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 花 冷 え 


「くしゅっ しゅっ っしゅん! 」

昼間はとても暖かだったのに家路に着いた帰り道、日が傾いて急に
冷え込んだ所為か、くしゃみが続け様に出た。


「ーールキア、大丈夫か?」
「っうあ!」

暮れ馴染んだ精霊廷の塀の影からいきなり現れた恋次に声をかけられ、
あまりに驚いたので思わず声を上げてしまった。

「//// 吃驚させるな、馬鹿!」
「はぁ・・・何を驚いてんだぁ!?  鈍すぎだろ、ルキア。 
 無防備で歩いてっから気付けなかったんだろ?!」
「煩い!  大体貴様、何でこんなところにいる?!」
「ーーーてめぇが くしゃみばっかしてっからだ。」
「・・・え?」

言われた言葉に  
ーーそういえば 今日は午後から何度もくしゃみをしていたかも・・・
などと考えていたら あっという間に近づいてきた赤い髪の大男に
距離を詰められて 視界がさらに暗く 黒一色にされて、大きな手に
髪を掻き分けられ額にあてられていた。
いつもは温かい恋次の手が今はひんやりとしていた。

「冷たい手で触るな、馬鹿!  余計寒く感じるではないか!」
「ーー てめぇに熱があるからだぞ。  来いよ!」


否も応もなくいきなり抱き上げられて、慌てて恋次に抗議をした!

「/////// ば、ばか!!  恋次、止めろ!  下ろせ!!」

いつも私を抱き上げると直ぐに瞬歩で移動するので思わず 
落とされないように首に腕を回し掴まった。

だが、今日は走る事さえせずにゆっくりと歩きだした。
抗議の言葉に矛盾する行動をとった自分に呆れ、
ーーこれなら蹴り倒して下りた方が早いーー
と思ったのだが、触れる体温が温かくて寒さに震える身には心地よく・・・・。

ーーこの暗さならこのように抱えられていてもどうせ誰だか分からぬだろう、
  ・・・ならば、このまま足代わりにしてやろうなどと開き直る。

「ーーー四番隊に連れて行ってやるよ。
 てめぇが具合悪くなると隊長の機嫌が悪くなるから、今の内に治しとけ。
 明日は朽木家で花見なんだろ?」
「ーーー このように寒の戻りになっては延期になるやもしれぬ。」

『寒の戻り』などと口にした途端に寒さが実感され 身体が震えた。
暖を求めて恋次に強くしがみついた。

「ルキア・・・寒いのか?」

大きな腕が包み込む様に私を覆い抱き締めてくれた。

「ーーーせっかく咲きかけていた桜も寒さに震えているだろう、気の毒な事だ。」
「花冷えだな・・・」

「その様な変眉では風流など解さぬだろうに・・・。
 よくそのような言葉を知っていたものだ・・・・」
「・・ンダと?! てめ・・・!」


照れ隠しにそんな悪態を吐いたくせに・・・ 
さっきまで強張らせていた身体の力が抜けて 完全に安心しきって俺に身を委ねて
瞳を閉じて静かに寝始めるルキアに溜息交じりのぼやきが出る。

「・・・・・・は~っ、『花冷え』まさにてめぇみてぇだよ、ルキア・・・・・」


こうやって俺が少し強引にルキアを抱き上げるのは
華奢でしなやかなその身に触れて 
近くで顔を見て 
口吻けて
取り戻した実感が欲しいからだ。

けれど 本当の奥底には無理矢理抑え込んでいる熱い激情が渦巻いていて
このまま攫ってむちゃくちゃに抱いて壊して 動けなくしてしまいたいほどに
ルキアが欲しくて愛おしい・・・・。

少しづつ俺の熱を注いで温めているのに
無防備にその身を預ける ルキアの信頼が 俺を熱情を冷やしていく。

花開きそうで開かせることのできない堅い蕾のままの俺の大事な大輪の花。

熱で紅潮した頬とぼんやりと潤んだ瞳で俺を見上げていたちょっと前のルキアの顔を
思い出してくらっとする。

ーー 熱で弱ってる女ってのは、艶っぽくてそそられるよな。
   何よりおとし易いし、ヤリやすいーー  

そんな鬼畜なセリフを吐いた女好きの先輩の言葉が頭の中を木霊する。





ーー ルキア、寒さに震える桜よりも切実に春を待つ 誠実な俺に気付け・・・!





春を待つ頃・・・。 あとがき 3月26日~4月16日『やる気の元』でした。    ありがとうございました。
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