空座高祭 2




テンションの高い啓吾、製作者の石田、どこからともなく現れた本匠によって
メイド服を着たルキア達を取り囲んで教室中はすごい騒ぎになった。

「うぉおお・・・・ 皆 超可愛いっす!  最高っす!!」  
「そうだろう、だから言ったじゃないか。 
 今回の工夫点はだね・・、まずこのスカートをふんわりさせるためにーーー」

石田が得意気にメイド服について講釈し始めるが誰も聞いちゃいねえって!!

「オレはこのまま客になってサービスされたい!! 
 井上さんvvv ルキアちゃんvvv オレを最初の客でお願いします!」
「はいはい、啓吾。 
 それ以上近寄るんじゃないわよ!  
 あたしの大事な姫とお嬢が穢れる!!」 どかっ!!(啓吾を張り倒した)
「このあたしを更衣室に入れなかっただけあるわ、2人ともとてもいい・・・
 はぁ、はぁ・・・ なんていうのかしら・・・
 脱がす喜びが掻きたてーーぐはっ!!」
たつきの裏拳が本匠に炸裂、廊下に蹴り出される。

わいわいと口々にそれぞれが感想を言い合う中、ルキアだけは冷静で普段と
何ひとつ変わらねぇ、しらっとしている。

こいつは 子供の頃、生き抜くことで生きるだけで精一杯だったと言っていた。 
大貴族・朽木家の養女になってからは 『死神として鍛練』する事と、豪奢な着物や
化粧で彩られた朽木家の顔で自分を律する事が大事だったと話していた。
そんなルキアは『女』として普通に着飾ったりする楽しさを知らないみたいだ。

自分の容姿が綺麗だって 人目を惹くってことも知らないんじゃねぇか・・・
そんな事を思わせる。 


「石田、この服はとても良いのだが、このスカートは広がっているので
 机の間を歩き難いのだが。」
「それよりスカート短すぎじゃね?」

つい、俺も余計な口を挿んだ。

「あぁ・・・黒崎、そこは心配ご無用。 
 僕のやることにぬかりは無い。
 ちゃんと下にーー ////////うわ、朽木さん?!」
「あぁ、これのことか。」「/////ルキア!」

ルキアがスカートを持ち上げて白いごてごてとレースがたくさん付いた
少し長めのパンツ(?)を皆に披露する。
俺は慌ててルキアのスカートを下ろした。

「ん? 石田。  これは見せても大丈夫なのであろう?」
「//////// ちが、ちがーう!! 
 僕は見られても大丈夫なように履いてくれって言っただけ・・、
 黒崎、睨むな!」
「?」
「朽木さん。 あのね、万が一見られても大丈夫だけど、
 自分から見せるのは大丈夫じゃないから      だから・・・あの・・」
「??? 井上?」
「だぁっ!  いいから、二度とスカートを捲くるな!!」
「・・・・・・・わかった。  
 だが、一護。  その様にいちいち怒鳴らなくとも聞こえる。」

唇を尖らせてはいるが、少し赤い顔をしてルキアがそう言って顔を逸らす。

ーー どうやら、不味いことをヤラかしたってことだけは伝わったらしい。

「悪りぃ。」

俺はこの自分自身に無頓着な死神の行動が心配で放っておくことができない。
『現世の生活ルールを知らない』って以前に『女』として何かが欠けていて 
つい口煩く言ってしまう。


「パンパン!   はい、みんな!  そろそろ開店するから配置について!」

クラスの学祭実行委員でもう一人の受付係・国枝が手を叩いて騒ぎを一蹴して、
準備を急がせた。

「ルキア、いいか?  お前はぜってぇ余計なことをするなよ。」
「余計なこととは何だ、一護?!  無礼者め!」
「黒崎! いつまでも可愛い彼女と遊んでないで、受付の準備を手伝って!!」
「わりぃ、今行く!」

受付の設置された廊下に出ると、一緒に受付をする国枝にさっきの
言葉を否定する。

「『彼女』ってなんだよ!? 
 ルキアとは 別に付き合ってねえって言ってんだろ! 
 オヤジの義理でうちに居候してるから 面倒見てるだけだって・・・。」
「・・・ふーーーん。」

興味なさそうな、信じてなさそうな返事とともにじろりと見られた。
俺は学校でからかわれる事が嫌でルキアと付き合い出したことを隠し、
言われればいちいち否定していた。 



クラスの前の廊下には すごい人数が既に並んで開店を待っていた。
しかも俺が受付に立った途端にざわめきが起こる。

『アイツいつも彼女とバスに乗ってるヤツじゃんか・・・。 
 何だよクラスまで一緒なのかよ。』

ふと、聞こえた声に居並ぶ客を見渡せば、同じバスにいつも乗ってルキアを
見ている他校のヤツラがいた。

ーー うぉっ、ヤツラ学祭にまで来たのかよ?!  

