告白 4 




その日、久しぶりに恋次と夕食の約束をしていた私は仕事を早く終らせようと焦っていて
いつも以上に余裕がなかった。
毎年、年始に朽木家の行事で休むため、年末はほとんど休みがない。
それは朽木の当主の兄様も同様なので兄様の副官の恋次は逆に年末に休みが多かった。
そんな珍しく非番の恋次との待ち合わせの時間に遅れていた私はかなり焦っていた。
アヤツの方が副隊長として忙しいはずなのに滅多に待ち合わせ時間に遅れることなどない。
しかもこの日はとても寒かった。
アヤツはとても丈夫でこの程度の寒さなど大したことではないし、馬鹿だから風邪をひく
心配もないーー心中でそう言い聞かせながら・・・やはり早く早くと逸る気持ちに
追い立てられていて周りが騒がしいことにもまったく気付けなかった。




「見た見た?  隊舎の前!」
「見た!!  誰?  すっごく格好よくない?」
「確かに背が高くて立ち姿は格好いいけど、帽子で顔はあまりよく見えないじゃない。」
「ふ、ふ〜ん♪  私たちは近くで顔見てきちゃったもんね〜。
 鼻筋の通ったすっごくいい男だった!  ね〜っ!」
「ね〜っ!  でもね、待ち人以外は関心なしってっ感じでね。
 近くまで行ったのに目を閉じたまま見てもくれないの。」
「帽子と襟巻きで分かり難かったけど赤い髪でぜったい長いと思うvvvv」
「ね、ちょっとそれって・・・」
「まさか・・・?!」
「だって、着てた長いコートも帽子も普通に黒だったよ。」
「え、じゃ、違うのかな・・・・?」
「でもあの長身で赤い長髪っていったら・・・やっぱり」
「「ね〜〜っ、見た見た隊舎の前のいい男!」  え? あれ? どうしたの?」







「お疲れさま!」

虎鉄三席にいきなり肩を叩かれて驚いたルキアは「うひゃっ」と変な声を上げてしまった。

「朽木、今日はもう帰って良いわ。」
「////// 虎鉄三席、失礼しました。
 は、あの?  しかしまだ仕事が もう少し書類がーー」
「朽木さ、もしかして今日 六番隊の副隊長と待ち合わせしてるでしょ?」
「はい、あの・・・どうし」
「悪いけど、騒ぎになっちゃって他の人の仕事がはかどらないのよね。 
 いや、正直ごめん。  仕事の邪魔だから帰って、ね。」


”邪魔”とまで言われて少なからずショックを受けて呆けている間に虎鉄三席からぐいぐいと
背中を押されて追い立てられるように隊舎から出されてしまった。


自分の後ろで扉の閉まる音に呆然自失のショックから我に返る。
気がつけば目の前に恋次が居た。

「よぉ、ルキア。  遅かったな。」


黒い帽子を被り、その長身を覆うように長いコートを羽織った恋次が立っていた。
待ち合わせの場所は隊舎の前ではなかった筈・・・・だとか 
私が遅いからここまで迎えに来たのだ、この男は。

−−ここまでは私にも簡単に察することができた。
  また、何故自分が追い出されるように帰されたのか? 
  事ここに至って初めて理解した。

今の今ままでずっと思わず変な声を上げた自分に ぐいぐいと虎鉄三席から押し出される
私に視線が集まっているのだと思っていた・・・・・だが!

真央霊術院での苦い経験が瞬時に思い出された。
あの時も目立つ服装(私服)で女子寮の前で待つ”恋次”に騒ぎが起こり、注目されて
後からずいぶん冷やかされた。

虎鉄三席は『騒ぎになっちゃって他の人の仕事がはかどらない』『仕事の邪魔だから』
と言っていた。
今回も隊舎の前で待つ”異様な姿の恋次”に皆が騒ぐので そのとばっちりで私は仕事も
中途半端なまま早く帰らされたのだ!
ーー早くこの”騒ぎの元を連れて帰れ!”ということなのだ。
  ここ最近会うのはいつも死覇装姿だったのでコヤツの私服の趣味の悪さを完全に失念
  していた。




