ある日 3
少量ずつ 彩り良くいろいろな料理が 大小様々、色彩々の小鉢に
並んだ定食の盆が食卓に運ばれて来た。
ホント、少しずついろいろ食いたいっていう女のための昼飯だ。
普段の俺が食事に求めるのは 手早く腹を満たすって事だから、忙しい日常に
毎日こういう食事は面倒だが、たまになら目と舌が楽しめて俺は好きだ。
目の前には嬉しそうなルキアがいる、 言うことはない。
いつも朽木の家で もっと豪華な食事をしているだろうに・・・・。
コイツはどこに連れて行っても素直に喜んで食事を楽しんでくれる。
一品ごとに感想や思い出したことなどを話しながら、嬉しそうに
美味しそうに食べる。
俺よりも戌吊の頃を憶えていて、いろいろな失敗話や楽しかった事を
話すルキアに 離れていた40年間の寂しさを垣間見たような気がして
少しだけ胸が痛む。
だが。 今はいい。
俺の前で笑顔で食事している。
二人で食事できる。
それだけで今は幸せだと思える。
ルキアが量の多いおかずや飯を少し手元に残して俺に渡してくる。
好き嫌いはないが、一度に多く食べることが出来ないのが
コイツの欠点だ。
戌吊の時、痩せて小柄なコイツを心配して無理矢理食べさせたら、
下痢と嘔吐を起し 体調まで崩して 余計に痩せさせてしまった。
それ以来 無理強いは出来なくなった俺は 「もっと食えねぇのかよ?」って
聞きながら、素直に受け取る。
ルキアは食べるのは早くないが、食べ方が子供の頃から綺麗だ。
育てた養親に厳しく言われた事はないらしいが、箸や器の持ち方が
きちんとしていて何でも美味しそうに食べる。
そんなルキアとの食事はとても好きだ。
最後に特別に注文しておいた『冷やし白玉善哉』が運ばれてくる。
それは食後に食べるにはやや多目でお茶受けには少い量だが
白玉が多く入っていた。
注文どおりだ。
「もうお腹一杯、もう何も食べれない。
恋次、まだ食べれるなら、食べてくれ。」
さっきまでそう言って俺に小鉢を幾つか手渡していたルキアが 瞳を輝かせて
白玉にぱくついている、極上の笑みとともに。
「恋次、評判どおりだ。 すごく美味しい。」
俺はその別腹について茶化したかったが、せっかくのルキアの食欲を邪魔しては
自身の目論見が本末顛倒になるので 思い留まる。
「よかったな。
食えたら、俺の分を食ってもいいぞ。」
そう言い残して 俺は席を立った。
「・・・・・恋次。 隊舎に 仕事に戻るのか?」
表情は変えないようにしているが、揺れるルキアの瞳が寂しさを俺に伝える。
「厠」
短く言って 俺は部屋を出た。
安心したようにまた嬉しそうに食べ始めたルキアを横目で確認しながら。
俺は 支払いを多めに済ませながら、主人に裏口から帰れるか確認する。
俺達が出てくるのをさっきのヤツラが店の前で待っているのを
霊圧感知したからだ。
「恋次、遅い。
私は食べ終わって、貴様だけだぞ。」
個室に戻った俺にルキアは上機嫌でそう言った。
その上機嫌の視線の先を辿ると、俺の善哉があった。
確かに食っていいと 言った。
「ルキア・・・・・。」
俺はあまりのルキアらしさに言葉を失う・・・。
器の中の善哉の餡の量は変わらねえが、確か5,6個乗っていた白玉だけが
1個を残して消えていた。
ーー 食うなら全部食うとか、半分食うとかじゃね?!
