空座高祭 3





「放してくれ、俺らが悪かったって。
 ちょっと騒ぎを起してくれって 頼まれただけなんだって。
 お前らみたいのが居るって知ってたら、
 こんな割の合わない仕事引き受けなかったって。」
「仕事?  仕事ってなぁ何だよ!! 
 おい、お前ら誰に何を頼まれたって!?」
「ははは・・・ すごいな、黒崎。  
 未だに中学時代の悪名が幅を効かせてるんだなvvvv」

今の騒ぎで井上が無事だったので安心したのだろう、気持ちに余裕のある石田が
俺をそう茶化してくる。
こういう時、同じ様にからかって来るはずのルキアが何も言ってこない!?
・・・・教室中見回して探す。
だが、ルキアの姿はどこにもなかった。
俺は嫌な予感、いや不安に囚われ、焦りが怒りとなって表れる。

「ちょっと待て!  ルキア、ルキアはどこだ?
 まさか・・・てめーら?!  ・・・ いいから早く言え!  
 誰に何を頼まれたって?」  「いて ぃてぇ!!」
「黒崎、落ち着けって!」

男の腕をキツク締め上げた俺を石田が止めた。

「もしかしたら、トイレとか、何か用事でどっか行ったとかーー」

国枝の言葉を即座に否定する。

「んなわけないんだって!
 アイツはいつだって伝言くらい残してから行くって・・・・。 
 てめ、いいから誰に何を頼まれたか言えって!」
「言う言う!  頼むから、落ち着いて聞いてくれ。  いてぇって。」

「ーーーなんだよ、何そんなに興奮してんだよ。」
「そこのテーブル担当の黒い服の女が誰とも付き合ってないって聞いたから
 呼び出しするのに ちょっと騒ぎをおこしてくれってーー」
「なんかこのクラスには呼び出しを邪魔するやつがいるからって・・・。
 ちょっと騒ぎを起しゃ 2千円払うって、そう頼まれたんだって。」

俺の心配からくる怒りの所為で異様な緊張感が漂っていた教室内が暢気な恋愛絡みの
話だと分かり、不安が安堵となって一瞬で気が抜けた。
だが、俺に対する視線が剣呑になる。

「なんだ 黒崎が朽木さんを過保護にガードしてるから、こんな大事に
 なったって事じゃないの・・・?」

国枝が呆れたように俺を睨む。

「そうだよ、黒崎。  あんたったら、騒ぎ過ぎ、構い過ぎなんだって。」

夏井までが遠慮のない言葉を吐く。

「そうだ、そうだぞ、一護! 
 でもさ、そんな手の込んだ告白しようってヤツはいったい誰?」
「「そんな事、言えるわけない!!」」

啓吾の言葉に騒ぎを起した二人組みは即、怯えたように口を噤む。
再び不安が胸をざわつかせる。



ガッ!!



一護が押えていた男の後頭部にいきなり頭突きを食らわせた。

「ちきしょ、テメーら良い加減にしろよ!
 そんなつまらねぇことで・・・・!
 アイツ、あれで・・・・
 この学祭をめちゃめちゃ楽しみにしてたんだって!!
 家でも盆を持って練習したりして・・・
 ホント無器用なくせに馬鹿みたいに一生懸命ーーー くそ!」

いつも以上に眉間に皺を寄せて苦しそうな表情で一護が誰にとも無くそう言った。

「石田、お前さっき言ったろ・・・俺の悪名がまだ幅を効かせてるって。
 ホントそうなんだ。
 俺は・・・・からかわれたく無いって事もあったけど・・・それより
 アイツが・・・ ルキアがその悪名の所為で変なヤツラに絡まれたり、
 余計な火の粉を被る事のほうが嫌だったんだ。」
「「「黒崎?」」」「「一護?」」
「だけど、今日のことでよくわかった!  
 公表しない方がデメリットがデカイってわかったからはっきり公表する!
 ああ、もうくそ///////ーーー俺は朽木ルキアと付き合ってる!
 今まで否定して、嘘吐いてて悪かった!!」
「は・・・ん。  やっと言ったな、黒崎。
 クラス内では 君らは付き合ってるだろうって 皆そう思ってたさ。
 でも君らは付き合ってないってムキになって否定するから、変だとは思って
 いたけど・・・・、君がそこまで朽木さんを大事に考えてるって分かって
 嬉しいよ。」

クラスの皆の気持ちを代弁するように石田がそう言って微笑った。

「え? そうなの?  気付いてなかったのって・・・ もしかしておれだけ?
 一護ぉ・・・・ 俺の女神、ルキアちゃんと・・・ お前ってば・・」
「/////石田、茶渡、悪りぃ、後頼んだ。  もういいわ、こいつ!
 啓吾、ごめん。」

