TRICK −−恋次 誕生日




その日、珍しく昼ごろから明らかに上級貴族だろう身なりで態度の偉そうな
爺さんと若い死神が 六番隊・隊首室の応接室に隊長を訪れていた。

何が珍しいって隊長が どうみても「朽木家」の私事を隊首室に
迎え入れたって事。

漏れ聞こえる話から どうも爺さんとその孫らしい。

しかもあの隊長が爺さんに何か義理でもあるのか、
月末の忙しいこの時期に爺さんの孫自慢を大人しく黙って聞いて(?)いた。
俺は応接室内の隊長の苦虫を潰したような(俺にも見分けられるようになった)
顔を思い浮かべた。 

だが、すぐに俺だけでも書類を手早く処理しなくては後からの隊長の冷ややか〜な
視線が怖いなと思い、慌てて止まっていた筆を動かす。


ーーと、廊下が変に騒がしい。

何があったのかと探りを入れると 間違いようのないアイツの霊圧で。

「・・・・・・なんだ?」

慌てて部屋を飛び出せば、普段死覇装で黒一色の廊下を華やかなきらびやかな衣装を
纏った一団がこちらに向かって来ていた。

いかにも夏らしい薄絹を一番上に羽織り、打掛というのだろうか・・・・ 
着物の裾を長く引き擦って足捌きも静々と長い廊下を滑るように三人の若い女が
優雅に歩いていた。 
一際目を惹く美しいルキアが 前後に侍女を引き連れて「朽木家の顔」で現れた。

そんなルキアに目を逸らすことができずにじっと見入っていると、 

「お忙しいところを 恐れ入ります、阿散井副隊長殿。
 義兄より届け物を託っております。  
 お取次ぎ願えますか?」

普段のアイツの口調とは違う 凛としているが、丁寧な物言いに我に返る。

「・・・あ、いや、今、隊長は来客中・・・・・」

「構わぬ、通せ。」 

よく通る声が 奥から『諾』を伝える。


すると 侍女の一人がルキアに風呂敷包みを渡した。

「では、ルキア様。 
 私どもは先に屋敷に戻るように清家様より申し付かっております。
 お先にご無礼仕ります。」

そう言うとルキアに二人の侍女が優雅に深々と揃って頭を下げた。

「そうか。  気を付けて戻るように。」

「「はい、ありがとうございます。」」

互いににっこりと悠然と微笑み合う。

普段の護廷隊内では絶対見られない若い女三人のそんな時間軸の違う
貴族らしい(?)のんびりとした遣り取りがすごく新鮮に俺の目に映る。

ーー あぁ、ルキアは 本当に貴族の子女なのだな・・・・・・。



呆然と見ていた俺を ルキアが 例の悪態を吐く顔で一瞥すると、

「たわけ、口を閉じろ! 間抜けに見える。」

小声でそう言って 通り過ぎる。

ーー ちきしょ、前言撤回!!  ルキアはルキアだ!! 





俺は 隊首室・応接室にルキアを案内し、扉を開けてやる。 

「失礼致します、白哉兄様。  お託けの物をお持ちいたしました。」

「ご苦労だった。」


「・・・・・ほぅ・・・・此れは 噂以上な・・・・。」

ルキアを上から下まで嘗め回すように爺さんが凝視して 感嘆するような
溜息とともにそんな唐突な言葉を発した。


瞬間、その言葉に反応して 応接室にルキアを案内した俺の顔が厳しく強張った。
隊長も表情は大して変化させていないのにその眉間の僅かな動きが怒りを伝え、
室温を下げた。

そんな事を気付けない爺さんは話を続けた。

「女でも死神として名高ければ、生まれてくる男の子に戦士の資質が期待できる。
 だが、いくら強くとも岩のような嫁では 我が望月家に女の子をもたらした時に
 嫁ぎ先が無い様なひ孫になっては困りますからな、わっはっはっはっはは・・・」

「///////おじい様!!」

同じく険悪な空気を読めないボンクラそうな孫の頬が染まっている。

「だが、これほど麗美で戦士としても強いと名高いなら申し分ない。
  流石に朽木家ですな。 
  躾も行き届いて、所作、立ち居振る舞いも美しくとても流魂街で拾ったとは
 思えませんな。
 ただ・・・もう少しこの辺りに肉が・・・・・」

好色そうな目つきで爺さんが ルキアの尻の辺りに手を伸ばしーー
俺は思わず拳を振り上げていた・・・・・
だが、爺さんとルキアの着物の間で突然 閃光して 青い火花が大きく散った。

