White day

3月14日  唯一心配した天気も上々vvvv 俺の気分も上々だったvvvv 今日、俺はルキアから 「先月のバレンタインのチョコの礼だ。  十三番隊近くの丘の上で一緒に弁当を食べないか?」って誘われていた。 ーー 弁当だぞ! 弁当vvvv 余裕を持って昼休みを取るためにすでに月初から猛烈に働いてあらかたの 仕事を全て片付けていた俺は この日上機嫌だったvvvv だが、相反して朽木隊長の機嫌は悪かった。 原因はわかっている・・・・。 俺の所以じゃねぇぞ。 先月のバレンタイン前後もそうだったが、今月も14日が近づくにつれて隊士達から 提出される様々な書類に 誤字脱字といった凡ミス、ミミズがのたくった様な文字のもの、 酷いのになると全くの意味不明な報告書まで・・・・ そんな明らかに上の空で書かれた書類が増えていたからだ。 俺でさえ辟易してるのだから、あの隊長が不機嫌なのも頷ける。 「理吉、コイツラの現世での魂送の報告書、意味分かんねぇって  再提出しろって返しといてくれ。」 そんな書類の一部を理吉に渡していると、 「待て、理吉。」 突然、いつも以上に厳しい顔をした隊長が声をかけてきた。 「はっ、ひゃい!」 普段隊長から呼び止められる事のない理吉は焦った余り、素っ頓狂な返事をした。 「そやつ等と併せて、この紙に名を連ねた隊士を修練所に集めておけ。」 「はい、直ちに!」 隊長から紙を受け取った理吉は隊首室を転げるように慌てて出ていった。 そんな理吉の態をこっそり笑いを噛締めて見ていた俺に隊長がじろりと冷ややかな 視線を投げてくる。 「恋次、貴様は午前中に大した仕事を抱えてはおらぬだろう?」 ーー う・・・・ さすが隊長、よくご存知で。 「・・・・・・はい。」 不本意そうな俺の返事に隊長は微かに楽しげな光を瞳に宿して言った。 「先ほどの弛みきった隊士達を鍛練してやれ!」 「はっ!」 ーー うぉ・・ 焦った。    てっきり午前中には絶対終わらない様な仕事をやらされるのかと思った。 「あからさまにホッとした顔をするな。  もっと仕事を任せてやりたくなるであろう。」 机上の書類に目を落としたままそんなことを言ってくる。 「いや、マジ勘弁してください。」 ーー アンタが言うと、冗談に聞こえないって。    半分は本心だって声が言ってるから・・・・。
「あ、恋次さん、隊長に託った名簿の隊士も全員揃ってます。」 修練所の扉を開けた早々、理吉からそう報告を受ける。 板張りの所内には理吉が集めた30人前後の隊士達がすでにキチンと座って待っていた。 平隊士だけでなく、その中に四席・青海健璽と七席・稗原なぎさの姿を見つけた俺は 驚きと呆れた顔でヤツラを見下ろした。 「は〜っ。  なぁにやってんだ、てめぇら!?  隊長に余計な手間をかけさせてんじゃねぇ!!」 溜息と共にそう注意する俺に面目無さそうに青海は「すみません。」と苦笑いしながら 謝ってくるが、稗原は俺に顔も向けずに悪態を吐いてくる。 「阿散井副隊長みたいな朴念仁には分かりません!!」 「んだと!!  てめぇ、誰に喧嘩売ってんだ?!  だし、仕事が満足に出来ねぇから呼び出されたってのにいい態度じゃねぇか?!」 俺は度重なるコイツの喧嘩腰な態度にムッとなって凄んで霊圧をかけると稗原は 怯んで硬直したように動けなくなった。 そんな稗原を隣に座っていた青海が背後に庇った。 「申し訳ありません、副隊長。  俺が後でちゃんと言い聞かせますから、今の失言は許してやって下さい。」 「−−ふん!  青海、てめぇその言葉にきっちり責任持て、いいな!」 俺は青海の影で俯いた稗原を一睨みして、一任した。 正直俺はこの稗原が苦手だった。 はっきりした綺麗な面と愛嬌の良さで隊内の人気ナンバーワンの女性死神と噂されている 稗原は何が気に入らないのか、事ある毎に反抗的な態度で喧嘩を売ってくるからだ。 言い分が理に適う事なら俺も聴く耳を持つが今みたいに言いがかり的に絡んでくる事が ほとんどだったのでいい加減嫌気がさしていた。 不満や文句があるならはっきり分かるように言えっつーの!! 修練所の中央に立つと、その場の隊士全員に隊長から命令を伝えた。 「てめぇらがここに集められたのは弛んでたからだ!  これから鍛練して気持ちを入れ替えて引き締めろ!って命令だ!!  