少し赤い・・・けれど、ずっと言いたかった事を言ってすっきりした顔の黒崎は
腕を締め上げられても口を噤む馬鹿を石田に突き飛ばした。
瞳を閉じて神経を集中させてルキアの霊絡を探し それを掴むと、白哉がしていた
様に人込みを霊圧で左右にかき分けながら目的に真直ぐ走り出した。






黒崎が走り去った教室。
ボキボキと指を鳴らす茶渡泰虎の迫力と石田の頭脳を使った脅しに負けて、
二人はあっさりと3年のやはり素行の良くない男の名を口にした。

思わず石田は溜息を吐いた。

ーー こんな姑息な手段を取るからどうせ禄でも無いヤツだろうと最初から
   予測はしていた。
   強引で問題を起してばかりの『君塚将汰』だと分かった。

   なんていうか・・・見た目が小さくて華奢だから 弱そうに見える所為か、
   一見上品なお嬢様! その実は・・・・ってギャップの所為なのか、
   朽木さんは その手の男に好かれる傾向があるような気がする。

   もっとも黒崎なんかは庇護しなくてはならないとまで思ってるようだ。
   僕には『死神』の彼女がそんなに弱いようには感じられない。
   今日だってきっと相手が強引に迫ってくれば、彼女ならにっこり微笑んで
   返り討ちにするだろう・・・・。

   ただ・・・ 彼女の強さにはどこか脆いところもあるような気もする。
   まるで そこを叩けば大きな岩も一瞬で破壊することができるような
   『傷』に似た、脆さを孕んでいるところがある。
   たぶん、黒崎はその『傷』が何なのか知っているのだろう。

   僕は彼女の脆さ、弱さに気付いても知りたくはない。
   あの黒崎が全力で護っているのだ。
   今更僕まで心配する様な事態はごめんだ。
   それよりも・・・・今までそうじゃないかと薄々感じていたけれど、
   はっきり黒埼から聞かされてショックを受けている井上さんを
   慰めてあげたい。
   気丈に明るく振舞っている彼女は痛々しくて、僕の胸を締め付ける。
 






「朽木ルキアさん・・・・だよね? 
 越智先生が悪いけどちょっと化学準備室まで来て欲しいって。
 なんかさっき他の子に伝言頼まれたんだけど・・・・・。」

自分の担当テーブルに食事を運び終わり、他のテーブルを手伝おうと教室の隅に
立ってぐるっと見回していたルキアにそう隣のクラスの女子生徒が先生からの
伝言を告げた。
普通の生徒なら何故今この学祭の最中に先生が呼び出すのか不審に思うの
だろうけれど、現世慣れしていないルキアには その女子生徒から伝わる不安な
様子が気になっただけで そのままにっこりと返事をする。

