もう一つのED  
**「ある日 3」の話・セリフとリンクしています。**
 


食後の機嫌の良いルキアをいつものように素早く抱き寄せて そっと口付けーー
!! ーールキアの手に阻まれた。

ーー ??

怪訝な顔の俺に真っ赤になったルキアが言った。

「貴様、このような往来で・・・・。」
「丁度誰もいねぇから別にいいだろ?」



その日、偶然会った恋次と路地の奥まった隠れ家のような店で昼食を摂った。
店を出た途端、恋次が私を捉えて顔を寄せてきた。
いくら裏通りとはいえ、あまりの暴挙に驚いて咄嗟に手で恋次の口を押えて止めた。
だが、この馬鹿は「誰もいないから」とあまり気にすることもなく、
阻んでいた私の手をとると、一度その掌に口付けてさらに顔を寄せてきた。
あまりの恥ずかしさに・・・・ 堪らず私もまた手が出た。

 どごっ! 
「いて! 殴るこたねぇだろ・・・」
「ーー いい加減にしろ、ばか!  恥知らず!」

緩んだ恋次の手を振り払うと 恥ずかしさと怒りで上気した頬と気持ちで
むぅっとしながら 隊舎に戻るために大通りへと歩き出した。

ーー 最近、この男は なんというか・・・ 遠慮がなくなったというか・・・
   処構わず・・・・ ///////////   ・・・あ、あんな風に私に触れてくる
   恋次に触れられるのは嫌ではないが・・・  だが!  もうちょっと
   いや、なんか一方的・・・・・   !!

怒りと戸惑いでぐるぐるした気持ちですたすたと歩く内にこの間のやり取りを
急に思い出し、恋次に振り返って宣言した。

「決めた!
 今までの『借り』を私から返すまで貴様からは禁止だ。
 貴様が公平にしろ!と、言ったのだ、文句はあるまい!」

私はすごく怒っていたのに 後ろでアホ面を曝してにやけていた恋次の顔が
私の言葉にとても驚いた 困惑顔に変わった。
最近なんとなく恋次に負けている感があった私は一矢報いたような気がして 
今度は機嫌よく隊舎に戻る。



ーー ・・え、なんだって・・・・?   ・・・うそ・・だろ? 

真っ赤になって俺を殴った後、すたすたと一人歩き出したルキアの
あまりにらしい反応に 『可愛いなぁ』と にやにやと一人
ほくそ笑んでいた俺は 振り向き様にルキアから出されたいきなりの
『禁止』宣言に慌てた。

言うだけ言うとまた歩きだしたルキアを急いで追いかける。
大通りに出たところで追いついたアイツの前に回り、その両肩に
手を置いて真正面から再確認する。  

「・・・ルキア、まさか 本気じゃねぇ・・・よな?」
「///////  嘘などついてどうするのだ、馬鹿者!」

まっすぐ俺を見返す小憎らしいくらい綺麗な瞳のルキアがいた。

ーー ちきしょ、こいつってこういうクソ真面目なヤツだった。
   俺は先日の自分の言葉を超後悔する。


目の前でがっくりと頭を垂れると崩れるようにその場に恋次が膝を落とした。
私の肩に両手をかけたまま・・・・。

「恋次?  ふざけるな!」
 
ーー 冗談じゃねぇよ。 
   俺にとっては死活問題だって・・・。


「このような往来でしゃがむな、ばか!
 すごく恥ずかしいぞ。」

こんな往来の真ん中で立ち止まっているだけでも何事かと思うのに、
突然がっくりと頭を垂れ、膝を着いた様は 充分人目を惹いて
あまりある光景だ。
ただでさえ、大柄で赤い髪の恋次は目立つというのに。

「恋次!  貴様プライドは無いのか?
 仮にも副隊長のすることではないぞ、いい加減に立て!」


大きな通りだけあって人通りも多く、行きかう人々が(何事か)と、
(何があったのか)と振り返ってまで見ていく。

「恋次! 早く立て、迷惑だぞ!」

ーー 肩に手を置いたまま頭を垂れて 膝を付いている恋次の姿は
   まるで何事か私に懇願しているかのようだ。
   このような往来で外聞も構わぬほど懇願をさせている私に
   路行く人々の視線が突き刺さる。

私は居た堪れなくなり、一向に動く様子の無い恋次に

「離せ、戯け!! 私は隊舎に戻る!」

そう言い捨てて恋次の手を払おうとしたが、この馬鹿力! 振り払えない。
いっそ、この馬鹿を蹴り倒してこの場から去ろうかとも思ったが、それは
なおさら外聞が悪過ぎる!   

苛々としながら、子供のような脅し文句を言う。

「恋次、今すぐ離すか、立ち上がらねば、今後一切貴様とは口を利かぬ!」

子供じみた脅し文句だったが 恋次がやっと反応して私を見上げた。
小さく膝を着いている所為か、その顔はいつもより情けなく見える。

「恋次、いいから 早く離せ!」
「いーや、だめだ!  まだ話が終わってねえ!!
 だいたいてめ、今までの『貸し』がどれくらいあって、いつまでに返すっ
 ていう『返済計画』があるからさっきのセリフ吐いたんだよな?」

肩を掴んだ手を離す事無く、ゆっくりと立ち上がり、にやりと嫌な笑いを
浮かべて恋次がそう言った。
途端になんだか形勢逆転されたような気がした。  
だが! とりあえず逃げを打つ。

