S't Valentine's day ver. 現世

俺はルキアも大分現世の暮らしに馴染んだよなぁ・・・・ ーーなんて複雑な心境の中 そう思っていた。 「はっぴぃ ばれんたいん、一護♪」 可愛らしい満面の笑みとともに渡された箱を受け取りながら コイツのこの笑顔に”卑怯だ!” と思うのは完全に惚れた弱みだと自覚する。 気持ち的にはすっげぇ嬉しくて堪らないのなのだが、物理的には正直受け取りたくなかった・・・・・。 「う・・・・ル、ルキア・・・・ありがとうな。   すっげぇ嬉しい♪」 受け取りたくない理由は簡単ーーそれは昨日の放課後に端を発している。 「一護、放課後に井上の家に寄ってくるから今日は帰りが遅くなるやもしれぬ。」 「・・・・・ぁあ・・・」 井上の家にルキアが帰りに寄ることなんてよくあること ーー今日はルキアに邪魔されずに予習・復習ができる・・・・・ そう思ったところでーー Σ( ̄□ ̄;) うおっ ま、まさか 井上とヴァレンタインのチョコ作り!? 嫌な予感(?)に襲われて 縋るように一緒に帰るたつきを見れば、苦笑いとともにVサインを 返してもらえて少しだけほっとした。 だが、今朝  「わるい、一護。  あたしもいちおうは 頑張ったんだよ!  頑張ったんだけどさ・・・・・・力及ばずっていうかさ・・・・・・  ほら、ま、人間 いろいろ諦めるってことも大事ってことでさ♪」 会って挨拶もそこそこにそう言って たつきは慰める(?)ように背中を思いっきり叩いて去っていった。 「た、たつき!?  おま、ちょっ、待て!  それって・・どういう・・・・・ 」 自慢の俊足で逃げるように行ってしまったたつきを呼び止める俺の声が廊下に虚しく響いた。 入れ替わりに現れたルキアに有無も言わせず 「ちょっと来い、一護!」と人気のない屋上に連れ 出されて 冒頭のセリフになる。 「”ぱっぴー・ばれんたいん” 、一護。   井上と有沢と三人で作ったのだvvvvv  手作りチョコなのだぞ!」 偉そうな物言いとともに箱を差し出して 少し恥ずかしそうに微笑んで見上げるルキアはすっげぇ可愛い!  だが・・・・ 渡された包みの中身がすごく恐い・・・・・  できれば、受け取りたくない・・・・・ いや 食べたくないーー 思わず確認してしまった。 「あのさ、コレって中身はチョコ だよな?」 「?  チョコ以外のなんだというのだ?  ”ばれんたいん” というはチョコを贈る日だと聞いたが違うのか?」 「開けてもいいか?」 「もちろん構わぬ、開けるが良い♪」 不器用なルキアが頑張って包んだ箱はテープがあちらこちらに貼られていてとても開けにくかった。  俺の胸中では余計に期待と不安が大きく膨らむ。   いや、正直に言えば 不安で一杯になった。 箱の蓋を開けた瞬間にカカオの甘い香り  リボンのかけられた箱の中には小さな四角いチョコが4個  ルキアが作ったにしては大きさの揃った 少し歪なチョコが綺麗に入っていた。 思っていたより全然普通ーーー見た目は!! だが、油断は禁物だ。 そっと匂いも確認すればーー チョコの甘い香りのほかによく知っているスパイシーな匂いがほのかに香る・・・・・   何が入っているのか 聞こうとして 俺は不安そうなルキアの視線に絡めとられる。 (う・・・・・・ 悪い、ルキア。  嬉しいよ、すっげぇ嬉しい!  だが、俺は 井上の料理の傾向も お前がどういうヤツか知っているから 仕方ないだろう。) 俺は不安を押し隠してもらって嬉しいという素直な気持ちだけを顔に表すべく笑顔で見返した。 「本当にルキアが作ったのか?」 「ふふん、あまりの出来のよさに声もあるまい。」 「あぁ・・・・ すっげぇ綺麗に出来ていて感動した。   とっても嬉しい。  ありがとな、ルキア。」 俺の言葉にルキアがほっとしたのか 屈託のない子供みたいな満面の笑顔になる。 (ホント ルキアのこういうところはめちゃめちゃ可愛いvvvvvv ) だが、箱に蓋しようとしていた俺の手がルキアの言葉に凍りつく。 「食べてはくれぬのか、一護?」 「いや、今から授業だし・・・・・・」 そこまで言いかけて ルキアのかっがりした 寂しげな顔を見てしまった俺はーー ごくりと唾を飲んで覚悟を決める 「やっぱ、せっかくだから 今食おっかな。  うん、一個くらい いいよな。  な、ルキアも一緒に食おうぜ。」 「え?  だが、全部中の味がちがうし、貴様のために・・・・・」 「そんなんいちいち気にすんなって。  