていたのか。
当主自らが表に立つほど、名門朽木家の名を出してまで、本気で。 
我が馬鹿息子は その茶番にまんまと乗ったのだ。
馬鹿とは いえ、息子。
宗十郎は 家代々の仏壇の前に白装束を着て座ると 腹を切って果てた。 
息子の宗二郎の助命を乞うて・・・・。


一ヵ月後にこの件の処分が決まる。 

朽木家当主暗殺未遂によって

二宮家 : 家長が全責任を負い自ら切腹。 
            二宮家は断絶、領地財産等 全て没収。 
      長男、次男・宗二郎を含む 一家、一門の全て者の
      尸魂界追放処分。


頤 家 : 領地没収の上、貴族最下階級降格処分。
      長男・主水は 尸魂界追放。
郷河原家: 長男・顕一郎  同上
那珂東家: 三男・聯    同上




恋次がこの処分にルキアが 関係がしていたのだと
ルキアがずっとこいつ等に絡まれていたのだと知ったのは
大分 後になってからだった。   

『ずっとルキアを守っている』と思っていた
『庇っている』と思っていたのに 
気付いてやる事さえ出来ていなかったのだ
アイツは『自分の苦しさ』を沈黙して 俺と俺達の『 誓い 』を
守った

ーー 馬鹿野郎!! 何勝手に背負ってやがる・・・・  
   アイツは いつも強がってばかりだ・・・・
   だが、この最後の強がりは ぜってぇ許さねえ!!
   俺が 弱いから!! 
   アイツは 俺を頼れなかったのだ!! 
   月に誓う!! 強くなると。
   もう二度と強がらせはしないと!!



  特に名誉欲や金銭欲、物欲もないルキアが  どうして恋次のあんな一言で養子に行くと決めたのか? 自分流の捏造理由を書かせて頂きました。 清家信恒。  書き上がったらなんか思っていたより謀略家でした。 朽木家恐るべし。  ルキアを わあわあ と泣かせてしまって  イメージじゃなかったかなとも思いましたが、  一人孤立していた事やいろいろ起こった出来事、 家族との度重なる別離(恋次、養親)や 新しい生活、人々(家族)への不安を  考えるとあながち悪くなかったかな・・と勝手に思ってます。 ここまでお付き合い頂いて、ありがとうございました。 Mar.09/2008 TOP