バスの中同様、目が合った途端にそいつ等と俺は ガンつけて睨みあった。
だが、国枝にやめろとばかりに脇腹を小突かれた。





廊下の先、遠くから女達のきゃぁきゃあ言うような高い声のざわめきが次第に
大きく聞こえてきていた。

「失礼して通らせて頂きます。」

そう朽木の爺さんに先触れさせて 思わず賞賛したくなるほど見事に霊圧で
人込みを左右に分けて 誰にも触れさせないように自分のスペースを
確保してスーツ姿の白哉が現れた。

ーー すげえ、白哉!!  霊圧ってそういう使い方もできるのか・・・。

白哉の霊圧に気付いたのだろう、ルキアが教室から飛び出して来た。

「白哉兄様!!  清家!  わざわざいらしてくださったのですか?」
「うむ、久しぶりだな。」「ルキア様、お元気そうでなによりです。」

ーー 一週間前に尸魂界に帰った時に会っているから全然久しぶり
   じゃないだろ!?

満面の笑みで白哉達を迎えるルキアを見て なんとなくイラッとして 
心中でツッコミが入る。

「・・・ルキア、何やら変わった服だな・・・・。」

そう言うと白哉が俺に睨むような冷ややかな視線を投げてくる。

「よぉ 白哉、久しぶり。  
 一応 念のため言っておくが、その服は他のヤツのデザインで俺は
 何も関係ねえからな。」
「一護、無礼だぞ!!  兄様になんて口の訊き方をするのだ?!」

真っ赤な顔でルキアが白哉の擁護をする・・・・。 ブラコン・ルキア!
そんなルキアの様を目にした俺は 面白くなくて遠く知らん顔をする。

「まぁまぁ。 
 ルキア様がお元気で笑顔でいらっしゃるなら、その様な・・・些少な
 ・・・・ いや、ちとおみ足が・・・・。
 黒崎殿!  コレはいったいどういうことですかな?!」

今度はジジイが俺に詰め寄ってくる。
2人の反応にさっきまでの満面の笑みが消え、反省するようにがっくりと
ルキアがうな垂れる。

「・・・・兄様、申し訳ありません。 
 このような現世の服など合うわけーー」
「ルキア様、その様なことはありません!! 
 とても可愛らしゅうございます!!」
「ルキア、清家の言うとおり。  似合っている。」

ルキアの言葉を遮って ジイさんと白哉が慌ててフォローした。
はにかんだようなとても可愛らしい笑顔でルキアが白哉を見上げる。

ーー ちきしょ!!  白哉の取り繕われた無表情が超むかつく。
   ルキアのその笑顔にヤラレてるのは傍目にも明らかで 俺にさえ
   霊圧のブレからモロバレなんだから、
   素直にルキアに笑顔を返してやれって!!  
   ホント、白哉のヤツは 義兄の所為かまだまだダメ・・・・ 
   いやいや、そのままでいいから!
   これ以上ルキアにブラコンになってもらっちゃ困る。

この超目立つ、見目の良い馬鹿兄妹のやり取りは周りの連中の注目の的と
なっていた。
最後のルキアの笑顔が 白哉の無理矢理な無表情が 廊下に居並んだ
ルキアファンだけでなく 女どもまで悩殺したのは間違いない。

「兄様を先にご案内しても構わないだろうか?」

おずおずと俺達・受付に申し出たルキアの質問に、国枝が「異論があるか」と
ばかりに廊下に居並ぶ順番待ちの客に視線を流す。
朽木兄妹も同じ様に見渡す。
白哉はやや威圧的に視線を流す。 
ルキアは上目遣いの可愛らしい心配そうな顔で・・・・。
そんな視線を受けて、並んでいた全員が赤い顔をして無言で頷く。  

ーー 無敵だな、朽木兄妹。

白哉の出現で 一瞬で異様な雰囲気になった俺らの教室の前。
この後の開店ががち恐い。



 
教室の一番奥でキッチンとの窓口から一番近い席だけがルキアの担当テーブルだ。
その一つしかない担当テーブルに白哉が座っている。  
(ジイさんは一人廊下に出した椅子で待機だ。)

俺らの教室の机と椅子に座っている白哉。  
その姿だけでもなんか信じられない異様な光景だが、その白哉をルキアが気遣い
甲斐甲斐しく世話する様は まるで新婚家庭を見ているようで超羨ま・・・・・
いや、超ムカツク!!

