祭 り A



額を突き合せてくだらないことを口喧嘩で言い争っている子供じみた2人を
教室の入り口から移動させるために茶渡と僕は近づいていった・・・・。

ーー 正直、衆人観衆の目がある中で次元の低い話題で言い合っている
   派手な頭の2人に近づいていくだけでもかなり勇気のいることだと
   溜息が出た・・・・・。


ぐりぐりぐり・・・・・・・・

「馬鹿恋次、ナニ浴衣なんて着て来てんだ!?
 てか、押すな! どんだけ石頭なんだ、てめ!?」
「うっせえよ!!  俺の勝手だろうが、えぇ?!
 だし、石頭はてめえだっつーの!!
 それに てめえは、なにへらへらと女どもに媚売って歩いてんだぁ!?  
 気色悪ぃんだよ、くそ一護!!」
「ばっ!!  俺だって好きでやってんじゃねぇよ!  
 今日は、こういう役っつーか、仕事だから仕方ねえだろ!!」
「君たち、見苦しいからいい加減にしたまえ! 
 それにそこは教室入り口で邪魔だからどいてくれないか!」
「ごちゃごちゃ うるせえよ、石田!
 恋次、表に出ろよ、もう口はいいから腕っぷしで勝負(きめ)ようぜ!」
「いいぜ、一護!」
「む、黒崎、止めろ。」

茶渡君が黒崎を後ろから抑え込む。

「ちょ、チャド放せって!」
「そうだぞ!  他の客に迷惑だ!
 阿散井ももう止めてくれ!   ぶち壊しに来たなら 帰ってくれ!」
「うるせえよ、石田。   なんだったら、てめぇも参加するか?!」


「なんだ、楽しそうだな? 
 私が着替えている間に貴様等何に参加する気だ?」 
「え、 なになに?  あたしも参加してもいいかなvvvv」

相変わらず、場の空気を丸無視した言葉と共に朽木さんと井上さんが現れると、
その場の殺気だった空気が一掃された。

「「「「!!!//////」」」」

「じゃ〜〜〜ん!!  かわいいでしょ?」
「な・・・・ 「ルキア!?」」  「//////「・・・朽木・・・」さん?!」

さっきまでの浴衣姿から一変、白いレースの生地にフリルがふんだんに使われた
ふんわりとした短い丈の黒と白のワンピースに太い黒いリボンが足首から太腿まで、
腕から手首に 細い首にまで巻かれた「ゴスロリ?」のような衣装で朽木ルキアが
腕組みして立っていた。

だが、本人は今までと何一つ変わってないかのような涼しい顔だ。

「なんだ、貴様等?  その妙な反応は?
 井上が作ってくれた服があまりに見事で声もでないのか?  
 そうであろう。   とても良い出来だ、井上。
 尸魂界でもこれほどのものを作れる者はそうそうおるまい。」
「えぇ?!  朽木さんそれは褒めすぎだよぅ〜/////////」

ーー ちが!  いや、そりゃ、井上が作ったっていうその白いレースの服は
   確かに見事だが・・・・・ 小っさいルキアにそんなん着せたら、
   なんつーか七五三? 
   いやいや よくできた西洋人形みてえだ。
   それより 何でコイツってば 俺ら全員こんだけ慌てさせておきながら
   なんで何も気付かないんだよ・・・・、ちきしょ。
   どんだけ鈍いんだ!?
   
ーー ルキア・・・  スカートがまた短けぇ・・・  何なんだよ、現世は?!
   女の井上が用意した服だから・・・ こういうもんなんだろーけど・・・。
   目のやり場に困るだろ?!  
   体中に巻かれた黒いリボンが なんかエロ・・・・・  黙れ、俺。

一護も 恋次も赤い顔をしてルキアを見つめて何を考えたのか、その顔を各々
違う方向に逸らした。
茶渡は驚いた顔をしたまま、一言も発しなくなった。

「///// い、井上さんが 作ったんだ・・・・・?!
 すごいよ、サイズもぴったり。  朽木さんによく似合ってる。
 今度 僕も作りたいから、測ったサイズを教えてくれな」 ドカッ