「恋次、行くぞ!」

慌てて恋次の手を掴んでぐいぐい引っ張って隊舎の前から移動した。

「!!  冷てっ・・・・ ルキア、なんだよ・・・ちょっ 待てって・・・」
「早く来い、恋次!」

隊舎を少し離れたところでやっと足を止める。

「なんだってんだよ?!」
「貴様の所為で早く帰らされたのだぞ!」

コヤツの所為で仕事を邪魔されたという思いがあったので怒って抗議する。

「はっ?!   なんで俺の所為・・・? おかげじゃねぇの?」

能天気な返事に余計腹が立つ。

「貴様がいつもいつもそのように目立つ変な格好ーーー!?・・・・え、あれ?」

黒い帽子、濃いグレーの長いコート・・・どちらも少し光沢のある生地だが、無地で
恋次のまわりを一周してよく見たが、どこにも いつも着ている様な龍とか虎とか鯉とか
麒麟といった訳の分からない動物や派手な色で大きな柄など描かれていなかった。
派手なものといえば 珍しく下ろされた長い髪
コートの中の首に巻かれた襟巻きが髪と同じ緋色と白の二色だったことと
さらにその濃い色の長いコートの袖口や袷の縁取りと裏地が同じく緋色だったことくらいで
どちらかというと趣味よくすっきりと纏められていた。
加えてあまり尸魂界では見ない黒い中折れ帽と着物に合わせた黒いブーツが珍しい格好
だとは思ったがコヤツにしては嘘のように地味な服装だった。

「?? あれ、恋次?  どうしたのだ?」
「どうしたのじゃねぇだろ?  そりゃ、こっちのせりふ。」
「いや、虎鉄三席に皆が騒いで仕事の邪魔だと言われたので・・・てっきりーー」
「?   てっきりなんだ?」
「///////・・・・なんでもない。」

普段あまり見慣れぬ いや、恋次の家で肌を重ねた時にしか見ない髪を下ろした恋次に
間近に顔を覗きこまれて不覚にも動揺して赤面した自分に慌てて顔を反らした。

「ーーーんだよ、てめぇは意味わかんねぇ事言いやがって。
 −−−−は〜っ
 その前に俺に言うことあるんじゃネェのかよ?」
「・・・・その・・・遅くなってすまなかった。」
「ーーーふん。  で、赤と白どっちがいい?」
「は?  なんの話をしている?」

今度は恋次が訳の分からない事を突然言い出したので振り向いて見上げれば、首に巻いた
白い襟巻きを外していた。

「あ、もしかして二枚巻いている一枚を私に貸してくれるのか?
 それなら、赤いほうがいい♪
 私は恋次の髪と同じ緋色が好きだ!」

とても寒かったこの日 襟巻きを貸してもらえることが余程嬉しかったルキアが俺を見上げて
さらっと言った言葉にそんなに意味があったとは思えねぇ・・・・
けど俺にとっては深く心に残る言葉になる。
ガキの時分からコイツのさらっと言われる素直な言葉に何度救われてきたことだろう。

「ちっ、まだ何にも言ってねぇって。」

照れ隠しに憎まれ口を返して ルキアのために用意した白い大判の肩掛けを羽織らせる。

「恋次・・・!」

抗議するように尖らせた唇に軽く口吻けてさらに赤い襟巻きを首に巻いてやる。

「冷たい」

真っ赤な顔で指先で唇に軽く触れながら小さな声で抗議された。

「てめぇの手よりはマシだ。」

小さな両手を己の手で挟んで温める。

「ありがとう、恋次。
 今日の貴様はとても格好いいぞ。」

大きな瞳でうっとりと見上げられては抱きしめずにはいられない。

「ばぁか、いつも格好いいって。 
 ////// 少しは俺のことも温めろ。」

俺の言葉の意味を察した腕の中のルキアが袷を引いて口吻を求める。




こんな寒い日は恋人と過ごすのが一番ーー










  あとがき