Halloween(イチルキ) 二階で勉強していた俺を親父が大声で呼んでいたーーあれはマジモード 慌てて階段を駆け下りた俺に 「じゃ、一護 俺は急患だから ”代わり”を頼む!」 「はぁっ?  ちょ、待て、親父!!」 玄関でのそんな短い会話。 何の説明もなく俺に代理を任せて 親父は飛び出して行った。 残された俺の頭にはあっという間に乗せられた広いつばの黒い尖がり帽子、手には大きな袋 無理無理持たされたその袋の中には小分けされたなんだか分からないカラフルな菓子が。 外袋のオレンジ色のかぼちゃや魔法使い? 骸骨やお化けのイラストを見て思い出す。 (あぁ・・・ 今日は31日。   遊子が ルキアがとても楽しみにしていた”ハロウィン”か。  夏梨だけは 面倒だ、恥ずかしいって文句言っていたけれど、結局あの二人には  勝てないからきっと付き合って一緒に出かけていっただろう。) こんなのは俺のキャラじゃないが、仕方ない。   大人しく玄関に座って もうすぐ現われるだろう遊子や夏梨、ルキア、近所のガキどもの到着を待つ。 思い思いのハロウィンの扮装をして各々の家を回るーーー俺のガキの頃にはなかった近年のイベント 高校生になった俺には もうその楽しさは分からない。 正直、参加させられなくて良かったって思いしかねぇが、イベントに喜々として参加している 俺達よりもかなり年上の 普段冷静さを装っているルキアを想う。 「子供だけでは危険だからと夏梨と遊子に”ハロウィン”付き添いを依頼されたのだ。  魔女とかお化けとか骸骨に扮して、家々を廻ると菓子が貰えるのだそうだ。  親父殿も張り切って扮装して配ると言っておられた。」  俺にそれは嬉しそうな顔で報告していたアイツ。 ーーいや、ぜってぇあの妹二人がお前を参加させたかっただけだって。   お前のその笑顔が見たいから・・・・。   余計な言葉は飲み込んで 「そうか、よろしく頼むな。」と言っておいた。 俺の短い言葉にさえガチいい笑顔を返して 俺まで嬉しくさせてくれるルキア。 「「「「トリック オア トリート」」」」 がんがんと玄関のドアを無遠慮に叩いて 元気なガキどもの声が響いた。 子供に混じってルキアの声もしっかり聞こえた。 恥ずかしくもなくアイツが大きな声を出しているのか、俺の五感がアイツだけを特別扱い しているのかーーそんなん 俺が知るか。 (自分では認めたくないが、妹たちによくそう指摘されていた。) 親父に渡された大袋を手に玄関のドアを開けると群がるガキどもの後方にしっかり同じように 菓子の袋を持った黒いワンピースにとんがり帽子を被った魔女に扮したルキアが楽しそうに 笑って立っていた。 ーーその笑顔は無防備でまるっきりガキだ。 「Treat」 照れ臭さから素っ気無く返事をして 差し出された袋に次々と菓子を入れた。 こういう時、子供ってのはホント現金だなって思う。   入れられた子からさっさとその場を離れて次に向かう。 「菓子を配るのをとても楽しみにしていた親父殿はどうした?  仕事か?」 「あぁ・・・・急患に呼ばれて出て行った。」 「ふふふ・・・・・ 一護。   貴様向けやもしれぬ、存外、帽子が似合っておるぞ。」 そう言って笑いながら袋を差し出したルキアに   「うっせぇ、放っとけ!」 と不機嫌に言って菓子を入れた。 ーー最後の一人のルキアが手を振りながら踵を返すと 玄関前は淋しいくらいに静かになった。 「ルキア!」 呼び止めて、俺はジェスチャーで戻るように伝えた。 少し不思議な顔をして素直に戻ってきたルキアの腕を引っ張った。  玄関の中に少し強引に引きずり込んでドアを閉めた。 ドアに押し付けるようにルキアを追い詰めると、華奢な身体を抱き締めて 耳元で囁いた。 「Trick or treat?」 何が起こったのか、何を言われたのか・・・・ といきなりな俺の行動にビックリしたように いつも以上に大きな瞳でルキアが俺を見上げていた。 そんな戸惑いの混じるルキアの顔を意地悪い笑顔で覗いてもう一度。 「Trick or treat?」 しっかりと抱きしめて逃さない俺に。 意地悪く笑う表情に全てを察したらしいルキアが真っ赤な困惑顔で応じた。 「・・・・その二つの言葉の選択に、違いはあるのか?」 「ーーーーいや、結果は同じ♪」 そっと頬を撫でながら、耳元に手を添えて顔を寄せれば、長い睫毛がゆっくりと閉じられた。 どんな”いたずら”よりもスリリングに胸を騒がして どんな”ごちそう”よりも贅沢で一番 ーー甘美な唇


拍手ありがとうござました♪ あとがき Oct.26 〜 Nov.19.2009