恋次と一護に後ろから蹴られて石田が前のめりにコケた。

「な! 痛いじゃないか?! 
 僕は別に疚しい気持ちで言ってるんじゃなくて 僕の創作意」

今度は後頭部を殴られた。

「「うるせえ!   鼻血流しながら 言ってんじゃねえよ!」」

ダブルで突っ込まれた。

「な・・・・・ 鼻血?   今、君らが蹴ったからだろ?!」
「石田君、大丈夫?  はい、ティッシュ。 
 じつはね、裏のオバちゃんがレースのカーテンをくれたんだけどね、
 なんか違うもの作りたくなちゃって・・・・・ えへっへへ・・・・・。」 
「もとはカーテンなのかよ?!   すげえよ、井上。」
「靴は小川みちる殿に借りたのだ。
 ところで一護、腹が減った。  せっかく来たのだ。 
 ここは そういう店なのであろう? 
 何か食べる物を出してはもらえぬのか?」 

腕組みしたまま、ルキアが偉そうにそう言いやがった・・・・・。



ホロ”−ウ!!  ホロ”−ウ!!  ホロ”−ウ!! 


「うおっ!!」 「うぁあ!!」

突然、俺の代行証が虚の出現を大音量で警報音を出すと、初めて聞いた
ルキアと恋次ががち驚いた。
だが、瞬時に恋次がルキアを片手でしっかり抱えて後退っていた。

「なんだよ、そりゃ 代行証じゃねぇか・・・・。 
 すげえ音でビックリしたっつーの!!」
「恋次、もういいから下ろせ、馬鹿!!」 どすっ  「いてっ!!」

恋次の脇腹に抱えられていたルキアが 言うと同時に肘鉄を入れた。
攻撃された恋次より 真っ赤な顔のルキアの方がダメージが大きそうに見える。

ーー 咄嗟にルキアを抱えた恋次の行動もショックだったが、いつも
   冷静なルキアがあんなに動揺して顔を真っ赤にしているのを
   見た事の方が 俺に与えた衝撃は大きい気がする・・・・

「わりぃ。  俺、行ってくるわ・・・・」

少し寂しそうな表情で一護がそう言うと、

「今日はてめーが行くこたねえよ。  俺が行く! 義骸とルキアを頼む。」

恋次が あっという間に義骸を脱いで 一護を留めるように自分の義骸を
押し付けると素早く窓から出て行った。

「恋次、待てって!」  「手早く倒して来るのだぞ、恋次。」


「ってか・・・・ こんなでかいもの、どうしろっていうんだ・・・・?」

ーー まわりの視線ががち痛え。
   さっきまで額を合わせて言い争っていたヤクザな赤毛の大男が 
   突然何かに驚いたように連れの女を抱えて後退った後、
   (代行証の音は一般の人には聞こえないから、
    かなり不審な動きだったはずだ。)
   今度は倒れるように俺に抱きついているのだ。  
   相当 目を惹く オカシナ光景だって・・・・・。

