飲み会  

乱菊さん主催の飲み会ーーいつも会場は阿散井君ちって決まってる。 荷物も少なくていつもこざっぱりと片付けられ 掃除もされていて  その上、玄関に鍵がかけられる事なんかないからだ。 面子(メンバー)もほぼ同じ。 乱菊さんはもちろん、十一番隊の一角・綾瀬川の2人組に檜佐木先輩、射場さん。 僕・吉良イズルと阿散井君は その時の隊の仕事の忙しさや残業次第で遅れたり、 参加出来なかったり。 (もっとも会場が自宅の阿散井君は みんなが酔いつぶれた頃に部屋に帰って来て  盛大なため息吐きつつ軽く片付けてから仮眠をとっていた。) 以前は元気な雛森君と日番谷隊長が時々顔を出していた。 また、上手く七緒さんの目をすり抜けて来れたらしい京楽隊長がいつの間にか 混じっていることもある。 「あ・・ん、もぉ 吉良ったら遅いわよぉ。    待ちかねてたんだからねぇ・・。」 「すみません。    先に届けておいた分の酒、もう飲んじゃったんですね?  はい、お待たせしました。」 両手に提げてきた一升瓶を六本・2セットを目の前に置く。 「ぃやぁねぇ、酒じゃなく、アンタの事を待ってたんだって。  さ、吉良も飲んで、飲んで!  まずは駆けつけ三杯よぉ!!」 ーー どう見ても僕が持ってくる酒を待ってたと思うのだけれど、こういう    乱菊さんの思いやりある言葉が割に合わない潰される飲み会だと    分かっていても僕らの足をこうして運ばせるのだと思う。 なみなみと酒の入った湯のみを受け取りながら、乱菊さんの影にひっそりと座る 雛森君とは違う小柄な女の子の姿を見つけてびっくりした。 ーー 朽木ルキアさんだ!!   真っ赤な顔で瞳を潤ませながら両手で湯のみを抱えて、舐めるように少しずつ飲んでいる。 と、同時に彼女をそれは気にかけて大事にしている赤い髪の友人の姿を捜す。 「阿散井君は・・・・まだ・・・?」 「え・・・何?  恋次?  来るって? 来れるって言ってた?」 「いや、朽木さん・・・・・・。   それにここ阿散井君の家だし・・・。」 「そうよぉ・・・ 何言ってるの吉良ぁ・・・  いっつも飲んでるのは恋次んちじゃない・・・・?  ぁあ・・・ 朽木?  帰りがけに書類を届けに来たところをちょうどいいから  一杯だけ飲んで行きなさいって誘ってあげたのよぉvvvvvv」 ーー さも、いい事をしたと言わんばかりのセリフが乱菊さんらしい。    誰もが酒に誘われたら喜ぶと心底思って疑っていない。 そんなやり取りをしていた僕の視線に気付いた朽木さんが小さく苦笑して 頷くように会釈した。 阿散井君といない時の彼女は借りてきた猫のように大人しい。 いや、統学院の時からこういった雑然とした人の集まり・宴会等を苦手としているらしく、 滅多にそういった席に居る事はないのだが、見かければいつも仕事中の凛とした雰囲気は すっかりナリを顰めて 目立たないように霊圧を抑え目にしているので余計に 親猫から離された子猫のように心許無い風情で頼りなげだ。 向うでは何事か言い合っていた射場さんと檜佐木さんが飲み比べを始めた。 どうせまた乱菊さんにどっちが先に酌をするかとか 隣に座るとかそういう下らない事が 発端に決まっている。 それに一角さんと渦中の乱菊さんも加わって飲み比べになるのは酒が大分回ってきた頃の お決まり常道(パターン)だ。 判定役っていうか 傍観者兼煽る役は綾瀬川。 いつもなら なんだかんだと拒否したって抵抗空しく巻き込まれるんだが、 今日は朽木さんの相手をしろって事で見逃してもらえるみたいだ。 彼女のために阿散井君が用意したらしい赤い兎の柄の可愛い座布団に座る小さな 朽木さんの隣に胡坐をかいて 黒髪に隠れた赤い顔を覗き込む。 とろんとした眠そうな顔の彼女 ーー大丈夫かなぁ、どう見ても酒が得意とは思えないーー 「こんな遅くまでこんなところにいて平気なのかい?     それにあまり無理して飲むとよくないよ。」 「・・・・ん・・・きら・・どの?  ・・・・・・ですが、     私は飲み干す約束してしまったので それまでは帰れぬのです。」 そう言って苦笑する。 こういう時、改めて彼女の生真面目さを再確認させられる。 他隊とはいえ、上官の松本乱菊副隊長の酒の席での約束を律儀に守ろうとしている。 ーーきっと言った本人・乱菊さんはもうとっくに忘れていると思う。 「いや・・・・ 乱菊さんも無理させる気はないと思うから・・・・・」 そう忠告しながら、目の周りを特に赤く染めて色香すら漂うほど艶っぽい表情に気付き いつもよりすごく彼女の近くに座ってしまった自分に気付いて狼狽する。 良く考えれば、小柄な彼女とは阿散井君を間にして 立って話をした事しかない。 こんな風に覗き込むように座って話をしたためにいつも長い前髪に隠れていた彼女の顔を 初めて間近に見た。 遠目にも綺麗な娘だとは思っていたーー。 黒髪に対比された白い肌をほんのりと紅潮させて じっと僕を見上げる長い睫毛に 縁取られた大きな目の朽木さんは本当に綺麗だ。 潤んで輝く青紫色の瞳は僕を引き込む様に深く 小さな紅い唇は艶やかでとても 柔らかそうで目が離せなくなる。 「・・・・・吉良殿・・・大丈夫ですか・? ・・・・・赤い・・・」 言葉少なく気だるそうに話す彼女の声が遠く囁いているように聞こえる ーーまるで僕を誘惑するかのように 早鐘を鳴らす様な心臓の鼓動は苦しくて 僕には警鐘だと分かっているのに 艶のある紅い唇 その蠱惑的な動きに視線を囚われたまま離すことも出来ない。 ーー おかしい・・・・。 酒はまだそんなに飲んでいない。    酔ってはいないはず・・・・。 頭の片隅では ーー彼女は阿散井君の想い人だから・・・・阿散井君の大事な人だぞ・・・ 阿散井君がーー 阿散井君にーーって呪文のように何度も唱える  頬や頭に逆上った熱が・・・・全身に拡がりそうなのを抑えるために理性を総動員させた。 両手で湯飲みを持っていた彼女の白く細い手が伸び僕の頬をそっと指先で触れてくる その甘さを含んだ優しい感触に逃げる事も拒否する事も出来ないーー また彼女の小さな紅い唇が何か話すように動いているのに耳からは何も伝わってこない ーーまるで時間が止まったように動けなかった。 「・・・吉良・・  ちょっと!」 遠くで乱菊さんの声が聞こえた気がした。 僕の瞳を捕らえてた彼女の青紫の瞳がつーと流れたーー   次の瞬間!   乱暴に後襟を掴まれ 思いっきり引っ張り倒された。 咳き込みながら見上げた天井に紅い髪と黒い死覇装が視界に入ってーー ざわざわとした周りの音がやっと聞こえだす。  同時に自分に何が起こったのかを理解した。 鋭い眼光で阿散井君が僕を睨んでいた。 けど、すぐに腕組みして彼女を不機嫌に見下ろす。 「ルキア、てめ、こんなところで何やってる?」 「たわけ、見て分からぬのか?!   酒を飲んでおる。  ・・・恋次、友人を手荒く扱うな!  もしかしたら、熱がある病人やもしれぬのだぞ!」 「馬ぁ鹿!  酒の所為で赤い顔してるだけで熱なんかあるわけねぇだろ!  だし、少しでも具合が悪かったら吉良はこんなとこに来る様なヤツじゃねぇよ!!」 「・・・そうなのか?」 2人のやり取りに少し咳き込みながら僕は頷く。 朽木さんは納得いかないような不思議そうな瞳を向けてくるが、阿散井君の僕を見る 視線は突き刺さるように鋭すぎて目を合わせることもできない。 「さぁ・・・ 隊長が心配して迎えに来ない内に帰るぞ。」 「これを飲み干さねば、帰れぬ。」 阿散井君は軽く溜息を吐くと湯飲みを朽木さんから乱暴に奪い取って一気に飲み干した。 いきなりな阿散井君の行動に声も無く驚いたように見上げていた朽木さんを 再び、 ”文句あるか”とばかりに阿散井君が不機嫌に見据えながら湯飲みを卓袱台に置いた。 僕は気の強いいつもの彼女が阿散井君に文句を言って怒りだすと思っていた。 けれど、そんな予想に反して朽木さんはこれ以上はないってくらいに 綺麗な微笑を 浮かべると ”抱き上げろ”とばかりに阿散井君に両手を差し伸ばした。 