ある日 +α




「あちぃ〜〜」

俺は死覇装の袷を開いて、団扇で仰ぐ。
隊長がこの場に居たら、絶対冷たく睨まれる恰好で仕事をしていた。 

ーー ちきしょ、ぜってぇ今日中に終わる量じゃねえよ!
   何なんだよ、今月のこの書類の量は!!
   せっかく理吉のヤツが使い物になるようになったと思ったら、
   新しく移動してきたヤツが『始末書』を大量生産しやがって!!

   何だかしらねぇが 隊長は急に「半時ほど出てくる。」とか言って
   フラっと出ていっちまうし。



俺は苛々と団扇で扇ぎながら書類に筆を走らせていると、トントンと 
隊首室の扉を遠慮がちに叩く音がした。

「おう、入れ!」

俺は書類に視線を落としたまま 入ってきたヤツに

「なんだ?  急ぎか?  そうじゃなきゃ明日にーー」

そう言いかけて、はっと顔を上げた。
死覇装姿のルキアが 困ったような顔でそこに居た。

ーー えーっと、コイツってば、月末の今日は午後から休みだったはず?!

「忙しいところをすまない。」

本当に申し訳無さそうにルキアがそう言った。
ありえないくらい遠慮がちにしおらしくそう言うルキアに俺は慌てる。

「ば、何を言ってる!?  どうした、ルキア?  
 隊長ならもう少ししたら、帰ると思うから・・・・。 
 とりあえず茶を飲んで待ってろ。  
 今淹れてやるから。」

矢次早に話す言葉に 俺の狼狽ブリが窺える。

「いや、すぐ帰るから。 構わずに仕事を続けてくれ。」

「いや、俺が飲みたいんだって。 
 いい機会だから、俺の休む口実になっていけ。」

俺の言葉に やっとルキアの強張っていた顔が綻んで少し笑顔になる。
茶を淹れるために立ち上がった俺は、応接用の椅子にルキアを
半ば強引に座らせた。

「珍しいな。
 午後は休みだっただろう?  残業か?」

茶を淹れながら、俺はルキアに聞く。

「・・・・・・・」

「?   どうした?  なにかあったのか?」

俺はルキアの前に茶を置くと向かいに座って こんな風に見るからに
態度がおかしなルキアが だんだん心配になってくる。

(通常、コイツは意地っ張りだから困ってる時ほど、
 心配かけまいと表に出さない。  ・・・それが・・・。)


「・・・・・・
 ・・・あの・・・・ 今日はお前の誕生日だったろう?!
 その・・・・今まで忘れていた訳ではなかったのだが、
 渡せるような状況じゃ なかったから・・・・・。
 でも、今年は どうしても渡したかったのだ・・・・・。

 でも月末は とても忙しいだろう? 
 ・・・・・兄様に思い切ってお聞きしたのだ。
 そうしたら、『この時間帯なら大抵お茶の時間だから構わぬ。』と、
 仰って頂けたので・・・・・。
 その・・・・ 誕生日祝いの品だ。
 嫌でなければ・・・ その  受け取って欲しい・・・・・・。」


長い沈黙の後、ルキアがやっと口を開いた。
頬を赤く染めて、風呂敷包みを見つめたまま、しどろもどろにそう言って
俺にその包みを差し出した。


ーー ルキア、てめ!  渡すお前がそんな恥ずかしそうだと、受け取る俺まで
   照れくさくなるだろ!!

「おう! 
 ありがとう、ルキア。  開けてもいいか?」

「う・・・・、貴様の趣味とは合わぬやもしれぬ。
 だが、浴衣だから 気に入らねば、部屋着にしてくれ。」

風呂敷を広げると、生成りに濃紺の大小の縦縞入った見た目も涼やかな千々良織、
麻が混ざっているのかサラッとしているのに軟らかい、とても肌触りの良い浴衣だ。

「////// 貴様は暑がりだから、出来るだけ涼しそうなものを選んだのだ。」

「そうだな。 ホント涼しそうで肌触りのよい浴衣だ。
 ありがとう、気に入った。」

ルキアがやっと安心したように満面の笑みを俺に見せた。
そのルキアの笑顔に さらに嬉しくなって俺も満面の笑みを返した。

「浴衣の寸法も『駿河屋』に頼んだので お前に合うはずだ。」

ーー ああ。この間の呉服屋か・・・・。  
   そうか、あの店は死覇装も扱っているから 俺達の身丈寸法が判っている。
   なるほどな・・・・。  
   ルキアがあの日 様子が少し変だったのも
   頑なに口を割らなかったのも 俺のためか・・・・。