仕方なく恋次の義骸を チャドと石田、俺の3人がかりで受付のチャドの横に
腕を組ませて、まるで居眠りしているかのように座らせた。





ーー なんだよ、わざわざ 死神代行の一護を呼ぶような    虚でもねえじゃねえか・・・。 虚を倒した俺は 空座高校に戻らずに 思い立って浦原商店に向かう。 「おんやぁ〜、阿散井さん。 お久しぶりっす。 今日はお一人ですかぁ?」 「あぁ。  久しぶり、浦原さん。」 相変わらず気の抜けた飄々とした態の浦原さんに出迎えられ、意味深な 挨拶をされる。 ーー ホントこの人は食えねぇ・・・・・。    ここへは 俺、一人で来たことしかねぇっつーの。    何もかも見透かして知ってるって顔で その実、どこまで    知っているんだろう。    浦原さんの惚けた態度に誤魔化されて少しでも気を抜きゃぁ、    こっちの有利な札はあっという間に切られて、割の悪い札を    押し付けられちまう。 「現世に来たついでに、どうせなら例の計画の進行状況を聞かせてもらおうと  思って、寄らせてもらったんスよ。」 「あぁ あれね。   順調っすよぉ。    わざわざ阿散井さんが様子を見に来る様な急ぐ仕事じゃないでしょう。  総隊長からは 『学校を卒業するまで』って言われてますし、  彼らは霊圧がかなり大きかったり特殊能力だったりしてるんで 『万が一にも間違えの無いように』ってのが第一条件ですからね。  のんびりとやらさせてもらってますよ。  ただの様子見にしちゃぁ、阿散井さんの顔は浮かないっすねぇ?  急がないようなら、まぁ 中でお茶でも飲んでってくださいよ。」 「こっち(現世)の空気が合わねぇってだけで別に・・・・・・。」 「そ〜んなん慣れっすよ〜。   朽木さんなんかこっちでも嬉々としてるじゃぁないですかぁ。」 笑いながら帽子の下の浦原さんの目が俺の反応を伺うように鋭く覗き込んでくる。 俺は 読まれたくなくて顔を慌てて逸らした。 鉄斎さんが「やぁやぁ、阿散井さん。 久しぶりですな。」って言いながら、 お茶を卓袱台の上に置いていった。 軽く会釈して 俺は湯のみを手に取った。 「俺にとっちゃ 現世ってのはもともと来る度ごとに姿形を変えてる『異世界』で  夢みたいなモンでなんのこだわりも思い入れもない別の世界でしかなかったんスよ。  だいたい 俺たち『死神』とは 時間軸も価値観も違う世界だし、あまり深く  関わっていいってところでもねぇ・・・・・・・。  ちょっとでも変な想い入れをしてしまったら、冷静に『死神の仕事』が出来なく  なっちまうかもしれねぇ。  けど・・  アイツは・・・・・ そうじゃなくて・・・・。     いや、浦原さんだって、ホントは 分かってんでしょ?」 「それでも朽木さんには『ソレ』が必要だったんですよ。」 「ーーー俺だって今は 分かってます。  だが、『死神』としちゃぁ 深入りし過ぎた・・・・・・。  想い入れし過ぎだ・・・・・。  それは アイツだけの所為じゃなくて、尸魂界自体が 『黒崎・死神代行』や  『井上や茶渡の特殊能力』 『滅却師・石田』を今まで利用してきた・・・。」 「そのとおり、仰るとおりッス。  けど!    だからって、今回のことは 用済みになったから、切り捨てるって訳じゃない。  彼ら 人間をもう『虚』と戦う必要なんてない。  もともとの普通の生活に戻そうっていういい話じゃぁないですか。」 「ーーーーー  だが、ルキアは・・・ アイツは何も知らないし、知らされる事もない。」 「当然っス。   黒崎さん達との関りは深いですけど、所詮あの人は『平隊士』ですから。  