告 白 3 続  ずっと互いに忙しかったからやっと一緒に夕飯を食べる時間の取れたその日、食事後 すぐに別れ難くてーー腹ごなしの散歩と称して遠回りして朽木の屋敷にルキアを送る。 疲れていたのか、ただの油断なのかふらりとよろけたルキアの細い肩を抱いて支えた。 抱いた肩の強張りに顔を覗けば 小さなその顔は真っ赤でかち合った瞳は動揺していた。 そんな反応をするルキアに思わず 頬が弛む。 最近のルキアはやっと俺を「男」と認めて意識するようになったのかーー  こういう可愛い反応をよくする。 「急に触れるな、馬鹿!」 嬉しくて可愛くて揶揄いながら余計に触れて逃さないーー その素直過ぎる純情な反応にルキアの気持ちを確認する。 「放せ、変眉!!」 照れ隠しに悪態吐いて、真っ赤な顔で唇を尖らせて俺を睨み上げるルキアは扇情的で 抱き締めて口吻たくなる。 コイツは意地っ張りだから本当の気持ちなんて滅多に言ってくれないからーー いや、理屈じゃねぇ・・・・    ただルキアが愛しくて触れて抱き締めずにはいられない。  だが、今回はいきなりいつもより強く殴り倒されて 「私に触れるな、馬鹿!!  ・・・・も・もう、しばらく貴様とは会わぬ!!」  そう宣言して走り去られてしまった。 ーー はぁっ?   訳がわからねぇ・・・・。    いつもと変わらないヤリトリだった筈。    何が逆鱗に触れたのか?! 慌てて追いかけようとしたところで伝令の地獄蝶が飛んできた。 一瞬、無視して追いかけようと思ったが、隊の緊急事態召集ではそうもいかない。 大きく溜息を一つ落として、瞬歩で隊に移動した。 あまりの呼び出しのタイミングのよさに 一瞬 ”シスコン隊長の嫌がらせ?”と 勘ぐってしまったが、厄介な虚が現世に現れて 自隊の隊士に行方不明と死傷者が 数人出ていた。 状況確認、行方不明の隊士と虚の捜索隊の編成、情報収集と裏づけ確認、隊長への 報告・指示手配等々追い捲られている内にあっという間に5日経っていた。 この手のちょっと厄介な虚退治なんて 別にそれほど特別じゃぁねぇ筈なのに日を 追う毎に不機嫌になる隊長に(哀しいかな、俺にしかわからねぇ程度の感情の浮沈だ。) まさか、ルキアに何かあったのか?! とちょっと理吉に調べさせてみればーーー アイツはほとんど新人しか担当しない早朝勤務に あの宣言の翌日から就いていた。 ーーー羨ましくも贅沢なルキアとの朝食の時間    (今の俺にとっての一番の夢で希望だ!!      そのうち俺が隊長から絶対に勝ち取ってみせるぜ!!)    忙しい(シスコンの)隊長が唯一ゆっくり持てるルキアと話す事のできる時間が    朽木兄妹の唯一の団欒の時間がルキアの早朝勤務によって無くなってるのが    隊長の不機嫌の原因だった。    何故ルキアが早朝勤務になったのかは全くのナゾだが・・・・     あの宣言の翌日からってことは俺の所為かもしれないーー少なくとも隊長の    不機嫌な視線はそう物語っていた。    一日も早くこの面倒くせえ虚を退治してルキアに会いに行かねぇとヤバイ!!    暇を見つけては伝令神機で連絡をとろうとしてもあの馬鹿は出やがらねぇ!    ちきしょ、訳がわからねぇ! 最低目標期限:  ルキアとの約束のあった非番の朝方 何とか件の虚を退治・報告書類を書き上げて早々に家に帰り風呂に入って身支度する。 待ち合わせ場所に念のため行ってみるが、半刻待ってもルキアが現われないので朽木家に 向かう。 朽木の門から本殿まではすんなり通されたのだが 俺を嫌う警備の蜘蛛頭と出会ってしまい、 ”主人不在の今、お約束が無い方はルキア様への面会はできない!”一点張りで取り次ぐ事 さえしやがらねぇ。 