Halloween (恋ルキ) 忙しい月末の最終日に朽木家の祭事で隊長は不在。 さすがにあの人! 自分の仕事はきっちり終わらせていた。 だが、こういう居ない日に限って普段起こらないトラブルがこまごまと次から次へと起こる。 そんな騒ぎを収めて、隊内に通常の落ち着きを取り戻すことができたのは隊首室の窓に赤い夕日が 差し込んでいた。 怒涛の一日を振り返るーー大丈夫、遣り残しはねぇ! はぁ??っ、たった一日の隊長代理ーー今回も無事に終わってくれた。 月に何度かあるのだが、課せられる重い責任にいつまでも慣れる事ができなくてすっげぇ疲れる。 檜佐木先輩、吉良、あの松本副隊長を抱える日番谷隊長、心から尊敬します!! そんなことを思いながら、ぼんやりと茶を飲んでいると、躊躇いがちに戸が叩かれた。  「おうっ」 と返事をしたけれど、感じた霊圧に慌てて戸に駆け寄る。 開けると同時に現われた俺に 大きな瞳をさらに見開いているルキアの腕を引いて素早く執務室の 戸を閉めた。 以前よりも六番隊を訪れるルキアに隊士達の興味が集まっていた。 四大貴族・朽木家の養女、アノ隊長の義妹で、藍染事件でも渦中の人と、もともとスゴク 注目されてはいたが・・・・・ ここ最近の注目は家とか事件とか取り囲む環境の事ではなく、 ルキア本人に対してのもの。 小柄で大きな瞳、まるであどけない少女の様な見た目に尸魂界一美しい斬魄刀を持って 隊長格に 混ざって虚圏に赴いたことがあるほど実力もある死神として 何より最近のルキアは以前のような 暗さが取れて明るい笑顔を見せることが多かった。 ルキアが明るい笑顔でいられるってのは俺的はすごく嬉しいことなのだが、反面その笑顔に好意を よせる男が増えたのは迷惑な事でーーここ六番隊内でも例外ではなかった。 甘い鯛焼きの匂いをさせて俺を見上げて ルキアが言った。 「Trick or treat?」  疲れた頭に訳の分からない事をいきなり言うルキアに高速で記憶を洗いなおす。 あぁ・・・・なんか現世のアレか・・・・。 だが、覗いた瞳にこんな遊びを仕掛けるいつも強気で楽しそうな色が見えないーーよく見れば、 こんな季節に汗を掻いたわけでもないだろう、長い前髪が濡れていた。  (指先でも触れて確かめた・・・・) 「何があった? ルキア。」 「はぁ? 何を聞いておる? 質問に対して質問で返すヤツがあるか!?」 「いいから、来いよ。」 腕を引いて執務室の奥の応接室のソファに座り、強引にルキアを膝の上に抱える。 「ば、な・・・・ 恋次、貴様 何をする!?  かような狼藉は許さんぞ!」 俺の有無を言わせない強引な行動にルキアが膝の上で暴れて、殴りかかってくる。 「ルキア、落ち着けって・・・・。    狼藉って別に何にもしてねぇだろ?!     いいから肝心なことを話せ。」 殴りかかる腕を掴んで 怒って抗議していたルキアの瞳を真剣な眼差しで臨むと・・・・  しばらくはまるでにらめっこ。 互いに強い眼差しで無言で睨み合い、思惑を探り合う。 やがて諦めていたように瞳を閉じて俺の追求から逃れるように顔を伏せた。 「どうして 貴様は・・・・そう・・・」 (なんで見破ってしまうのか?  貴様の負担にならぬようにしたいと・・・・・。  辛い話はあまりしたくないと思っていたのに・・・・。) 力の抜けた腕を放して ふんわりと抱き締めて髪に口付けて 呟かれた言葉を拾う。 「さぁ・・・・・ どうして・・・  なんだろうな・・・・」 (お前がその気になれば、どんな男もお前のために助力を惜しまないだろう。  どうして・・・・俺こそが聞きたい、ルキア。  いつも何かあれば、俺を求めるお前の・・・・俺は役に立っているのだろうか。  今までそう大した助けをしてやれたとは思えないのだが・・・・・・。  疲れているのか、俺は・・・ そんな弱気が胸を掠めた。) 一瞬交錯したそれぞれの想いーーー 「なんでも一人で抱え込んでんじゃねーよ。    約束したよな、なにか泣くようなことがあったんだろう。  下手な小細工で誤魔化さずにちゃんと話せよ、ルキア。」 そっと撫でるように頬を掬い上げて瞳を覗く。 「な、なにを根拠にそんな・・・・・」 「俺の目を誤魔化せると思うなよ!  隊士達に気を配らなきゃならねぇ副隊長職を舐めんな、馬鹿!」 本当は前髪が濡れていたからだーーきっとコイツは顔洗って泣いた痕跡を消してきたのだ。 戌吊の頃からコイツは変わらない。  隠し事が下手だ。 だが、そんな種明かしをして隠し事の上手な女になられては困るから絶対に言わねぇがな。   しばらく甘い鯛焼きはお預けーー だが、珍しく俺を頼りとするルキアを抱きかかえている甘い時間は貴重だ ーー俺にとって数日の疲れさえ吹き飛ぶほどの癒しの時間。 ぼそぼそと少しづつ話を始めたルキアもそう思ってくれているからこそ この腕の中に 留まっているのだと確信して、髪をそっと撫でる。  


拍手ありがとうございました! あとがき Oct.26 〜 Nov.19.2009