尸魂界の最高指令をそうそう何でも知ってもらっては困ります。  阿散井さんも副隊長になって大分経つから、平隊士とは情報量が違うって事、  もうお分かりでしょう?!」 「・・・・・・・」 「それに貴方のこだわっているのは 『そこ』だけじゃないでしょ?」 ーー くそ!  お見通しかよ!      俺の抱えるみっともねえ 猜疑心・嫉妬心・・・・    俺がルキアと付き合っているのは 付き合っていられるのは     同じ尸魂界にいて『死神』だからじゃねぇのか?    もし、黒崎が『死神』で尸魂界に居たならどうなんだ!?    あの鈍いルキアには 己でも気付かないでいる気持ちが    あるんじゃねえのか?    そんな狭量な嫉妬心や自信の無さから出た疑問が 黒崎が居る時の    ルキアの反応をじっと探るように俺に見つめさせる。       一護のルキアに対する気持ちに気付きながら    大きな「借り」を返せないまま    ルキアといる自分が後ろめたい・・ってのもある。    ーーーールキアを手放す気などさらさら無いくせにーーーー    まだ自分の中で決着がつかないでいるのに 今回のこの決定。    俺だけは事前に知っていて、記憶も残る・・・・。   「・・・・・そんな顔しちゃダメッスよ、阿散井さん。   ルキアさんが悲しみますよ。」 「ーーーそれも分かってます。」 「なら、な〜んにも問題ないんですよ。   もう少し自身に自信を持ってくださいよ、阿散井さん。  あら、上手いこと言っちゃったよvvvvv  はははは・・・・・」 扇をばさっと開いて、浦原さんが能天気に朗らかに笑いとばす。 「こっちは なんの問題もなく完璧に済ませますから。  誰にも気付かせないくらい そりゃぁもう綺麗さっぱり忘れてもらいますから。  貴方は貴方のするべき事をしてください。  貴方にしか出来ないことを。」 「・・・・・・・・」 「・・・うーん・・・  なんだったら、阿散井さんの『現世に関する記憶』も一緒に綺麗さっぱり  消去してさしあげてもよござんすよ?」 扇を開いたまま、間近に顔を寄せると一転、意地悪げに片口を上げて歪んだ嘲笑を 見せてにやにやと俺の反応を確認する。 「ーーーーなぁ〜んちゃって・・・・・。   貴方は『副隊長』として尸魂界の行う良いところも悪いところも見て  記憶してもらわなくっちゃぁ。  それが護廷十三番隊の隊長・副隊長の仕事で責務の一つっス。  ま、『副隊長』を解任されてからなら、いつでもここにいらっしゃれば  お安く請合いますよvv」 ーー ホントに食えない人だ・・・・・。    ちきしょ・・・・、経験値が違いすぎってか・・・・。 「ーーーところでそろそろお迎えに行ったほうがいいんじゃないですかね?  あの姫君はけっこう気が短いし、意外に心配性ですからねvvvvv」 「///// なんでもお見通しなんですね・・・・・・」 「阿散井さんが分かりやす過ぎなんでスvvvvv  でも貴方はそれでいいんですよ。   良くも悪くも考える基準がズレてますけど、それでも自分で善悪を  問おうとしてるでしょ。  そのことが一番大事なんっす。  それがいつか尸魂界が万が一暴走した時の抑止力になりますから。」 「///////  褒めてるんすか、それ?」 「はははっ。  ルキアさんに「よろしく」と、たまにはこっちに顔を出すように  言っといてください。」 「厭です!  じゃ、お茶 ご馳走様でした。」  俺は瞬歩でその場を去った。 「!!  ちょ、阿散井さん、今のどーいうことっスか?!  阿散井さん?」

