Valentine's day
ルキア様と付き合い始めた頃から決まって月末になると恋次さんに
「なぁ、理吉。 どこか旨い甘味処か、食事処を知らないか?」
って 質問をされる事が多くなっていた。
最初は
「はぁ・・・・ 美味い店・・・ですか?」
なぁんて気の抜けた返事しか出来なかった恋次さん付きのオレだったが・・・・。
日々、隊士達から少しずつ情報を集めて、今では精霊廷内やその近辺の甘味処、
食事処にかなり詳しくなっていった。
恋次さんが知りたいのは混み合う様な最新の人気店じゃぁない。
小綺麗で美味しくてちょっと前に話題になった様な店だ。
例えば、内装に千代紙が貼られていたり、食器全てがチャッピーの柄だったり、
色とりどりの小鉢の定食、食後に美味な甘味が付く店といった特に女性死神達が
好みそうな店。
だから情報収集も主に女性死神達からとなり、さらに理吉の情報量の多さとその細かく
整理され、分類された情報を逆に女性死神達が頼る事もあり、互いに教え合ったり
するようにもなったので、親しくなる機会が増えるといった嬉しい余禄もあったvvvvv
ーーだからーー
「理吉、あのさ・・・ 旨いチョコの売ってる店を知らねぇか?」
この常に無い質問には少々慌てた。
時期が一月の終わりだったから、来月のバレンタインを意識しての質問だっていうのは
分かったけれど・・・・ どうして恋次さんが?って疑問が残る。
あの! 世事に疎いルキアさんがバレンタインのイベントに全く反応しないのに
焦れた恋次さんが自作自演の工作に出たのだろうか?
いや、それなら・・・・・
毎年断っている本命チョコや食べずにオレ等に回している義理チョコをそれっぽく
見せつければ良い事でわざわざ自ら買いに行く必要もない筈。
ーーー だいたい恋次さんがそんな裏工作を考える訳ないか。
怪訝な顔をしていたオレに恋次さんが説明してくれた。
十番隊・松本副隊長に言われたらしい。
『今年の現世では逆チョコが流行していて 男からチョコを渡しているのよ。』って。
・・・・で どうせならルキアさんからチョコを渡されるのを待ってるよりは
恋次さんから渡した方が 『格好いいんじゃないvvv』って 焚付けられたらしい。
(そう聞いてその気になるところは恋次さんらしい・・・・。)
「チョコ・・・・・えぇ?! できれば、白玉とですか・・・?
わかりました、調査してみます。」
白玉とチョコなんてとてもありそうにない取り合わせで難題だと思ったけれど、
他ならない尊敬する恋次さんの頼み。
恋次さんがべた惚れのルキア様のためなら・・・・。
この日からオレは情報を求めて東奔西走した。
だが、期日まで10日といったところで精霊廷内、各護廷隊でもバレンタインのチョコが
話題として溢れている頃、不審な噂を耳にしたので慌てて恋次さんに報告した。
「恋次さん、恋次さん! 大変です!!
もしかしたら今年から護廷内でのチョコの授受は禁止になるって噂を耳にしました!!」
「んぁ、理吉?! ああ。 それ、俺も聞いてる。
まぁ、うちの隊長も毎年その日にわざわざ休みをとった上に屋敷も不在ってくらい
徹底した避けっぷりを見せるほど嫌がってるし。
総隊長も浮かれすぎだ、馬鹿者どもめ! って激怒してるらしいからな。
かなり信憑性のある噂ではあるな。
だがよぉ、ただでさえその日は うちだけじゃなく 各隊休みの争奪戦が激しいんだ。
護廷内での授受禁止なんて出されてみろ、死人が出るくらいの争奪戦になるのは必須。
だし、女性死神協会がぜってぇ黙ってねぇって。
何より乱菊さんが 絶対禁止令なんて出させないから大丈夫よって言ってたから
対抗策がすでにあるんじゃねぇか・・・・。」
「えぇ〜・・・・・ 松本副隊長は そんなに必死に阻止するほど誰か
渡したい人がいるんですかねぇ〜。」
「さぁな・・・・・。 俺はそんなこえぇ事知りたくねぇな。」
ーー バレンタインのお返しは3倍返しで!!