「わかりましたわ、わざわざありがとうございますvvvv」

直後に井上の叫び声がして、足を止めて振り返ったけれど すぐに一護が
相手の男を後ろ手に押えていたのを見て 安心して教室を後にした。





「失礼します。  越智先生、朽木です。」 ノックの後、そう声をかけても先生からの返事はなかった。 さして広くもない化学準備室だったが、薬品などの入れるためのスチール製の棚を 多く並べて コの字型の通路を作っていた。 そのコの字の通路の終わりが化学室へのドアに繋がっていたので (もしや、そちらに先生が移動されたのやもしれぬ。) と思い、念のため中を通って行くことにした。 ノブを回してドアを中に押し開いて、足を踏み入れた途端に自分が開けたドアの影から 手が伸びて口を塞がれ、後ろから抱き留められた。 反射的にふわりと浮いた足を 後ろの自分を捕らえた人間の足の脛めがけて大きく振り、 蹴った。 「いてえ!!」 上手く命中したのだろう、男の姿勢が大きく崩して 膝を着いてその場に座り込んだ。 だが、こういう場合 通常自分を拘束しているはずの手が外れるか、緩むかして次の反撃が できるはずだった。 だが、この相手は 逆に拘束する手を強く締めた。 「くそ、痛てえじゃねぇか・・・。  だが、残念だったな。  コレでもう反撃できないだろ?」 正座するように座り込んだ男の膝に足を伸ばして座らされ、両腕ごとお腹のあたりを強く 拘束されていては 悔しいが男の言うとおり もう蹴ることも腕を動かす事もできなかった。 ルキアは身体を捩り、拘束から逃れようと せめて腕だけでもはずそうしたが 男の腕が さらに締め付けてきた。 頭を振って頭突きをしようにも強く口元を抑えられて男の胸元に押し付けられて 全く動かす事ができなかったし、何より呼吸さえ思うようにできなかった。 口を押えるその手を噛もうとしたが 厚手の布が宛がわれていてそれも不可能だった。 考えられるだけの反撃は実行してみた。   唯一動く足を大きく上げて 鼻息荒い後ろの男の頭を蹴ろうとしたが、口元の布が放つ 強烈な臭いに頭痛がして意識が朦朧としてくる。 なんとか振り上げた足さえいつもより重く、思うようには上がってくれなかった。 ーー 嫌だ!  嫌だ!  この男の放つ気はすごく気持ちが悪い!    まるで統学院の時のあの4人みたいに・・・・  一護!  嫌悪感が大きくなるのに連れて、意識も身体も重く沈んでいく。 ーー 一護! 一護 一護 一護 一護 一護 一護 叫ぶように頭の中で繰り返し呼ぶ。 ただ もうそれしか考えられなかった・・・・・ そうして意識は闇に沈んでいった・・・ 朽木ルキアの身体の力が抜けてぐったりするまで結構時間がかかった。 ぐったりしてからもしばらくそのまま待って ゆっくりと拘束した腕を解いて、 そっとその小さな身体を床に置いた。 正座していた足も拘束し続けた腕も痺れて、強張って思うように動かなかった。 人形のように動かなくなってしまった朽木ルキア。 ずっと焦がれていた彼女をやっと手に入れた。 最初は一つ学年が下の生意気な黒崎一護の傍にいる女だから気になるって 程度の存在だった。 それがだんだんと目が離せなくなっていった。 ずっと黒崎の女なのだと思って 機会を窺っていた。 付き合ってなどいないのだと聞いた途端に 手に入れると決心した。 もともと我慢の出来ない押さえの利かない性質だったからこそ、『狂犬・君塚将汰』 として名を馳せた自分がよくこんなに待ったと思う。 少し眉根を寄せて苦しそうな表情でも 求めた美しさは変わらない。 しかもいつもの制服姿以上に今日の姿は可愛らしく、征服欲がより一層そそられる。 印象的な大きな瞳は閉じられてしまったけれど、それを縁取る長い睫毛は その瞳の大きさを変わらず主張していた。 陶器のように肌理の細かい白い肌は強く抑えていた所為かいつもより桜色になって 艶めいて俺を誘う。 華奢な見かけを裏切る、思っていた以上に反撃してきた女に蹴られた脛を摩りながら、 (この痛み以上の痛みをこれから思い知らせてやるよ!) と一人ほくそ笑んだ。 (いや、痛み以上に快楽を与えてやるのだ、感謝しろ)とさえ思う。 学祭の学校はがやがやと騒がしくて、隙間が多い。 人が一人くらい消えても案外気付かれないし、見つけ難いものだ。 ここは校舎の端で学祭の開催エリアからも少し離れているため、余程の事でもない限り 誰も来やしない。 アイツラが上手くやってくれているなら・・・、誰にも気付かれずにここに来た筈だし、 万が一を考えてアイツラにこの呼び出し場所は言っていない。 自分の身体の自由が利くようにさえなれば、この女が目覚めるまでの時間は たっぷりと楽しめる。   いや、学祭の片付けの始まる時間まではお楽しみだ。 ポケットから紐を取り出す。   万が一を考えて手くらいは拘束しておいた方がいいだろう。 前で拘束するか、後ろで拘束するか? やっぱり後ろだろう、この服を脱がすにも都合が良いし、さっきの反撃を考えたなら、 この女はヤッテル最中でも攻撃してくるかもしれない。 口を塞ぐのは気がついてから さっきのハンカチでも突っ込めば良い。 それまでは楽しませてもらいたいからなvvvvv まだ少し強張る指先で小さな唇にかかる乱れた髪を払う。 やっぱり全て脱がしてから手首を紐で拘束しよう、どうせすぐには目覚めないのだから。  携帯で写真を撮る時もそのほうが合意の上だと証明しやすい。 