空座高校に着くとまだ明るい時間なのに片付けが少しづつ始まっていた。 窓から元の部屋に入ると、義骸がチャドの横でまるで居眠りしてるように 座らされていた。 ーー あぁ、くそ!  ルキアのヤツ、義骸の顔に落書きしてやがる!! 「茶渡!  ちゃんと見張っといてくれよ。   なんだよ、これ?」 「朽木だ。」   そう言って、(止められる訳ないだろ?!)って顔された。 義骸に入って、顔の落書きを拭っているとルキアが走って戻ってきた。 座っている俺の浴衣の胸倉を掴む、次の瞬間には思いっきり殴られていた。 「ーー いってぇ・・ な、ルキア、てめ・・・・」 「あぁ、恋次君!  やっと戻ったんだぁvvvv」   「恋次、てめぇ 遅えよ!!」 2人がばたばたと俺たちに走り寄ってくる。 俺から離れたルキアが 一護とハイタッチをした次の瞬間、一護が思いっきり 俺を殴り倒した。 「ーーいってぇ・・   ?? ・・・てめーら、いったいどういう」 床に倒れて 殴られる原因が分からず呆然とする俺に井上が腰に手をあてて 睨みながら見下ろしてくる。 「朽木さん、すっごく心配してたんだよ・・・。」 「こんな馬鹿の心配などせぬぞ、井上!  怒ってるのだ!!」 戻るなりいきなり 2人から殴られて呆気に取られている俺をルキアが再び胸倉を 掴んで息継ぎの暇もないほど一気に捲し立ててくる。 「遅いぞ、恋次!!   貴様、虚退治にどれだけ手間 暇をかけておるのだ?!  仮にも副隊長でありながら、ありえないぐらいの時間をかけおって  一体今まで何をしておったのだ?!   伝令神機も持っておったのに、連絡くらい入れたらどうなのだ?!  貴様の状況が分からないからこちらからは鳴らす訳にもいかぬのだからな!!」 間近で見る怒りで紅潮したルキアの顔は 瞳を潤ませて本気で心配していたのだと 俺に伝える。 「・・・・・悪かった、連絡も入れずに遅くなって。」 ぼそりと謝った俺に 掴んでいた袷を思いっきり突き放すと ルキアはくるりと 反対を向いてしまった。 「てめ、ルキアに余計な心配させてんじゃねえよ!!」 今度は 一護が俺の胸倉を再び掴んで引き起こす。 その至近距離に顔を寄せた刹那、 「泣かせるなら、ぜってぇ獲りにいくからな!!」 ーー 俺にしか聞こえないように囁きやがった。 一護の俺の浴衣を掴む手を払い除けて、一護をドツいて 距離をおく。 しっかり身構えて袷の襟を直しながら 言い返す。 「誰が泣かすって!?  ふざけんな!」 会ってからずっと不機嫌な顔していた一護が何かを吹っ切ったような爽やかな 笑顔を俺に見せた。 ーー ?    あぁ・・・・ これでチャラってことか・・・・、気持ちの好いヤツ。    俺の中の蟠りが一つ消えた。 俺もつられて笑い返す。 「貴様等、気持ち悪いぞ。  頭でも打ったのか?」 笑い合う俺らにルキアが怪訝な顔をする。 「ルキア、連絡を入れなくて悪かったな。   ちょっと野暮用を思い出して そっちに寄ってた。  ・・・・で、そろそろ帰るか?」 「あぁ、もう片付けが始まって、我々は邪魔だ。」 「じゃあ!」  そう言って 俺はルキアを片手で抱え上げた。 「下ろせ、馬鹿恋次!  貴様、いったいなんのつもりだ?!」 抱き上げられたルキアが手当たり次第に殴りかかってくるのを腕で受けとめる。 「あ?  だって 帰るだろ?   だが、その靴は借りモンって言ってただろ?  それとも下駄で帰るのか?     ソレはソレで構わねぇが、とりあえず靴は返さねぇとな。」 「・・・・・う、そうであった。     −−小川、どうもありがとう。 とても助かった。」 俺は小川にルキアの足から抜き取った靴を揃えて返した。 受け取る小川はめっちゃ腰が引けていたが、ルキアの満面の笑みにとりあえず 怯えた表情が消え、無言で首を振って頬を赤らめていた。 「井上 素敵な服を作ってくれてほんとうにどうもありがとう。  ずっと大切にする。  一護、茶渡、石田も 今まで付き合ってくれて どうもありがとう。   感謝する。」 俺に抱えられたまま、ルキアがそれぞれに真面目な顔で謝意を伝えた。 あまりに真剣なその様子に 「なになに、朽木さん。   そんな大層なもんじゃないよぉ。」 「ルキア、なんだよ。  気持ち悪ーな。」 「気持ち悪いとは何だ、馬鹿者。  一期一会の精神だ。   この後 またいつ来れるやも分からぬからな。」 ルキアがいつまでも 一護たちに手を振る、空座高校の門を通り過ぎても・・・。

