ルキアの誕生日





「恋次♪」

俺を見つけた瞬間に嬉しそうな顔からいつものように悪態を吐こうと強気に眉をひそめようと
していたルキアの顔がまたすぐに弾けるように破顔して駆け寄って来ていた。
その姿を見た途端、こんな人通りの多い場所で待つ 現在の己の姿がどんなに恥ずかしくても
誕生日祝いにウサギのぬいぐるみを買ってきてよかったと恋次は心から思った。

今日 1月17日はルキアの養親の”てつじぃ”が勝手に決めたルキアの誕生日ーー
毎年正しい誕生日の14日は朽木家で慣例どおりに祝われている。
だから正しい誕生日を知らなかった戌吊の時同様の17日に俺はルキアを祝うことにしていた。
今年は隊の都合で休みを取れなかったが、あのシスコン隊長も一応午後から非番をくれたし
珍しく早めに退出もさせてくれた。

「今年は半日しかやれぬ。
 すまぬーーー とルキアに伝えよ。」
「そのセリフは普通は俺にでしょ、隊長!?」

冷ややかかに俺を視線を流して俺にはこんなセリフしかくれなかった。

「ーー恋次。
 門限は厳守せよ、よいな?!」

思いっきりな門限への念押しーー

「いや、隊長。  
 そこは今の話の流れでいったら「延長してやろう」とか、「少しくらい遅れてもいい」とか
 言ってくれてもいいんじゃねぇの?!」
「四の五の言うなら、私が」
「Σ( ̄△ ̄ ;)  お先に失礼します!!」

そんな隊長とのやり取りはあったが、ちきしょ・・・ 
それでも 現在、ルキアの笑顔が目の前にあるのだから良しとしよう。

隊長が少し早く退出させてくれたからこそウサギのぬいぐるみをふと買う気になった
ーーここは素直に感謝しておきますよ、朽木隊長。

アイツはあまり物に執着しないから 朽木の家で一流のものに囲まれているからと つい食べ物
ばかりの誕生祝となっていたーー今日も食後の甘味が特に評判の料亭を予約していた。
だが、先日 浮竹隊長の巨大なチャッピーに大喜びする姿を目の当たりにして ふと覗いた店に
真っ白くて アイツが抱いてちょうど良いくらいの大きさのウサギのぬいぐるみをみつけて
試しに手にとった感触の柔らかさに 柄にもなくぬいぐるみを贈る気になった。
さすがに死覇装姿(あんま関係ないか・・・・)の野郎が買うような品物でも 野郎一人が
長居できる店でもないので代金を手早く支払って包装を断り、首に紫のリボンだけ巻いてもらうと
小脇に抱えて早々に店を出た。

アイツは今日、非番が取れたと言っていたので早めに待ち合わせ場所にいるかもしれないーー
万が一、遅れた場合を考えて待ち合わせ場所は人通りの多いところにしておいた。
蜘蛛が密かに警護していても! 私服のルキアを街中に長く待たせたくはない!!
ーー死覇装姿なら何も心配はしないのだが。  
   心配性だとか、親馬鹿とか弓親サンに言われてるのは知ってるし、自覚もしてるが心配なのは
   仕方ねぇ。   今年は神薙があるから特になーー。


真っ白い可愛らしいウサギを脇に抱える真っ黒い死覇装姿の死神ーー
強面としてそこそこ名の知られた副隊長ーーその対極な異様な姿が道往く人々の失笑を買っていた
恥ずかしさも 目の前のルキアの満面の笑みで全て帳消しだ。

「恋次、何を抱えているのだ?  
 もしや、私にか?」
「ったりまえだろ、俺がこんなん好きで抱えてるかっつーの。
 やるから、早く受け取れ。」
「むぅ・・・・ なんだ、その言い草は?」
「ばっ、てめ、俺がどんだけ恥ずかしい思いしてコレをーー」
「その眉以上に恥ずかしいことなどあるまい・・・・」

