雨音  2人揃って非番の今日、お弁当を持って花見に行くはずだったーー すでに早朝に弁当を作りはじめた時から雲行きは怪しかった。 きっと午前中くらいはなんとか降らないでいてくれるだろうと思っていたのだが、 恋次の家に着いた途端 見事に降られてしまった。 いきなり降りだした視界を遮るほどの土砂降りの雨を呆然と見る私に 「・・・・ そうがっかりするな、ルキア。  通り雨だからきっと午後には止むからーー」 大きく欠伸をしながら恋次がそう言った。 ーー野性的勘があるのか 恋次の天気予報は昔からよくあたる。 天気ばかりは仕方が無いーー愛用の赤い兎柄の座布団を部屋の端に持っていき、 壁に寄りかかって恋次に貸していた鬼道の本を読んで雨が止むのを待つことにした。 会った時から大分疲れているらしくダルそうな恋次がまた大きく欠伸をした後、 「俺は止むまで少し寝てもいいか?」 と聞いてきたので  本に目を落としたまま、 「構わぬ」と返事をしたーー ーーのに ヤツは台所に向かうとなにやらごそごそと物音をさせていた。 再び部屋に戻ってきた時には盆に茶の用意と菓子を乗せて現れた。  上機嫌な様子で途中で座布団を拾って 私に差し出した。 「ほら、これを背中に当てておけって。」 「・・・・ありがとう。」 さすがに兄様の副官を務めているだけはある、よく気が回る・・・・・  だがーー?? 膝をついて茶の盆を 本を読む私の伸ばした足の向こう側にわざわざ置くので  怪訝に思っているとそのままごろりと私の腿の上に頭を乗せて寝転がった。 「//////・・・・・れ・・れ・恋次!??」 焦る私ににやりと悪戯っぽく笑うとーー 「膝枕♪・・・ たまにはいいだろ?」 「・・・・う・・・・・・そういう作戦か・・・・・////////・・・  茶や菓子、背当てまで用意されてはダメとは言えぬではないか・・・・・」 「ははは・・・・  やりっ!!」 子供みたいに嬉しそうに笑う恋次にーーいつもとは逆な視点で見た所為かーー 不覚にもカワイイなどと思ってしまった。 こんな強面刺青の大きな男にーー たまに胸がきゅんとなるほどかわいいと思ってしまう時があるーー どうでもいい小さな言い合いで珍しく私に勝った時や 夜店の射的で私の欲しがっていたチャッピーを当てた時 恋次が勧めた鯛焼きがすっごく美味しくて笑いあった時  少し誇らしげに子供の頃と同じ満面の笑顔を向けてくる恋次をカワイイと思うーー 一度恋次にそう言ったらムキになって否定してきてしばらく煩さかったので もう二度とヤツに言ったりはしないけれどーー 自然弛んだ口元に気付いた恋次が不審を告げる。 「んぁっ?   ルキア てめぇ 何笑っていやがる?」 「・・ん?  ふふふふ・・・・ うるさい、貴様は早く寝るがよい。」 本で笑い顔を隠して 上から覗くように見下ろして 空いた片手で恋次の瞼を覆った。 その私の手をさらに恋次の大きな温かい手が覆う。 「眠らぬのなら、膝は貸さぬぞ。」 「てめぇがうるさくて寝れねぇんだよ、馬鹿ルキア!」 「馬鹿は貴様だろう。」 いつもの変わらぬ言い合いに  触れ合う手の温もりに  降りしきる雨の音さえ優しく響いた気がした・・・・


あとがき