爺さんは少しやけどを負ったのだろう、真っ青な顔で指先を押さえて、
ルキアの着物を驚いたように見つめた。
ルキアもいや、その場の全員が何が起きたのかと驚いた顔でルキアの着物を見た。

一人だけ冷静な隊長が 爺さんを見下したように冷ややかに言葉を発した。

「昨今、精霊廷内でも 無礼、不逞な輩が多いと聞き及ぶ。
 よもや 『朽木の家の者』には必要ないと思ったが、念のために着物に鬼道を
 施してあった。  
 ましてや 望月殿ほどの方には言うに及ばずと思ったが、
 先だってお伝えしたがよかったか?」

「・・・・・・・・・・」

隊長は 淡々と話していたが、あれは絶対 かなり腹を立てている。

爺さんは羞恥のためか、怒りを抑えているためか 顔を真っ赤にして
己の手を押えてルキアの着物を凝視していた。
どちらにせよ、4大貴族・朽木家当主に抗議など出来る訳がねぇよな。
もともとは 自身の無礼が原因だからな。

そんな爺さんと隊長の遣り取りさえ 全く気に留めずに「猛雄」と
呼ばれたボンクラそうな若い死神は 隊長と爺さんの間に挟まれて居た
堪れない様子で俯くルキアをただただ赤い顔で見惚れていた。

ーー まさか、隊長はこんなヤツを来年うちの隊に入れるつもりなんだろうか。
   俺は そんな見当違いなことまで考えていた。
   

「阿散井副隊長。」

急に隊長からそう呼ばれた。 

「はい。」
「用事は済んだ。 ルキアを屋敷に。」
「はっ。」

応接室の扉を引いて、恭しく姫君を促す。 
部屋を出ようとした俺たちの背中に声がかかった。

「・・・あの、僕もご一緒したいのですが・・・・?」
「必要ない。  護廷十三番隊の副隊長の護衛だ。」

絶対零度の声が 冷ややかに制した。



精霊廷の朽木家までの道を 暫く二人黙って歩いた。
先に口を開いたのは 夏の強い日差しの下、貴族の姫らしく
頭に薄い絹衣を被ったルキアだ。

「恋次、どうして いつもより離れて歩くのだ?」
「そりゃあ・・・、おめえの着物にあんな鬼道がかけてあるからだろ。」

そう俺が応えると まるで俺に抱きついて来るかのようにじりじりと
ルキアが寄ってくる。
薄い絹衣の下から覗く口元は楽し気に悪戯っぽく笑っている。


ーー  一瞬 俺はさっき見た青い火花を思い出し、避けることを考える。
    が、無理だ!
    受ける衝撃を覚悟する。

とんっと 受けたのは 優しい香りを伴ったいつものあいつの体重で。
驚く俺の袷を掴んで 満面の笑みのルキアが見上げていた。

「あれは 兄様だ。」

くすくすと笑いながら ルキアがそう種明かしをした。

「はぁ?」

「貴様も信じたのか?  馬鹿め!  
 だいたい鬼道が施された着物など どうやって着るのだ?」

そうだった・・・・・・。 
通常、着物なんて一人で着れるものだけれど、不器用なてめえには 無理。  
ましてや、そんな複雑な帯を結ぶなんて・・・・・。

ーー くそ!  まんまと騙されたぜ。   
   隊長が言うと 何でも本当っぽいっつーの!!


「それにしても、一体なんだったのだろう。  
 今朝、急に清家より兄様への届け物を頼まれたのだ。
 しかも着る着物まで指定されてだぞ。  何か、変だろう?」

「さあな・・・・・。」

俺は恍けた。



ーー あれはどう見ても見合い・・・・・。  悪く言やぁ、品定めだ。

   非公式にするためか、俺に見せつけるためか・・・・・・  両方か!?
   だから、わざわざ あんな場所にルキアを呼びつけた・・・・
   そう考えるしかないような・・・・・・  
   だが、見せつけた意味は




「恋次!!」

ルキアの声に 我に返ると、ルキアは 遥か後方にいた。

「・・・あ!・・・・・・」 

考え事に夢中になって いつもの自分の歩調で歩いていたらしい。
ルキアが 後ろの方で 赤い顔をして、長い着物の裾を両手で持って
怒って立っていた。

「悪かったよ、姫様。」

そう言って 近づいてみて分かった。
顔が赤いのは怒った所為じゃなく、追いつこうとして一応頑張って足早に
歩いたからか。
薄絹の下から俺を睨むその顔は息を切らして、鼻の頭にうっすら汗をかいていた。

