袖白雪 2--リベンジ 「な、さ。  一護。   このまま、あの女にやられっぱなしってのも悔しくねぇか?」 精霊廷を六番隊に向かう道々、今まで無言だった阿散井恋次がいきなり立ち止まって そう言った。 今まで散々 ルキアの斬魄刀・袖白雪から見下したような冷たい視線で罵詈暴言まじりの 厭味を言われ、挙句の果てにはルキアの前で醜態を曝す羽目になった一護と恋次。 だから、いきなりな恋次の発言でも”あの女”ってのは 誰のことを言っているか黒崎一護には わかり過ぎるほど分かった。 それでもーー 呆けて気のない返事する以外どうしようもない。 「はぁ? 恋次。    んなこと言ったって 相手はあの斬魄刀だぜ。  どうスルってんだよ、 どうしようもねぇだろ?!」 悪役よろしく、にやりと嗤うその顔に嫌な予感がした。 「ーー俺に名案がある。」 「げ。  てめぇの名案なんて絶対にやだ!  無理だ!  却下だ!」 「てめ、何にも聞かねぇうちから 即拒否とはいい態度じゃねぇかよ!   あ?!  四の五の言わずにいいから協力しろ!  こんなにコケにされて、ルキアを盗られたまま話も満足に出来ねぇで いいのかよ!  あの高慢ちきな横暴女からルキアを助け出すためだ! いいな、協力しろ!!  ここは尸魂界なんだから とりあえず俺について来いって!」 「ーーえ・・・・、あ、 ルキアを助ける・・・ためって・・・・・・・。  ちょ、待てって・・・・・ だから俺はーー」 ぶつぶつ言いながら 恋次につき従ってしぶしぶ動き出す一護。 『ルキア』 『助け出す』 この重要単語が出ては動くしかないのかーー黒崎一護。 だが、阿散井恋次ーー相手にしようとしてるのは その『ルキア』 の斬魄刀で 『盗られた』とか『助け出す』って 発想自体がすでに完全に間違っている。 「んじゃ、手筈通りで頼んだぜ。」 気合充分、悪役面でにやりと嗤う恋次にやる気の無い気だるい一護の返事が 返ってくる。 「ん・・あぁ・・・・ 俺は霊圧を上げて ルキアと袖白雪の気を逸らさせる役で  その間に霊圧を消して近づいた てめぇがそのバケツの水をあの女にかける。   すると一定期間 袖白雪が斬魄刀に定着されて実体化出来なくなって   めでたしめでたしって。  そういうことだろ?    超簡単な計画じゃねぇか?!  単純なおめーの考えつく限界だな。」 「てめ、うるっせぇよ!  だいたいこういう単純な方法が一番確実で間違いがなくていいんだって!」 自信満々右手に持ったバケツを高々と目の前に上げて見せる恋次。 胡乱な視線でそのアルミのバケツを見つめる一護。 (どう見ても学校の掃除用具入れにあるソレと同じだ。  側面には ご丁寧に黒ででっかく ”十二番隊” って書いてあるし。  そんなアルミのバケツに入った透明な液体・・・・・ホントはただの水なんじゃねー?!   さっき恋次に強引に連れられて一緒に行った隊舎も他の隊にないほど異様な雰囲気と 怪し〜い科学者が漂っていてーー 正直、もう二度と行きたくねぇ!! しかもその依頼した相手も今まで会ったどの死神や虚よりも不気味なヤツだった。 舐めるように俺を見て、興味を持っていることを露骨にアピールされた・・・・・。 正直 戦っても負ける気はしねぇが、その異様さはガチ恐かった・・・・・。 涅マユリ・十二番隊長はめちゃめちゃ一護を凝視したまま横に控えた涅ネムの 持つバケツを指差して言った。 「阿散井副隊長、コレが君の依頼の品だよ。  とにかく”早急に”って依頼だったからね。  見た目の悪さと軽量化は問題外だが、薬の効用は当然完璧だよ。  科学者として言わせてもらえば、こんな不細工な出来上がりは許しがたいのだが。  依頼料をはずんでくれたから良しとしておくよ。  もっともこの”クロサキイチゴ”を検体に差し出すなら見た目も量も完璧な物を  最短で作ってやらないこともないがね、どうだね?  