「・・・・で、恋次。  貴様は、一体どこに行っておったのだ?」 一転、不機嫌な顔でルキアが聞いてくる。 「・・・・副隊長として、黙秘権を行使する。」 俺はいろいろ答えたくなくて 答えられなくて上司権限を持ち出して誤魔化した。   「貴様 私を相当の間抜けと思っているようだな。  どうせ、浦原のところであろう。」 「・・・・・・・・」 「・・・・・そして 一護たちも私も互いの記憶を失うのだな?」 ルキアの言葉に俺は 驚いてその顔を見る。 「ふ・・ん。 図星か・・・。」 「ルキア、てめ。 ちきしょ、鎌かけやがったな?!」 俺はルキアの寂しそうな顔を見ることに耐え切れずに 怒ったフリをして 顔を逸らした。 「ふ・・・ん。    あの兄様がわざわざ副隊長会議の日を今日から明日に  変更されたのだ。   私が訝しく思って当然だろう?」 「?  なんだ、そりゃ?  俺は知らないぞ。」 「だからだ。   六番隊から会議の日時の変更要請があったのに貴様が知らぬということは  兄様が変更されたって事だろう?」 「・・・・・・」 「浮竹隊長とてそうだ。   いつもなら嫌がってあまり飲まれないよく効く薬を 昨日は口にされて  「心置きなく現世を楽しんでおいで。」と、仰ってくださったし、  あのお忙しい日番谷隊長もわざわざ十三番隊の隊舎までいらして  「黒崎達にによろしく伝えてくれ。」と仰ってきたのだ。  そうまでされるのには何かしら理由があると思って当然だろう?」 「・・・・・・」 俺は 返す言葉を失った・・・・。   その面々は俺に今回のこの決定をルキアへの口止めを確認してきた隊長達だ。 「貴様だとてそうだ。   今日は貴様と現世の祭を見て回るために来たのだぞ。  一護の代わりに虚退治に行ったのは構わぬが、何時間も戻って来ぬのは  どういう了見だ?  貴様まで変な気の使い方をするな!  ・・・・よもやと思い、心配したのだぞ!!」 ルキアがまた不機嫌に口を尖らせる。 ーー 俺も『隊長達』も ルキアに変な気を回したことでは同列ってことか    普通にしてさえいれば、気付かれなかったってのにな・・・・。    だが、隊長達も俺もこの決定をルキアが知って 暗い辛そうな顔を    見ることを避けたかったのだ。 「私だとて 一護達のことは ずっと気にかかっていた。     藍染との戦いが終わった以上、何時までもあの者たちを私たち『死神』と  関わらせて虚と戦わせていてはいけないと・・・・。  元々、私の不注意、力不足で一護を巻き込んでしまったことから   端を発している事。  アヤツラは 本来我々『死神』が護らねばならぬ存在なのだ。    いつまでもこのままでは 我々の存在意義すら危うくなる。」 辛そうに唇を噛んで、感情を抑えるルキアの顔が切なくなり、髪を混ぜ返す。 「−−−−相っ変わらず 頭固えな、ルキア。 『アイツらを元の平和な生活に戻す』 それだけの事だ。  ーーーーそれだって今すぐ できる訳じゃねえ。   アイツラの霊力の大きさや特殊能力を考えて 安全に戻すってのが   第一条件だから、まだ1年ちょっとかかるらしい。」 俺は ルキアの言葉に黙っていることが馬鹿馬鹿しくなり、自ら打ち明ける。 ーーー全ては杞憂だったのだ。 ルキアは俺の言葉に安心したように少し微笑むと、腕を回して俺の首に 抱きついてくる。 「ーーーー 一護たちとの別離が辛くないわけではないが、  私は全てを失うわけではない。  ・・・・・私はもう現世に派遣された頃の 自分の尺度でしか  物事や人を見れなかった 何も気付けなかった寂しい私ではない。   家族としての兄様の情愛も 朽木の家の者たちの優しさも   十三番隊の仲間も それ以外の護廷隊にも  私を気にかけてくださる方々が居ることも知っているし、信じている。  ーーーなにより 貴様が  恋次がいる・・・・   そうだろう?  傍にいてくれるのだろう?   たとえ 私が他の全てを失うような事があったとしても。」 「ああ、ルキア。」 俺は返事とともにルキアを強く抱きしめる。 「俺は もうお前から離れないし、離さねぇよ。」 俺は指先でルキアの髪を撫で下ろし、そのまま顎にそっと添えて 仰向けに 視線を合わせて 口付けようと・・・・・ 「・・・恋次・・・   安心したら、腹が空いた。」 突然、ルキアがにやりと笑って 雰囲気をぶち壊すようなことを言い出した。 ーー ・・・あぁ?!   なんだ、この色気の無い展開は!? 「・・・・一護達といる間に、屋台もたくさん出てる祭りだったんだから、  何か食ったんじゃねぇのかよ?」 ーー 貴様の所為で食欲がなかったのだ!    無事は霊圧から分かっていた。      だが、なかなか戻ってこない恋次に苛ついて・・・食欲などあるものか。    「うるさい!!   これから『さくら』に行くぞ!  当然 貴様の奢りで! だ。」 「ちょっと待て、奢るのは構わねぇが その【当然】ってのはどういう意味だ?」 「この私を怒らせたせ詫びだ。  異論はあるまい。」 ーー ちきしょ!  コイツのこの偉そうな言い様はちょっとムカつく・・・・。 「恋次、その様に不機嫌な顔ばかりしていては 恐い顔がますます恐い顔になるぞ。」 ーー 誰の所為だと・・・    !! 「・・・・ふふん・・・  一護に 派手に殴られたモノだな。  義骸開発のヤツラに相当文句を言われるぞ。」 そう言って、不機嫌に顔を逸らした俺の殴られて切れた唇の端を細い指先で 軽くなぞった。 不意にルキアが口付けてくる。 そっと優しく啄ばむように唇を寄せて、小さな舌で傷がなぞられた。 ぞくりと走る感覚は 触れられた傷の痛みなのか ルキアに煽られた俺の熱情なのか。 しばらくされるに任せていたが、耐え切れずに俺からも求め与えるように 舌を捕らえて絡ませる。 一瞬 浦原さんの言葉が脳裏を駆け抜けた・・・   「俺にしか出来ないこと」 が、ルキアの甘い吐息が俺の思考をあっという間に霧散させた ーー ・・・・・・理屈じゃねぇんだよ、浦原さん    ルキアが俺の全て それだけのこと

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