わざと腕組みしてにやりと笑うそのルキアに 恥ずかしさとともに悔しさがこみ上げて わざと投げる
フリをしてみせる。

「てめ、そんな憎まれ口を利くなら今すぐにコレを投げ捨ててやる!」
「わっ、ばか、止めろ!   恋次、待てっ・・・・ぶほっ」

慌てて両手を伸ばしたルキアの手の間を抜けてぬいぐるみを顔に押し付けた。

怒って猛烈に抗議してくるだろうと身構えていれば、ぬいぐるみを顔に押し付けられたルキアから
出たのは 「ふぁあ〜〜〜 すっごい柔らか〜〜」 あまりに気の抜けた言葉。 

両手でしっかり抱きしめた白いぬいぐるみに頬づりしながら俺を見上げて 「ありがとう、恋次。」
と礼を言ったルキアのとろけるような満面の笑みに 思わず赤面して顔を逸らして頭をかいた。

「おう//////」

「ふわふわですっごく気持ちよいではないか。」

ぎゅっと抱きしめて頬を手で撫でつけているその顔は無防備でまるっきりガキみてぇだ。
思わず伸ばした手がルキアの予想もしなかった言葉で止まる。

「この赤い瞳はまるで貴様のようだな。」

嬉しそうに微笑みながら再び見上げられた大きな瞳と思いもしなかった言葉に動揺して俺は凍りついた
ように動けなくなる。

「/////// な・な・なに・・を・・・・ ウサギの目はたいてい赤いだろうが!」 

白いウサギにルキアをイメージしていた俺は自分自身をいきなり引き合いに出されてかなり狼狽する。

「・・・・そうか?  そう言われれば、そうやも知れぬ。」

少し納得いかないようだが、動揺のあまり赤面している俺に気付かずにルキアはウサギに向かって
にっこりと微笑んでいた。

「もういいから、店に行くぞ。」

これ以上ウサギに自分を重ねれらる気恥ずかしさに耐えかねて話題を変えてルキアを店に促す。

人通りの多さから手を繋ぎたかったが、ウサギは俺が思っていたよりルキアには大きくて 
どう見ても両手で抱えているのが精一杯ーー片手を貸せとは言えなかったし、上機嫌で抱えている
ルキアから俺がそのウサギを持つから手を繋ごうとも言い出し難かった。

「貴様がくれたとは思えぬ可愛いらしさだvvvvv
 ふわふわとやわらかくて肌触りがとても気持ちがよい。
 ともに寝てもいいほどに。」

ーーちきしょ・・・ どういう意味だよ。  

ルキアの少し斜め前を一人腕組みして人ごみを蹴散らすように威嚇しながら歩く。
俺の影では嬉しそうなルキア。

「ふふふ・・・ 恋次、このウサギに貴様の名前をつけても構わないだろうか?」
「んで、痛めつけて遊ぼうって寸法か?」

ルキアの言葉をいつもの軽口で流したのに・・・・ 真面目な返事に面食らう。

「なぜ、こんなにふわふわで可愛い”仔恋次”を痛めつけねばならぬのだ?」
「ちょ、待て/////  何故、そういう名前 ってか なんで 俺の名前?!」
「貴様にもらったからだ。」

あまりのことに力が抜けて 腰砕けたようにその場にしゃがんでしまったーー

「ばか恋次、このような場所で突然止まってしゃがみこむな!
 どうした?  もしや熱でもあるのか耳まで真っ赤だぞ。」

ーーてめーの所為だろーが。  ちきしょお!  
   さっき一緒に寝るとか言ってた、その後でそんな名前を付けられて冷静でいられるかって?!
   しかも言った本人はなんにも意識してないってところが嫌になる!!
   ちきしょ・・・・ やっぱり慣れない”物”なんて贈るのじゃなかった・・・・・。

不思議そうに覗き込むルキアの視線から顔を片手で覆い隠したまま気力を振り絞ってゆらりと
立ち上がるとなんとか歩を進めて店に向かう。

ーー頼む、俺の理性。
   頑張れ、俺!   上総家はもうすぐだ。






  あとがき