ランプソサエティー レンジン編 




「あのよぉ・・・・ルキルキ・・・・・」
「うるさい、レンジン!!  食事中だ!
 ゆっくり食べさせろ!」


できるだけ小さな声で呼びかけたというのに・・・・・・ 
声をかけただけで一刀両断うるさいと言われて、あまりにも己とは違う気持ちの温度差を感じて、
レンジンは大きな大理石の丸テーブルに力なく、ぱたりと突っ伏した。




ランプの精として現世に下りていき、いつまでも帰らないルキルキが心配で心配で、時間が許す限り
レンジンは何度も何度も穿界門、いやランプ門の前に迎えに来ていた。
帰りを待つ間ずっと後悔さえしていた。
どうして、今回の現世行きに限って、一緒に付いていかなかったのだろうとーー。
いくら呼び出しが二人同時にかかったとはいえ、相手は油断ならない人間なのだ・・・・・。
願いを3つ言って、すぐ返してくれるような善良な者ばかりとは限らない。

レンジンは一度、ウラビラとかいう強欲な商人の手にランプが渡った時、言葉巧みに願い事を言われ、
3つどころか、雑用をたくさんやらされ、ランプソサエティになかなか帰れないという事があった。
過去に何千回も現世で人間の相手をしているベテランのレンジンでさえ、巧みな言い回しに踊らされ、
いいように使われてしまった事があったのだ・・・ 
経験浅く、お譲様育ちの世間知らずですぐムキになるルキルキなんか、簡単にいいように使われて
魔力を消耗し過ぎて、倒れてしまったのかもしれない。

しかも ルキルキは女なのだ・・・・・・・ 
抱く恋心を差し引いてみても(黙ってさえいれば、) とても上品で綺麗な女だと思う。
だが、それを無自覚で油断だらけなルキルキが 邪悪な人間の手にいつ堕ちてしまわないとも
限らない。

そんな心配で胸が押し潰され、いい加減、迎えに行こうかと思い始めた頃、ランプ門の扉が開いて
ルキルキが現れた。
いつも小柄なルキルキが・・・さらに小さな20センチにも満たない手のひらサイズになって・・・・

「え、おま・・・ まさか・・ルキルキだよな・・・??」

あまりに変わり果てた小さな姿に言葉を失うレンジンにルキルキが開口一番に返した言葉は
「他の誰だというのだ、たわけ!
 ぁあ・・、それよりお腹が空いた、レンジン!
 なにか食わせろ!!」  だった。


なんというかこの幼馴染は自分自身にあまり頓着しないーー
こんなに小さくなってしまったというのに・・・・ 
本人は何一つ変わっていないかのようにいつもと同じ態度だ。
決して気付いていないわけではない・・・。
用意したケバブやフルーツが大き過ぎると言ってレンジンに小さく切り分けさせているし、
響いてうるさいから、小声でしゃべるように注文しているのだから。

なにより大皿の淵にちょこんと座って、2センチ角に切り分けてやった肉の塊を両手に持って、
はぐはぐと齧りつくことなど、普段の名門クッチーキ家のお嬢様としてはあり得ない姿だった。

正直、その姿はまるで小動物のように可愛らしくてこれはこれで充分見ていて楽しい。
時間さえ許すならずっと見ていたいほどだ。

だが、秘かに恋心を抱いているレンジンにとって、ただでさえ小柄なルキルキがこんなに
小さくなってしまっては、将来とかいろいろ心配で気が気ではない。

ーーこんな姿じゃぁ、抱きしめることはおろか、手さえ繋げねぇじゃねえか!!


自分自身でかけた魔法ならば、自分で解ける。
小柄なくせに食いしん坊のコイツがあまり食べられなくて、不便だとさっきからぶつぶつと文句を
言っているくらいだから・・・・好き好んでこの格好でいるわけではないのは間違いない。
つまり、自分でかけたのではないし、解く事もできないでいるのだろう。

他の魔神がかけた魔法だとしても、かけた相手やかけられた魔法の属性さえわかれば、ランプ
ソサイエティ有数の席官、上級能力者の魔神・レンジンなら解くことだってできる。
レンジンにとってこれはいい機会だとも思えた。
幼馴染の気安さで自分を過小評価するルキルキの魔法を解いてみせれば、見直すはずだ。
いつまでも幼なじみから進展しない関係から、一歩進めるいい機会ではないかとさえ思えた。

だから、原因は何なのか、誰にかけられたのか・・・
一刻も早く元に戻す方法を知りたいと思って、質問をしようとするが、そのたびに冷やかな視線で
言葉を発するのさえ止められた。
当の本人は至って呑気で小さな姿に戸惑い、うろたえているレンジンなどお構いなしにのんびりと
食事を楽しんでいる。
その余裕が、わからない!! 
理由がわからない!!