「煩い!  私はこんな往来でその様な話をする気はないぞ、馬鹿!」
「あ、そ。 此処じゃなきゃいーんだな?!」

不敵に哂うと 不意に私の身体がふわりと浮いた。
肩に担ぐようにして抱え上げられ、蝶歩で恋次が高く飛び上がった。

「やめ」

あっという間の出来事に私の拒否する言葉は風に流されてしまった。

だが、自分で蝶歩で移動するのと違い、肩に乗せられ、
頭を下に向けたまま蝶歩で大きく上下に移動される恐怖と
身体と共に臓腑が浮く感覚に 思わず、恋次の死覇装にしがみ付いた。


ルキアに有無を言わせず、素早く担ぐと蝶歩で大きく飛んで通りを離れた。
最初の蝶歩は障害物を避けるために必要だったからだが、後の4回は
わざと目的地まで蝶歩で大きく飛んで移動した。
子猫のように死覇装にしがみ付いてきたルキアが可愛いらしかったからだ。


十三番隊舎に近い、ほとんど人が来る事のない小高い丘でとまる。

「さ、着いたぜ。 ここならーー」

言いながら そっとルキアを下ろそうと少し屈んだ時、肩に掴まったままの
ルキアから顔面と顎に強烈な連続二段蹴りが入って、思わず倒れそうになる。

ご、ぐはぁっ!!

その耐えているところの胸元をさらに両足で蹴って 大きく宙返りして
ルキアが俺から離れた。

「ルキア、てめ、 何しやがる?!」

「それはこちらのセリフだ!  貴様 勝手・横暴が過ぎーーむぐっ」

そう言って口元を両手で押えたルキアの顔は蒼白でーー 

「ルキア、大丈夫か?!」 「煩い!  近寄るな!」

俺から離れるように後退ると、木に凭れて また吐きそうになっていた。
手で口元を押えて、胸元を摩り、荒く肩で息をしている。

「ごめん、俺の所為だな。」

俺は苦しそうな小さな身体を素早く抱きしめて、背中を摩った。
胸の中で腕を突っ張らせてルキアが暴れて俺を拒絶する。
「ば、ばか!  離せ、貴様に吐くぞーー」
「構わねぇよ!  いいから、落ち着いて深呼吸しろ!」

これ以上言い争っても容態が悪くなるだけだと判断したのだろう、
ルキアが俺から逃れるのを止めて、大きく深呼吸しながら 
吐き気を懸命に抑えていた。
俺はその苦しそうな小さな背中を摩りながら、謝った。

「ごめん、苦しいな。」

「辛かったら そのまま吐いていいから。 ーーな。」

「ーー悪い、調子に乗った。」 

「食後にやるこっちゃないよな・・・・いや、お前をあんな風に
 運ぶこと自体が間違ってた、ごめんな。」

「大丈夫か? −−大丈夫な訳無いな。 ごめん、苦しいだろ。」

「少し落ち着いてきたかーー 少し座ろう、もっと落ち着くだろ。」

「ホント悪かった、ルキアーー」


吐き気がだんだん落ち着いてくる。
心配そうな声で何度も繰り返される謝罪の言葉に
背中を摩る温かな大きな手に
恋次の私に対する横暴さと 吐き気の苦しさからくる怒りが
だんだんと静まってくる。

「ーー恋次、大分落ち着いた・・・。 ありがとう。」
「礼はいらねぇよ。 俺の所為だ。 ごめん、ルキア。」

気がつけば、ごつごつとした恋次の胡坐の上に座り 腕に縋るように掴まりながら、
すっぽりと胸の内に身体を預けて、背中を優しく摩られていた。
馴染んだ香りと伝わる心音に気持ちも大分落ち着いた。

「もう良い、謝るな。  −−−−−なんだか 
 戌吊の頃、無理矢理食べさせられて体調を壊した時を思い出すーーー 
 あの時も貴様は一晩中看病しながらずっと謝っていた。」

「−−−あの時の事はもう 思い出したくもねぇよ。
 総や良平にゃ責められるし、何も知らねぇガキだったから
 『ルキアがこのまま死ぬようなことになったら・・・』って
 生きた心地がしなかった。」

ーー その苦しい感覚だけは今でも鮮明に残っていて 
   思い出せば、瞬時にきつく胸を締め付けてきやがる。

「ーーーそうだな、医者や薬もないから病気やケガがすごく恐かった。
 もっとも一番恐かったのは野蛮な大人だったがな。」

「ーーーあぁ。」

「だが、今は精霊廷で医者や薬もあるし、四番隊も。
 それほど大仰にすることではなかったろう・・・・。」

ーー そういう問題じゃねぇよ。  
   俺がお前に危害を及ぼす、苦しめたって事が堪らなく嫌だ。
   お前には笑っていて欲しいんだよ、苦しそうな姿なんて
   見たくもねぇって!!

「ごめん、ルキア。」

そう言って、ルキアのすべて包むように抱きしめて 髪に顔を埋める。

「もう良いとーーー」

謝る恋次の声があまりに辛そうだから、恋次の顔を見ようと
安心させようとーー  眼を合わせようとしたのにーーー 

見上げた恋次の顔があまりに近くて、切なく苦しそうだったからーーー
恋次の望むままに瞳を静かに閉じた。

そっと優しく口付けられる

結局 こうして これからもこの男を許してしまうのだろう・・・・。
強引で横暴なところもあるが、私を誰よりも想ってくれている

そう 信じさせてくれる この男に

口腔深く 口付けてくるように

その内に気持ちも 魂魄も 

全て絡め取られてしまうのかも知れない

だが、恋次にならーーー







『やる気』の元 ありがとうございました! Nov.23〜Dec.20.2008 あとがき TOP