『ヤル気の元』 ありがとうございます!

惚 気

「んぁ、何だって、理吉?   俺にルキアの話をして欲しいって?!  どんなヤツかって?!  んだって そんな事を聞きたがる?」 居酒屋の理吉の向かいの席で猪口を持って座る六番隊・副隊長の阿散井恋次の顔が オレからルキア様の名前が出た途端に渋くなって険しい視線を投げてくる。 (うぁっ、言い出すにはまだちょっと早かったかも・・・・?!) 理吉の心中は穏やかではいられない。 普段の恋次さんにルキア様の事を聞いても ほとんど話してはくれない。 聞いても少し照れたような顔で 「ルキアのこと?  口が悪くて態度もデカいって てめぇも知ってんだろ?」 とか 「あーー?!  てめ、そんなこと聞いてどうすんだ?」 と 不機嫌そうに言った後、 「うるせえ!  さっさとてめぇの仕事しろ!」 で終わってしまう。 だから、この日酒を飲むと少し饒舌になる恋次さんに思い切って聞いてみたのだ。 オレの知ってるルキア様は朽木隊長や旅禍、恋次さんが命を賭けて護りたかった 朽木家のお姫様。 現世や虚圏に恋次さんと組んで行けるほどの戦士で オレの尊敬する恋次さんに面と 向かって平気で悪態を吐いて、辛辣な事を言える気の強い女性死神。 恋次さんがそんなルキア様の悪態を公然と許してる幼馴染で、 月に2・3度しか非番に会う約束ができないって嘆きながらも その約束をとても 愉しみに 励みにしてる恋人。  そう、恋次さんの恋人。 一週間に一度は副隊長の忙しい激務の間を縫ってこっそり会いに行くほど大好きで 大事に思っている人。    ・・・・だが、ルキア様はどうなのだろう? 普通の恋人・・・・ オレにはよく分からないし、知りもしないけれど。 それでも オレが想像する恋人は 少なくとも好きな相手にあんな悪態は吐かないし、 新人の訓練と恋人との約束なら 恋人の約束を優先してくれそうだ。 少なくともオレの友達の恋人達はそんな感じだ。 それに『恋人』ってのは知る人だけが知っている『周知』なだけで、2人とも『公表』 しているわけじゃない。 『付き合ってる』なんて もしかしたら恋次さんが何か勘違いをしてるとか・・・・、 または気のあるような事を言われて、実はルキア様に揶揄われているだけなんじゃ ないだろうか? オレは尊敬する恋次さんが貴族のお姫様の気紛れに振り回されているなんて嫌だ! だから・・・・ 聞いてみたかった。 確認したかったんだ。 「いや、ルキア様は恋次さんに会う度毎にあんなに悪態吐いてますけど 本当に  恋次さんのことが好きなんですか?  オレにはルキア様の態度がどう見てもそんな風に見えないんですけど・・・・。」 オレの言葉に 恋次さんがすごく驚いた、一瞬怒った様な顔もした。 けど・・・・・ 俺があまりに真剣な 必死な顔をしてるから・・・ 一瞬脱力した ように溜息を吐くと、「あぁ、そっか。」って一人納得したように呟いた。 次の瞬間、くくっと 籠もったように笑うと  「おめぇにゃ見えねぇもんな・・・。」ってぼそりと言ってまた 笑った。 「・・・くっ・・・。    お前が見えてるルキアってのはさ、軽く眉間に皺を寄せて俺に悪態を吐こうと  気の強そうな態で駆け寄ってくる姿からだろ?  その前のアイツの姿なんて見た事ねぇんだろ!?  俺を見つけた瞬間、アイツはあの大きな瞳を煌めかせて それは嬉しそうな  すっげえ可愛い笑顔をするんだぜ、すぐに我に返ってお前の知ってる臨戦態勢の  顔になるのさ。  アイツはすっげぇ意地っ張りで照れ屋でいつも気を張って 本心とか素顔を隠すから  本当のアイツなんて分かり難いんだよ。    アイツがあんな態度で接するのは尸魂界じゃ俺だけだって!  ありゃぁ 気を許してる俺だけへの特別な挨拶vvvvなんだよ。  俺も付き合って臨戦態勢でアイツの相手をするんだがな。  だけどたまにさ、まぁ大抵2人だけの時だけだな。  アイツが駆け寄って来て素直にそのまま俺に抱きついてくることがある。  これは滅多にない予想外の行動だから吃驚させられるが、正直超嬉しい!  意地っ張りなアイツが俺を求めたって事の表れだからな。  −−だろ?  アイツって アレで結構抱き心地がいいんだぜ。  抱きとめた小さい華奢な身体は柔らかくて 抱き締めるとしなやかに俺の  腕の中に納まって甘い香りを漂わせる。  