六番隊・隊首室にて
先ほどまで小さく唸り声を漏らしながら報告書を書き連ねていた阿散井恋次がどうやら終わった
らしく ほぅっと安堵の溜息を漏らした。
ナンにつけ賑やかで煩い男だと 同じ隊首室で過ごしている朽木白哉は思った。
(これでも副隊長就任当初よりはかなり静かに隊首室で過ごせるようになったのだ。)
反面 気質が真っ直ぐで分かりやすく裏も無いので 誰からも信頼されている。
その上面倒見も良いので隊内の隊士達はもしかしたら隊長である自分よりもこの副隊長を
慕い頼っているのではないかと思うことも多々ある。
書き上げた書類を見直した後、目を瞑り集中して何かを探す。
アレは「ルキア」を探しているのだーールキアが隊舎から出て精霊廷内を歩いているなら
書類を届けがてら逢い行くつもりなのだろうーー
残念ながら今のところ ルキアの仕事の邪魔をするーー用も無いのに十三番隊に押しかけて行く
ーーといった「愚」を犯していないので 看過してやっているーー今は!
白哉も同様にルキアの魂魄の位置を探ってみるーー
霊子で満ちた尸魂界で 霊圧の大きな隊長格や殺気石の建物などの障害が多く、並み居る魂魄
の中から目立たぬように極力霊圧を抑えている「ルキア」を探すのは砂浜で砂金の粒を探すのと
同じくらい困難で繊細で高い霊圧探査能力を必要とする。
過去 何度となく姿を消すことのできる特殊な虚の討伐にこの副隊長を伴って出動した。
その度に実感させられるのだが、どう見てもコヤツの霊圧探査能力は高くない。
霊圧の大きい者にありがちなことーー 十一番隊の更木などその典型でーー
自身の霊圧が邪魔で 他の霊圧探査が出来ないのだ。
要は自身の霊圧を抑制する能力が低いのだ。
ともすると姿を消した虚にかなり接近されてから気付く事さえあるほど霊圧の探査が鈍く遅い。
今まで生き残ってこれたのは霊圧探査能力の低さを補えるほどの獣じみた野生の勘と反射神経、
並外れた生命力があったからだと白哉は己の副官・阿散井恋次をそう評価・結論つけていた。
それなのにーーー
「ルキア」の探査能力だけは・・・・時として自分を上回るほどに早い。
ーー居た。 どうやら一番隊から自隊に戻るところらしい。
恋次を見やれば、書類を片手に既に立ち上がっていた。
「隊長、先日の討伐の虚に関する書類を一番隊と二番隊に届けてきます。」
そう言って喜々として出掛けようとしていた恋次の動きがぎこちなく止まった。
「?? 隊長? ナンスか?
俺の顔になにかーーー??」
私の怪訝な視線に気付いたのだろう・・・・ 他の者なら絶対気付かないだろう、私の表情の
変化を読み取ったのだ。
この男のこういった機微を読み取る能力はとても高いと思う。
「恋次、何故ルキアの霊圧の探知能力だけは高いのか?」
ことさらに驚いた顔をして悪戯を発見された子供の様に狼狽して恋次が私を見返す。
丁度隊首室に入ってきた理吉が私の質問を耳にして過剰に浮かれた反応をした。
「え、そうなんですか? 恋次さんwwww
へぇ? ルキア様の探査能力だけ?!
すごいですね!! それは愛ですね♪ きっと愛の力ですね♪♪」
ーー 愚か者め!! そのような精神論では埋められぬほどの能力の差だ!
冷ややかに流した私の視線を受けて理吉がその場にへたり込む。
そんな一瞬のヤリトリを見ていた恋次が大きな溜息を吐いて、少し思案する。
「あーー はっきりとはわかりませんけど・・・・。
言われりゃ、確かにそうっスね。
たぶん『馴れ』っスよ。
俺等戌吊じゃ よく追いかけ鬼とか 隠れ鬼とかして遊んでたんですけどーーー
隊長も知ってるでしょ、アイツの負けず嫌いな性格を。
アイツ あの小さい身体でガチ意地になって逃げたり、隠れたりするんスよ。
特に隠れる方は半端無いありえない場所に隠れやがるから 探すほうはそりゃ大変で、
でもアイツ 下手するとその隠れた場所で待ち疲れて寝ちまうんですよ。
呼んでも叫んでも出てこないアイツに何かあったんじゃねぇかと 悪いヤツに攫われ
たんじゃねぇかと 必死に何度も捜すうちに身に付いたんですよ、きっと。」
ーーなるほどと納得する
話すうちに恋次は何かを思い出したらしい・・・・。
く、くっ と 含み笑いを漏らした。
「一度なんかアイツ、小さな木の根元の兎の寝床みてぇな洞(うろ)に隠れたんスけど、
やっぱり寝ちまって・・・・。
俺等仲間が引きづり出した時にはあっちこっち蟻に咬まれていて すげーことになってて
しばらく隠れ鬼はやらなくなりましたね。」
ーー今 生きてあの姿で居るからこそ笑い話にできることーー
「うあっ 隊長、行ってきます!!」
言い終わる前にその姿はそこにはなかった。
早く行かねば、ルキアが自隊の隊舎に戻ってしまう。
相変わらず喧しく落ち着きの無い副官だーー
いろいろな大事を任せるには 頼りなく覚束無いーーまだまだ厳しく鍛えねばなるまい。
だがーーー
『馴れ』 と一言で片付けられるほど容易い回数では無かっただろうにーー
”失いたくない必死な想い”で 何千何万と繰り返したがゆえにあれだけ突出した能力になったのだ。
持っていた書類を卓上に置いて 手を組み白哉は瞳を閉じた。
胸中で「緋真」と呟いて・・・・。
あとがき
Sep.28 〜 Oct.26.2009 『やる気の元』 でした。