秘 密 

午後から非番のその日、俺は死覇装姿のままルキアとの待ち合わせ場所に急ぐ。 今日は流魂街に買い物に行く約束をしていたので朽木家と六番隊と瀞霊廷西門(白道門)への 道が交わる辻が待ち合わせ場所だ。 瞬歩で早めに辿り着いた俺と違い 一日非番のルキアは薄く化粧をして落ち着いた色目の 蝶の描かれた着物姿で待ち合わせ場所にゆっくり歩いて現れた。 地味目の着物で目立たないようにしちゃぁいるが、充分人目を惹いて眩しいほどに 最近のルキアは綺麗だと思う。 互いの姿が充分確認できる距離まで近づいて来た時、清家の爺さんがルキアに張り 付かせていた朽木の蜘蛛が四方に散っていった。 いつものように俺に気付くと ルキアは一瞬嬉しそうな顔をした後、悪態吐こうと強気の 顔を見せたーー  だが、すぐに不機嫌そうな俺に気付いて訝かし気に顔を傾げた。 薄い化粧のルキアが見せるそんな仕草が俺の目にはとても蠱惑的に映る。 本来なら嬉しい筈のこんなことさえ俺の心中を苛々と漣たたせる。 「恋次、早いな・・・   !?  どうした、何かあったのか?」 「ーーー お前さ・・・俺に隠し事つーか 言い忘れてる事ってねぇか?」 俺のいきなりな問いに蒼紫の大きな瞳がいつも以上に見開かれる。 だが、すぐにいつもの生意気そうな強気な顔で悪戯気に瞳を輝かせると 「隠し事などしている訳あるまい・・・・・と言いたいが  ふふん!  私も女だ。  『男』である貴様には言えぬ隠し事の1つや2つあって当然であろう。」 「ーーーーはぁ!!?  (ルキア、てめ、ちくしょ!) 」 最近 ルキアに会う時、俺の心中は穏やかではいられない! どうしようも無え想いに苛まれていた 今日、ルキアが朽木の邸とはまるっきり反対の方向から現れたーー こんな些細な事が気になる ーールキアは 非番に狛村隊長や日番谷隊長と定期的に会っているーー ルキア・本人からではなく人伝に聞いた事 非番をどう過ごすかなんてコイツの勝手で 会うったって勘ぐらなきゃならねぇ様な 付き合いをしてる訳じゃぁ無え事も重々分かっている。 ましてや、今まで友人が少なくて寂しそうなコイツを考えれば、非番を一緒に 過ごせる様な付き合いができるヤツができたーー  これは喜んでやらなきゃならねぇ事だってのも分かってる・・・・・・・・ ただし 相手がルキアに気のある隊長格「男」でさえなければ・・・だ! だが、鈍いルキアがそんな事に気付ける訳も無く、わざわざ教えて意識させたくも無い。 そう思っていながらも  ルキアがどういうつもりで隊長達と会っているのか? 俺が知らないだけで隊長達以外にも非番を一緒に過ごしている「男」がいるんじゃねぇのか? そんな馬鹿馬鹿しい疑問が俺を苛なむ。 俺はルキアの口から聞きたかった! さらっと隊長達との事、午前中の事を言って欲しかった・・・ それが気持ちに疚しさのない証明になるんじゃねぇのか?! こんな事に囚われている俺を愚かだと分かっている。 分かっていながらもどうしようもない感情に振り回されて不機嫌になる自分すら抑えられなかった。 ルキアを抱いて俺のモノだと 掛替えのない女だと実感した今の方が俺の中で独占欲が大きく ハバを効かせて苛み苦しめる。 ーー 分かっている・・・・ これは俺の勝手な嫉妬だとーー そんな俺の胸中も知らず、コイツは逆に意味深な答えを返してきやがったーー ルキアにこんな狭量で情けない己を曝す気もない俺はそれ以上の質問を諦めて重く口を噤む。 ーー 女なんて信用したら痛い目見るだけだぜ  ーー 昨夜酒に飲まれた女たらしの先輩が胡乱な目で俺をじっと見て吐いた珍しく弱気なセリフが 追い討ちをかける様に俺を追い詰める。 ルキアがわざと悪戯に吐いたセリフに いつものように反論もせず黙り込んでさらに 不機嫌になった俺に 再び怪訝な顔が向けられた。 「どうしたというのだ、恋次?   