特にお互い忙しくて 会いたいのに会えない 久しぶりに会った時なんかに  されてみろ?!  もう感無量、堪んねぇよ。  ただ、アイツは本当に意地っ張りであまり本心を見せないヤツだから・・・。  こういう時のルキアは要注意。  取り扱い厳重注意なんだって。  久しぶりに会えたから、嬉しくて抱きついて来るってのは本当に稀だな。  実は仕事で何か辛い事があった時だったりする。  最近じゃ、魂送した魂が実の親に撲殺された幼い子供の時だったな。  弱い子供が卑劣な大人に撲殺されるなんて事は戌吊じゃ日常茶飯事で   嫌っていうほど見せられてきた俺達だが、やっぱりガキの理不尽な『死』の  魂送は やるせなくて辛い。  ましてや、年端もいかねぇガキが本来守るべき実の親に無残に殺されたと  あっちゃぁ なおさらだ。  何年、何十年 この仕事(死神)をやったって慣れるような代物じゃねぇ。  アイツは絶対に何があったかなんてこっちから聞いたって、素直に  口を割るようなヤツじゃない。  こういう時、俺は何も聞かないでふんわりとただ抱き締めてそっと優しく  髪を梳いてやって 『待つ』しかないんだ。  しばらくそうして腕の中に抱いていると、胸の内に顔を埋めたまま そのうちに  ぽつり、ぽつりと話を始める。  ただ黙って聞いてやるしか出来ねぇような内容が多くて、たまにしか助言なんて  してやれやしないが、それでも話す事で胸の痞えが取れる 胸の重しが少し  軽くなるってこともあるだろう?  俺は華奢な身体を抱き締めてただ髪を撫でて 静かに聞いてやる。  アイツの気が済むまでな・・・・。」 その時のことを思い出したのだろう・・・ 普段の恋次さんの厳しい顔がかなり 弛む・・・・ いや だらしなく鼻の下が伸びてるかも。 「ーーーこの後のルキアが最高に可愛いんだって。  俺からそっと身体を離して、面映ゆく歪めた顔をゆっくりと上げて、潤んだ瞳で  俺を見つめて 呟く様な小さな声で 「・・・ありがとう。」って言った後、  頬を染めて微かに笑みを浮かべる。  いや、俺だって無理矢理作られた笑みって事は重々承知だし、その胸の内を思えば  同じ様に胸を痛めちゃいるし、心中を思いやって苦しいんだが・・・・。  しかし ・・・なんていうか・・・ しょうがないだろ!?  普段は絶対にお目にかかれないような憂いを帯びた表情に潤んだ瞳。  俺を心配させまいとして見せた面映ゆい微笑。   この顔は最高に可愛いし、かなりそそられるんだから!!  強烈にクルもんがあるんだって!  あ? もちろんこういう時は口吻るに決まってるだろ。  他のヤツには見せる事のないとろけそうな甘い表情(かお)いや、絶対に見せて  もらっちゃ困る顔と甘い唇と切ない声が堪能できる!」 「/////・・・恋次さん・・・ あの、もう・・・いいです。   充分に分かりましたから・・・・・。」   酒の所為じゃなく真っ赤になった理吉が酒の所為で饒舌になった上司を止めた。 理吉の酔いはもうとっくの昔に醒めていた。 ーー 恋次さん、オレ、貴方がもうルキア様をどれだけ可愛いと思っているか、    どれほどルキア様を大好きかよくわかりました。    酔っている、盲目的に惚れてる恋次さんにそんな質問をしたオレは本当に    馬鹿だって事も理解しました。    なんか心配して損したっていうか・・・ そんな気分です。    だからお願いします、もう止めてください。    だいたい貴方が喋った全ては 貴方目線のルキアさんで・・・     全然オレの質問への答えにはなってないし。    完全にそれはノロケ(惚気)で    内容も一人身のオレには 聞くに耐えません!!    あの・・気の強い女性のそんな甘えているたおやかな姿。    自分だけにしか見せない特別な姿を熱く語られても・・・・。    それに・・・・ 4番隊で見た満面の笑みのルキア様を思い出して    聞いている内にオレまで好きになってしまいそうです。 その日、居酒屋で酔っ払って 何事かを熱く語る六番隊・副隊長の向かいに座る  理吉が激しく滂沱する姿が目撃されていた。 


酔うと饒舌になって 恥ずかしいことを平然と喋る恋次と お馬鹿な質問をして ドツボにハマッタ可哀相な理吉。 この日以来、彼は『泣き上戸』で有名になったとか・・・・・。 『やる気』の元 ありがとうございました! Feb.01.〜Feb.26.2009