って精霊廷新聞に派手な広告を載せてたのは女性死神協会だ。
だいたい乱菊さんが本気で渡したい人は渡せない場所に居る。
結局オレは白玉とチョコの組み合わせをしている店を見つけられなかったが、恋次さんは
「ま、もともと無理な注文だったんだ。 悪かったな、理吉。」
そう言ってオレの肩を叩いてくれた。
恋次さんは自分で馴染みの甘味処に無理を言って作ってもらったようだ。
その日、14日は例年通り朽木隊長は休みをとり、不在。
隊長宛てのチョコは隊舎入り口で隊長の厳命通りオレ達・隊士10人が全て断わっていた。
隊内では既に受け取らないというのは有名な話だったので大した混乱はなかったのだが。
今年は同時に副隊長・恋次さんからも全て断ってくれって言われていた。
恋次さんに関して・・・ もちろん本人が隊内外で事前に聞かれる事があれば、
受け取らないと断っていたのだがそんな機会は当然少ない。
恋次さんのあの気さくなキャラに加えて、現在恋人が居ないという周知が チョコを
渡しに来た女性死神や女性達には断るオレ達が勝手に理不尽な妨害をしていると映り
恋次さんがバレンタインチョコをこんな形で全面的に断るなんて納得いかない!!って
抗議の声と反発を呼んでいた。
そうしてあの手この手を使って置いて行こうとする人や無理矢理託けようとする人、
強引に力付くで中に押し入って本人に直接渡そうとする人や八つ当たり気味に
罵詈雑言吐く人まで居て対応がとても大変だった。
(正直、朽木隊長ファンとはかなりカラーが違って積極的な女性が多かったので断る
オレ達の手をさらに焼かせていた。)
ようやくそんな混乱が一段落した頃、オレは恋次さんに午後の休みにお茶を用意しようと
隊首室に入って驚いた。
あんなにオレ達が厳重に必死で警備していたのに いつの間に・・・・・
死覇装ではない艶やかな着物を着たルキア様が隊長の居ない隊首室の応接間に恋次さんと
2人きりで居たのだから。
(恋次さんがこっそり連れて来たのだ、きっと!!)
しかも恋次さんはソファに座る自分の膝の上にしっかりと綺麗な着物姿のルキア様を
大事そうに(逃がさないように?)抱えていた。
けれど、その膝の上のルキア様は真っ赤な顔で恋次さんに抗議していた。
「//////馬鹿恋次、どうしてこのように座らねばならぬのだ?!」
「そりゃあ、俺がわざわざてめぇのために特別に注文した白玉を食べさせるため。」
「意味がわからぬ! 私は自分で食べれる!!」
「残念でした!
これはそういう決まりの食べ物なんだって。
バレンタイン仕様の決まりなんだとよ。
ーーー別に無理にとは言わねぇよ。
今、食べ逃せば来年までは絶対売っていない特別製の白玉だけどよ。
決まり通り食べるのが嫌ってんならこれは俺が一人で食べるだけの事。」
「うぬぅ・・・・ 貴様がご馳走してやると無理矢理連れて来たのだぞ・・・
・・・・ なんだ、その言い様は?!」
「じゃ、ほら 口開けてみ。
白玉に柔らかいチョコが入っていて すごく美味い。」
そう言って恋次さんは器に入った白い小さな塊を匙で掬うとすかさず自分の口に入れた。
「あ・・・」
驚いたように恋次さんの口元を見てルキア様が小さく抗議の声を上げる。
「ーーーー貴様!!」
「別に他には誰も居ないんだから、素直に決まり通りに食えばいいじゃねぇか。
膝に座るまでに俺が3個も食っちまったんだぜ。
後はもう口を開けるだけなのに、いいのか なくなっても・・・よ!?」
「むぅ・・・ //////// ・・・・・・」
意を決したのだろう、目を瞑ると恥じらいと屈辱で真っ赤に頬を染めながら
ルキア様は小さな口を開けた。
ーー ヤバイ! //////////めちゃめちゃ可愛いッス!!
恋次さんは満足げに微笑むと (いや、かなりだらしなく微笑んで)白玉を乗せた匙を
そっとその口に入れた。
匙が抜かれた途端に口をもぐもぐさせると 大きな瞳をさらに見開いてルキア様が
それは嬉しそうな顔をして 感嘆の声を上げた。
「恋次、なんだこれは!?
