Envy
 



白い息を吐きながら浦原商店から帰る道。
昨夜降った雪がそこかしこの塀の陰に黒い泥を混ぜて白く歪な形を残していた。
寒さからもつれた足に 思わず横を歩く一護の手を掴んだ。

「うぉっ」

一護が声を上げるほどに驚いた様子に 己の手の冷たさを自覚した。

「すまぬ・・・・。」 と告げて慌てて手を離す。 



私が氷雪系の斬魄刀を持つ所為って訳ではないのだろうが、どうも体温が人より低いらしい。
それは義骸に入っていてもそうらしく、また兄様が特別注文してくださったこの義骸はどうも私の低い体温と
低い気温に合わないようで寒かったり、あまり冷えると途端に動きが鈍くなり軋むように痛みを訴えた。
浦原に何度調整してもらっても治らない。


「これはこういう癖のある義骸としかいい様がないっス。」

なんて本当にコヤツは科学を司る・十二番隊の元隊長だったのだろうか? と疑いたくなるような事を言う。

「なんなら、新しいのをご用意してもよござんすーー」

すぐさま首を横に振った私に困った顔で苦笑う。

「そうっすよね・・・・、ルキアさんのために朽木隊長が特別に用意されたヤツっスからねぇ〜〜。
 今までみたいに問題が起きた毎に少しずつ治していくしかないっス・・・。」

らしくないほど優しい物言いをした浦原につられて素直にこくりと頷いたのは先ほどのこと。





ルキアと並んで歩いた少し雪の残る道

突然バランスを崩して 掴まってきたルキアの手の冷たさにびくりと震えが走って思わず声を
上げてしまった。

それがルキアに伝わったのだろう・・・・ 

改めて 俺から繋ごうとした手を振り払われてしまった。

「てめ、なんで振り払うんだよ?!」

ちょっとキレ気味の口調はもちろん照れ隠しで、セリフの強引さは百も承知だ。

「うるさい、貴様の手まで冷たくなるからだ!!」

ーーくそ! わかんねぇヤツだな、だからこそ繋ぎたいんだって!!


強引に小さな手を自分の掌に収めて 逃がさないように知らん顔で少し歩く速度を上げた。

「たわけ、貴様はいつも人の話を聞かぬ!」
「てめぇは小さいことをごちゃごちゃ煩せぇんだよ!」

小走りに追いかけてくるルキアの頬が上気して真っ赤なのに気がついた。 

ーーそれって寒さの所為、 少し走らせた所為なのか?
  もしかして・・・俺の所為とか?!


いつも肝心な事をなにも言ってはくれないルキアのその様子に 思わずーー 
そんなルキアの気持ちを確かめたくて足を止めて正面に向き直る。
見上げる勝気な紫の瞳はとても綺麗で文句を言いたげに少し尖らせた小さな唇は
扇情的に艶めいている。

気持ちとは裏腹に俺の口から出たのは挑発的な言葉ーーちきしょう



「なんなら手だけじゃなくてもっと温めてやろうか?!」
「は? どうするというのだ?!」

こっちが面食らうほどそんな呆けた返事が返ってくる。

(うっわ〜〜 ルキアだ!!   コイツってば もしかして俺を誘っているのか?!)



「知りたいならーー」

にやり と笑んで掴んだ手を引いて抱きしめてそっと口付けた。

けれど 触れた冷たい感触が寂しくて悲しくて

もっとを求めてみれば

真っ赤な顔で 「たわけ! 調子に乗るな!」 と殴られた。                  


「てめぇの所為だ」 って 言いたいが潤んだ瞳に免じて 言葉を飲み込む。
けど、きつく抱きしめて逃さないーーやっと同じ体温を感じられるようになったのだから。


「うるせー、てめぇは浦原や白哉ばっかり頼りすぎなんだよ・・・・・」

抱きしめた腕の中で逃れようと身動ぎする華奢な身体の耳元で小さく本心を苦く呟けば

「一護・・・?」 

不思議そうに返されたルキアの言葉が悔しくて顔を見られないように頭を胸に押し付けた。
店で見た浦原との会話が 最後に見せたルキアの素直で面映い表情が想い出されて
また少し胸がざわついた。
ゆっくりと細い腕が背中に回されて 珍しく抱き返してきたルキアの吐息が俺の胸を熱く焦がす。
この腕の中にずっと居てくれればいいのにーーそう願わずにいられない。










very shortな戯言としてブログにUPしてあったのをリメイクしました。 お粗末様でした。 あとがき