ある日 2




いつも混みあって並んでいる大野屋もまだ昼飯にゃ少し早いこの時間は
客もそこそこ今の時間なら 奥の個室も空いていて のんびり食べられそうだ。


「あ、阿散井副隊長!」
「えっ、阿散井副隊長?!」
「「わあ〜、副隊長vvvv」」

ーーーうおっ! 何でこんな時間に またコイツラが居るんだよ?!

六番隊の四人の女性隊士達があっという間に俺の前に群がってくる。
前回、強引に俺と理吉をこの『大野屋』に連れ込んだヤツラだ。


「奇遇ですねvvvv」
「副隊長もサボりですかぁ? 同罪ですよvvvv」
「また、一緒に食べましょうよ。」
「お願いしますvvvv」



「お前ら、店内でうるせぇ。 今日は連れがいる。 察しろ!」

俺は素早くルキアの肩を抱いて自分に引き寄せ、袖の下に隠した。

「えぇえ〜、どうせ理吉さんでしょ?」
「きゃあ、女性!!」
「きゃあ、副隊長! どなた?」
「まさか、朽木ル」

「騒ぐなって言っただろ!」

言葉を遮って、ドスを効かせて強く言い放つと同時に霊圧をかけて睨みつけた。

途端に口々にわいわい、きゃぁきゃあと高いテンションで馴れ馴れしく俺に触れ、
ルキアを覗き込もうとしていたヤツラが怯んで硬直した。

コイツラの口から『朽木』の名が出た所為で ザワついた店内も
一瞬で静まる。

「 ・・・・ちょっ・・・・恋」

何かを言いかけていたルキアの肩を抱いた手に少し力を入れて 奥に促す。

「じゃあな。」

俺は 冷ややかにそう言い棄てて ルキアを袖のうちに隠したまま、
脇に抱えるようにして 怯えたように黙り込んだヤツラの前を通り過ぎた。



騒ぎを聞きつけたのだろう、店の主人が恭しく出てくる。

「これは六番隊・副隊長様、ようこそ。  
 あの・・・ もしよろしければ、最奥の個室をご利用下さい。」

「あぁ、助かる。  騒ぎにしてしまって悪かったな。」

この主人も『朽木』の名が聞こえたのだろう。
俺が隠す『ルキア』を 覗き見ようとする。

ーー ちっ!! あいつらの所為で・・・・・・。





個室に入ると、恋次の私を抱える手が緩んだので 
私は恐る恐る恋次を見上げた。
恋次の身体に触れている私の指先が 少し震えていた。 

私は 恋次が本来『気が荒く、怖い顔』も持っている事を
知らない訳ではなかったが、
あんな風に凄む『怖い』恋次を今まで見たことがなかった。


「ーーーールキア。
 アイツラが騒いだ所為で いやな思いさせて悪かったな。」

ぼそりとそう言って恋次が私を見下ろしてきたが、すぐに視線を
逸らされてしまった。

ーー 恋次は もともとあまり謝ったりしない。
   意地っ張りな性格の所為もあると思うが。  
   『漢は責任ある行動をとるべきだ、後悔するような行動などしない。 
    だから、謝ったりしない!』
   そんな訳のわからない持論を持っている
   ・・・・馬鹿恋次。 
   謝罪すべき時は 素直に謝罪しろ!    

   だから、こんな風に瞳を逸らす謝罪は
   本気の謝罪・・・・でも。 

「・・・・恋次・・・・」

呟く様に名前を呼ぶと、やっと視線が合う。
瞳の奥が揺れているような・・・、らしくない不安が映った。


「ーー馬鹿恋次。 そんなのは貴様が謝るところではないだろう!」

態と強気で喧嘩腰に言い放った私の言葉に 瞳から不安が消え、
表情がいつもの臨戦態勢に戻った。

ーー あぁ、いつもの恋次だ。

「だいたい同じ隊の者にあんなに凄むことはなかったのではないか?」

「いいんだよ。 
 アイツラ、最近頭に乗って、俺に馴れ馴れしくなっていたから、
 制するいい機会だったんだって!」

私の髪にそっと触れ、それから 恋次がすこし微笑んだ。
話す声音も軟らかい。

「恋次。 
 そうじゃなくて お前の立場が・・・・
 副隊長としてのお前の立場があるだろう! 
 あれでは あんな風に言ったら 誰もついて来れなー いたっ」

いきなり 額を指で弾かれた。

「ばぁか。
 隊士達の顔色を伺うような隊長・副隊長がどこにいるんだっつーの!」
 
「だが・・・・、
 私などと一緒にいた所為でこんな・・・・ ちょ、恋次!
 なんだその手は!?  
 止めろ!  
 さっきのだってすごく痛かったんだからな!!」

恋次の指が 私の顔の前にもう一度『でこピン』しようと構えられた。
私は 慌てて額を手で隠し、恋次の指を押さえた。


「てめえが いつまでもぐじゃぐじゃとつまんねぇ事を言ってっからだろ?!」

「馬鹿恋次! つまらぬ事ではなー」「まだ言うか?!」

「あ、何をする?!  
 恋次、止めろ!  馬鹿力!!」

俺の指を掴んでいたルキアの手を逆に掴んで 抱きしめた。
着物を着ているので さすがのルキアも蹴ってはこなかった。

「捕〜かまえたっvvvvv
 さぁて、どうしよっかなぁ・・・・?!」


ーー アイツラの所為でルキアまで怯えさせてしまった事に
   気付いた俺はすごく狼狽した。
   ちっ、こんなことなら『さくら』にすればよかったぜ。

だが、今。 
目の前でムキになって俺に怒る赤い顔のルキアはすごく可愛い。

こんな風にガキの喧嘩みてぇな 馬鹿みてぇな事をしてルキアと過ごす時間のほうが
俺にとっては 何よりとても大事なんだけどな・・・・、ルキアvvvvv

だいたいアイツラにあのままお前を会わせていたら、俺は碌にお前と話をする時間すら
取れなかったって!   冗談じゃねぇ!!


「馬鹿恋次、いいから放せ!! 
 たわけ!  アホ!!  やめ・・・
 ・・・・ん・・・」

それに甘いこんな時間も取れなかったって。








<なんだよ?!  一人占めしたかっただけじゃん!! すみません。  続きます・・・・。 Aug.07.2008〜Oct.03.2008 『やる気の元』のお話でした。 ありがとうございましたvvvvv TOP