ある日(仮題) 



「あ、恋次。」

精霊廷内の路地から大通りに出たところで名前を言われたのを聞いた。

この声は そう アイツだ。

探すまでもねえ。  
アイツは小せえくせに どこに居ても一際 目立つから。
俺ー目線 って訳じゃねえ!!

纏う空気が違うっつーか、気品?  いや・・・・・
とにかく なんか目立つんだよ! 



商家の建ち並ぶこの大通りの中でも一際大きな店の暖簾の下で口を押さえて
吃驚したような顔をして立っているルキアと目が合う。

「よぉ、ルキア。  何だ?  どうかしたのか?」

死覇装ではないが、いつも屋敷で着ているよりは普段着って感じの着物。 
だが、近寄って見ると他のヤツラよりは 数段織の良い生地に菖蒲が
描かれた着物に微かに甘いいつもの香をしたためた いつもよりは
女らしく見えるルキアが居た。

「すまぬ。 つい、見かけたものだから・・・、だが、よく聞こえたな。」

「はぁ・・?!  なんだぁ、てめえ 用もないのに呼び止めたのかよ?!」

「だから、謝ったではないか! 
 だいたい 呼び止めたわけではない!
 ちょうど、用事が済んで店を出たところに目立つ貴様がいたから、
 つい驚いて名を言ってしまっただけだ。 

 無駄にでかくて目立つ貴様が悪いのだ!
 しかもこんなに距離があったのに 聞こえた貴様がおかしいのだ!」

「てめ!  言うに事欠いてなんだと! 
 俺は てめーみたいにぼ〜っと歩いてねえんだよ!!」

「うるさい!  さっさと仕事に行け!  貴様は勤務中であろう!
 副隊長殿は忙しくっていらっしゃるはずだ。  
 早く隊舎に帰って 少しは兄様のお役に立って来い!」

「んだと、こら!  いつでも役に立ってるっての!!
 俺は優秀な副官なんだよ!!」

ぐりぐりと頭を撫でつけようとしたが、その手を小さな頭上で止めた。

ルキアもいつもの様に俺の手が頭を強くなでつけてくるのを察して 
その小さな身体をさらに屈めて、両手で頭を守るように身構えていた。

ーーー変わんねぇな・・・・・・。  
   だが、こんな『お嬢様然としたルキア』にすることじゃねえか・・・

俺の手がいつもの様に頭を強く撫でつけてこなかったので ルキアがそっと 
俺を訝しげに見上げてくる。

ーーー?


「−−−で、用事はそれで終わったのか? 
 腹減ったから、ちょっと早いが飯食いにいかねぇか?」

「私は構わぬが、恋次はいいのか? 
 仕事は大丈夫なのか?」

真面目な顔で心配そうに聞いてくる。
どうもコイツは 俺が 一人で居るルキアに気を使って誘っていると
思い込んでるフシがある。

ーー 俺がてめえと一緒に食事したいから 話がしたいから誘ってんだって!!
   そんな事ぁ 口が裂けても言えねえが・・・・・。      



「あのな、どんなに隊長・副隊長格が忙しいっ言ってもみんな飯と休憩時間は
 頑張って作ってんだよ。
 俺も用事が済んだところで急ぎの仕事を抱えてないからちょうどいい。
 で、どこで何食いたい?」