本当に美味しい。
冷たくてモチモチしていて チョコがあまり甘くないからくどくなくて
柔らかいからさっと口の中に広がって・・・・。」
「だろ! もう1個いくか?」
今度は素直にこっくりと頷いて口を開けた。
それは幸せそうな笑顔を恋次さんに向けて食べ始める。
もう食べさせられてるとか、膝の上がどうのこうのって事は綺麗さっぱり忘れたかの
ように恋次さんにそれは極上の笑顔を向けて 白玉チョコが美味しいって感想を
何度か言った後、だんだんとそれを見つけた恋次さんを褒め始めるルキア様。
「よくこのように美味しくて珍しい物を知っておったな。
尸魂界の詳しさではやはり恋次には敵わぬな。
私も現世についてなら詳しいのだがな・・・・。」
「・・・・・・・」
さすがに最後の一言に関して、恋次さんは何か言いたそうに複雑な顔をした!
けれど、機嫌を損ねないように黙っていた。
ーー じゃぁ・・・『バレンタイン』くらい知ってろっつーの!!
そんな恋次さんの心の声がオレには聞こえた気がした。
「・・・ほらよvvvv」
「・・・・ん・・・。
恋次、貴様 恐い顔の癖に本当によく店を知っておるな。
先日行った美味しい海鮮鍋の店も表からは余り分からぬような路地裏の小さな店だった。
すごいな・・・・、副隊長を伊達に名乗っておらぬ!!」
「てめ、顔とか副隊長は全く関係ねぇだろ。
そんな事しか言えない口なら、俺が残りを食うぞ。」
「待て、待て、待て。
私のために用意してくれたのであろう?!」
ありがとう、恋次。」
ルキア様がこれ以上ないってくらい極上の微笑みを向けながら 恋次さんの襟を引いて
少し屈ませると 頬に唇を寄せた。
さすがの恋次さんもこれにはモロ照れていた。
そんな2人を見てしまったオレは!
オレ等が女性死神や女性達を敵に回して、すごく苦労して
恋次さんの仕事の邪魔しない様に必死に死守している その隊首室で!!
己の膝の上に大事そうに抱える幸せそうな可愛らしい笑顔のルキア様から
オレが日々頑張って調査して恋次さんに教えている店のことでめっちゃ褒めらて
頬に口付けまでされた上司の だらしなく弛んだ顔を思いっきり殴りたい!!
と思わずにはいられなかった!!
「ご馳走様でした。
さすがに1年に一度しか売らない幻の銘菓だな。
とても美味しかった。
・・・・ところで恋次。
このバレンタインとやらはどこに店があるのだ?
私も午前中に乱菊さんの代理で総隊長にバレンタインとやらの銘菓を
お届けしたのだが・・・・。
今、食したものとは箱の形や大きさ、包装もかなり異なっていた気がする。
きっともっといろいろな種類の菓子があるのだろう?!
このように美味しいものなら来年は私も自分で買いたーー
?? 恋次? どうした?
何故そのように困ったような哀しそうな顔をしているのだ?
まさか・・・・ 私が最後の一個を食しては拙かったのか?
恋次? オイ?!」
松本副隊長に上手く言い含められて どうやらルキア様はバレンタインのチョコを
意味も知らないまま総隊長に渡したみたいだ。
(総隊長は知る人ぞ知る朽木ルキアファンだから、松本副隊長の護廷隊内の
チョコ授受禁止の阻止のために利用されたんだ・・・きっと。)
ルキア様が最初にチョコを渡した相手が総隊長だった事に少なからず ショックを
受けて固まった恋次さんの様子に少し溜飲を下げたオレは静かに隊首室を後にした。
ルキア様は最高に可愛いと思う!!
けれども・・・・・
騙されやすかったりして、恋人としてはいろいろ大変だな・・・って思った。
あとがき
Feb.26. 〜 Mar.06.2009
『やる気の元』でした。
最後までお付き合い頂いて ありがとうございました!
* 『White day』のあとがきに総隊長とルキアのバレンタインチョコの
その後話の荒筋があります。
** ルキアファンの総隊長については『正月』をどうぞ。
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