俺の当初の予想に反して 廊下での会話で【2人は兄妹】だと周知されたお陰で 
大きな混乱や他の客(特にルキアファン)からの
「ルキアを自分達のテーブルに付かせろ。」とか、
「ルキア担当のテーブルが空くまで待ちます。」といった要求が出なかったので
正直 助かった。 
何気に白哉が睨みを鋭く効かせていたからだ。  
あの白哉・兄を前にルキアについて何か言える『人間』など
いるわけが無い。


結局 白哉は2時間も居た。
その間に注文したものはコーヒーとルキア用のパフェとジュース。
ルキアを斜向かいに座らせて、楽しげに話をさせて さながら超恋愛期の
バカップルの様にお互いの世話を焼いて過ごしやがった。

その間 俺は国枝に「余所見をしてないで、仕事に集中して。」と何度も注意された。
ちきしょ。




「兄様をお送りしてくる。」 

そう言ってルキアが白哉と清家とともに教室を出て行った。
ジイさんが通常の支払いの他に二万円もカンパだといって置いていった所為って
訳じゃないだろうが、国枝も快くルキアを送り出した。
(アイツの担当はどうせテーブル一つだしな。)


廊下に再び並んでいたルキアファンが後を追けていくかのように列を離れたのに
気付いた俺はその後を慌てて追いかけようとしたが 国枝に止められた。
丁度客の入れ替えの時間帯で受付待ちが大勢いたからだ。

「黒崎、あんた、心配しすぎだって。
 お兄様もお付きの人も一緒だったから、朽木さんは大丈夫だって。」
「だが、あいつら・・・・・!」
「こんなに人目があるところでなにがあるっていうの?
 あ〜ぁ、それより朽木さんが誰とも付き合おうとしない訳よね。
 あんな素敵なお兄様がいたんじゃねぇ。
 彼女を好きな男はよっぽどじゃなきゃ一生片思いね・・・ きっと。」

可哀想にって同情するように国枝が見てくる。

ーー うるせえ!  ちゃんと俺と付き合ってるって!! 

俺は必死で言葉を抑えた。

「やっぱ、行って来る。  茶渡が戻ってきたからいいだろ。
 悪ぃ、茶渡。  まだ時間が少し早いけどここ頼んでもいいか?」
「あぁ。」

俺はルキアの霊圧を追って駆け出した。







階段を下りた玄関脇の廊下の隅に物置のようにごちゃごちゃと備品やダンボールが
積み重ねられた横にまるで追い詰めらた様にルキアと4人の男達がいた。

「・・・じゃ 本っ当にいつもバスに一緒に乗ってくる男とは
 付き合ってないんですね?」
「ええ、付き合ってなどおりません。 
 彼はただのお友達ですわvvvvv」

猫を被った例の調子でにこやかに でも はっきりとルキアがそう答えていた。
その答えは俺がいつも言っていたセリフだったし、ルキアにも誰かに聞かれたら、
そう言うようにと俺が言った通りの答えだったが、実際にルキアの口から聞くと 
ずきんと胸が痛んだ。



「ルキア!!  まだお前の当番の時間帯だから、早く教室に戻れって。」

俺はルキアを助けるために声をかけ、間に割って入った。

「おぉ 一護、助かったぞ。
 何やらこやつ等は貴様にとても興味があるらしい。
 貴様に関する質問がとても多かったぞ。
 私はまだ仕事があるゆえこれで失礼するが、なにやら質問があるなら本人に
 直接聞くがよい。」

そう言ってヤツラににっこり微笑むとルキアが教室に駆け出していった。
そんな見当違いな理解をしたルキアに呆れた・・・・・が。
頭をがしがしと掻きながら、なげやりに仕方なく聞いてやった。

「てめーら なんか聞くことあるなら 答えるぜ。」

当然首が横に振られる。

俺はルキアを追いかけるようにさっさと教室に戻る。 
途中の階段で下から携帯のカメラを構えてるヤツラに軽くぶつかって、
撮るのを邪魔しながら。

教室の手前でやっと追いついた俺にルキアが言った。

「一護、貴様のここでの生活や 立場もある事ゆえ、わかるが、
 だが、あのように真剣に問う者達に嘘を吐くのはとても心苦しい。」

だが、すぐに俺の顔を見て、

「そんな顔をするな、一護。 
 すまぬ。 仕方ないってことはわかっておる。」

ーー 馬鹿やろう!  てめーの方が辛そうな顔してるって。

このことについて俺はもっと話したかったが、俺たちの姿を見た国枝に
声をかけられ断念する。

「あ、朽木さんvvvv 黒崎!  無事、戻って来てくれてよかった。
 遅いから 少し心配したわ・・・・。 
 朽木さん、いい、これからは絶対にお兄さんを相手した時みたいに
 愛想よくしないでね。 
 できるだけ無表情で接客してねvvvv」