そう悪い話ではあるまい?」 「断る!!   そうまでして要らねぇから!!」 一護がソッコー 断固拒否した。 「それ、ほんっとーに大丈夫なんだろな?  あの”涅”とかってヤツ 超怪しかったじゃねぇか?!」 「ばぁか!!  あぁ見えてあの人は護廷十三番隊で十二番隊隊長と技術開発局二代目局長を  務めるすっげぇ人なんだぞ!  俺は虚圏でもあの隊長に怪我を治してもらってる。  見た目はともかく科学者としての腕は確かだぜ。」 (恋次の言葉に違う意味で”良かった”とーー思った。  アイツが見た目も怪しくオカシイってのはやっぱりこっち(尸魂界)の感覚、  こんな恋次の感覚でもそう感じるんだーーそう聞いてちょっと安心した。  なんか、尸魂界に長く関わっているといろいろ見慣れすぎて ツッコミどころが  多すぎてスルーし過ぎてーー全てが普通に気にならなくなっていた。  だが、さすがに強烈なアレはスルーできねぇだろ・・・・。) 「わかった、わかった。    んで 肝心のルキア達は 何時ここに来るんだ?」 「ん・・・・ もう少しだな・・・・・  いいか、その角に現われたらすぐに霊圧を上げて威嚇しろ。  いいな!」 「わかってるって。」 (そう返事はしたもののーー杜撰な恋次の計画とやっつけ仕事的な”涅”の薬  ーーガチ不安要素しかねぇって。  なんでこんな計画に参加しちまったんだろう・・・・、俺。  なんだかもう現世に帰りたい!!) そんな一護の苦悩も知らずーーそうこうするうちにルキアと袖白雪が近づいて 来ている気配を感じた。 仕方なく打ち合わせどおり出会い頭にいきなり霊圧を上げて威嚇した。 突然現れて、いきなり威嚇する一護を驚いた顔でルキアが見上げていたーー いつも以上に瞳を大きく見開いて。 その瞳に射抜かれたように胸が痛い。 あっと思う間に恋次がバケツを持って瞬歩で現れて 大きく振って袖白雪に かけようとーー 「!!  無礼者・・・・!」「恋次!?」 「あ、てめ ルキア?!」「ルキア!!」 一連の怒声、驚愕の声が収まった時・・・・・  俺達の前には液体を頭から被ってずぶぬれのルキアがいた。 恋次が袖白雪にバケツの水を浴びせようとしているのに気づいたルキアが 身を挺して庇ったために代わりに液体を頭から全身すっかり浴びていた。 「き〜さ〜ま〜ら〜!   なんのまねだ、これは?!」 低い声で咎めるルキアの抑えた口調が怒りの大きさを表していた。 そんなルキアに一瞬怯んだ二人だったけれど・・・・ かけた液体がただの 水ではないのだと思い出し慌てる。 「ルキア、てめ 大丈夫か?」 「どこもなんともないか?!」 「そなた等、わたくしのルキアになんとした・・・・  ナンじゃこの水・・・・わたくしがルキアに触れられぬ・・・・・」 「大事無いか、ルキア?」 今までいなかった朽木白哉の声がいきなり聞こえた。 あっという間ーーってかいつの間にか誰よりもルキアの近くに朽木隊長が立って ルキアの長い前髪を掻き揚げて 顔に付いた液体を懐紙で拭き取っていた。 「あ・・・・ /////// に、兄様vvvvv、  兄様が仰っていたとおり この二人が袖白雪に腹いせに水を・・・・・」 「そのようだな。」  一瞬じろりと氷の視線が流されるが すぐに視線はルキアに戻される。 心配そうなーー 愛しおしそうな柔らかな(シスコンバリバリの)眼差し 「それよりこのままでは風邪をひく。」 「あ」 言うが早いかルキアを胸に抱き上げて朽木隊長が消えた。 袖白雪も慌てて後を追った。 対する恋次と一護は慌てて十二番隊に向かった。 ーーあんな怪しい薬品(斬魄刀用)を 死神であるルキアが浴びたのだーー どうなってしまうのかーー心配と後悔で心臓が潰れそうだ。 十二番隊・隊首室の扉を蹴破るくらいの勢いで慌てふためいた黒崎一護と 阿散井恋次が飛び込んできた。 