俺が一緒に食いたいっつってんだからさ。」 そう言って俺は一個をルキアの小さな口に入れて もう一個を自分の口に放り込んだ。 入れたときは普通に美味いチョコだった・・・・・・・・・・ だが、噛んだ瞬間 ぐにゃりとした食感とともに激しい吐き気に襲われるほどの衝撃的な味覚の 爆弾が口の中に炸裂した。 ぐごぉがぁあ"あ"ああああああああああああ・・・・・   な"んだーーーーごぉれ"ばぁあ"あ"・・・・・・ そう心中で雄叫びをあげて、口の中のチョコレートの甘さに混じる異様な味と香りの異物を吐き 出しそうになるのも 胃から逆流しそうな今朝の朝食も  全て  ーー俺は堪えた!  堪えて無理やり飲み込んでむせた。 「そんなに慌てて食べずとも・・・・・・大丈夫か、一護?」 のん気な言葉に涙目でルキアを見れば美味しそうに・・・  (味覚は大丈夫か?!) いやちょっと困惑しながらも平然と食べ続けていた。 咳き込みながら息も絶え絶えに質問する。 「・・・・・あのさ・・・ すっげぇ聞・・・・く・・・のが・・恐いんだが、中に何入れた?」 「私が食べたのはカレーの具のにんじんだったので、貴様が食べたのはたぶん玉ねぎだろう。」 (Es correcto!  正解!) 脳内では破面戦以来、中途半端に憶えたスペイン語が木霊する。 もう二度と思い出したくもないほどの衝撃的味覚の爆弾テロで脳内回路を大分やられちまったらしい。 「一護は カレーもチョコも好きだろう?」 「いや、どっちも好物だが、一緒に食べるのは好きじゃねぇよ!」 「・・?!  そうなのか、一護。  遊子が一昨日のカレーにチョコを入れていたし、貴様も美味しそうに食べていたのではないか?」 「ありゃ、隠し味。  こんなにどっちの味も主張するように一緒に食うもんじゃねょ!! 」 「・・・・・そうだったのか・・・・  ・・・・・・・ だが・・・・・ いや・・・ たしかに」 ぶつぶつと呟いた後、 「悪かったな、変なものを贈って・・・」  しょんぼりと手を伸ばすルキアがいた。 「別に変じゃねぇよ。」 俺はのこりの二つをさっと口に入れた。 口の中でチョコとカレーの風味とジャガイモとハムが混ざる。 (やばい・・・、さっきの玉ねぎが殺人的に不味かったからなんだか美味く感じてきた。)  伸ばされていたルキアの腕を引いて胸の中に抱きしめる。 「不味くはないが、やっぱり普通のチョコの方が好きだ・・・・。  けどさ、俺のためにわざわざ作ってくれたーー  その気持ちが一番嬉しい・・・・ ルキア」 顔を見ながらは照れくさいから耳元でそう囁いて 最後に耳にKISSをした。  「うびゃっ」 って 予想通り間抜けな声を上げるルキアにくすくすとした笑いが止まらない。 「一護、貴様なにを!!  いったいなにを考えてーー 放せ、馬鹿!!」 耳を押さえながら真っ赤な顔でムキになって抗議してくるルキアにーー 「あのさ、バレンタインってチョコを贈る日ってだけじゃねぇって知ってるか?」 「は?  チョコを贈る日だけじゃない?!  どういうことだ?」 俺の言葉に怪訝そうに驚いた顔になったルキアにーー なんか楽しそうに渡すルキアになんだか そんな気はしていたーー けど 胸中で軽くがっかりする自分がいるのは否めない。 前言撤回! コイツが現世の生活に馴染んだのは形だけだ。 「チョコを渡すのは愛情の証ってこと。  普段 好きとかなかなか言えないから そのかわりにチョコを渡すんだって。  バレンタインのチョコってのはそういう意味ーー」 「//////////  な・・・・ そんな・・・・ 私は・・・・・ 知らなかったぞ・・・・・・  井上も・・・・ 有沢もそんなこと一言も・・・・・」 真っ赤になって狼狽するルキアはやっぱり可愛くて  恥ずかしさから慌ててじたばたと逃げよう必死にもがくルキアをさらにきつく抱きしめる。 ーー絶対に放さないし、逃がさねぇよ。 「ルキアvvvvv  チョコを渡したのは間違いってことか?」 そんな言葉に大きな瞳で俺を見上げた後、胸元に顔を隠して小さな呟きが聞こえる。 「//////// ま・間違っては・・おらぬ・・・・ ・・・・」 小さな頭を撫でながら 「俺も好きだ」と耳元で囁き返した。


  あとがき 挿絵は以下からお借りしました。 (もちろんレシピはお借りしていません(笑)) 明治製菓 手作りチョコレートレシピ http://www.choco-recipe.jp/milk/