春うららールキアと養親 

「まひろ?  てつじぃ?  どこ?」  自分達を探す幼い娘の可愛い声がしている事に気付いた眞尋は 驚きながらぱたぱたと台所から出て慌ててルキアの声のする中庭に 面した廊下の先、奥座敷に向かう。 「・・・・? ルキアは實時様と一緒だったはず・・・」 春らしいまどろみを誘うような陽気の午後  中庭に植えられた藤がふんわりと薫る。 ぽわんとした起きぬけの顔で目を擦りながら奥座敷から出てきた ルキアが長い廊下の先にいた。 自分の姿を見つけると輝くような満面の笑みになってルキアが たどたどしく走りだした。 「ルキア!  そんな 急に走ったら転 あっ!」 いい終わらないうちにすてんと見事に前のめりに転がった。 「ーーーー」 何が起こったか分からないルキアが廊下に寝たまま吃驚した顔で 眞尋を見上げる。ーー大きな瞳が自分を見つめたまま動かない。 「ルキア・・・ 」 「だーかーらー  そこで心配そうな顔するから泣きだすんだって、眞尋。  笑え、笑ってやれ!」 眞尋の後ろからはっきりした通る声が聞こえる。 振り向けば、實時が大柄な体躯を裏切るイタヅラっ子のような 満面の笑みを2人に向けて立っていた。 一瞬、可愛い顔を歪めて泣きだしそうになっていたルキアが 探していた2人の笑顔に再び嬉しそうな笑みになる。 「てつじぃ!  まひろ!」 よろよろと無器用に立ち上がると再び幼い足取りで2人を 目がけてかけて来る、小さな手をいっぱいに伸ばして。 大柄なてつじぃがしゃがんでその小さな身体を受け止めようと 手を伸ばした。 だが、その手前で同じ様に赤い髪の養父・眞尋がしゃがんで 受け手を出すと、てつじぃに向かっていたルキアが倒れるように 方向転換してその細く綺麗な指を持つ手の中におさまり抱かれた。 「ぁあ!   眞尋、きたねぇぞ・・・・ルキアは私のほうに」「實時様!!」 腕にしっかりとルキアを抱き上げてスラリと立った眞尋が 美しい貌を凍らせて切れ長の瞳で鋭く睨んだ。   こうなると實時は黙るしかない。 「ルキアの前で汚い言葉を使わないで下さい。  それにくれぐれも目を離さないで下さいともお願い」 「悪かった。   ルキアが眠ってしまったので書籍を取りに行っていた。」 「寝ついたばかりは気配に敏感だから離れてはダメだってあれほど」 「悪かったって。    その様に怖い顔で睨むなーー眞尋、せっかくの綺麗な貌が台無し」 「まひろ  こわいない。  やさし。」 「///////ルキア」 一生懸命2人の話を聞いていた小さな娘がたどたどしく弁護して 眞尋に抱きつく。 可愛いルキアの言葉が嬉しくて面映くて眞尋も抱き締め返す。 「な・・なんだ、眞尋、ルキア・・狡いぞ!   2人だけでそんな」 言うが早いか 實時がルキアを抱き締めたままの眞尋を抱き上げる。 「うぁ」「ぁあ・・」 いきなりの事に驚く二人を得意気に満面いっぱいに笑って實時が見下ろした。 「/////實時様!  悪ふざけはおやめくださ」「わぁい、だっこ、  まひろ、だっこvvvvvv」 「///////?????實時様!!」 「なんだ、ルキアが喜んでいるのに眞尋は不満なのか?」 「//////・・・・・不満とかではなく・・・あの」 すばやく實時が2人の頬に口付ける。 「/////// 實時様!!」 「・・・・まひろ・・・いや?  だめ?」 「・・・ルキア・・・嫌・・じゃないですよ/////」 「るきあも・・るきあも」 小さな手が添えられて頬に口付けられる。 「おぉ・・・ルキア!  私には?」 「////// 實時様・・・ ルキアになんてこと」 「いいんだよな、ルキア」「な」 ーーー 楽しく笑い合った私達ーーー ーーー 今は遠い夢のような日々 ??? なんの憂いもなく 何も知らず 幸せだった ある日突然 壊された幸せ ーーお二人だけは いつか失うと覚悟されていたーー 「ん?   ルキア、起きたか?」  私を抱く大きな温かな胸から声が響く。 恋次の家の縁側で春の陽気に誘われて私達はうたた寝していた。 柱に寄りかかった恋次が私を膝に乗せ抱いたまま大きく手足を 伸ばして欠伸をした。 私は恋次の着物の併せを掴んで縋りつくように頬を寄せる。 「・・・んぁあ?・・・  ん・・ルキア・・・?」 「・・・・・・」 何も応えない私の髪をそっと撫でて 恋次が私を甘やかす。 温かく大きな掌、穏やかな鼓動 恋次の霊圧が優しく私を包んで 無言でしがみつく私を抱き締める。 「大丈夫・・・俺はどこにも行かねぇよ・・・。  ずっとてめぇの傍にいるから安心しろって。」 「ーーーどうし」 「寝言だよ・・・ てつじぃ・眞尋って呼んでたんだよ。」 弾かれた様に胸から跳ね起きて恋次の顔を見上げた。 「//////なに?!  他に何か言っていたか?」 「いや・・・・はっきり聞き取れたのはそれだけだ。  つーかさぁ・・・。  お前さ、たまには俺の名を呼べって・・・。」 「////////た、たわけ!  貴様、何を馬鹿な事を言っているのだ?」 「うるせぇ、たわけって言うな!   無理を承知でちょっと言ってみただけだろ・・・・。」 拗ねたように顔を逸らせた恋次が子供の頃のようでおかしくて笑ってしまう。 「///// くそっ、笑ってろーールキア・・・  くくっ・・馬鹿じゃね・・はははは・・・」 結局恋次も己の言葉の馬鹿馬鹿しさに笑い出した。 他愛ないことで笑い合えるーーそんな『今』が幸せなのだ。 幸せはいつも気付かないほど近く当たり前のようにあったのだ。 もう何者にも壊させはしない。 コヤツとなら大丈夫ーーー襟を引いて口吻を求める。 恋次がすぐに気付いて強く私を抱き締めて応じる ーーどこまでも私を甘やかすーー  『ルキア、俺をもっと頼って甘えろって・・・・・ 全然足らねぇよ!  ーーー何でも一人で背負い込むな、いいな!』  力強く私を抱く腕に身体を預けて温かな胸にまた頬を寄せた。


  あとがき May.07〜Jun.09.2009 『やる気の元』でした。 ありがとうございました。