とりあえず口付けようと顔を寄せーー- バン!!  ドアを蹴破っていきなりソイツが入ってきた。 オレンジ色の髪で目立つ、中学の時から有名な『黒崎』だった。 「てめえ、ルキアに何しやがった!!」 床に意識無く横たわる『朽木ルキア』を目にした途端、今まで一度も見た事が 経験した事のない感覚に襲われ 身体が竦んで、尻餅をついたまま動けなくなった。 全身の毛穴が開いて汗が噴出すような、今すぐこの場から消えたくなるような恐怖。 ーー『死』ーー脳裏にそんな文字が浮かんだ。 「・・・まだ・・・何も・・・・」 渇ききった喉からやっと保身のための言葉を搾り出す。 その途端強烈な蹴りを顎に受け、倒れた。  直後に髪を掴まれ 廊下に引きづり出され、腹に顎に何度か蹴りを喰らう。 「・・・げほっ、−−本当だ!  本当にまだ何もしちゃいない!」 「まだって事はこれから何かするってことだろ?  あぁ!?」 さらに数回、蹴りが入った。 今まで俺も喧嘩は何度も経験してきたが、これほど一方的に蹴り倒された事なんて なかった。 気圧されたのだ・・・、俺は黒崎の逆鱗に触れたのだと思い知る。 「ルキア、ルキア!  おい!  大丈夫か?  ルキア!」 朦朧と失いゆく意識の中で黒崎が悲痛な声で女の名を呼んでいるのを聞いた。 「・・・・・いち・・・ご?・・」 「ルキア、大丈夫か?」 ゆっくりと瞳が開かれるが、焦点が今ひとつ合わない。 掠れた声で俺の名を問う・・・、抱き上げた華奢な身体は まだ倒れていた時と 同じで力ないままだ。 「ルキア、大丈夫か?」 俺は馬鹿みたいに同じ問いを繰り返す・・・・。   「・・・・一護?  一護・・・・一護・・・」 掠れた声で確認するように何度も俺の名を繰り返すルキアが切なく胸が苦しい。 震える指先で俺のスーツを掴むルキアを強く抱き締めた。 「ーー 嫌だった・・・・。」 しばらくするとぼそりとルキアが俺の胸に顔を押し当てたまま消え入りそうな 声で呟いた。 「・・・越智・・先生に呼ばれたと伝言受けたのだ・・・    だが、いきなり後ろから囚われて・・・、口を塞がれて・・・  苦しくて・・・ 縛道も使えず・・・・    厭だ・・・ このように弱く・・  意識まで失うとは・・・・  このように醜態を曝した自分が情けない・・・」 悲痛な声で途切れ途切れに話をするルキアに その悔しさを知る。 「お前、騙まされて不意打ちされたんだよ。  俺だって 騙まし討ちには弱いと思うぜ。」 俺の言葉にルキアが驚いたような顔で俺を見上げてくる。 「・・・なんだよ!?」 「ふふふ・・・・ 世のモノが皆、一護なら良いのに。」 ーー //////// また、訳の分からないことを・・・・     こういうところは本当にルキアだ。    褒め言葉と受け取っていいんだろうな? 「てめ、そんなん見分けられなくて困るだろ!?」 「戯け、私を誰だと思っているのだ?!  死神だぞ!  見分けられぬ訳あるまい?!」 腕の中で得意気に微笑むルキアに軽くムカつくが いつもの調子に 戻ってよかったと安心もした。 だが、よくよく考えれば、俺ばかりの世を望まれて、そのたくさんの似た ような俺の中から間違いなく『俺』という存在をを見分けると自信たっぷりに 言い切りやがった、そんなルキアの言葉は『俺』気持ちを激しく揺るがせる。 「/////お前ってさ・・・ 無意識に強烈な爆弾発言してくれるよな・・・」 俺の言葉の意味を理解できなくて・・・、大きな瞳で俺を見上げるルキアに キスをした。 何度も何度も・・・・。 今日の俺のハラハラ、やきもき、心配させられた分。 最後に無意識に出たお前の気持ちに応える分は唇を割って熱く返させてもらう。   求めるように、与えるように深く捕らえて舌を絡めて 俺の熱を伝えて・・・ ルキアの甘い吐息を ルキアの甘さを貪る・・・。 俺はルキアを抱き締めたまま教室に向かって歩き始めた。 「すまぬ、油断したために貴様に手間をかけた。   少し頭痛がするがもう大丈夫だから下ろしてくれ、一護。」 しばらくすると照れ隠しに俺の胸に顔を押し当てていたルキアが、いつもの 大人びた顔に戻ってそう言いやがった。 「断る!」 「・・・・一護?  すまぬ、言い方が悪かったか?   下ろして欲しーー」 「だから、断る!って言ってんだろ!」 「は?  一護、何を言って・・・・だが、このまま教室に戻れば、  要らぬ詮索を受ける事になるぞ。」 「もういいんだよvvvv  悪かったな、俺の判断ミスだ。  もっと言うなら、俺の判断ミスが今回の事に繋がったのかもしれない。  ごめん、ルキア・・・。  嫌な思いをさせた。」 「何を言っているのだ、一護?  今日の事は単純に私の油断が招いた事。   貴様に謝られる筋合いではないぞ!」 ーー コイツは言い出したら、きかないところがあるからな・・・・ 「ーーあぁ・・そう。   じゃぁ 誰かさんは油断して危なっかしいからこのまま連れ帰る。」 「何を!?  貴様、無礼だぞ!   前言撤回だ!  貴様のような無礼者はこの世に一人で充分だ!」 「そうだろう!  俺もそう思う。  そして、その無礼者が望む死神も唯一人で充分vvvv」 「!!/////////  一護?  貴様・・・」 「強烈だったろ?」  「////// 貴様というヤツは・・・な・・ *@・☆・・・・」

あとがき ここまで読んで頂いてありがとうございました。