わかったか?!」 俺は十一番隊の鍛練のようにコイツラ全員に木刀で4組ずつ総当り戦で試合をさせた。 最初はたらたらと真面目に試合わないヤツもいたが、そういうヤツは俺が直接根性が入る ような指導してやったから段々と真剣にやり合うようになっていった。 「お願いします!!」 総当りの順番で遂に俺の前に稗原が立った。 ルキアほどじゃねぇが、雛森くらいに榛原は小柄な死神だ。 (ま、俺よりデカイ女性死神は滅多にいねぇが・・・・。) 稗原は性格同様剣技も攻撃的で直線的に刺すように真直ぐに木刀を向けてくるタイプ。 左右に振らない分、攻撃は早く、その連続攻撃の速さを生かして七席なったのだと思う。 だが、直線的攻撃は逆に単調さと攻撃力の弱さになっていた。 一角さんや更木隊長、朽木隊長の速さを見慣れた俺にとってはそれほどでもなく、 相手を動かすために最小の動きでその切っ先を受け止めて、頃合を見て木刀を絡ませて 横に大きく払うと身の軽い稗原は弾かれた様に飛ばされ、修練所の床に転がった。 通常ならそこで終いなんだが、榛原は素早く立ち上がると「もう一回!」と言って 悔しそうな顔で再度挑んできた。 俺は稗原のこの気の強さと粘りを結構気に入っていた。 すぐに負けを認めるような根性のヤツは『虚』と戦ってもすぐにやられちまう。 移隊して直ぐに鍛練した時にそう言ったら、それは嬉しそうな笑顔で 「ありがとうございます!」って礼を言うような素直なヤツだったのに。 いつからこんなに捻くれちまったんだろう!? けれども・・・・。 何度も再戦を挑んでくる、諦めない稗原に限界が見えてきた時 「副隊長! 朽木隊長の妹さんと付き合ってるって噂は本当なんですか?」 激しく肩を上下させるほど息を切らせて俺を木刀で攻撃しながら、そんな馬鹿な 質問をしてきやがった。 「てめ!  鍛錬中にクダらねぇ事言ってんじゃねぇよ!!  俺を動揺させて隙を衝こうってんなら無駄だぞ!」 ーー コイツは何故自分が今鍛練させられているのか、まるで理解してねぇ! 少し苛っとした俺は今までより強めに木刀を薙ぎ払った。 当然のように稗原の身体は今までより強く床に叩きつけられた。 修練所に大きく響いたその音に青梅が慌てて飛んできた。 「稗原!  大丈夫か?」 「・・・平気です!!   副隊長、・・・・・もう・・いっかい・・・お願・・・い・・します。」 抱き起こした青海の腕を払ってよろけながら稗原が再戦を申し込んでくる。 「断る!  これ以上やっても無駄だ。  てめぇは青海と四番隊に行って、治療と説教をされてて来い!」 「だったら!  ・・・・・副隊長が・・・・・   副隊長が四番隊に連れて行ってください!!  お願いします!  説教でも叱責でも何でも受けますから!!」 「はぁっ!?  断る!   俺はてめぇの今までの態度に呆れてんだ!  そこまで面倒みる気はねぇ。」 必死に思いつめた顔を俺に向けて馬鹿な事を懇願していた稗原が 怒りを含んだ返事に 緊張の糸が切れたのかぽろぽろと涙を流してその場に突っ伏した。 「稗原、てめ・・・  虚相手にもそうやって泣いて見せるつもりか?  青海、後はお前に任せるぞ。   さっき言ってた責を果たせ!」 俺は冷ややかにそう言い捨てて、全員に目を向けると終了を告げた。 「少し早いが、以上で午前中は終了だ。  午後は鍛練したいヤツだけ出て来い!  解散。」 気まずい空気から逃れるように青海と稗原を残して、他の隊士は早々に 修練所を出て行った。 2人を残して最後に出ようとした俺を青海が呼び止めた。 「副隊長、待ってください!    ホントは分かってるんじゃないですか?  アイツがどうしてあんな事を言ったのか?」 「あぁ?   分からねぇし、分かってやる気はねぇな。」 「お願いします!   せめて稗原の望みどおり四番隊に連れて行ってやって下さい。」 「・・・はぁ?   てめぇが責任持つって言ったんだろ?!」 「・・・・でも稗原は副隊長に」「あのよぉーー」 珍しく青海のあまりに真剣な態に俺は話を遮って仕方なく本心を曝す。 「俺はさ もう『大事なモノ』を『ある女』に決めちまった。  その時にこの腕で『その女以外は抱かない』って てめぇ勝手に決めた。  だから、連れて行くなら青海てめぇでも稗原でも 引き擦るか肩に担ぐかだ。  