俺は気付かれないように少し笑って、ルキアを抱き上げた。

「な! れんーー」
「騒ぐなよ。 これ以上悪目立ちしたくねえだろ、『朽木の姫』」

途中、耳元でルキアを牽制する事を忘れない。


ーー ま、俺にとっても丁度いい、潮時だな。
   ただでさえ小さいルキアが薄絹衣を被ってしまうと 
   共にいるのにその表情が まるで見えない事に
   少し苛ついていたから。

だが、仕方なく大人しく俺に抱き上げられているルキアはかなり不満らしく
少し尖らせた唇が扇情的だ。

「仕方ねえだろ。 
 どう見ても、てめえの恰好は 街中を歩く恰好じゃねえんだから。
 どうせ、来る時は 何かに乗ってきたんだろ?
 だし、どうせ それを被ってたら、傍目にゃあ、誰だかわかんねぇんだから
 構わねぇだろ?!」

「むぅ・・・・・・。 それはそうだが・・・・・・・・。」

そう言った後、急に何を思い立ったか ルキアが 俺の胸に頬を寄せ 
身体もぴったりと密着させた。
予想外の行動に戸惑っていると、アイツは胸の中でくすくすと
笑っているのが薄い衣ごしに見えた。

「六番隊・副隊長殿vvvv 貴様は醜聞になるな!」
「あ、てめ!!  なにしやがる?!」

俺は嬉しそうなルキアに付き合ってわざと怒ってみせた。

ーー バーカ!!  俺にこの程度の醜聞で揺らぐような面子はねえよ!
  
   せいぜい困っても 俺が抱き上げるのはルキアだけだと知ってる 
   耳聡いあの人たちにがっつり酒を奢らされるってことくらいだ。


自ら密着してくるルキアに 嬉しさと照れを押し隠してわざと困った、怒った
ような表情で不機嫌を装う。



何時までもこのままでは居られないのだと・・・・・ 
隊長に現実を突きつけられた気がした。
(いや、もしかしたら清家のじぃさんか?!)

俺は既に覚悟を決めているから、何も問題ない。

けど、 コイツは・・・・・?

どこまでも鈍くて無邪気なコイツに「覚悟」や「自覚」はどこまで
あるのだろうかと
ちょっと考えただけで頭痛がしてきた・・・・・。

俺がこうして二の足踏んでるのが悪いのか!?
傷付けてもさっさと踏み込んで覚悟させた方がいいのか?


「・・・・恋次?」

押し黙ってしまった俺を心配そうに見上げてまるで呟くように
心配するようにルキアが俺の名を呼んだ。

あぁ・・・・・ 真直ぐに俺を見上げる この綺麗な瞳を曇らせるような 
逸らされるようなマネができるか!!
だが、胸を締め付けるこの想いをお前に知らせたいのも事実。

とりあえず、今は 想いを込めて口付ける。

最初は優しく・・・・・・・ 軽くなぞるように 啄ばむように
だんだんと深く与えるように
奪うように求める

甘い吐息に煽られて


俺をもっと求めろ・・・・・  ルキア

お前になら 俺の全てやるから





阿散井恋次副隊長 お誕生日おめでとうございます!! あれ?!  プレゼントを貰うどころか  「全てやる」 とか言っちゃってます・・・・・。 白哉兄様は真面目な顔をして、こういう惚けた事を 平気でやるって設定が好きです。   勝手に捏造しておいてなんですけど。 (色鰤・ゴールデンでこんな感じでしたよね?!) 読んで下さって ありがとうございました。 31.Aug.2008 TOP

この話が「誕生日おめでとう」話になったのは少し無理無理です。 正直に書くなら、私の企画ミスです。  <己の「ばか」を再確認してます。  タイトルどおり「TRICK」です。 1・兄様の鬼道。 2・ルキアの悪戯。 3・管理人の企画的に『TRICK』でした。 実は 本物の「お誕生日おめでとう」話はきちんとあります。  (このページにはありません。) <嫌な書き方ですが、ややムキ(子供かよ!?)になって このまま訳のわからない企画を押し通します。 今はとりあえず 無謀な企画のまま NO HINTS です。 行きつけなかった方々への「種明かし」は  9月11日の「日記」に 詳細を書きました。 本当にここの管理人は天然系超アバウトな人ってことです。 ごめんなさい・・・・・・m(_ _;)m