告白 5 待ち合わせは恋次の仮住まいーー私と理吉殿しか知らないーーの側の小さな和食の店の二階 ルキアは並べられた料理を前に恋次を待っていた。 恋次は兄様の下でずっと働いている所為か、多忙であるはずなのに過去、 待ち合わせに遅れた事がほとんどなかった。 なにかあったのではないだろうかとルキアが案じていると、目の前の大きな窓の障子が 突然開いて、恋次が現れた。 重ねて言うが、ここは和食屋の2階の個室だ。 こんな風に、滅多に遅刻しないヤツが約束に遅れた上に、突然、窓から現れれば、 普通の隊士では手に負えない虚が担当地区に出現したために副隊長のコヤツも 緊急出動せねばならなくなったのだと私にも容易に判断できる事だというのに、 現れた勢いのまま、恋次は大きな身振り手振りで遅れた理由と窓から現れた理由を 慌てふためいた様子で焦って説明しようとし始めた。 そんな恋次に無言のまま、ゆっくりと近づいて行けば、恋次の動きがゆっくりと止まり、 驚いた顔でルキアを見つめる。 大仰に動かされた手が動作のまま、途中で止まっていたのを元に戻した。 無言で近寄り、傍に立って大きな手を抑えた私に恋次の顔が驚いたまま、自分の為すが ままになったのが、おかしかったけれど、動きとともに感情も落ち着いたらしく、 いつも冷静さを取り戻したようだった。 「たわけ、落ち着きのない!  貴様はこれから隊士を率いて現世に向かう隊長格・責任者であろう!?  そのように焦ってどうする?!」 「っば、てめっ!!  誰が焦ってるって?!」 「貴様以外の誰が他にこの部屋にいるというのか、馬鹿者!  まぁよい・・・。  恋次、少し屈め!  肩にごみを付けて出陣されては六番隊の ひいては兄様の恥になる。」 「んんぁ!!  んだと??   んなはずねぇって!?  だし、なんで隊士を率いて現世に行くって分かったんだ?」 「わからいでか、たわけ!!」 ルキアに顔を向けて威嚇したまま、自分で肩を確認する恋次が焦れったくて、 死覇装の襟を掴んで、力一杯引っ張って屈ませた。 「・・っおい、ルキア・・・!!」 油断していたのだろう、体勢を崩して倒れそうになる恋次に ーー勢い良く引きすぎたようだと思いながらーー後方に押されて、 自分までが倒れそうだった。 だが、気がつけば、襟をつかんだまま私は、体勢を立て直した恋次にしっかりと 抱きとめられていた。 「ってめ、危ねぇだろうがっ!!」 「まさか、貴様がこれほど体勢を崩すほど油断しているとは思わなかったのだ!」 たくましい腕の中にすっぽりと包まれながらも自分の手落ちをすり替えて 恋次を責めれば、 「てめぇ相手に身構えてられるか・・・・//////」 らしくないほど、真面目な答えが返ってきた。 くすりと微笑って、見下ろす恋次の怪訝な顔を引き寄せた。 素早く口付けて、すぐに顔を胸元の隠せば、頭上で言葉にならない声が聞こえた。 「/////// !!」 耳を寄せた恋次の胸から聞こえる心音の早さが自分と同じなのが嬉しくて、 素直な言葉を告げた。 「気を付けて行ってこい、恋次。」 「ルキア・・・・」 私をさらに強く抱きしめようとした大きな腕からするりと逃げて、恋次から離れた。 「早く行け、変眉副隊長殿!  兄様や隊士達をお待たせするな!」 名残惜しそうな、悔しそうな恋次にそう言って 発破をかければ、 窓枠に足をかけて、振り返る恋次から 「てめ、帰ってきたら覚えてろよ!」の捨て台詞 『それは見た目同様のまるで悪役のセリフだぞ、馬鹿恋次!』 そう切り返そうと思ったけれど、続くセリフに毒気を抜かれた。 「てめぇだけでも飯はきっちり食って帰れよ!  いいな、親父さんと女将さん、祥ちゃんにも頼んでおいたから!!」 窓から飛び出してあっという間に闇に呑みこまれるように消えた緋色の髪と 死覇装から覗く白い単衣 急に部屋が静かに広くなったーー あやつはこんなにも大きな存在だったのだろうかーー 元の通りになっただけのはずなのに 部屋は広く閑散として、さっきまで彩りよく食べるのを楽しみにしていた食事も、 朱塗りの小皿さえ艶やかさを欠き、色褪せて見えた。 窓の下で鳴く虫の声が嫌になるほど物悲しく耳に響く・・・・ 「ルキアちゃん♪」 私は少しぼんやりしていたらしい。 小さな子供が傍に寄り添うように座っていた。 それなのに名前を呼ばれるまで気づかずにいたとはーー この屋の3歳の一人娘の祥ちゃんがふわふわのおまんじゅうみたいな小さく柔らかな手を 私の膝に載せて下からにっこりと覗きこんでいた。 「さあさ、ルキアさん♪  せっかくですから、うちの人が精魂こめて作った料理を食べて行ってくださいな。  お邪魔とは思いますが、私と祥子がご相伴させていただきますので・・・・。」 ふくよかで人当たりの柔らかな女将が温かな汁物や煮物、焚き物を盆に載せて現れていた。 恋次が去り際に言っていたのはこの事だったのだーー 一人で食事をする事が苦手な私を慮って、この店の女将と娘に食事を一緒に食べてくれる よう依頼してくれたらしい・・・・。 私は普段から、毎食きちんとした食事を用意してもらえるような恵まれた食生活を送っている。 一晩食べずとも飢え死にする事などないのに・・・・。 多忙を極めている副隊長のアヤツこそ、食生活が疎かにしているようだから、 きちんと食べて欲しいのに・・・・。 馬鹿恋次!! こんな思い遣りを見せる恋次に胸が熱くなるーー 「ありがとうございます・・・。  すまぬが、恋次にも後で弁当を届けてもらえないだろうか?」 すると、女将は訳知り顔でにっこりと優しく微笑んだ。 「きっとルキアさんはそう仰るだろうと言って、うちのが今、用意しています。  あとでちゃんと届けますから、私たちは私たちできちんと頂きましょうね♪」 「かたじけない。」 恋次の周りにはどうしてだろう、いつもこんなに温かい人達が集うような気がする。 しみじみとした温かさにありがとうと感謝して、温かな食事と柔らかな団らんを享受した。


  ありがとうございました。 あとがき Oct.16 〜 Nov.28