隊長が今日仕事なのは副官である俺が一番良く知ってるし、だいたいその規則は煩い朽木の 親戚やルキアを狙う貴族ドモからルキアを護るためのモンだろうが! ごちゃごちゃと警備の蜘蛛と遣り合っていたら、本殿奥の長い廊下からルキアが現われた。 「恋次」 相変わらず小さいくせに存在感があって優美で綺麗だ。 「ルキア・・・・・!」 呼び合った名前にルキアに気付いた蜘蛛達が俺から離れて一斉に傅いて頭を下げる。 俺のこの10日間の焦る胸中も知らず、落ち着きはらったその態度に蜘蛛との小競り合いで 少し気が立っていた俺は苛々とした怒気を含んでどすどすとルキアに歩みよる。 「ルキア、・・・・いい加減にしろよ!  こんなーー  !!」 ーーだが いきなり無言で抱きついてきたルキアに言葉が 思考が止まる。 抱きとめた軽さに 腰に回された細い腕に 胸元に寄せられた小さな頭に 非番の日だけ特別にルキアの着物に焚き込められた甘い香が鼻腔をくすぐり 荒々しい尖った気持ちが消えて 穏やかな愛しさが胸中に広がる 抱き締めた か細い肩と華奢な身体  俺の名を呼ぶ切ない声に愛しさだけで抱き締める 「ルキア・・・・・ルキア・・・てめ、ちきしょ  触るなって 俺を遠ざけやがったくせに」 「うるさい!  男が小さい事をぐちゃぐちゃ言うな!」 けれど 互いに口をついて出るのは照れ隠しの憎まれ口で・・・・ ーーあぁ・・・ルキアも会いたいと思っていてくれたのだと思う。   ルキアがこんな衆人観衆の目の前で我も忘れて抱きついてくるなんて   過去無かったこと なんて少し冷静になれたところで侍従長・清家の爺さんの霊圧が近づいて来ているのが わかった。 「!! ・・・・ 煩え爺さんが来た・・・話は後」「うわっ」 素早くルキアを抱き上げて瞬歩で移動した。 久しぶりに胸に抱き上げたルキアの首筋に触れる腕と頬の体温と魂魄が気持ちいい。 何がおかしいのかくすくすと小さく笑う 嬉しそうなルキアにつられて 俺もなんだか 嬉しくなって自然に顔が綻ぶ。 くだらねぇほどなんでもないことが幸せだと思えるーールキアさえいれば。 よくはわからないが今回のことは俺が悪かったのだろう。 コイツがどうしたいのか どうしたかったのか聞き出さなくてはならない。 こんな風に訳も分からず避けられるような事は二度とご免だ。 「悪かったな・・・・・」 家に着いてもルキアを抱き上げたままぼそりとそう告げた。 「お前が何を怒っているのか分からなかったから 日をおいて会いに行こうと  思っていたら、仕事が立て込んだ上に現世に行く羽目にまでなって  今日まで会いに行けなかった。」 耳元に手を差し入れ 顔を逸らす事を許さず瞳を捕らえて逃がさない。 「けどな、会わないって言うのは止めろ。  一緒にいても分からない事が離れたらもっと分からなくなるだろ。」 「・・・そうだな・・・・・私には分からない事が多すぎる・・・・・  貴様のことも・・自身の事すら・・・・・   だから教えろ、恋次。」 掴んだ袷を強く引いて俺を屈ませてルキアが口吻てくるーーいつも俺がするように 何度もそっと触れて、離れ際に唇を舐めてーーたどたどしく遠慮がちに絡められる舌に 可愛いと愛しさが募る。 ぎこちなく伝えられた魂魄の熱情に 何時にないルキアの行動に戸惑いながらも 嬉しくて どうしたいのかと どうしてくれるのかと期待して先を見守る。 耳元に口吻けられて 首の刺青に添って舌を這わせられるとさすがにやばい。 熱く火照る身体に 煽られた熱情に身体が自然に反応した。 だが、腕に抱くルキアの”してやったり”的な嬉しそうな顔に苦笑せずにいられない。 溜息一つ。 何がしたいのか、俺をどうしたいのかわからないがーー相手はこのルキアなのだ! 期待するのは禁物だ。ーー もう少しコイツのされる任せてみようと 期待半分ー恐さも半分ーー覚悟を決めた。


あとがき ありがとうございました!