理吉日記ー六番隊とルキア ○月×日の日記〜 ルキア様が隊首室に十三番隊の業務書類と浮竹十四郎隊長からの差し入れも持って来られた。 オレにもわざわざ手ずから伊村屋の煎餅を分けて下さった。 本当に優しい・・・・。 ちょっと恋次さんの視線が厳しかった・・・・・。) 十三番隊の朽木ルキア様が以前とは比べ物にならないほど、明るい表情で六番隊の 隊舎内の隊首室を多く訪れるようになっていた。 その一番の理由は朽木隊長との関係が以前よりずっと良好になったからだと思う。 間近で二人の仲睦まじさを見せつけられる、副隊長の恋次さんが思わず嫉妬して 「面白くねぇ・・・・」って、オレにこっそりコボすほどーー それだけが理由ではないでしょう・・・とも言いたかったけれど、敢て恋次さんに 伝えてはいない。  (これはオレの嫉妬交じりのささやかな仕返し・・・・♪) 多くなったとはいえ、それでも週に1、2度いらっしゃる程度なのだが、現れる 時間帯が大体決まっていた。 こういうところは本当に朽木隊長の妹君らしいところだと思う。 昼前なら、いつも隊長のために弁当を持って来る侍従長の代わりに非番らしい私服姿で 現れる。 昼食後なら、十三番隊の隊士として業務書類と浮竹隊長に頼まれたお茶菓子を携えて 来られる。 午後のお茶の時間の頃ならば、多忙の隊長と恋次さんを気遣って夜食の差し入れを 持って来られる。 しかもどうやら、以前よりルキア様の訪問の回数が増えた事に気付いているのは 恋次さんの補佐官として、隊首室を訪れる客人に接する機会の多い、オレだけでは なかったらしくーー最近、ルキア様が現れそうな時間帯になると隊舎内がざわざわと 騒がしくなる。 隊内の隊士達が、老若男女問わず、なんとなく浮足立った落ち着かなくなるのだ。 小柄なルキア様は遠慮がちに、けれど背筋を伸ばした凛とした姿で隊首室までの 長い廊下を進まれる。 その姿をいつも以上に多くの隊士達が廊下や通路に居並んで憧れと羨望の眼差しで 見つめていた。 先日、同期の友人から言われた。 「ば〜か、理吉!!  隊長同様に同じ廊下を行き交う事などしていい訳がないだろう!!」ーー 言われて、気を付けて見てみると、面白いことに隊士達は皆、前方の廊下に隊長や 彼女の姿を見かければ、必ず廊下の角で通り過ぎるのを待っていた。 この六番隊にそんな規則は存在しないから、自然にそう行動しているのだろう。 隊長の場合は、その並々ならない霊圧や纏う雰囲気に威圧されて畏れ多くて道を譲って しまうーーオレもそうだから、それはとても分かる。 しかし、ルキア様の場合は理由が分からず、同僚に聞いてみた。 「理吉、お前そんなんでよく副隊長の補佐官なんて務まっているなぁ・・・。  あの方は高貴で繊細な花のような方なのだ!  万が一にも触れてしまう事がないよう、道を譲るのは当然だろう!!」 「あの方はそんな距離を必要とする、触れる事は許されない高貴な方なのだ!」 と、力説された。 すでに過去、何度も言葉を交わしたオレにはそういう方ではないと分かっていたけれど、 それでもそう言われて遠く客観的に見ると 「なるほど」と納得してしまった。 ルキア様は確かにそんな雰囲気を纏っていたし、身分もそういう方だ。 彼女は、あの四大貴族当主・朽木隊長がとても大事にしている妹君。 容易く話かけていい存在でも、他隊の隊士のため滅多に見る事さえできない、そんな機会 さえ許される存在でもない。 話をした事のないものにとっては本当に高嶺の花。 隊長が大事にしているのがよくわかる可憐で儚げな美しい方。 それでいて、無官でありながらも、現世や虚圏、地獄でも 隊長や恋次さん、死神代行の 黒崎一護とともに赴き、功績を上げてこられた死神としても実力のある方なのだ。 隊内でのこの異様な反応は仕方がないのかもしれない。 今日も彼女の姿を見ようと隊首室に続く中庭のある回廊の反対側の建物の廊下や階段に 彼女に惹かれ、憧れている隊士達が大勢居並んでいた。 皆、一様に仕事の話をしているフリしながら、彼女の姿を盗み見ていた。 ルキア様の来訪に気付いた恋次さんが隊首室から飛んで来て、そんな隊士達を怒鳴って 蹴散らすまでのほんの束の間だけれどもーー 最近オレは、もしかしたら、このルキアさんを守ろうとしている恋次さんの行動が実は 逆効果ではないかと、思い始めていた。 恋次さんの姿を見た途端、ルキア様はほっとした様に小さく微笑む。 ーールキア様に群がる隊士達が一番見たいと思っているーー はにかんだ様なとても可愛らしく微笑みを見せるのだから。 先日、オレはその微笑を間近に見てしまった。 その途端、オレの頭は虚に殴られたような衝撃を受けて、胸は虚にざっくりと斬られた ように酷く痛んだ。 隣に立つ恋次さんに向けられたものだと分かって、余計に痛みが苦しみを増した。 こんな状態に陥ったのはオレだけではないだろう・・・・。 気付いた以上この事を恋次さんに伝えた方がいいのはわかっている・・・・ だが、どう伝えたらいいのかーールキアさんの微笑みに胸が痛くなったなんて 恋次さんに言える訳がない・・・・ そして、伝えてしまったら、もうあの笑顔が見れなくなってしまうかもしれない・・・・・ そう気づいてから、オレはなおさら伝える事を躊躇(ためら)わずにはいられない


  ありがとうございました。 あとがき Nov,29 〜