てめぇが居るのにそんなのあまりに馬鹿らしいだろ?」 「・・・・・・・・」 「俺は稗原を部下の死神としてしか見ないし、対応しない。  『女扱い』なんて『無礼な真似』は以ての外だ!  戦士としての矜持を守ってやる事も副隊長の責務だからな。」 俺の言葉に稗原がはっとして伏していた顔をゆっくりと上げた。 「稗原を『女』扱いしていいのはソイツを唯一無二の女として想う『男』だけだ。」 俺の言葉に青海の顔が赤らむが俺の知ったこっちゃねぇ。 「青海四席、稗原七席!!   てめーら、席官でありながら、こんな下らねぇ罰鍛練に名を連ねてんじゃねぇよ!  四番隊に行った後、午後からも使える様に2人でここの掃除をしておけ、いいな?!」 俺は返事を待たずにその場を瞬歩で離れた。 その大事な女に会いに。
十三番隊の近くの丘の上でルキアが大きな箱と並んで座って待っていた。 草の上に死覇装姿で足を伸ばして座るルキアとほぼ同じ大きさの漆塗りの 立派な黒い箱だ。 底から横には飾り細工の施された金属の吊り下げ用の持ち手が付き、表面には 螺鈿と金銀で細かく桜が描かれていた。 まるで小さな箪笥の様に同じ高さの六段の引き出しが飾り細工の引き手が 付いた豪奢な箱。 「よう、ルキア。   何だその箱は?」 「開口一番、質問か?  他に言うべき事があろう、恋次?」 「お待たせしました。   んで、これは?」 「貴様!  ーーーまぁいい、仮にも副隊長殿だ。  忙しかったのだろう。」 「仮じゃねぇっつの。」 「ふふ・・・・ これは朽木家の花見に使われる重箱だ。  一の重の引き出しには取り皿と酒と茶どちらにも使える位の湯のみと箸、4組。  二の重と三の重には一人分ずつの弁当が四、五も通常は一人分ずつ入れたりも  できるのだが、今日は2人分なので四の重にはおかずを。  五は食後のお楽しみだ。  そして最下段には茶や酒を入れる急須状のものが入っておる。」 ルキアが説明しながら次々と留め金を外して箪笥状の箱を引き出して並べていく。 中は鮮やかな朱塗りで細かく区割りが出来るようになっていて彩りよく色々な おかずが盛られていた。 「・・・・・まさか・・・・全部 お前が作ったのか?」 「・・・・・む、まさかだ。  ・・・・・無理に決まっておろう。  飛竜頭と椎茸、人参の煮物と鰆を焼くのを手伝わせてもらっただけだ。」 ーー こういうところは馬鹿正直でルキアだ。     唇を少し尖らせながらほんのり照れくさそうに頬を染めて、茶を注ぐルキアは 新妻のように初々しく映る。 そんなルキアが嬉しくて 早速、箸を取って飛竜頭を口に入れた。 甘めに味付けされた出汁が口中に広がった。 「いただきます。  −−−−ん・・・・意外に美味い。    いや、マジに旨い!」 「恋次、貴様、意外は余分だ!    大体 茶を淹れる間も待てぬのか、貴様は?」 「あぁ。  すげえ腹減ってたから・・・・、悪ぃ。  お、この鰆も上手に焼けてるんじゃねぇか?!」 「そこ!  何故疑問形で言うのだ、馬鹿。    ぁあ・・・・もう・・・・言うんじゃなかった・・・・・//////。」 「いや、俺はすごく嬉しいvvvvvv   ありがとうございます。」 「んむ・・・・////// 今まで馳走になった礼だ。」 「なぁ、もしかしてこの握り飯もお前だろ?」 「あ!  ・・・・・・///////// ・・・・・そ、そうだが・・・・   //////文句があるなら食べなくて良いぞ。」 ーー 大きさはともかく不揃いな形の握り飯が4個並んでいる。    それぞれが三角でも俵でも丸でもない何の形を目指したのだろう? 「いいえ、文句なんて一言もありません。  今まで見たことの無い形ばかりですが、とても旨いです。」 「むぅ・・・棒読みで感想を言うな、変眉!  ///////煩い!  もう良いから 黙って食せ!」 それからもなんだかんだと料理に纏わる想い出話や 今朝、調理場でルキアが 見た朽木の料理人のすごい調理技の話。 最近、俺に提出された意味不明の酷い報告書の話などをしながら楽しく飯を食った。 「んで、その最後の引き出しは何が入ってるんだ?」 食いすぎたか・・・・などと思いながら茶を飲んで聞いてみた。 「んふっふ・・・・・・、 何だと思う?」 「てめ、勿体つけてんじゃねぇよ、すっげぇ気になるだろ?」 「わかった、わかった。   