空座高祭 1



「じゃぁ、このクラスは メイド・バトラー喫茶で決定ね!!」

文化祭のクラス実行委員として 司会をしていた本匠がそう言った。
本匠のエロパワー満載で推し進められた企画ではあったが、クラスの男女の
総意に近いとあって 流石のたつきも決定を覆すことは出来なかった。

「審査が簡単に通るようにただの『喫茶店』で書類は出しとけ。
 ・・・・なんでもいいから、面倒は起こすなよ!  以上」

ーー さすが、越智先生!  言うことが違う!!
   二年目もそのままの持ち上がりで、アバウトなこの先生でよかった。
   だが、問題は先生じゃない。 一護だ。
   一護がすげぇ顔してる・・・・・。        やばかったか?
   いやいや、これは俺だけの決定じゃないから!!

推進派トップの一人の啓吾は 少数派にあたる黒崎一護の顔が苦虫を潰したような
渋い顔になっているのに気付いて少し怯えた。

当の一護は自分の内で激しく葛藤していた。

ーー 俺が調理、裏方ならともかく バトラー(執事)をやらされるってのも
   かなり苦しい企画だが、ルキアがメイドってどうなんだよ。
    


「休憩やメイド・バトラー、調理・洗い場などの時間割り振りはこちらで
 調整するので部活の時間割がある人は早めに提出してください。」

実行委員の中でも一番任せて安心そうな国枝がそう言うと
〔彼や彼女、仲のいい友達と同じ時間帯に休憩を取りたい!〕 と争奪戦が
始まりそうな勢いに殺気だったクラスが落ち着きを取り戻した。

「一護、僕も実行委員だから安心していいよvvvv」

前に座っていた水色が振り向くと いつもより気難しい顔の一護に気付いて、
小さくそう囁いた。
「だから、問題はそこじゃなくて ルキアにメイドはぜってえ無理なんだって!」 
ホントは声を大にして言いたかった・・・・・・・・。


「なにやら知らぬが楽しそうな企画だな、一護vvvvv」

ーー やっぱり!! 

自分が何をするのか、何をさせられるのか全く理解してないくせに『空座高祭』の
『祭り』って言葉を単純に理解して嬉しそうにわくわくと瞳を輝かせてルキアが
俺にそう言った。

ーー くそ!  その笑顔を台無しにしたくないから 黙ってるんだって!
   だが、なによりこんな無防備なルキアを『メイド』で出すってのか?!

やるせない苛々とした思いが深い溜息となって出る。  
それでもとりあえず ルキアには引きつった笑顔を返す俺。



最近では ルキアの何気ない言動や調理実習、化学の実験等で コイツの並外れた
鈍臭さ、無器用さ、浮世離れしたところが露呈されて周囲に少しづつ
『本当はいいお家のお嬢様』と理解(誤解)されつつあった。

だから、見ているこっちがハラハラと心配して作業効率を落としそうな『お嬢様』
のルキアと驚異の味覚センスの、調理させたら 何を作り出すか分からない 
あの『井上』を 『絶対 調理場には入れない!』  
そんな声に出来ないクラス全員の思いが ルキアと井上だけは メイド専門に
決定させていた。   

2人以外のクラス全員は 午前: 昼: 午後: の2時間半ごとに区切って
3交替制で持ち場を変更、または休憩(自由時間)となった。 

クラブの当番が無い限り昼の時間帯は ほぼ全員がホール(メイドかバトラー)か 
調理・洗い場を担当。
後は 午前か午後に休憩(自由時間)か 昼に担当していないホールか 
調理を担当する。

  
あ、茶渡だけは「店長」って名前の警備主任を昼と午後担当。
午前中に休憩(自由時間)が割り振られ、その間の「店長」は俺だ。
茶渡が戻ったら、昼の間はバトラー(執事)! この俺が・・・・・・lllllorz
2時間半の辛抱だ。

13時半からは 自由時間だが、実質『子守』と同じだと覚悟していた。
ルキアが偉そうに「案内、説明しろ! 私の任務を手伝え!」って言っていたから。


現在、ルキアは 虚圏での戦闘後を 『現世の生活を体験して総隊長に報告』という
『特別任務』 に就いていたーー 
俺は 馬鹿馬鹿しくてはた迷惑な任務この上ないって思ったが、ルキアが(現世の)
俺の家でこれからも過ごせるって決定に俺の家族と井上は めちゃくちゃ喜んでいた。
(だが、保護者としてオヤジに『挨拶』に来た白哉はすごく不本意な 
 嫌そうな顔を俺に見せていた。)

だが、家で日々の学園生活をオヤジや妹達に嬉しそうに話すルキアの姿を見ていると 
きっと尸魂界でも山本のじぃさんや白哉にも同じ様にあんな顔で『現世の生活』
を報告して、二人のあの厳しい顔を緩ませているのだろうって
容易に想像できて笑える。
同時に俺はこのままずっとルキアが現世に居られるくらい平和が続けばいいと思った。
 

ーー 《 空座高校祭 》 当日 ーー


「きゃぁ〜 可愛い〜!!」
「似合うよvvvvv」
「すごいよ!! 石田君、織姫vvvvvv」
「さすが、手芸部!!」
「うわ!  お人形さんみたい!!」
「かっこいいいよぉ!!」



隣の部屋で女子達がきゃぁきゃあと着替えていた。


「なぁ〜っんで 俺らは制服にギャルソンエプロンだけなんだよ!!」
「そりゃぁ 予算の関係でしょ。」

啓吾がぼやくと 水色が携帯でメールしながら冷静に応じる。

「君達、そうはいうけど メイド服を見てもらえば、予算をそっちに大分回した
 甲斐があったと納得してもらえると思うよ。」

メイド服製作責任者の石田が得意気にそう言った。

「なんで一護だけ カッコイイ黒のスーツなんだよぉ!!」
「しょうがねえだろ!  『店長』だから。  
 スーツがあれば、それを持って来いってのを(ルキアが家で喋りやがるから) 
 聞きつけたオヤジが張り切って自分の昔のスーツをわざわざ直したから・・・・・」

「黒崎、襟が変だから・・・・。   ーーーちょっと   ・・・ちが!
 もう僕にやらせろ、見ていて苛々する!!」

「うるせえな!  
 仕方ないだろ、着慣れねえもん着てるんだから!!」

石田が俺の襟を直して 蝶ネクタイの留め金をかけて、形を直した。

ーー なんかその距離感が居心地悪い・・・・・。

ざわついていた教室が水を打ったように急に静かになった。
着替え終わった女子が 井上が ルキアが 入ってきたのだ。

白い大きなギャルソンエプロンを腰から長くしたバトラー(執事)の恰好をした
たつきにエスコートされてひらひらしたレースがいっぱいついた白いエプロンに
ピンクのメイド服の井上。
黒いスーツでバリッと決めた茶渡に守られるように 白いレースや黒のリボンが
一杯ついた黒いふんわりしたワンピースの『ゴスロリ?』風なルキア。

ーー まるでどっかのショーケースで見た西洋人形みたいに似合いすぎ・・・。

驚きのあまりその場の全員が声を出すのも 息をするのも忘れた感じ。
その一瞬後、教室中は大騒ぎ。 
特に啓吾、本匠、製作者の石田のテンションが上がってた・・・・。


    


 

偉そうなくせに無頓着・無防備ルキアに 心配性な一護。 長い(?)一日になりそうです・・・・・  **お話部屋と一護部屋ほぼ設定は同じですが、全くの別話です。 TOP