袖白雪 斬魄刀の反乱が文字通り納まるべき鞘に納まり、精霊廷は元通り ーーいや建物の崩壊や怪我人が多数出た事を考えれば完全に元通りという訳ではなかったーー そしてここにも元通りではないものが・・・。 「あのさ、ルキアと斬魄刀の関係ってさ、 精霊廷じゃ元からあんなだったのか?」 「いや、全然あんなんじゃねぇって!!」 精霊廷内、とある公園の木陰に朽木ルキアとその斬魄刀・袖白雪によって緋毛氈を敷かれて 優雅な“野点”茶の席が設けられていた。 ソレに付き合わされた 否、招かれた客人 六番隊・副隊長 阿散井恋次と死神代行・黒崎一護 通常ならこういうらしくもないものには脅されたって出ない!! ーーけれど、珍しく袖白雪が「ぜひとも」と言って誘っただけでなく、大きな輝く瞳で一連の 騒動の際の礼だと請われては断れないルキアに弱い二人。 不本意ながら招かれてみれば、疎外ーーっつーかはっきり邪魔モノ扱いでーー 茶席の主として緋毛氈の中央にルキアと密着するように座った袖白雪が何くれとルキアの世話を 焼いて 必要以上に触れる様を見せつけられて悶々とした苛々を募らせる始末。 ーーぜってぇわざとだ! そんな斬魄刀に煽られて嫉妬する情けない自分をルキアに曝すのも憚られ、緋毛氈の端に 小さく正座させられて互いの心中をぼそぼそとヤリトリする ルキアの気のある二人。 「そこの二人、何か仰いましたか?  茶の席上ではお静かに願います。」 袖白雪から 能力同様の氷の刃のような鋭く冷たい視線が流される。 「白雪、今日は二人に礼をするために招いたのだ。  そのように堅苦しくしては礼にならぬではないか・・・・・。」 ルキアがなんとか袖の白雪を諌めてくれる。 だが、袖白雪は軽く溜息を吐いてただでさえ近いルキアとの距離を縮めてにじり寄る。 「ルキア、かようなモノどもにそのような気遣いは無用じゃ。」 「「てめ、何勝手な事言ってやがる!!」」   今日だけでなくコレまでに何度と無く袖の白雪に散々な暴言を吐かれ、下等な扱い受けていた 一護と恋次がユニゾンで抗議した。 ルキアの手前かなり抑えていたが、いい加減我慢の限界、腹に据えかねてのこと。 だが、あっという間に一護と恋次の激怒した言葉が! 動きが! 思いもよらないモノで停止する。   「・・・あっ・・ ふぁ・・・やめ」 普段のルキアからはありえないような甘い声と無防備に蕩けそうな顔 目の前に見せ付けられたそんなルキアに目を見張って、自然に赤面するのも止められない。 袖白雪がルキアを抱き締めているのはわかる だが、 その手でどこを触れているのかーーー どうして、ルキアの頬が朱く染まりうっとりした様な甘い困惑顔で あられもない声をあげたのかーー ーー てめ、ルキアに何していやがる!? 言いたいことは山ほど。 脳内では口には絶対出来ないような想い・妄想が川ほど 怒涛のように駆け巡る。 口に出来ない『男』二人のいかがわしい想いが隠し切れずに赤い顔に現われる。 「やめよ、袖白雪。  そのように抱きついては くすぐったいではないか!」 「わたくしはそなたと仲直りをしたかっただけじゃ。  そなたはわたくしで わたくしはそなたなのだと言ったではありませんか?」 「それはーーそうだが・・・ ふぁっ・・・・ だが・・・私はその・・・・  くすぐったいのは苦手 んあっ やめ」 「可愛らしいルキア・・・・  わたくしの大事な死神・・・・・」 そう言って尚も抱き締めて頬を寄せる。 二の舞・白漣を受けたわけでもないのに凍りついたように声も無く動けない、 赤面してアホ面を曝す男二人に ”羨ましいであろう、貴様等には絶対渡さぬ!” といった視線が流される。 斬魄刀・袖白雪のそんな勝ち誇ったような視線に  ”ちきしょ、今に見ていろ!”  といった負け惜しみを心中で吐いて正気に返る二人。 「ちくしょ、もう我慢が出来ねぇ!  てめ、ルキアを放せ!」 「てめぇ、いい気になっていつまでもべたべたしてねぇでルキアから離れろ!!」 緋毛氈にこじんまりと正座をさせらていた男二人が斬魄刀を抜かんばかりに勢いよく立ち上がって  語気も荒く恫喝する。 だが、威勢が良かったのもここまでーー 「ぐぉおおお」「うがぁああああ」 突然 一護と恋次、それぞれが雄叫びを上げながらその場に尻をついて足を掴んで倒れた。 「な、なんだ!?  どうした?  まさか、毒にでもあたったのかーー」 「ほほほほ・・・・・ まさか。   よく御覧なさい、ルキア。  たかが此れしきの正座で痺れただけの事。」 「なにぃ?!   情けないヤツラだな。」 ルキアを腕に抱いたまま袖白雪がすっくと立って二人を冷ややかに見下ろす。 「ほほほ・・・・・ 滑稽で情けない姿じゃ・・・・・。  ルキアも呆れておるわ。  わたくしに命令などできぬようなものどもが、立場を弁えぬからじゃ。  せっかくのわたくしの茶の席が台無しじゃ。  ルキア、このように無粋なものは棄て置いて参りましょう。」 「・・・・え、だが・・・・・」 「このものドモ、どうせ棄て置いたとて襲われて困るような実力のないモノではありますまい。」 「・・・・それはそうだが。  あぁっ、 だからそうやって触れるなと申してーー」 なんのかんの言いながらも寄り添い仲睦まじく去っていく二人。 「待てよ、オイ!  ルキア!」 「ちきしょ、袖白雪、てめ、待てって!」 思わず喚き上げた二人だったが、自分達に向けられた周囲の怪訝な視線に気付いて止めた。 ただでさえ目立つ緋毛氈の上で男二人 悶えるように倒れている姿は人目を惹いて余りある。 その上、大声出して暴れていては理由の情けなさに恥ずかしさが増す。 声もなくじっと動かないで痛みに耐えているしかない。 片や 日常に正座などほとんどない現代っ子。 片や 副隊長の肩書きで 今や椅子か胡坐が許される身。 ーー 嵌められたーー!! ーー ぜってぇ、わざとだ!!      露ほどにも礼なんかで招んでねぇ!! ここしばらく ルキアとゆっくりと話しをすることさえ出来ていない。 あの女ーー あの斬魄刀の所為だ。 袖白雪が実体化したまま片時もルキアから離れない。 朽木ルキアの周りではまだまだ斬魄刀との熱いバトルは続くようですーー


あとがき Aug.27 〜 Sep.10.2009 『やる気の元』でした。