だが、目を閉じて待つのだぞ。」 「なんだ?!  そりゃ。」 「そういう決まりの食後の甘味なのだ!!」 ーー  はいはい。  先月の仕返しって訳か・・・・。 素直に目を閉じて 胡坐をかいて座る俺の前にルキアが引き出しから 取り出した何かを持って立て膝をついてにじり寄る気配を感じた。 何を口に入れるのか、気になった俺はそっと薄目で様子を伺った。 悪戯を仕掛ける子供のように瞳を輝かせながら、俺の肩に左手を添えて右手には 一口大の小さな鯛焼きを持ってゆっくり近寄ってくる。 あまりに遅いそのゆっくりした動作に・・・  何より可愛らしいルキアの様子に 俺は我慢できずに思わず腕を伸ばしてルキアを膝に抱き上げた。 「うぁっ!  −−−ば、ばか!  放せ・・・・恋次!  貴様の大好物の鯛焼きを食べさせ」 「いや、もっと大好物が先に欲しい。」 俺の言葉にルキアの瞳がいつも以上に大きくなった。 「なに?  もっと大好物?   鯛焼き以上の好物があったのか?」 「そ。」 「何故、もっと早く言わぬ?!  他には何も用意しーーー」「お前」 吃驚したままのルキアにそっと口吻た。 「//////ば!  な・・・貴様!  とつぜ」「んじゃ、頂きますvvvv」 さらに軽く口吻て、離す際に小さな唇を舌でなぞった。 「//////// 私はいいとは返事してないぞ!」 「『今までの礼だ、好物をご馳走してやろう!』って言ったよな?」 「・・・・・・ぐっ!  ・・・・・せっかく鯛焼きを手作りしたのに・・・・」 「へぇ!  手作りとはすげえ!!  それはこの大好物の後、絶対食わせてもらおう!!」 「・・・・む・・・・ 貴様、存外欲張りだな・・・・・。」 「ん? そんなこたぁ・・・・・・・いや、ルキア限定でならそうだな。」 「//////  限定って・・・・また意味が分からぬことを・・・・」 「食っても食っても食い足らねぇんだよ。  俺の生命の元だ、一生大事に少しづつ食わせてもらうから覚悟しておけ。」 そう言ってにやりと笑った俺を 言い返そうとしたが言葉を見つけられず ただ真っ赤に上気した顔で睨んでくるルキアはすごく可愛い。 どこまで俺の言った事の意味を理解したのかなんてもうどうでもいい・・・。 そっと耳元に差し込まれた手に仰向けさせられた真っ赤な顔の小さな唇が あ・・と 微かな吐息と共に薄く開いて俺を誘う。 忍び込んだ舌の先が触れた震える小さな舌に 互いの霊力 魂魄が結び合い絡み合って 互いの熱を伝え合う。 ーー  ヤバイ!  最後まで食いたくなっちまう・・・・。 慌てて離した口吻に んぅっと 鼻にかかるように漏れた吐息が名残惜しげに 聞こえたのは俺の希望的幻聴だろうか・・・・。 口吻た恥ずかしさから、ルキアが胸の内に顔を埋めてしまった。 そんなルキアを抱き締めて髪にも口付けた。 どんな悪態さえルキアなら可愛いと思うのは完全に惚れた弱みだと自覚している。 顔を 揺れる瞳を見れば、必ず胸の中の抱き締めて口吻たいと思うのもコイツだからこそ。  そして一度こうして抱き締めてしまったなら離し難い、辛くなってしまう。 ふと見たルキアの指先に見つけた小さな鯛焼き。 その小さな鯛焼きをルキアの手ごと持って、指までわざと口に含んだ。 弾かれたように俺を見上げたルキアが慌てて指を引き抜くと俺の腕から勢いよく離れて 抗議してくる。 「恋次、貴様!  どこまで食べるつもりだ!?  大喰らい!」 「ルキア、とっても美味かったvvvvvv  ご馳走様でしたvvvvv  ありがとう!  またお願いします。」 頭を下げて素直に感謝する俺に虚をつかれたのだろう、驚いた顔を見せた後、突然 くるりと俺に背を向けると駆け出した。 丘を下ったところで振り返ると 「その重箱はそこに置いたままで構わぬ。  後で朽木の者が取りに来てくれるから。  残った鯛焼きは持って行っておやつにしてくれ。」 そう大声で言うだけ言うとまた背を向けた。 「恋次!  弁当だけなら、また馳走してやる!」 振り向きもせず、そう言うと何かから逃げるように走り去ってしまった。 自分でルキアから離れていくように仕向けたくせにルキアの居なくなった 腕の中 胸元 膝の上を渡る春の風の冷たさが身に染みた。 ーー もうまもなく昼休みが終わる。
 

あとがき ここまで読んで頂いてありがとうございました。 TOP