まさか、コイツはこのままずっと過ごすつもりなのだろうか・・・・?
意地っ張りの負けず嫌いから、俺の手など借りるくらいなら、小さいままで構わないと
思っているのだろうか?!

Σ( ̄□ ̄;) 
だいたい、早くしないと、コイツの兄貴・トップクラスの能力者のビャクヤン・クッチーキが迎えに
来てしまうかもしれない。
簡単に魔法を解いて尊敬も好意も全て持っていって ますますコイツのブラコンが酷くなる
かもしれない。

冗談じゃねぇーー!

嫌な予感に首を振って、とりあえず 自身で決着をつけるべく再度話しかけた。

もう待つのも限界、きっと切羽詰まった顔してるだろう・・・・。
それでも出来るだけ声を抑えて話しかけた。

「ルキルキ・・・・いったいどうしてこんなに小さくなった?
 てめ、いい加減に訳を話せ。」
「うむ。
 だが、その前に手がべたべたで気持ちが悪い・・・・」
「はっ・・・ てめ・・・ちきしょ・・・ いい加減にしろよ・・・・」

逸る気持ちを無理やり抑えて、ルキルキの言う通り拭いてやろうとテーブルナプキンを持つ自分に
完全に惚れた弱みを自覚する。

小さなおもちゃみたいな手を指の上に乗せてそっと拭く。
少しでも力を入れてしまったなら、たちまち潰してしまいそうで顔を近づけて細心の注意を払って拭いた。

「レンジン・・・・」

呼ばれてルキルキの手から顔に視線を移せば、俺をじっと見上げる青紫の大きな目に捕われた。
小さくなる前と何一つ変わらない力強さと美しく煌めく瞳に心まで囚われて、全ての動きが止まり、
思考さえ追いつかなくなった。

ゆっくりと近づいてくるルキルキをじっと見つめてーー
呆然としていた俺の唇に何かがそっと触れ・・・・・

途端に、ぼんと 大きな音とともに目の前が煙で覆われた。

煙が消えた時、間抜けな顔でナプキンを持つ俺の前には元通りの姿になったルキルキが
ちょこんと座って伸びをしていた。

「ぉおっ、やっと戻れたぞ。」
「///////// て・・・って・・・てめ・・ い、い、いま・・・いったい・・・」
「ふん、物語のセオリー通りにやったまでだ。」

うろたえる俺にそう言って、テーブルから飛び降りようとしたルキルキを素早く腕の中に捕えた。

「//////////なにをする、馬鹿!
 放せ!!」
「何がどうセオリー通りだってんだ?!
 ちゃんと説明しろ!!」
「/////////説明などできるか、馬鹿!
 西の魔女にかけられた呪いを解いただけだ!」
「てめ、じゃぁなにか、呪いを解くためだけに俺を利用したのか?」
「馬鹿か、貴様は!
 呪いを解くために好きでもない奴にこんな事ができるか!!」

腕の中でどなり散らしていたルキルキと抱きしめていたレンジンの動きが 同時にはっとしたように
一瞬とまるーー
慌てて、再び逃れようと暴れるルキルキは真っ赤でさっきまでの余裕なんてどこにもなかった。

はっ・・・ つまりはそういうこと・・・・。

強く抱きしめて、耳元に囁いた。

「お前だけがずっと好きだった・・・・・」

びくりと身体を震わせて、ルキルキの逃亡を試みて、暴れていた動きが再び止まった。
ルキルキの細い首筋に指を差し入れて、顔を上向ける。
真っ赤な顔で睨むように見上げる、潤んだ瞳に心捕われて、心臓が痛いほどに軋んだ。
今まで何度この痛みを経験しただろう・・・・・
溢れそうになる気持ちをどれだけ飲み込んできただろう・・・
ずっと俺だけだと思っていた想い・・・・

華奢な身体を抱きしめれば、泣きたくなるなるほど速い二人の鼓動が重なった。

「言うのが遅いわ、たわけ。
 ずっと悩んでいたのだぞ!」

意地っ張りなお姫様から、震える声の告白に

「****」 を告げて吻(くちづ)けた。




そんなそんな童話チックなランプソサエティ

お粗末さまでした。











  ありがとうございました。 「****」=「I love you.」 『やる気』ではアラビア語が入力してあったのですが、PC上では文字を 《unicode》にしないと表示できず、文字コードを変えると携帯でページ全てが 表示できないため、アラビア語を諦めました。 あとがき Sep,14 〜  さわこのwondering the worldさんの壁紙用の素材をお借りしました。 URL:http://www48.tok2.com/home/sawakon/index.htm