途端にそれは 嬉しそうな顔をして、

「『さくら』か、『大野屋』に行ってみたい。 
 食後の甘味が美味しいと聞いた。」

「はいはい。」

ーー 二軒とも 随分前に 女性死神達の間で話題になっていた店だ。
   こういう世事に疎いところも ホント ルキアだ・・・・・・。

思わず、俺は嬉しそうに並んで歩き出したルキアの髪をそっと撫で付けた。

「あ、恋次何をする!!  貴様、ずるいぞ!  今頃・・・・・」

「相変わらずの猫毛だなぁって思ってよ。」 

「・・・・・ふん。 『猫』言うな、馬鹿!!」


一応そのまま大人しく撫でられながら、口を尖らせるルキア。

「はいはい。 
 それで、どっちに行きたいんだ? 
 『さくら』は完全に和食、『大野屋』はいろいろあるぞ。」 

「なんだ、貴様、行ったことがあるのか?」

「そりゃ、俺はお前と違って一人暮らしだから、自然と外食が多いからな。」

ーー副隊長としての付き合いもなんだかんだと多いしな。

「ふむ・・では、違う店にした方が良いのではないか?!」

「いや、ああいう店は こういう機会でもないと行けないからーーー行こう。
 よし、『大野屋』にしよう。  たしか甘味が美味かった。」

俺は拙いことを言いそうになって慌てて 話をすすめた。

両店ともどちらかと言えば、女性向け。  
男同士では、間違っても行かないような店だ。
以前、俺は理吉といる時に六番隊の女性隊士達に捕まり、連れて行かれたのだ。

何も疚しいことはないが!  
ルキアが妬くわけないが!! (悲)
わざわざ知らせたくもない。  
・・・・男心だ!!



「なんだ、急に。 
 私はどちらかに行きたかったから、恋次がいいというほうで
 構わぬが・・・・
 なんか 言い様が変ではなかったか?」

「そうかぁ・・・・。  
 それよりさ、さっきの店の用事って なんだったんだ?!
 あそこは たしか大きな呉服問屋だろ?」

恍けて、さり気なく(?)話題を変える。

今のコイツは大貴族のお嬢様だから 着物も総て生地から
仕立てられる様な一点ものしか着ない。
しかも 普段は死覇装を着ているため、そうして手間隙かけて
朽木家で用意された着物も袖を通さないまま季節ごとに
入れ替えられてしまう事も多いのだと前に言っていた。
 
なによりルキア本人が 着るものに無頓着だから 
こんな着物が着てみたいから買いに行ったってことも考えられない。
ましてや 朽木家がルキアに買い物を頼んだ訳でもないだろう。

「ふん、普通に買い物だ。」

「はぁ?  ルキアが何買うんだ?  総て揃ってるから必要ねえだろ?」

「うるさい。  私が買い物をして 何の文句があるのだ?」

「いや、文句なんてねぇけど・・・・・・・・。」

ーー ってか、コイツが 一人で買い物してまで欲しいものがあった。
   そのほうが驚きだ。  

   だし、今後の誕生日祝い等に食い物以外で贈る物の参考にしたいから
   ぜひ 知りたい!!
   俺は俄然興味を持った。

「で、ルキアさん。  何をお買い求めで?」

「貴様に報告の義務はない。」

ーー うお、一刀両断かよ。

「・・・着物のワケないし、帯止め? 帯締め? 帯? 組紐? 帯揚?
 根付・・・・いやいや、そんなワケ・・・ 飾り紐とか?」

「貴様、なにやら女物の着物に詳しいな・・・・・。 
 どういう訳だ?」


ーーーヤバイ!!  話が変な方にいきそうじゃねえか・・・・?!


「いやいや、なにを仰る。  
 常識の範囲だぞ。」

「む・・・・そんな事ないのではないか?  
 私はそんなに知らぬぞ。」

「えぇ? って。  お前、そりゃぁ 知らなすぎだって・・・。  
 お前、もうちょっと着るものに興味持てよ。
 藤乃さんとかに 着せてもらうばっかりだから、
 着物の小物の名前も憶えないんじゃねえのかよ?」

「・・・・ふむ。 そうかもしれぬな。」

ーー よしよし。  

「だが、恋次は あまりに詳しいのではないか。 
 貴様のような男はそれこそ知っていたとしても何の役にも立つまい。」

ーーーうぉおお。  切り替えしてきやがった・・・・・。


「ーーーーそ、そんなことねえよ。 
 お、ルキア、『大野屋』に着いたぞ。」

 
俺は仕方なく藪蛇を恐れてルキアの買い物について とりあえず追求を諦める。




結局 仮題のまんま・・・・・ llllorz 余計な事を考えてしまって・・・・・。   July.14〜Aug.07.2008 『やる気の元』のお話でした。  ありがとうございましたvvvvv