何をそんなに惑っておる?  ーー貴様らしくないぞ、何か変なものでも食したか?」 「べつに・・・ なんでもねーよ。」 ルキアの真直ぐな視線に耐えられず、顔を逸らした。 「・・・・ふんーー  ところで恋次、貴様こそ私に隠し事・・・いや、言い忘れていることはないのか?」 「はぁ?!  んだって俺がてめぇに隠し事なんざぁするってんだ?」 「ほう?  ではーー本当にいい忘れも隠し事もないというのだな?」 それは綺麗な瞳で真直ぐに見つめられているとなんだか・・・・ あれ? あの事って言ってなかったか? いや、あの話はわざわざルキアに伝えるような話じゃ無い コイツが気にするとは思えないが・・・・だが・・・・ 真直ぐに見つめてくる瞳に俺の顔がだんだんと強張ったようになり、どんな表情を していいのかわからず、なんだか嫌な汗が額や背に浮いて流れだす。 「・・・ほぅ、なにやら思い当たる事があったようではないか?!」 「ば・・ば・ばか言え!  俺がルキアに隠し事する訳ねぇだろ!!!  あ・あったとしてもだな・・・ それは職務上の機密で話せねぇだけだ!!」 「ーーーふん、何やら貴様と出掛ける気が失せた。  気分が悪くなったゆえ、帰らせてもらうぞ。」 胡乱なモノを見るように俺を見て、ルキアが踵を返した。 「は?  ルキア、待て!  ちきしょ、待てよ!」 俺は腕を強く引いて強引に抱き上げた。 「何をする!?  放せ、馬鹿恋次!!  貴様などもう知らぬ!」 真っ赤になってジタバタしながら、俺を殴って怒るルキアの瞳が潤んでいるのを知る。 「ーー変な事を聞いて悪かったって・・・・  お前が朽木の屋敷じゃねぇ方向から現れるから・・・ 余計な心配をした・・・・・・」 「意味が分からぬ!」 「だぁっ!  悪かったって。  いっそお前を俺以外行けない場所に閉じ込めたいくれぇだ・・・・・。」 ぼそりと洩れた本音にルキアの瞳が大きく見開かれる。 「馬鹿! 本気にするなよ・・・・ 喩えだからな 喩え。  それっくらいお前が俺以外に歓心されるのも気になるし・・・ 何つーか・・・  不安させるな。」 珍しく弱気を吐いて恋次が私を強く抱き締めた。 ーーなんだ、私と同じではないか。 最近、少し様子のオカシかった恋次になんとなく不安になっていた。 ーー男なんて付き合って抱いたらすぐに飽きてしまって目移りするものよ。 なんて言葉が13番隊の食堂で聞くとはなしに耳に入ってきた。 思わず 十番隊副隊長・松本殿にどうすれば良いのか、相談した。 「朽木、アンタ本気で言ってるの?   あの恋次が目移りするかもって?  ぅははは・・・・  ないない、絶対。  ありえないから!」 ぶんぶんと大きく横に手を振って大笑いされてしまった。 「だが、私は松本殿のような魅力ある女性ではないので・・・。」 悄然と項垂れた私に大きく溜息を吐くと秘策という名の助言を一つ下さった。 「じゃぁ、飽きられない秘策を。  何でも全てを話さないで、2割は秘密にしておきなさい。」 抱き締めたまま、途切れ途切れにぼそぼそと語る私の話を聞いていた恋次が急に 移動を始めた。 「出掛ける気は失せたって言ったよなーー 丁度いい。  俺はその気になった。」 「ば、ばか恋次、何を言っている?!  一体どこに連れて行こうというのだ?  私は何の気にもなっていないぞ。」 「俺んち。  大丈夫だって、俺がちゃんとその気にさせてやるから。」 「馬鹿!  変態!  放せ!」 「うるせー テメーの所為だ。  その『男には言えない女の隠し事』とやらを白状させてやる。  覚悟しやがれ。」 「だからそれは 言葉の絢だ!  喩えだ!  本気にするヤツがあるか!!」


  ーー 少しくらい秘密があったほうがいい −−  なんて相手によるんだよ、ルキア

あとがき Jun.09〜21.Jun.2009 『やる気の元』でした。 ありがとうございました。