「恋次のために残しておいたvvvvv」
だが、満面の笑みでこう言われては 返す言葉もない。
ーー はいはい。 白玉は お前の大好物だからな。
出来るだけ腹一杯食って欲しいという、俺の目論見通りだから
ま、いい・・・。
俺は1個残った白玉と餡子を流し込むように手早く食べた。
「白玉は作りたてのモチモチ、善哉も甘すぎず、塩味が少し効いていて
冷たくてとても美味しかったvvvv」
「本当にそうだな。 また来ような。」
俺の言葉にルキアがとても嬉しそうににっこりと笑って頷く。
こういう時のルキアは素直な子供のようなめちゃめちゃ可愛い反応をする。
「////// さて、お嬢様。 この後のご予定は?」
茶を飲みながら、俺は聞いた。
「もう今日は何も無い。 家に帰らねば、家の者が心配する。」
ーー そうしてくれると俺も心配が減って助かる。
死覇装を着てるなら、何も心配しないんだがな。
「そうだろう。
隊長からも言われてるだろうが、着物で出かける時は『朽木の蜘蛛』を
頼むから 連れて歩いてくれ。」
「む・・・、兄様は別に何も仰らないぞ。
・・・・・その、清家が煩く言うだけだ。
それに今日は特別だ。」
「そうかよ。 とにかく家まで送る。」
有無を言わせず、俺はルキアを抱き上げた。
「馬鹿恋次、止めろ。 下ろせ!
私は一人で帰れる!!
貴様は仕事に戻れ、兄様に叱られるぞ!」
「馬鹿はてめぇだ。 このままお前を一人帰した方が殺られるって。」
「あ、そうだ、支払い。 今日は私が払うぞ。」
「もう済ませた。 今度頼むわ。」
「な! いつもそう言って 一度も払ってない! 狡い、不公平だ!」
ーー ・・・なんか面倒な事を言い出してきたな・・・。
「・・不公平? ・・・そういや、
俺も前から不公平に思ってる事があるのを思い出したぞ。」
「? なんだ、言ってみろ?
そうだ! この際、公平にしよう。
次は必ず私に支払わせる、良いな、恋次?!」
「あぁ、お前がそう言うなら、そうするか。
ルキア、約束だぞ。 忘れるな。」
腕の中のルキアが素直な真面目そうな瞳で(当然だ!)って顔をした。
「じゃぁ、いつも俺からで不公平だからお前から口付けてvvvvvv」
俺はにやりと哂って、唇に指をあてた。
俺の言葉にルキアの顔があっと言う間に真っ赤になって、
なんとか反論を試みる。
「///////な、 れん・ そん・・・ だっ・・・ きさま・・・・。」
「なになに、ルキア?
公平がいいって たった今言ったよな? 俺も公平がいい♪」
俺はルキアの顔が近くなるように抱え直した。
ーー 真っ赤で困惑のあまり潤んだ大きな瞳が可愛すぎvvvv
時間切れ、俺の忍耐も切れた。
俺はルキアに軽く口付けると、
「支払いも次回だから、ルキアからの口付けも次回な。
じゃ、そういう約束で。」
そう言って反論する間を許さず、ルキアを強くしっかりと抱えて
裏口から出ると 瞬歩で朽木家に向かう。
ーー 今日はここまでな。
流石にこれ以上遅くなるとマズイ。
いくら夏でも隊長によって冷やされた隊首室での事務処理は厳しい。
だし、次の約束が出来る関係に戻れたのだから、今更その関係が
許されなくなるような事態は避けたい!!
朽木の門の側でルキアを下ろしながら、「約束を忘れるなよ。」
そっと耳打ちした。
ルキアは下りるや否や 「馬鹿!!」 真っ赤な顔で俺を罵倒すると、
門の中に逃げる様に帰っていった。
入れ違いに『蜘蛛』も連れずに外出したルキアを心配して出迎えに
現れた清家の爺さんと眼が合った。
苦笑いして軽く会釈してから俺は 瞬歩でその場を去った。
すでに何度となく送って来ては こんな風にルキアが怒って帰るのを
見慣れた清家の爺さんも苦笑いして俺に頭を下げて見送っていた。
って事で。
朽木家の清家信恒とも関係は良好なようです、恋次。
次ページでやっと完結します。
長くなって ホントごめんなさい。
Aug.31.2008〜Oct.03.2008
『やる気の元』のお話でした。
ありがとうございましたvvvvv
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