戻る早々、ルキアは俗に言う『ツンデレ』狙いらしいキャラ作りをする
ように注意を受ける。

ーー コイツの笑顔にはとても威力があるからこの『ツンデレ』作戦は
   俺も賛成だ。

「黒崎、アンタは 眉間の皺を消して 愛想よく対応してね!!
 トラブル(喧嘩)は極力避けてね?  頼んだわよ!!」

俺はルキアと少し話がしたかったが、店内はとても忙しく

「黒崎、遅いぞ! 
 さっさと自分の担当テーブルを引き継いでくれ!
 まったく いつも君は・・・・」

キッチンからギャルソンに役割変更になった石田が小言のように
煩く言ってきているので それどころじゃないと諦める。






最初は怖々とロボットのようにぎこちなく飲み物や食べ物を運んでいた
ルキアだったが、理屈屋の石田からコツを聞くと難なくスムーズに
運べるようになり、他のテーブルも手伝っていた。

一応死神として、剣を振るっているのは伊達じゃない。
運動神経はそれなりにあるからな。

だが、俺は上手く笑顔ができなくて客をビビらせて、石田に冷たい視線を
投げられていた。

ーー 可笑しくも無いのに笑えるかっての!!

「ふふん・・・一護、貴様。  この程度のこともこなせぬのか?」
ルキアにこんな風に馬鹿にされると正直めちゃめちゃ悔しい!!  
負けられるかよ!
「黒崎君、あのね。  最近の面白かったことを思い浮かべたり、接客の相手を
 家族や他の人に置き換えて想像したら、自然に笑えるよvvvvv」

流石に見かねたのだろう、井上がそんなアドバイスをくれた。

石田と啓吾がまるでホストのように片膝を着いて接客していた。
悔しいが背に腹は変えられねぇ! 俺も膝を着いて話す相手をかりんや柚子だと
思って接客してみる。

とりあえず成功したみたいだ。
笑顔を作った俺に客からもなんとか笑顔が返ってくるようになったし、石田から
やれば出来るじゃないか・・・的な笑顔と親指を立てるって言うジェスチャーが
あったから。
なにより、ルキアから悔しそうな 複雑な視線が投げられた。
俺は少し機嫌よく仕事をこなした。


「なぁさ、水色。  一護と石田ってば なんなの!?
 めっちゃギャルの視線集めてるんですけど!!」
「浅野君、今時ギャルなんて誰も言わないんじゃないですか?」
「うわ?!  水色、何その敬語?  だし、そうなの? 言わない?
 ってか浅野君って・・・、また俺ってば そんなウザキャラ?」

ーー 君だって黙って接客してれば、充分女の子達から注目の的だと思うよ。
   絶対言わないけど。
   でも正直、石田と一護のあの接客ブリには驚かされた。
   彼らってば、ホントその気になったら 意外に客を赤面させるほどの笑顔で
   接客が出来るんだvvvv   

そうして、昼の忙しい時間帯は上手く回っていった。





「きゃ、やめて!  離してください!!」
「な、この後休憩なんだろ? 俺らと付き合ってくれよ。」

性質の悪そうな2人組の男が井上の手首を掴んで絡んでいた。 
たつきも飛んで来たが、その前に井上自らの手刀で男の手が払われた。

「いてててて・・・・!  手首が折れたって!!  
 このあま、どう落とし前つける気だ?」
「どこがどう折れたって? 
 なんだったら、俺が本当に救急車に乗れるようにしてやってもいいんだぜ。」

俺は騒ぐ男の手首を後手に捻り上げた。
もう一人の相棒の男も騒ぎに気付いて飛んで来た茶渡が、
素早く後ろから押さえ込んでいた。

「うぁっ、思い出した!!  
 お前らってば、馬芝中の黒崎と茶渡じゃね?!」
「いてててて・・・・!  馬鹿、もっと早く言えって・・・」
「思い出すのも遅せえし、もうとっくに馬芝中じゃねえって!!」
「放してくれ、俺らが悪かったって。
 ちょっと騒ぎを起してくれって 頼まれただけなんだって。
 お前らみたいのが居るって知ってたら、
 こんな割の合わない仕事引き受けなかったって。」
「仕事?  仕事って何だよ!! 
 おい、お前ら誰に何を頼まれたって?」








 

すみません。  長い・・・・。 しかもこんなところで・・・・。 さらに一護が客を赤面させるほどの執事(っていうよりギャルソン)っぷりを 描きたかったのに抜けていたので加筆しちゃいました。 【12/9/2008】 TOP