「すっげぇ、嬉しい。 ありがとう。」

「//////馬鹿、そう何度も礼を言うな。
 すごく悩んだけれど、その・・・・
 結局 買う事しかできなかったのだから・・・・。」

語尾は弱く 俺の淹れた湯呑みを両手に持って、照れ隠しにお茶を飲む。

ーー お前が俺のためにわざわざ用意してくれたって
   その気持ちがすごく嬉しいんだってvvvvv

「お茶をご馳走様。  そろそろ私は 失礼する。
 月末の忙しい時に これ以上の邪魔はできぬ。」

そう言ってルキアが立ち上がった。
俺はもっと引き止めたかったが、そのための言葉を上手く見つけられなかった。

「・・・ルキア・・・・・・。」

力なく、未練たらしくーー 最悪!
  
名を呼ぶことしか出来なかった・・・・orz

ーーと。 
立ち上がって扉に向かっていたルキアが 「あ!」と、小さく言って 
まるで何か忘れたのを思い出したように俺の座る椅子の後ろを
通って戻ってきた。

ーー  ?  忘れ物か?  

応接机の上やルキアの座っていた椅子の上を俺は素早く確認した。

そんなーーー完全に油断していた俺の首を ルキアの両腕が 
後ろから思いっきり絞めーーー・・・・苦し あ、違!
両腕で俺の首を抱きしめ様と、無理矢理 後ろに引き寄せたのか


「言い忘れるところだった。 
 誕生日おめでとう、恋次。

 ・・・・
 来月は 祭りに連れて行け!」 

ーー ・・・・  あ!!

俺の耳元で言うだけ言って、ルキアは逃げるように走って去った。
あまりに珍しい出来事に 呆然とする俺。

ルキアが俺の頬に甘やかな吐息と柔らかな唇の感触を微かに残していった・・・




ーー ////////  くそ! 
   完全に油断してたって。
   これでこの間の約束をチャラにするつもりか・・・!?

   ちくしょ!  
   これがアイツなりの精一杯か
   可愛いことをしていきやがって・・・・ くそ。

   最後の命令口調は 照れ隠しか・・・?!

   くそ・・・・、もっと なんか 
   俺も仕様があったんじゃねぇのか
   誕生日だから・・・  もしかしたら
   俺から もっとなんかしても怒られなかったんじゃね?
   くそぉ〜〜!  
   今まで月末はずっと忙しいから ここ最近はいつも『打ち上げ』的な
   『お疲れ様』的な『飲み会』 ついでの祝いしかしてなかったから
   誕生日だから 特別な日って 感覚もなくなってた・・・   
   うぉおお・・・   油断した〜〜!!  

俺はアイツのちょっとした行動からめちゃめちゃ 脳内を翻弄されて
しばらく 頭を抱えて悶絶していたーー

ーー くそ。 憶えてろよ、ルキア!

意味不明のそんな捨て台詞的な想いを最後に自分の脳内から現実に戻る。

流石にそろそろ『隊長が戻ってくる』 ーーがち現実に戻れた。


冷静になった俺は 自分の席に座ると 黙々と手早く仕事をこなした。

ーー なんか今なら、この程度の書類の量 余裕で処理できそうな気がした。
   明日から  もう『来月』だからな・・・・。
   ルキアと『祭り』に行く!!
   約束は果たさねぇとな♪




最後までお付き合い頂いてありがとうございました。 これが実は『恋次。お誕生日おめでとう』話でした。 (最後にこう書いてみたかっただけかもしれません?!) 最初の企画では少しづつUPされるはずだったのですが。 最後にバタバタとまとめてのUPになってしまいました。 ここに『誕生日話』をこんな形でUPしようと企画した お馬鹿な管理人に 一言いただければ、とっても慰めになります。  (途中で無理な企画と気付いても止められなかった・・・・・llllllorz ) Aug.31.2008〜Oct.03.2008 『やる気の元』のお話でした。  ありがとうございましたvvvvv

無理な企画の意味するところは   9月11日の「日記」に 詳細を書きました。   本当にここの管理人は天然系超アバウトな人ってことです。   ごめんなさい・・・・・・m(_ _;)m TOP