一瞬瞳を大きくして驚いていた阿散井君だったけれど、また溜息を吐いて  思いっきり不機嫌で迷惑そうな顔をして見せてから 彼女を軽々と抱き上げた。 酒の所為じゃなく照れた赤い顔を隠すために不機嫌な顔を作った阿散井君が可笑しくて  こっそり下を向いて笑っていたら・・・・ バレてたらしく・・・・ 傍を通り過ぎ様に強く背中を蹴られた。 「あれぇ・・・ 朽木もう帰るのぉ??」 「はい。  ご馳走様でした。  お誘いありがとうございましたvvvv」 「ってか、乱菊さん、次からはもう酒は飲ませないでください!    俺が隊長に殺されますから!!」 「何を言うのだ、恋次!?   兄様はそんな無体な方ではないぞ!」 「お前が絡まなきゃ・・・・な。  いいから、帰るぞ。   次からは俺と一緒の時に誘われろ。」 「忙しい貴様に合わせていたら、飲む事などできぬ!」 「うるせぇ・・・ だいたいお前は酒なんか大して飲めねぇだろがーーー」 「私だとてーー」 ぎゃぁぎゃあと言い合いながら・・・2人は部屋を出て行った。 ーー あの2人って・・・相変わらず 「ありゃ 恋次が心配性になる訳だ・・・・・・。」 ぼそりと斑目が言うと 「ただの過保護 親ばかだと思うけど・・・。」 そう言って綾瀬川が自慢の髪を払う。 「幼馴染ってのはいつまでもガキのまんまでいいよなvvvv」 羨ましそうな顔で皮肉っぽいセリフは檜佐木先輩。 「・・・・・イズル・・・・あんた、ダメじゃない♪  恋次の前で 真っ赤な顔で朽木と見つめ合ったりなんかしちゃぁ  知らないわよぉvvvvvv」 そう言う乱菊さんは何を期待してるのかわくわくととても楽しそうだ。 「ーーーはぁっ  そうですけど・・・・   仕方ないじゃないですか!   だいたいあの大きく潤んだ瞳で見上げてくるのは反則ですよ!!」 「けっ、・・・吉良も普通に男だったってことなんだよなぁ!?」 「ぁあ・・・・・そっか・・。  良く考えれば、彼女って雛森君と同じで外見はかわいい系だもんねぇ・・・  吉良の好みの範疇なの?  ・・・もしかして。」 「吉良、てめ・・・ あの程度で顔赤くして狼狽えるなんざ、まだまだ修行が  足らねぇんだよ!」 「じゃがのぉ・・・・ 儂にはようわからんが隊長達にも人気のある娘じゃけぇ  仕方なかろうもん・・・・・・」 飲み比べをしていた面々が好き勝手なことを言う。 「ふふふふ・・・真面目でお堅い吉良副隊長も朽木の姫には弱かったみたいだね?!  僕の予想では 君は恋次との友情を思って 彼女の手を振り払うくらいできる  理性派だと思ってたんだけど・・・・な。」 綾瀬川弓親が楽しそうに揶揄して冷ややかな視線を流してくる。 「阿散井君・・・すごく怒ってましたよねぇ・・・・」 思いっきりどよんと落ち込んだ僕を乱菊さんが背中をドンと叩いた。 「馬っ鹿ねぇ、大丈夫よぉ。  一発殴られる程度だから・・・・きっと・・・・ね♪」 「そうそう、恋次の一発なんて俺の拳に比べたら蝿が止まった程度だって!」 「アホ吐かせ、じゃったら儂の鉄拳とじゃ蚊程度じゃ!」 「俺となら蚤だな♪」 ーー「殴られる」ってことは誰も否定してくれないーー 他人事だと思ってみんなは気楽で 話題を自分の力自慢に変えて酒の肴にする。 「ふ〜ん そういえば去年だけどさ、  その蚤とか蝿の拳で殴られて鼻が曲がったり、腕や肋骨を骨折した隊士が  いたって噂があったよね♪」 綾瀬川がまた楽しそうに不吉な噂話を披露する。 「あ、俺も知ってる、その噂。  けどさぁ、俺ならもっとーーー」  「アホ、儂ならもっと凄いーーー」 酔っ払いの面々はまた適当な自慢話をはじめた・・・・・ ”僕はもう絶対朽木さんには不用意に近寄らない!!”  かかる痛みを覚悟して阿散井君の戻るのを待つ吉良はそう心に固く誓ったーー


最後までお付き合い頂いてありがとうございましたvvvvv 殴られるのは確定しているイズルに一言あればお願いいたします! 21.Jun.〜27.July.2009
  あとがき