「ナンだね?   私の研究所で煩く騒いで、迷惑だね。  それとも検体の話・・・・」 「涅隊長、さっきの薬って 死神が浴びたらーー」 「てめ、あの薬を浴びた死神はどうなーー」 「??  落ち着きたまえ。  君たちは何を言っているんだね?  あぁ・・・ 思い出したよ。  君等に渡した薬かね?  確かに君等・六番隊からの最初の依頼は ”斬魄刀が実体化できないようにして  欲しい”って話だったと記憶している。  だが、君等が時間潰しにここを出た後 すぐに君の上司である朽木隊長が現れて  その斬魄刀用の薬を万が一死神が浴びた時の魂魄への有害性の高さを確認したら、  依頼内容を危険な副作用など無い ”一定期間だけ離斬魄刀が持ち主と接触が  困難になる薬” に中身を変更していったのだよ。  ふ・・・む。   君等がそんなに驚いているという事はこの一連の話の問題点はだね、君等・隊内の  相互の連絡不足という事じゃないのかね?  これ以上詳しい話が聞きたいなら 自分の隊長に聞きたまえ。   悪いが、私は忙しいんだよ。  六番隊内での問題はここに持ち込むんじゃない。」 馬鹿みたいに口を開けて話を聞いていた二人をじろりと一瞥して 「まったく・・・・”検体”協力する気がないなら、研究の邪魔だよ!  早く出て行きたまえ!  いや、ネム、この邪魔モノを排除しろ。」 不機嫌にそう言って再びフラスコを持って振り、怪しい色の薬品を調合する”研究”に 没頭しだした。 「はい、マユリ様。  失礼いたします。」 ネムが片手で阿散井、もう一方の片手で一護を軽々と肩に担ぐと 「うおぉっ」て 奇声を発して驚いている二人をぽいっと研究室から投げ出した。 「失礼いたしました。」 そう丁寧に頭を下げると十二番隊の隊首室の扉が閉められた。 ネムに無造作にいとも簡単に投げられてしまった二人。 冷たい廊下に尻餅をついたように座り込んだまま いろんなことがショックで 呆然としたまますぐには動けずにいた。 「ーーーな、さ。  恋次。」 「・・・・・なんだ、一護。」 「さっき ルキアが ”兄様が仰っていた通り”って確かに言ってたよな?  まさかとは思うが てめ、この計画を白哉に話したのか?」 「馬鹿言え、 隊長になんか言うかよ?    ってかこんな話、出来る訳ねぇだろ?!」 「けどさ、白哉には俺らの行動が完全に読まれてるじゃねぇかよ・・・・。  しかもアイツ、阻止するどころか ルキアに知らせて斬魄刀を庇わせて  お前の杜撰な計画の安全性と成功確率を上げてるよな。」 「ーーー」 「ーーー」 「もしかして 俺達って白哉にも嵌められたんじゃねぇのか?!」 「・・・・う・・・・ やっぱりてめぇもそう思うか?!」 長い沈黙の後 薄暗い廊下に大きな溜息が二つ響いた。 「なんで白哉がこの計画にいつ知ったかなんてのはこの際問題じゃねぇ!  てめ・・・・ ルキアにどう言い訳する気だ?」 「・・・・・・しねぇし、言ったってアイツに俺らの気持ちが理解できる訳ないって。  何も言わなくたってどうせガキみたいに”仕返し”したとしか思ってねぇよ。」 「・・・・・・・・」 ルキアへの気持ちがこんな形で露見するのもイヤだが、”ガキみたいに仕返し”で 片付けられてしまうーーソレはソレで寂しすぎるーー 『ルキア』 への道のりは険しく厳しい。 名門朽木家の敷居の高さ、シスコン・朽木白哉に加え、斬魄刀・袖白雪のガードが 堅い上に ルキア・本人に”男心”を理解する能力が欠如している。 好物の白玉を手土産に ”水をかけた” 謝罪に行く事にする。 とりあえず、今なら袖白雪というガードがない。 白哉からは (隊長からは) きっと・・・絶対 何かきついことを言われるだろうけれど。


あとがき Sep.10 〜 Sep.28.2009 『やる気の元』でした。